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本編

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「マリア様は素晴らしいお力をお持ちでいらっしゃいますね。お力が無くても、素晴らしい方だと思っておりましたけれども。」

とタリアが声をかけてくれる。ここ2、3日人事の改編やら、尋問やらで忙しいみたいでルーク様の顔を見ていない。

「そんな事…。」
「そういえば、マリア様。最近忙しくて、私一人では対応出来ない事も増えてきまして。ですので、一人、侍女を増やそうかと思いますがどうでしょうか?サンディ、入って来なさい。」
「失礼致します。」

お辞儀をして、顔を上げたその侍女は、あの日私に毒入りの紅茶を出したあの子だった。

「あなた…!良かった。」
「初めまして。サンディと申します。」

えっ初めまして…?

「マリア様。そういう事で、お願いします。」

タリアを見ると、ペコリ、と優雅にお辞儀をしていた。顔の表情は見えないけれど、そういう事なのかしら。一応、罪は罪だとルーク様は仰っていた。だから…?

「マリア様がお考えになっている人物は、処刑されました。私は、その人物ととてもよく似ているそうでございます。ですので、私が代わりに。その節は、理由があるとは言え大変失礼を致しました。」

と、サンディもペコリとお辞儀をする。

「あとは、ルーク様が教えて下さるでしょう。」

そうなのね。じゃあルーク様に聞いた方が良いのね。

「分かりました。これからよろしくお願いしますね、サンディ。」
「はい!マリア様には、感謝してもしきれません。これから、誠心誠意お仕えさせて頂きます!」
「元気がいいわね。あなたはきっと、その方が似合うわ。」
「ありがとう存じます!」






夜、部屋にルーク様が訪ねて来て下さった。目の下には隈が有り、若干やつれたような気がする。
「お疲れじゃありませんか?紅茶、どうぞ。お酒のがよろしいですか?」
「いや、すぐに行くよ。ありがとう。それより、今日から新しい侍女が来たか?それが知りたいかと思ってな。」
「聞いてもよろしいのですか。」
「マリアは当事者だからな。巻き込まれたともいう。警備がしっかり行き届かずに本当に申し訳なかった。」
「過ぎた事です。それに、すべて網羅するのは難しいと思います。」
「ああ。王弟だ。ヤルドレン王弟陛下は、帝位を望んでいる。王宮の奥にある、離れに普段は居るんだがたまにどこからか情報を掴み暗躍しているんだ。それで、俺が気にしているという娘に毒を…という事を考えたらしい。サンディは、王弟が寄付していた孤児院から引き取ったと。弟がいて、人質に取られ止むなく犯行に及んだらしい。今はこちらで保護している。表向きは、処刑した事になっているから。それで、新しい子を雇った事にした。」
「ヤルドレン王弟陛下…そうですか…いろいろとありがとうございます。」
「マリアが侍女にと言っていたからな。仕方ない。」
そう言いながら、顔をクシャッと笑ってくれた。
「ワガママを申しまして…すみません。」
「そんな可愛いワガママならいつでも大歓迎だ。あ、キャロルは、想いが暴走しただけだった。一人で犯行に及んだと。叔父上は関係なかった。それから…」

ふう。とルーク様は息を吐く。王弟って、叔父さんって事よね。仲は良かったのかしら。辛いだろうな…。

「父上に花を持って行っていたのは、マリアが指摘した、髪の短い侍女だったが、あれは指示された場所に咲いていた花を生けていただけだった。王弟から、《こっちの花のが国王は好きだから》と言われたと証言した。その場所は、王弟の離宮からも、ほど近く、その一角の庭はロイに見てもらったが少しだけ魔力を感じたと。」

「ヤルドレン様には、私も会えませんか?話をしてみたいです。」
「マリアが?いや…しかし…」
「無理ならいいんです。でも、会わないままだと後悔しそうで…。」
「そうか。マリアが言うなら、分かった。明日、一緒に行くか。」
「ありがとうございます!ヤルドレン様は今も離宮ですか?」
「ああ。軟禁という形を取ってある。これは、父上が決めたのだ。」
「そうなんですね。国王様も、お辛いでしょうね…。ルーク様も、大丈夫ですか。今なら、誰もいないし泣いても構いませんよ。」
「マリア…。ありがとう。叔父上とは、年齢が10歳しか違わないんだ。小さい頃はよく遊んでもらった。しかし、大きくなると…。」
「ルーク様。大人になるといろいろしがらみとかありますから。やむを得ない立場とかもあったかもしれませんね。ヤルドレン様は、まだお一人なのですか?」

そう言って、ルーク様の隣に座り、手を握って撫でてみる。何だか、ルーク様が泣きたくても泣けないように思えたのだ。

「ああ。結婚はしていないな。昔、好きな人の話を少しだけされた事があった。叶わぬ恋だと言われていたよ。それからずっと独り身だ。愛する者が傍にいれば、また違ったかもしれないな…。マリア、少しだけ抱きしめさせてもらってもいいか。」
「はい…。」

ルーク様は、最後の方声が震えていた気がする。私は、背中に手を回し、しばらくさすってあげていた。
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