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12. 見習いとの触れ合い
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ワゴンを引いたヨシフが部屋に戻って来たのを見計らって、ミルチャはやっと体を動かし出て行った。
ヨシフはそのまま、エレナの前へ来て紅茶を注ぎ、どうぞ召し上がり下さい、とエレナに声を掛けてから壁際へ移動した。
(すご…!少年っぽいのに、ササッとやってくれたわ。カップを温めたり、その辺りは本格的なのね。)
エレナはこのようにもてなされた事がない為、驚きながら見ていた。
ヨシフも、エレナの視線には気づいていたが何も言わず黙々と作業をこなした。
「ありがとう。ねぇ、ヨシフくん、あなた上手に入れるのね。」
エレナは素直にお礼を言った。だが、従僕見習いであるヨシフにとったら、自分が仕事をしてお礼を言われた事が無く、エレナの方をむいて驚くと、顔を染めてすぐに視線を逸らした。
「ど、どうも…あ、いえ!勿体ないお言葉です。」
ヨシフはどう反応していいのか分からず、そのように言うに留めた。
エレナは見た感じお供も連れていないので貴族ではないだろう、ましてや自分の主に意見を言いに来たと言った為にどのような身分の人なのか見定めたのだが分からずじまい。けれどもどなたか偉いご身分の人がお忍びで来る場合もある為に丁寧な言葉を遣う事を選んだのだ。
ヨシフは、はじめエレナがやって来た時に、まさか主に一目会いたいが為にやって来た積極的な女性なのかと思い、追い返そうとしたのだった。しかし、どうやら違うようだとヨシフは首を傾げていた。
なぜ、終の山の事を当人ではないだろうエレナが言いに来たのか、捨て置かれたお年寄りが若いエレナに文句を言ってこいと行かせたのか?と疑問に思っているのだった。
関係のないだろうエレナが来るのは、やはり主であるジェオルジェに会いたいからかもしれないと、警戒をするに越した事はないだろうと結論付けた。
だがいきなり褒められ、ヨシフはどう反応していいのか、エレナはジェオルジェに会いに来た邪な悪い輩とは違うのではないかと考えあぐねていた。
「ねぇ、ヨシフくん、ここは…」
「ど、どうぞ私の事はヨシフとお呼び下さい。」
ヨシフは、ヨシフくんと友人を呼ぶような語り口で言われた為に調子が狂うと思いながらそのように訂正した。
ヨシフは今十二歳。
体が細く幼くは見えるが、それは貧しく栄養が行き届かなかった為だ。幼い頃に家族が亡くなり孤児となり、領内の孤児院で生活していたのだ。
それを、見習いが必要だと街の孤児院にミルチャが見定めに行き、引き取られたのが十歳の頃。
そこから、厳しい使用人生活が始まった。
とはいえ、衣食住は与えられているので孤児院で生活していた頃よりは見違えるほどに成長したのだ。
「そう?じゃあヨシフ。
ここは領主様の屋敷なのよね?領主様って仕事に出ているの?いつ戻るか分からないって、どういう事かしら。それから…」
「たくさんぼく…いえ私に聞かれても、答えていいのかは分かりかねます!
けれども、一般的な回答をしますと、ここは領主様の屋敷です。そして、ジェオルジェ様は仕事に出ています。ここアンドレイ侯爵領はバルスイ国の国境線がある地域であり、また付近の森には獰猛な野生動物が生息しているので見回りや、駆除などをしています。
普段はジェオルジェ様が率いている国境警備隊が警備しているのですが、毎月一度は出向いています。
今も、今月の警備隊の仕事へ行かれているのです。それはキリがつかないと帰れないそうなので、いつ戻られるのか分かりません。」
「そうなのね。よく知っているのね。詳しくいろいろとありがとう。分かりやすいわ。」
「…勿体ないお言葉です。」
(エレナ様は、ジェオルジェ様の事を知らなくて来たと言う事か…?
ジェオルジェ様はおモテになるから、連絡無しで来る人は大抵ジェオルジェ様目当てかと思ったのだけれど…。)
ヨシフはそう思い、警戒心がだんだんと薄れていくのを感じた。そして、自分の事を褒めてくれるエレナにだんだんと好印象を抱き始めた。
(あのいつも怖い顔つきのミルチャ様にまで平然と言い返していたし、エレナ様は案外凄い人なのかもしれないな。)
ヨシフは、執事長であるミルチャにまで冷静に言葉を返していたのを部屋の隅で聞いていてハラハラとしたのだ。ミルチャは仕事に対して至極真面目であるが、時に冷徹で、常にこのアンドレイ侯爵家の事を第一に考えている。この前も、仕事が出来ないならと使用人の一人が追い出されたばかりだった。その使用人がエレナと会い、ここに直談判しに来たのであったなら…とヨシフは考え始めていた。
「ねぇ、ヨシフ。私の部屋って…」
そうエレナが聞こうとした時。
扉が叩かれ、エレナの部屋の準備が整ったと声が聞こえた。
(案外早く準備が出来たのね。
私の部屋…牢屋じゃないわよねって聞こうとしたんだけどな。
牢屋だから、すぐに整ったわけじゃないわよね?)
エレナは疑問が解消されなかった為に益々心臓がドキドキとしていた。
ヨシフはそのまま、エレナの前へ来て紅茶を注ぎ、どうぞ召し上がり下さい、とエレナに声を掛けてから壁際へ移動した。
(すご…!少年っぽいのに、ササッとやってくれたわ。カップを温めたり、その辺りは本格的なのね。)
エレナはこのようにもてなされた事がない為、驚きながら見ていた。
ヨシフも、エレナの視線には気づいていたが何も言わず黙々と作業をこなした。
「ありがとう。ねぇ、ヨシフくん、あなた上手に入れるのね。」
エレナは素直にお礼を言った。だが、従僕見習いであるヨシフにとったら、自分が仕事をしてお礼を言われた事が無く、エレナの方をむいて驚くと、顔を染めてすぐに視線を逸らした。
「ど、どうも…あ、いえ!勿体ないお言葉です。」
ヨシフはどう反応していいのか分からず、そのように言うに留めた。
エレナは見た感じお供も連れていないので貴族ではないだろう、ましてや自分の主に意見を言いに来たと言った為にどのような身分の人なのか見定めたのだが分からずじまい。けれどもどなたか偉いご身分の人がお忍びで来る場合もある為に丁寧な言葉を遣う事を選んだのだ。
ヨシフは、はじめエレナがやって来た時に、まさか主に一目会いたいが為にやって来た積極的な女性なのかと思い、追い返そうとしたのだった。しかし、どうやら違うようだとヨシフは首を傾げていた。
なぜ、終の山の事を当人ではないだろうエレナが言いに来たのか、捨て置かれたお年寄りが若いエレナに文句を言ってこいと行かせたのか?と疑問に思っているのだった。
関係のないだろうエレナが来るのは、やはり主であるジェオルジェに会いたいからかもしれないと、警戒をするに越した事はないだろうと結論付けた。
だがいきなり褒められ、ヨシフはどう反応していいのか、エレナはジェオルジェに会いに来た邪な悪い輩とは違うのではないかと考えあぐねていた。
「ねぇ、ヨシフくん、ここは…」
「ど、どうぞ私の事はヨシフとお呼び下さい。」
ヨシフは、ヨシフくんと友人を呼ぶような語り口で言われた為に調子が狂うと思いながらそのように訂正した。
ヨシフは今十二歳。
体が細く幼くは見えるが、それは貧しく栄養が行き届かなかった為だ。幼い頃に家族が亡くなり孤児となり、領内の孤児院で生活していたのだ。
それを、見習いが必要だと街の孤児院にミルチャが見定めに行き、引き取られたのが十歳の頃。
そこから、厳しい使用人生活が始まった。
とはいえ、衣食住は与えられているので孤児院で生活していた頃よりは見違えるほどに成長したのだ。
「そう?じゃあヨシフ。
ここは領主様の屋敷なのよね?領主様って仕事に出ているの?いつ戻るか分からないって、どういう事かしら。それから…」
「たくさんぼく…いえ私に聞かれても、答えていいのかは分かりかねます!
けれども、一般的な回答をしますと、ここは領主様の屋敷です。そして、ジェオルジェ様は仕事に出ています。ここアンドレイ侯爵領はバルスイ国の国境線がある地域であり、また付近の森には獰猛な野生動物が生息しているので見回りや、駆除などをしています。
普段はジェオルジェ様が率いている国境警備隊が警備しているのですが、毎月一度は出向いています。
今も、今月の警備隊の仕事へ行かれているのです。それはキリがつかないと帰れないそうなので、いつ戻られるのか分かりません。」
「そうなのね。よく知っているのね。詳しくいろいろとありがとう。分かりやすいわ。」
「…勿体ないお言葉です。」
(エレナ様は、ジェオルジェ様の事を知らなくて来たと言う事か…?
ジェオルジェ様はおモテになるから、連絡無しで来る人は大抵ジェオルジェ様目当てかと思ったのだけれど…。)
ヨシフはそう思い、警戒心がだんだんと薄れていくのを感じた。そして、自分の事を褒めてくれるエレナにだんだんと好印象を抱き始めた。
(あのいつも怖い顔つきのミルチャ様にまで平然と言い返していたし、エレナ様は案外凄い人なのかもしれないな。)
ヨシフは、執事長であるミルチャにまで冷静に言葉を返していたのを部屋の隅で聞いていてハラハラとしたのだ。ミルチャは仕事に対して至極真面目であるが、時に冷徹で、常にこのアンドレイ侯爵家の事を第一に考えている。この前も、仕事が出来ないならと使用人の一人が追い出されたばかりだった。その使用人がエレナと会い、ここに直談判しに来たのであったなら…とヨシフは考え始めていた。
「ねぇ、ヨシフ。私の部屋って…」
そうエレナが聞こうとした時。
扉が叩かれ、エレナの部屋の準備が整ったと声が聞こえた。
(案外早く準備が出来たのね。
私の部屋…牢屋じゃないわよねって聞こうとしたんだけどな。
牢屋だから、すぐに整ったわけじゃないわよね?)
エレナは疑問が解消されなかった為に益々心臓がドキドキとしていた。
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