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16. 領主様のお帰り
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しばらく庭で微睡んでいると、心なしか屋敷の方が騒がしくなった。
目を開け、リュセを見遣るとリュセも屋敷の方角へと視線を向けていた。しかし、この場所は少し下がっている為、四阿から向こうが見えないのではっきりとは分からない。
「ジェオルジェ様がお帰りになられたかもしれませんね。」
リュセも、なんとなくではあるのだろが、エレナの視線を感じてそのように呟いた。
「そうなのね。では戻るわ。」
エレナは、急いで戻っても領主様は今帰ってきたばかりであるから、自分とは面会してくれないだろうと思った。だが、どのくらいで会ってくれるのかだけでも分かるだろうと、屋敷へと戻る事にした。
☆★
屋敷へ向かうと、テラスに立ってこちらを見ている人がいた。後ろにはミルチャがいたので、あれが領主様なのかと思った。
シルバーブロンドの髪を少し長めに伸ばしたその姿は、エレナが想像していたよりもずっと若く、体格も良くて凛々しく見えた。
(領主様っていうから、私の両親くらいの年齢かと思ったわ。でも、私と同じ…ううん、少し年上かなぁ?なんだか、映画俳優みたい。)
そう思いながら近づくと、エレナが口を開くよりも早く、彼が言葉を発した。
「君か。私に用があるというのは。」
深い緑の軍服を着たミルチャよりも頭一つ分ほど背の高い長身の彼は、低い声でそのように言った。
「はい、初めまして。私はエレナと申します。
今お帰りになられたのですか。」
「うん?あぁ…そうだ。
話があるのだろう。こちらへ来なさい。」
「え、でも…よろしいのですか?」
「何がだ?
ミルチャから、勢い勇んで来たと聞いているぞ。遠慮しているのか?」
「いえ、今お帰りになったばかりでしたら、お疲れなのかと思いまして。後からのがよろしいのでしたら、それでもと思ったのです。」
「……!
まぁ、よい。とりあえず話を聞こう。」
そう言って、テラスから続く部屋へと入っていったのでエレナもそれに続いた。
☆★
部屋は広く、エレナが初めに通された部屋よりも豪華であった。
エレナが席に着くと、先に対面に座っていたジェオルジェが口を開く。
「私はジェオルジェ=アンドレイだ。この領地を治めている領主である。
何か、意見があるのだろう。何でも言え。」
「はい、ありがとうございます。
では遠慮なく…。
領主様は、終の山をなぜ放置しているのですか?ここの領地を治めている人なのでしたら、もう少しその辺りもより良くしていこうと思うのが領主、なのではないのですか?
人にとって、老いるというのは避けては通れない道だと思うのです。自分達も通る道です。だから余計に、年老いた人をあちらに置いてくるというのは、非人道的だと思うのです。
改善してもらいたいと思いまして、意見を言いに来ました。」
「……!
なるほど。エレナと言ったか。君は若いのに、聡明な考えを持っているのだな。
ふむ…。ここから反対側の山にある地域だな?あそこは、私の曾お祖母様の代に造られた、〝終の住処〟だったそうだ。曾お祖母様が年老いてきた時に、皆に迷惑をかけたくないからと自ら数人の使用人を連れてあの辺りへ移住したのがきっかけなのだ。それが、庶民にも浸透したのだろうとは思っている。」
「曾お祖母様が…。皆に迷惑をかけたくないって……。」
(なるほど。今の介護付きの居住地みたいなものね。でも、裕福な人はお世話をしてもらえるけれど、お金の無い庶民は無理よね、自分でしないといけないのよね。)
「私は、その山には入った事が無く、また近づいてはいけないと言われていた。皆に迷惑をかけたくない、が理由なのだから、わざわざこちらから行くとかえって迷惑だろうという判断だ。
だから、曾お祖母様がいつまで生きていていつに亡くなったのかも私は知らないし、今その山がどうなっているのかも知らないのだ。
エレナは、その山から来たのか?それとも、その山に家族が行ってしまったのか?」
エレナは、領地にあるのに気になったりしないのかと疑問に思った。それは、価値観の違いなのか、この世界の常識なのか…。
(もしも自分の曾お祖母様が生きているのなら会いたい、と思わなかったのかしら?私なら思うけどなぁ。
ま、私の親族も、どこにいるのか生きているのかさえ分からなくて探し方もわからないからしなかったけれど。
でも、そこに確実にいるかも、って分かっていたら訪ねていたわよ?)
エレナは自分の境遇から話した方が、もう少し自分の気持ちが伝わりやすいのではないかと思い、思い切って話してみる事にした。
「あの…理解していただけるのか不安ではありますが、私、ここの世界とは違う所から来たのです。」
そう言ってジェオルジェを覗き見ると、思ったよりも真剣にこちらの話を聞いてくれているように感じた為に、少しだけホッとしてまた口を開く。
その時に扉の近くにいたミルチャは、怪しいものを見るような目をしていたが、エレナはそれには気付かなかった。
目を開け、リュセを見遣るとリュセも屋敷の方角へと視線を向けていた。しかし、この場所は少し下がっている為、四阿から向こうが見えないのではっきりとは分からない。
「ジェオルジェ様がお帰りになられたかもしれませんね。」
リュセも、なんとなくではあるのだろが、エレナの視線を感じてそのように呟いた。
「そうなのね。では戻るわ。」
エレナは、急いで戻っても領主様は今帰ってきたばかりであるから、自分とは面会してくれないだろうと思った。だが、どのくらいで会ってくれるのかだけでも分かるだろうと、屋敷へと戻る事にした。
☆★
屋敷へ向かうと、テラスに立ってこちらを見ている人がいた。後ろにはミルチャがいたので、あれが領主様なのかと思った。
シルバーブロンドの髪を少し長めに伸ばしたその姿は、エレナが想像していたよりもずっと若く、体格も良くて凛々しく見えた。
(領主様っていうから、私の両親くらいの年齢かと思ったわ。でも、私と同じ…ううん、少し年上かなぁ?なんだか、映画俳優みたい。)
そう思いながら近づくと、エレナが口を開くよりも早く、彼が言葉を発した。
「君か。私に用があるというのは。」
深い緑の軍服を着たミルチャよりも頭一つ分ほど背の高い長身の彼は、低い声でそのように言った。
「はい、初めまして。私はエレナと申します。
今お帰りになられたのですか。」
「うん?あぁ…そうだ。
話があるのだろう。こちらへ来なさい。」
「え、でも…よろしいのですか?」
「何がだ?
ミルチャから、勢い勇んで来たと聞いているぞ。遠慮しているのか?」
「いえ、今お帰りになったばかりでしたら、お疲れなのかと思いまして。後からのがよろしいのでしたら、それでもと思ったのです。」
「……!
まぁ、よい。とりあえず話を聞こう。」
そう言って、テラスから続く部屋へと入っていったのでエレナもそれに続いた。
☆★
部屋は広く、エレナが初めに通された部屋よりも豪華であった。
エレナが席に着くと、先に対面に座っていたジェオルジェが口を開く。
「私はジェオルジェ=アンドレイだ。この領地を治めている領主である。
何か、意見があるのだろう。何でも言え。」
「はい、ありがとうございます。
では遠慮なく…。
領主様は、終の山をなぜ放置しているのですか?ここの領地を治めている人なのでしたら、もう少しその辺りもより良くしていこうと思うのが領主、なのではないのですか?
人にとって、老いるというのは避けては通れない道だと思うのです。自分達も通る道です。だから余計に、年老いた人をあちらに置いてくるというのは、非人道的だと思うのです。
改善してもらいたいと思いまして、意見を言いに来ました。」
「……!
なるほど。エレナと言ったか。君は若いのに、聡明な考えを持っているのだな。
ふむ…。ここから反対側の山にある地域だな?あそこは、私の曾お祖母様の代に造られた、〝終の住処〟だったそうだ。曾お祖母様が年老いてきた時に、皆に迷惑をかけたくないからと自ら数人の使用人を連れてあの辺りへ移住したのがきっかけなのだ。それが、庶民にも浸透したのだろうとは思っている。」
「曾お祖母様が…。皆に迷惑をかけたくないって……。」
(なるほど。今の介護付きの居住地みたいなものね。でも、裕福な人はお世話をしてもらえるけれど、お金の無い庶民は無理よね、自分でしないといけないのよね。)
「私は、その山には入った事が無く、また近づいてはいけないと言われていた。皆に迷惑をかけたくない、が理由なのだから、わざわざこちらから行くとかえって迷惑だろうという判断だ。
だから、曾お祖母様がいつまで生きていていつに亡くなったのかも私は知らないし、今その山がどうなっているのかも知らないのだ。
エレナは、その山から来たのか?それとも、その山に家族が行ってしまったのか?」
エレナは、領地にあるのに気になったりしないのかと疑問に思った。それは、価値観の違いなのか、この世界の常識なのか…。
(もしも自分の曾お祖母様が生きているのなら会いたい、と思わなかったのかしら?私なら思うけどなぁ。
ま、私の親族も、どこにいるのか生きているのかさえ分からなくて探し方もわからないからしなかったけれど。
でも、そこに確実にいるかも、って分かっていたら訪ねていたわよ?)
エレナは自分の境遇から話した方が、もう少し自分の気持ちが伝わりやすいのではないかと思い、思い切って話してみる事にした。
「あの…理解していただけるのか不安ではありますが、私、ここの世界とは違う所から来たのです。」
そう言ってジェオルジェを覗き見ると、思ったよりも真剣にこちらの話を聞いてくれているように感じた為に、少しだけホッとしてまた口を開く。
その時に扉の近くにいたミルチャは、怪しいものを見るような目をしていたが、エレナはそれには気付かなかった。
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