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22. 皆の要望
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「まぁエレナ!心配したよ!でも良かったねぇ!お帰り-!」
「マダリーナさん、ご心配おかけしました!ただいまです!」
エレナ達ご一行は、馬車に揺られながらジェオルジェとエレナが楽しく話している内に反対側の山に着いた。
カポカポというゆったりした馬の足音と、ガラガラという箱馬車を曳く音に気づいたアンとマダリーナとビアンカは家の前に立ち待ち構えていた。
エレナがジェオルジェにエスコートされて馬車から降りてくると、マダリーナが声を掛けて駆け寄り抱きついたのだった。
「ジェオルジェ様、初めまして。
今回はご足労いただき誠にありがとうございます。」
そう深々とお辞儀をして挨拶を述べたのはゆっくり歩いて近寄ったアンであった。
「いや、調査が遅くなりこちらこそ申し訳ありません。この度、エレナからここの状況を聞かせてもらい、しっかりとした調査の元、お互いがより良い結果へとなるように努力していきたいと思います。今まで、見ないふりをしておりまして、本当に済まないと思っています。」
そう言ったジェオルジェもまた、深々と腰を曲げた。
「お止め下さい!領主様自ら頭を下げられる案件ではありません!
それに、見ないふりなんてされておられませんでしたから。
ねぇ、ミルちゃん?」
そのように声を発したアンは、ジェオルジェの後ろに身を隠すように立っているミルチャに向かってミルちゃん、と言った。
「そうよぉ、ミルちゃんから昨日報告があった時には驚いたんだからね!
エレナが領主様の所へ物申しに行くって行った時は、本当に驚いて止めたんだけど、何事もなくて良かったよ。
私達は、不満なく生活していたからねぇ。」
そう言ったのは、エレナを抱き締めてからゆっくり体を放し、しかし腕をしっかりと掴んでいるマダリーナだ。
「え?」
「ミ、ミルちゃん?」
ジェオルジェもエレナも、いつの間にそんな呼び方をされるような間柄になっていたのかと疑問に思った。
「…止めて下さいよ、皆さん。私の事はよろしいでしょう。」
ミルチャは、頭を掻きながら弱々しく声を発した。
「ミルチャ、どういう事だ?」
「…ですから、現状把握くらいは、と昨日も申し上げましたでしょう。」
「やだよぉ、そんな他人行儀な事言わないでおくれよミルちゃん!
最低限の調味料や、小麦なんかを定期的に届けてくれていたじゃないの!荷馬車にたくさん載せて来てくれて。
そのおかげで、ここでは健康維持がてら野菜を育てるくらいで生活が出来るからね。
時間なんてたっぷりとあるから、綿花で下着を作ったりも出来るし。
それに野生の山羊や他の温厚な動物達を育てる手助けもしてくれているだろう?ここより上の地区で、男性達が育ててくれているからね。」
(そうだったの?ミルチャさんって、極悪非道では無かったの?
ダリアさんから聞いていた話とは全然違うのね…。
それに昨日行った時には、あんなに私の言った言葉を否定していたのに。
あ!だから私が領主様の所へ行くって行った時に皆さん、不満は無い、って言っていたの?)
エレナは、恥ずかしそうに頭を掻きながら話すミルチャを見て頭をひねった。
そして、自分が話しに行ったのは無駄だったのではないかと思い始めた。
「…そうなのか?」
「ええ、まぁ…。
あーだから来るのが嫌だったのですよ!
ここへ支援するのは、執事の裏の仕事でもありましたからやっているだけです!代々受け継がれていたのですからね。しかも、他の方々にはバレないように、とも言われてましたから!」
「そんな事言って!私らと話すのも案外楽しそうにしてるくせに。
そうそう、ミルちゃんのお父さんも今じゃ上で動物と一緒に生活しているわねぇ?」
「なに!?ブレンドンがか!?」
「はい。山羊を呼び集める名手となってますよ。」
ブレンドンは、ミルチャの父で、五年程前まで執事をしていた。
なので、ジェオルジェにとったら第二の父みたいなものであった。
ミルチャに引き継がれ、仕事も一人前にこなすようになるとブレンドンは隠居すると言って屋敷から出て行ったので、ジェオルジェは淋しく思ったものだった。
「それよりも、ですよ。
昨日ミルちゃんから私達の希望を聞くから考えておくように、とも聞いておりますよ。
ジェオルジェ様せっかくですから順番に聞いていかれますか?」
「そ、そうだな。では順番に名前と、希望をお伺いしても?」
「私はアン。
元は他所の領地の子爵家の出でしたが、もう実家も無いでしょう。貧しかったですからね。
私は出来るならここでそのまま暮らしたいと思っております。」
「私はマダリーナ。
街で、食堂をやっていましたよ。
息子に捨てられましたからね、私もここで生活したいと思っとります。
欲を言うのなら、もう少しいろんな種類の食材があればいろんな料理が作れるのですがね。」
「なるほど。
ところで、お二人ですか?エレナの恩人は。」
「あ、そうです!」
エレナは呆けたようにずっと考えながら話を聞いていたが、慌てて返事をした。
「そうでしたか…。エレナを優しくもてなしてくれたようでありがとうございました。」
「やだよ、照れるじゃないか。」
「そんな立派な事はしておりませんから。」
マダリーナとアンは照れながらそう言った。
「そんな事ないわ!二人が助けてくれて、私は本当に有難かったもの!」
「そう言ってくれるだけで嬉しいね。」
「そうですね。エレナ、こちらこそ賑やかになったからとても楽しかったですよ。
あぁ、ジェオルジェ様を連れて来てくれてありがとうね、エレナ。こうやって話せるなんて思ってもみなかったけれど、こんな機会を与えてくれてありがたいですよ。」
そう言った二人に、ジェオルジェは頷き、もう一人立っている人へ話しかけた。
エレナもアンにそう言われた為に無駄ではなかったなら良かったと胸をなで下ろした。
「あなたは?」
「私は、ビアンカと言います。私も、ここの沸き湯が大好きですから、ここに居たいです。
欲を言えばもう少しいろいろと綺麗に整備していただけると、嬉しいですねぇ。」
「沸き湯!?ここに沸き湯があるのか?」
「はい。あと、上の地区にもありますよ。」
ジェオルジェがそれを聞いて、驚いていた。
それを見て、エレナは沸き湯は珍しかったんだと思った。
「私ね、それがあるから、きっとここの人達は肌艶が良くて、皺もなく生き生きとしているのだと思ったの。入るととっても気持ちがいいのよ。」
「なるほどなぁ。それは離れたくないかもしれないね。
よし、じゃあそこも見せてもらおう。
…ん?」
アンの家の扉を少し開けて覗いている人物に、ジェオルジェは気づいた。
「あ!ダリアさん!」
ダリアが、逃げるように慌てて扉を閉めたのでエレナが家まで追いかけた。
「ダリアさん、大丈夫ですか?
ジェオルジェ様達がいると嫌だったら、私が要望を聞きましょうか?」
「エレナちゃん、ごめんなさいね。
私はね、とんでもない誤解をしていたみたいだ。」
「誤解、ですか?」
「そうです。
ミルチャが私をここに行けと言ったのは、捨て置く為だと思ったら違ったのですね。
ここには、衣食住があるし、同じような年齢の人達もいる。だから、アンドレイ邸で思うように働けないのに居座るよりも、ここで有意義に過ごした方が残りの人生楽しいんじゃないかという配慮だったようで…。
口は悪いが、ミルチャは悪い人ではなかったようです。誤解していた私は、恥ずかしくて顔を合わせ辛いんだよ。」
「そうだったのですね。でも、ミルチャさんはそんな事気にしないと思いますよ。
あ!そうだ!後任のエイデルさんね、こんな素晴らしい庭を作った人の弟子になりたかったって言ってました。」
「まぁ!そんな事を…。でも今更戻っても思うように働けないですから。」
「思うように…あ!そうですよ、時短だったら!」
「え?」
「一応、その案もジェオルジェ様に伝えておきますね!あとでまた来ます!」
エレナは、お年寄りでも働けるような働き方を伝えに行こうと慌てて戻った。
「マダリーナさん、ご心配おかけしました!ただいまです!」
エレナ達ご一行は、馬車に揺られながらジェオルジェとエレナが楽しく話している内に反対側の山に着いた。
カポカポというゆったりした馬の足音と、ガラガラという箱馬車を曳く音に気づいたアンとマダリーナとビアンカは家の前に立ち待ち構えていた。
エレナがジェオルジェにエスコートされて馬車から降りてくると、マダリーナが声を掛けて駆け寄り抱きついたのだった。
「ジェオルジェ様、初めまして。
今回はご足労いただき誠にありがとうございます。」
そう深々とお辞儀をして挨拶を述べたのはゆっくり歩いて近寄ったアンであった。
「いや、調査が遅くなりこちらこそ申し訳ありません。この度、エレナからここの状況を聞かせてもらい、しっかりとした調査の元、お互いがより良い結果へとなるように努力していきたいと思います。今まで、見ないふりをしておりまして、本当に済まないと思っています。」
そう言ったジェオルジェもまた、深々と腰を曲げた。
「お止め下さい!領主様自ら頭を下げられる案件ではありません!
それに、見ないふりなんてされておられませんでしたから。
ねぇ、ミルちゃん?」
そのように声を発したアンは、ジェオルジェの後ろに身を隠すように立っているミルチャに向かってミルちゃん、と言った。
「そうよぉ、ミルちゃんから昨日報告があった時には驚いたんだからね!
エレナが領主様の所へ物申しに行くって行った時は、本当に驚いて止めたんだけど、何事もなくて良かったよ。
私達は、不満なく生活していたからねぇ。」
そう言ったのは、エレナを抱き締めてからゆっくり体を放し、しかし腕をしっかりと掴んでいるマダリーナだ。
「え?」
「ミ、ミルちゃん?」
ジェオルジェもエレナも、いつの間にそんな呼び方をされるような間柄になっていたのかと疑問に思った。
「…止めて下さいよ、皆さん。私の事はよろしいでしょう。」
ミルチャは、頭を掻きながら弱々しく声を発した。
「ミルチャ、どういう事だ?」
「…ですから、現状把握くらいは、と昨日も申し上げましたでしょう。」
「やだよぉ、そんな他人行儀な事言わないでおくれよミルちゃん!
最低限の調味料や、小麦なんかを定期的に届けてくれていたじゃないの!荷馬車にたくさん載せて来てくれて。
そのおかげで、ここでは健康維持がてら野菜を育てるくらいで生活が出来るからね。
時間なんてたっぷりとあるから、綿花で下着を作ったりも出来るし。
それに野生の山羊や他の温厚な動物達を育てる手助けもしてくれているだろう?ここより上の地区で、男性達が育ててくれているからね。」
(そうだったの?ミルチャさんって、極悪非道では無かったの?
ダリアさんから聞いていた話とは全然違うのね…。
それに昨日行った時には、あんなに私の言った言葉を否定していたのに。
あ!だから私が領主様の所へ行くって行った時に皆さん、不満は無い、って言っていたの?)
エレナは、恥ずかしそうに頭を掻きながら話すミルチャを見て頭をひねった。
そして、自分が話しに行ったのは無駄だったのではないかと思い始めた。
「…そうなのか?」
「ええ、まぁ…。
あーだから来るのが嫌だったのですよ!
ここへ支援するのは、執事の裏の仕事でもありましたからやっているだけです!代々受け継がれていたのですからね。しかも、他の方々にはバレないように、とも言われてましたから!」
「そんな事言って!私らと話すのも案外楽しそうにしてるくせに。
そうそう、ミルちゃんのお父さんも今じゃ上で動物と一緒に生活しているわねぇ?」
「なに!?ブレンドンがか!?」
「はい。山羊を呼び集める名手となってますよ。」
ブレンドンは、ミルチャの父で、五年程前まで執事をしていた。
なので、ジェオルジェにとったら第二の父みたいなものであった。
ミルチャに引き継がれ、仕事も一人前にこなすようになるとブレンドンは隠居すると言って屋敷から出て行ったので、ジェオルジェは淋しく思ったものだった。
「それよりも、ですよ。
昨日ミルちゃんから私達の希望を聞くから考えておくように、とも聞いておりますよ。
ジェオルジェ様せっかくですから順番に聞いていかれますか?」
「そ、そうだな。では順番に名前と、希望をお伺いしても?」
「私はアン。
元は他所の領地の子爵家の出でしたが、もう実家も無いでしょう。貧しかったですからね。
私は出来るならここでそのまま暮らしたいと思っております。」
「私はマダリーナ。
街で、食堂をやっていましたよ。
息子に捨てられましたからね、私もここで生活したいと思っとります。
欲を言うのなら、もう少しいろんな種類の食材があればいろんな料理が作れるのですがね。」
「なるほど。
ところで、お二人ですか?エレナの恩人は。」
「あ、そうです!」
エレナは呆けたようにずっと考えながら話を聞いていたが、慌てて返事をした。
「そうでしたか…。エレナを優しくもてなしてくれたようでありがとうございました。」
「やだよ、照れるじゃないか。」
「そんな立派な事はしておりませんから。」
マダリーナとアンは照れながらそう言った。
「そんな事ないわ!二人が助けてくれて、私は本当に有難かったもの!」
「そう言ってくれるだけで嬉しいね。」
「そうですね。エレナ、こちらこそ賑やかになったからとても楽しかったですよ。
あぁ、ジェオルジェ様を連れて来てくれてありがとうね、エレナ。こうやって話せるなんて思ってもみなかったけれど、こんな機会を与えてくれてありがたいですよ。」
そう言った二人に、ジェオルジェは頷き、もう一人立っている人へ話しかけた。
エレナもアンにそう言われた為に無駄ではなかったなら良かったと胸をなで下ろした。
「あなたは?」
「私は、ビアンカと言います。私も、ここの沸き湯が大好きですから、ここに居たいです。
欲を言えばもう少しいろいろと綺麗に整備していただけると、嬉しいですねぇ。」
「沸き湯!?ここに沸き湯があるのか?」
「はい。あと、上の地区にもありますよ。」
ジェオルジェがそれを聞いて、驚いていた。
それを見て、エレナは沸き湯は珍しかったんだと思った。
「私ね、それがあるから、きっとここの人達は肌艶が良くて、皺もなく生き生きとしているのだと思ったの。入るととっても気持ちがいいのよ。」
「なるほどなぁ。それは離れたくないかもしれないね。
よし、じゃあそこも見せてもらおう。
…ん?」
アンの家の扉を少し開けて覗いている人物に、ジェオルジェは気づいた。
「あ!ダリアさん!」
ダリアが、逃げるように慌てて扉を閉めたのでエレナが家まで追いかけた。
「ダリアさん、大丈夫ですか?
ジェオルジェ様達がいると嫌だったら、私が要望を聞きましょうか?」
「エレナちゃん、ごめんなさいね。
私はね、とんでもない誤解をしていたみたいだ。」
「誤解、ですか?」
「そうです。
ミルチャが私をここに行けと言ったのは、捨て置く為だと思ったら違ったのですね。
ここには、衣食住があるし、同じような年齢の人達もいる。だから、アンドレイ邸で思うように働けないのに居座るよりも、ここで有意義に過ごした方が残りの人生楽しいんじゃないかという配慮だったようで…。
口は悪いが、ミルチャは悪い人ではなかったようです。誤解していた私は、恥ずかしくて顔を合わせ辛いんだよ。」
「そうだったのですね。でも、ミルチャさんはそんな事気にしないと思いますよ。
あ!そうだ!後任のエイデルさんね、こんな素晴らしい庭を作った人の弟子になりたかったって言ってました。」
「まぁ!そんな事を…。でも今更戻っても思うように働けないですから。」
「思うように…あ!そうですよ、時短だったら!」
「え?」
「一応、その案もジェオルジェ様に伝えておきますね!あとでまた来ます!」
エレナは、お年寄りでも働けるような働き方を伝えに行こうと慌てて戻った。
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