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26. 王宮へと再び
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ランナルがオールストレーム家を訪れてから更に一週間が経った。
今日は、シェスティンが王宮へと向かう日である。
まだ婚約者候補としてではあるが、王宮へと滞在し、王太子妃としてさまざまな事を学ぶのだ。
そして、あと約半年後に迫ったランナルの卒業を機に、婚約者を発表するのだ。
とはいえ、内々ではすでに婚約者だと決まっている。ランナルが切望している為に王宮で勤めている人などには知られているのだが、国民へ正式に発表するのである。
なのでそれまでには、王太子妃としてさまざまな事をシェスティンは覚えなければならない。
シェスティンは不安がっているが、周りは優秀なシェスティンであるからと特に心配してはいなかった。
特に、ランナルは。
「もう、俺の卒業なんて待たずに婚約者の報告と共に結婚してもいいと思わないかい?シェスティンは、しきたりやなんかをすぐに覚えてしまうだろうからね。」
と、ぼやいている。
「でも、俺は王太子だからね…。いろいろと順序があるのは本当に面倒だよ。お互いの気持ちさえあれば充分だと思うのだけどなぁ。」
と、シェスティンへと哀しそうに言うのだ。
「決まり事があるのは仕方ないわ。私も一生懸命覚えるから、待ちましょう?
結婚なんてきっとすぐよ。まだ今を楽しみましょうよ。」
シェスティンは、そのように優しく答えるのだった。
☆★
王宮へと着いたシェスティンは、ランナルが直々に案内すると言って入り口で待っていてくれたのを見て嬉しそうに笑った。
「ランナル、来てくれたのね!」
「当たり前だよ!さぁ、おいで。」
ランナルは、シェスティンの手を取ってゆっくりと歩き出した。
王宮の大広間も抜けて、たくさんの廊下と階段を上った先に、厳重な警備が敷かれた大きな扉があった。前回王宮へ来た時には、シェスティンは入った事のない区域であった。
そこは、建物の造りが変わったようで装飾が一層豪華になった。
「ここからは王族とその関係者しか入れない区域だよ。」
「え?私、入っていいの?」
「もちろんだよ!俺の婚約者なんだからね。さぁ、こっちだ。」
廊下を抜け、左に曲がって進んだ先にある建物の一室にシェスティンを案内したランナルは、照れくさそうにしていた。
「わぁ…!素敵だわ!」
部屋は太陽の光を目一杯取り込めるように天井から床までの大きな窓になっている。
中央にはシェスティンが大きく手を広げても余裕がありそうなほど大きなベッドが置かれていて、窓際にはくつろげるように布地のソファとテーブルが置いてある。
入り口の手前には、侍女が待機する小さな小部屋までついていた。
そのどれもが、派手過ぎず落ち着いた
雰囲気のものであったので、シェスティンは心が躍るほどに声を上げた。
「素敵な部屋ね!私が使っていいのかしら。もったいないくらいだわ!」
「そう言ってくれて良かった!準備した甲斐があったよ。」
「え?ランナルが準備してくれたの?」
「あ、いや…うん。
シェスティンがどんなのが好みか分からなかったけれど、何となくこんな感じが似合うかなって。落ち着いた雰囲気が好きかなと勝手にしてしまったけれど、そう言ってくれたなら良かったよ。好みに合わないなら好きに手直ししていいから、と言おうとしたんだけれどね。」
「ランナルが考えてくれたのなら、このままがいいわ!ありがとう。」
「…!
どういたしまして。あ、そうだ!まず…シェスティンはここに座ってくれるかい?」
ランナルはまだ少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、シェスティンをソファへと促した。
そして、シェスティンがソファへと座るとその前にランナルが跪いて、シェスティンの方へと上目づかいで見遣った。
「え!?」
シェスティンは驚いたが、ランナルはその体勢のままシェスティンへと言葉を繋いだ。
「シェスティン=オールストレーム様。
私は、あなたを生涯愛し、傍で共に笑い、苦しい事があっても共に乗り越えていきたいと思っています。だからどうか、私と結婚して下さいませんか。」
「ランナル…」
「…どうかな?
勝手に話は進めてしまったけれど、シェスティンにはしっかりと伝えていなかったと思ったんだ、俺の気持ち。
俺は、シェスティンを想う気持ちは誰よりも強いと思っているよ。だから、これからの人生共に過ごしたい。シェスティンが感じるものを共に、傍で感じていたい。シェスティンしかいやだ。シェスティンしかいないんだ!」
「もう…ありがとう、ランナル。私が返事をしなくても、もう婚約者候補にしてくれたのでしょう?」
「いや、まぁそうなんだけど…でも、やっぱり直接求婚って必要かなって。」
「ランナル…。ええ、嬉しい!
言葉で伝えてくれてありがとう。私も、ランナルと一緒にいろんなものを見たり感じたりしたいわ!」
「そう?じゃあ、この指輪、嵌めてもいい?」
その指輪は、以前ランナルがくれたイヤリングと同じような、主張し過ぎないデザインだった。
小さな宝石が一つ、台座と銀色のリングに収まるように嵌まっていた。
「ええ…」
ランナルが、手が震えるのを隠しつつ嵌めた指輪は、指にしっくりとくる大きさで丁度良かった。
「綺麗…!」
手を広げて少し上に上げ、指輪を見たシェスティンは顔をほころばせていた。
「シェスティン。あぁ…やっと名前を呼べるよ。大好きなシェスティン。これからは俺がエスコートするからね、どこへでも一緒に行こう。」
「うふふふ。ありがとう。名前を呼んでもらえるってこんなに嬉しいのね!
ええ、お願いね!」
そう言った二人は、どちらからとも無く見つめ合いながら笑って、ランナルがソファへと移動してからもしばらくこれからの事を話していた。
今日は、シェスティンが王宮へと向かう日である。
まだ婚約者候補としてではあるが、王宮へと滞在し、王太子妃としてさまざまな事を学ぶのだ。
そして、あと約半年後に迫ったランナルの卒業を機に、婚約者を発表するのだ。
とはいえ、内々ではすでに婚約者だと決まっている。ランナルが切望している為に王宮で勤めている人などには知られているのだが、国民へ正式に発表するのである。
なのでそれまでには、王太子妃としてさまざまな事をシェスティンは覚えなければならない。
シェスティンは不安がっているが、周りは優秀なシェスティンであるからと特に心配してはいなかった。
特に、ランナルは。
「もう、俺の卒業なんて待たずに婚約者の報告と共に結婚してもいいと思わないかい?シェスティンは、しきたりやなんかをすぐに覚えてしまうだろうからね。」
と、ぼやいている。
「でも、俺は王太子だからね…。いろいろと順序があるのは本当に面倒だよ。お互いの気持ちさえあれば充分だと思うのだけどなぁ。」
と、シェスティンへと哀しそうに言うのだ。
「決まり事があるのは仕方ないわ。私も一生懸命覚えるから、待ちましょう?
結婚なんてきっとすぐよ。まだ今を楽しみましょうよ。」
シェスティンは、そのように優しく答えるのだった。
☆★
王宮へと着いたシェスティンは、ランナルが直々に案内すると言って入り口で待っていてくれたのを見て嬉しそうに笑った。
「ランナル、来てくれたのね!」
「当たり前だよ!さぁ、おいで。」
ランナルは、シェスティンの手を取ってゆっくりと歩き出した。
王宮の大広間も抜けて、たくさんの廊下と階段を上った先に、厳重な警備が敷かれた大きな扉があった。前回王宮へ来た時には、シェスティンは入った事のない区域であった。
そこは、建物の造りが変わったようで装飾が一層豪華になった。
「ここからは王族とその関係者しか入れない区域だよ。」
「え?私、入っていいの?」
「もちろんだよ!俺の婚約者なんだからね。さぁ、こっちだ。」
廊下を抜け、左に曲がって進んだ先にある建物の一室にシェスティンを案内したランナルは、照れくさそうにしていた。
「わぁ…!素敵だわ!」
部屋は太陽の光を目一杯取り込めるように天井から床までの大きな窓になっている。
中央にはシェスティンが大きく手を広げても余裕がありそうなほど大きなベッドが置かれていて、窓際にはくつろげるように布地のソファとテーブルが置いてある。
入り口の手前には、侍女が待機する小さな小部屋までついていた。
そのどれもが、派手過ぎず落ち着いた
雰囲気のものであったので、シェスティンは心が躍るほどに声を上げた。
「素敵な部屋ね!私が使っていいのかしら。もったいないくらいだわ!」
「そう言ってくれて良かった!準備した甲斐があったよ。」
「え?ランナルが準備してくれたの?」
「あ、いや…うん。
シェスティンがどんなのが好みか分からなかったけれど、何となくこんな感じが似合うかなって。落ち着いた雰囲気が好きかなと勝手にしてしまったけれど、そう言ってくれたなら良かったよ。好みに合わないなら好きに手直ししていいから、と言おうとしたんだけれどね。」
「ランナルが考えてくれたのなら、このままがいいわ!ありがとう。」
「…!
どういたしまして。あ、そうだ!まず…シェスティンはここに座ってくれるかい?」
ランナルはまだ少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、シェスティンをソファへと促した。
そして、シェスティンがソファへと座るとその前にランナルが跪いて、シェスティンの方へと上目づかいで見遣った。
「え!?」
シェスティンは驚いたが、ランナルはその体勢のままシェスティンへと言葉を繋いだ。
「シェスティン=オールストレーム様。
私は、あなたを生涯愛し、傍で共に笑い、苦しい事があっても共に乗り越えていきたいと思っています。だからどうか、私と結婚して下さいませんか。」
「ランナル…」
「…どうかな?
勝手に話は進めてしまったけれど、シェスティンにはしっかりと伝えていなかったと思ったんだ、俺の気持ち。
俺は、シェスティンを想う気持ちは誰よりも強いと思っているよ。だから、これからの人生共に過ごしたい。シェスティンが感じるものを共に、傍で感じていたい。シェスティンしかいやだ。シェスティンしかいないんだ!」
「もう…ありがとう、ランナル。私が返事をしなくても、もう婚約者候補にしてくれたのでしょう?」
「いや、まぁそうなんだけど…でも、やっぱり直接求婚って必要かなって。」
「ランナル…。ええ、嬉しい!
言葉で伝えてくれてありがとう。私も、ランナルと一緒にいろんなものを見たり感じたりしたいわ!」
「そう?じゃあ、この指輪、嵌めてもいい?」
その指輪は、以前ランナルがくれたイヤリングと同じような、主張し過ぎないデザインだった。
小さな宝石が一つ、台座と銀色のリングに収まるように嵌まっていた。
「ええ…」
ランナルが、手が震えるのを隠しつつ嵌めた指輪は、指にしっくりとくる大きさで丁度良かった。
「綺麗…!」
手を広げて少し上に上げ、指輪を見たシェスティンは顔をほころばせていた。
「シェスティン。あぁ…やっと名前を呼べるよ。大好きなシェスティン。これからは俺がエスコートするからね、どこへでも一緒に行こう。」
「うふふふ。ありがとう。名前を呼んでもらえるってこんなに嬉しいのね!
ええ、お願いね!」
そう言った二人は、どちらからとも無く見つめ合いながら笑って、ランナルがソファへと移動してからもしばらくこれからの事を話していた。
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