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16. 兄との会談
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「この度は、ご足労お掛けして申し訳なかった。」
「いえ!頭をお上げ下さい!こちらこそ、当主ではなく、代理としての訪問申し訳なく思っております。ですが、こちらとしても心情を察して頂きたく、何卒ご容赦下さい。」
部屋では、似たような年頃の男二人が頭を下げ合っていた。それは、ラドとナターシャの兄である。
エドが、テイラー侯爵家へと向かう為にアレクシナツニーシ国を出発してから、五日目。
今は昼過ぎである。
「では、改めまして。私は、父の代わりにやって来ましたナターシャの兄、ジョニー=テイラーと申します。手紙を読みまして、両親は倒れるほど、驚いておりました。」
「いやいや、彼女は私が今まで知りうる女性とは違い、私の本質を見て下さる素敵な女性とお見受けしたのです。それはきっと、温かいご家族の愛情があってこそだったのだと思います。…挨拶が遅れて申し訳ない。私は、ラドヴァン=アレクシナツニーシと申します。」
「それで…」
「それで…」
お互い、思う所があり話をしたいが何から話せばいいのか全く検討も付かず、しかし話さないわけにもいかないので話し出せば、お互い被って言い出してしまう始末。
あれから、エドが急いでウェーバー領へと帰り、領主のフォルスへと手紙を見せる。
初め、一人で帰って来たため何か一大事でもあったかと屋敷内は大慌てだったが、やがて手紙を読むや、フォルスは『なんだってーーー!?』と大声を出した。普段は、温厚なフォルスが大声を出したとあって、屋敷内は再び大慌てになったのだった。
手紙の内容は、大まかに言えば二つ。
一つは、絹を取り引きしたいから話がしたい。
もう一つは、ナターシャとの結婚を考えているから、承諾していただきたい。王妃となるべく育てたいから今すぐにでも学ばせたいがどうか。
そう。手紙の相手は王太子からだったから余計に驚いたのだ。
フォルスはそれから、口をパクパクとさせ、妻のアンリエッタが傍に来ると、頭を抱え出したのだ。長男ジョニーと長女ジンジャーも慌てて傍に寄った。
フォルスのその姿を見たアンリエッタは『しょうが無いわね』と笑い、息子のジョニーへ『ジョニー、あなたが行って確認してきてちょうだい。ナターシャの気持ちはどうなのかちゃんと確認してきなさい。幸せであればそれでいいの。恋というのは、気付いたらそうなってしまうものですからね。ね、フォルス?』と夫フォルスを抱きしめながら告げた。
長女のジンジャーはカラカラと笑って、『ナターシャ、あんたって子は…本当に凄いわ!!』と終始目をキラキラとさせていた。
エドを少し休憩させると、その間にジョニーも素早く支度をし、共に再びアレクシナツニーシ国へと向かってきたのだった。
☆★
「私はこのアレクシナツニーシ国の王太子だ。だが今は、一人のラドとして、ナターシャ嬢の兄であるあなたに話したい。」
「承知しました。では、私もそのように一人のナターシャの兄として接してよろしいという事で間違いないですね?」
「あぁ、もちろんだ。………本来であれば、私がナターシャ嬢の父殿に挨拶に行くのが筋であるのは承知しているが、このような形となってしまって申し訳ないと思っている。だが、今私が国を離れるわけにはいかないのだ。こちらの事情で書状としてしまって済まないと思っている。」
「それは、まぁ…。ええと、ラドヴァン様、とお呼びしても?それとも王太子様と?」
「ラド、と。ナターシャ嬢には私が王太子と言っていないのだ。」
「はぁー!?あ。…も、申し訳ありません!」
「いや、いい。むしろ、そんな風に話してくれた方が俺も助かる。」
「…じゃあ、ラド様。ナターシャは、なんと言っているんです?」
「まだ、ナターシャにははっきり気持ちを伝えたわけではない。だが、俺にはもう、ナターシャしかいないのだ。女は皆、俺の顔や肩書きを好きになる。そういう奴が昔から近付いて来て、本当に気持ち悪かった!」
「…まぁ、その辺りは同情するし、俺も分かります。」
「ありがとう。ジョニー殿も侯爵家の長男だから、分かってくれるか。それでな、当初ナターシャも俺に会いに来た奴かと思ったんだが、絹のハンカチを見せて来たんだ。」
「はぁ…。(どうやったら、王太子に絹のハンカチを見せる場面が出来るんだ!?)」
「思いのほか上質で、光沢も素晴らしいから購入すると言ったらナターシャは途端に喜んでな。そこだけ花が咲いたような…!」
(分かる!ナターシャは可愛いから分かるが…。)
「だが、俺とその後食事でもと言ったら嫌がったんだ。ますます、俺の肩書きや顔を見てはおらず、個人を見ているのではないかと思ったんだ!」
「はぁ…。」
(嫌がった…?確かにあいつは、内輪だけの親族の集まり位しかまだ会食はしていなかったから、マナーでも不安だったのか?それとも、ラド様を嫌ったのか…?分からん。だが、ラド様のこの目!目は、正直だとは正にこの事だよな…。ナターシャの事を話す時の目は、本当に嬉しそうで…。)
「ジョニー殿、聞いているか?」
「聞いてますとも。で、アプローチする前にうちに許可を得ようとしたという解釈でよろしいですか?」
「いや、食事は毎回一緒に摂っている。時間も、作れる時は作って、一緒にいる!」
(そんなドヤ!ってな顔を近付けられても…てか、このアレクシナツニーシ国の王太子って、実はこんな感じだったのか?あまり笑わない無表情な方だと思っていたんだが…。)
「そうですか。ナターシャの気持ちを聞かなければ、何とも言えませんが、こちらが意見言える立場であるならば、出来れば無理強いしないで頂きたい。」
「それはもう!だから、先に許可をと思っている!」
「両親は、ナターシャの意思を尊重すると言っております。ですから、今私は許可を出せません。ナターシャに会わせていただけますか。」
「ああ。じゃあ、今日はナターシャの隣の部屋を用意する。食事は…譲れん!俺も一緒にさせてくれ!!」
「…承知いたしました。」
(…結構強引な方、ではないのか?)
途中から、ジョニーはそう思った。
しかし、妹の気持ちを聞いてからではあるが、このようにナターシャの事を話す時には無表情と言われる王太子が柔らかい表情になっているラドを見ると、もしかしたら妹を幸せにしてくれるのではないかとぼんやりと思った。
「いえ!頭をお上げ下さい!こちらこそ、当主ではなく、代理としての訪問申し訳なく思っております。ですが、こちらとしても心情を察して頂きたく、何卒ご容赦下さい。」
部屋では、似たような年頃の男二人が頭を下げ合っていた。それは、ラドとナターシャの兄である。
エドが、テイラー侯爵家へと向かう為にアレクシナツニーシ国を出発してから、五日目。
今は昼過ぎである。
「では、改めまして。私は、父の代わりにやって来ましたナターシャの兄、ジョニー=テイラーと申します。手紙を読みまして、両親は倒れるほど、驚いておりました。」
「いやいや、彼女は私が今まで知りうる女性とは違い、私の本質を見て下さる素敵な女性とお見受けしたのです。それはきっと、温かいご家族の愛情があってこそだったのだと思います。…挨拶が遅れて申し訳ない。私は、ラドヴァン=アレクシナツニーシと申します。」
「それで…」
「それで…」
お互い、思う所があり話をしたいが何から話せばいいのか全く検討も付かず、しかし話さないわけにもいかないので話し出せば、お互い被って言い出してしまう始末。
あれから、エドが急いでウェーバー領へと帰り、領主のフォルスへと手紙を見せる。
初め、一人で帰って来たため何か一大事でもあったかと屋敷内は大慌てだったが、やがて手紙を読むや、フォルスは『なんだってーーー!?』と大声を出した。普段は、温厚なフォルスが大声を出したとあって、屋敷内は再び大慌てになったのだった。
手紙の内容は、大まかに言えば二つ。
一つは、絹を取り引きしたいから話がしたい。
もう一つは、ナターシャとの結婚を考えているから、承諾していただきたい。王妃となるべく育てたいから今すぐにでも学ばせたいがどうか。
そう。手紙の相手は王太子からだったから余計に驚いたのだ。
フォルスはそれから、口をパクパクとさせ、妻のアンリエッタが傍に来ると、頭を抱え出したのだ。長男ジョニーと長女ジンジャーも慌てて傍に寄った。
フォルスのその姿を見たアンリエッタは『しょうが無いわね』と笑い、息子のジョニーへ『ジョニー、あなたが行って確認してきてちょうだい。ナターシャの気持ちはどうなのかちゃんと確認してきなさい。幸せであればそれでいいの。恋というのは、気付いたらそうなってしまうものですからね。ね、フォルス?』と夫フォルスを抱きしめながら告げた。
長女のジンジャーはカラカラと笑って、『ナターシャ、あんたって子は…本当に凄いわ!!』と終始目をキラキラとさせていた。
エドを少し休憩させると、その間にジョニーも素早く支度をし、共に再びアレクシナツニーシ国へと向かってきたのだった。
☆★
「私はこのアレクシナツニーシ国の王太子だ。だが今は、一人のラドとして、ナターシャ嬢の兄であるあなたに話したい。」
「承知しました。では、私もそのように一人のナターシャの兄として接してよろしいという事で間違いないですね?」
「あぁ、もちろんだ。………本来であれば、私がナターシャ嬢の父殿に挨拶に行くのが筋であるのは承知しているが、このような形となってしまって申し訳ないと思っている。だが、今私が国を離れるわけにはいかないのだ。こちらの事情で書状としてしまって済まないと思っている。」
「それは、まぁ…。ええと、ラドヴァン様、とお呼びしても?それとも王太子様と?」
「ラド、と。ナターシャ嬢には私が王太子と言っていないのだ。」
「はぁー!?あ。…も、申し訳ありません!」
「いや、いい。むしろ、そんな風に話してくれた方が俺も助かる。」
「…じゃあ、ラド様。ナターシャは、なんと言っているんです?」
「まだ、ナターシャにははっきり気持ちを伝えたわけではない。だが、俺にはもう、ナターシャしかいないのだ。女は皆、俺の顔や肩書きを好きになる。そういう奴が昔から近付いて来て、本当に気持ち悪かった!」
「…まぁ、その辺りは同情するし、俺も分かります。」
「ありがとう。ジョニー殿も侯爵家の長男だから、分かってくれるか。それでな、当初ナターシャも俺に会いに来た奴かと思ったんだが、絹のハンカチを見せて来たんだ。」
「はぁ…。(どうやったら、王太子に絹のハンカチを見せる場面が出来るんだ!?)」
「思いのほか上質で、光沢も素晴らしいから購入すると言ったらナターシャは途端に喜んでな。そこだけ花が咲いたような…!」
(分かる!ナターシャは可愛いから分かるが…。)
「だが、俺とその後食事でもと言ったら嫌がったんだ。ますます、俺の肩書きや顔を見てはおらず、個人を見ているのではないかと思ったんだ!」
「はぁ…。」
(嫌がった…?確かにあいつは、内輪だけの親族の集まり位しかまだ会食はしていなかったから、マナーでも不安だったのか?それとも、ラド様を嫌ったのか…?分からん。だが、ラド様のこの目!目は、正直だとは正にこの事だよな…。ナターシャの事を話す時の目は、本当に嬉しそうで…。)
「ジョニー殿、聞いているか?」
「聞いてますとも。で、アプローチする前にうちに許可を得ようとしたという解釈でよろしいですか?」
「いや、食事は毎回一緒に摂っている。時間も、作れる時は作って、一緒にいる!」
(そんなドヤ!ってな顔を近付けられても…てか、このアレクシナツニーシ国の王太子って、実はこんな感じだったのか?あまり笑わない無表情な方だと思っていたんだが…。)
「そうですか。ナターシャの気持ちを聞かなければ、何とも言えませんが、こちらが意見言える立場であるならば、出来れば無理強いしないで頂きたい。」
「それはもう!だから、先に許可をと思っている!」
「両親は、ナターシャの意思を尊重すると言っております。ですから、今私は許可を出せません。ナターシャに会わせていただけますか。」
「ああ。じゃあ、今日はナターシャの隣の部屋を用意する。食事は…譲れん!俺も一緒にさせてくれ!!」
「…承知いたしました。」
(…結構強引な方、ではないのか?)
途中から、ジョニーはそう思った。
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