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25. 家に来たのは

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 フレドリカが旅立った翌々日に、カイサまで出掛けると言って旅立ってしまった。

 シェスティンは、ずいぶんと食卓が静かになったなと思いながら食事を摂っていた。


(そういえば、いつもフレドリカが話してお母様が返事をしていたわね。)


 二人が主に話していた為に敢えて割って入ろうとはせず、食事に集中していたシェスティンはアロルドとの二人での食事に、こんなに静かだったのだと改めて思った。


「シェスティン。どうだ?その…困った事はないか?」


 アロルドもまた、静かになった食卓は食事を堪能するのに心地よいとは思ったが、せっかくなのでシェスティンへと聞いてみたのだ。


「ええ、お父様。何も困った事はございませんわ。
フレドリカもお母様も居ないので、少しだけ淋しいですわね。
もう、着いている頃かしら。」

「そうだな。休憩を取りつつ向かってくれているのであれば、そろそろ着く頃であるな。」


 このオールストレーム家の領地は、王都の少し南にあり、アールベック家は王都を越えてさらに北へ向かった先にある。距離も遠く、馬車に数時間乗っていると体中が痛くなるので休憩も取らないといけないのだ。
それに、自分の気持ちに正直なフレドリカとカイサであるので、休憩は取っているだろうとアロルドは思っていた。


(ベングト侯爵とロルフ殿と一緒のフレドリカは果たしてどの位休憩を取ってもらっているのか。迷惑を掛けていないといいが…。カイサはうちの馬車で一人であるから、辛くなったらすぐに休憩を取っているだろう。この為にきっと馬車はうちので来てくれと言ったのかもしれないな。)


 アロルドは一人、心配をしていた。





☆★

「明日、ランナル王子がうちにいらっしゃるそうだよ。」


 週末、朝食でアロルドからそう聞いて、胸がドキドキと高鳴ったシェスティンだったが、その為の服は何にしようと食事中からソワソワとしてしまった。



「コーラ、どうしましょう!何を着ればいいの?」

「そうですねぇ…アロルド様から伺った話によると顔合わせですから、ワンピースでよろしいかと。」

「顔合わせ!?」

「そうでした、明日はイヤリングは付けましょうね。」


 ランナルからもらったイヤリングは、無くすといけないからと普段使いにはしておらず、棚の中にしまっていた。そして、毎日夜寝る前にそれを出しては見つめ、ランナルの事を考える時間となっていたのだった。


(無くさないようにしないと…。でも、付けられるのが嬉しいわ!)





ーーー
ーー

 次の日。

 早朝から軽食を摘まみつつ支度をして、やっと終わった頃に玄関が騒がしくなったので、シェスティンもそちらへと出向く事にする。


「コーラ、ロリ、ありがとう。」

「いいえ。お綺麗ですよ。」

「はい。とても素敵です。」


 ロリは、侯爵家へとついて行く事は適わなかったのでコーラと共にシェスティンの世話をしていた。フレドリカは本当に荷物も無く身一つで行ってしまったのだ。
今までフレドリカに付いていた、エッベも今は仕事を忙しくこなしていた。




「失礼致します。」

「シェスティン、こちらへ来なさい。」


 応接室へと入ったシェスティンは、ランナル王子が正装してアロルドの正面に座っているのを見て途端に緊張した。
黒地に金の縁取りをした燕尾服は、ランナルの見目麗しい顔によく似合っていた。金髪の髪も、前髪が後ろへ撫でつけてカッチリとセットされていた。
 この前の王宮へ行った時にも遠目で見かけたランナルのその格好は、近くで見ると目を奪われるほどであった。


(格好いい…!校外学習で会っていた時には前髪は下ろしていたけれど、これはこれで素敵…!)


 ランナルと目が合ったシェスティンは、微笑まれたので慌てて席へと座った。



「今日は、いきなり押しかけて済まない。しかしどうしても、挨拶をしたかったのです。」


 そう言ったランナルは、出された紅茶を一口飲んで呼吸を整えると、アロルドへと視線を合わせて姿勢を正して口を開いた。


「アロルド伯爵。今日は父まで来るとどうしても大事になってしまう為、一人で挨拶に参った事をお許し下さい。
そしてどうか、シェスティン嬢を私の妻とさせてもらえませんか。私の妻となる事は、苦労をさせる事だとは思いますが、決して、それだけではなく幸せにさせていただきたいと思います。」


 言い終わり頭を下げたランナルに、アロルドはあたふたとして言った。


「か、顔をお上げ下さい!シェスティンは、確かに優秀ではありますが…好奇心旺盛過ぎるところもありまして、その…ランナル王子の妻となるという事は王妃になるという事でよろしいのでしょうか。」

「もちろんです!私は、側妃を持つなんて思ってもおりません!
思いがけずシェスティン嬢と同じ時間を共有する事が出来、とても楽しく意見交換をする事が出来たのです。短い時間ではありますが、もっと一緒に過ごしたいと思うようになったのです。
好奇心旺盛なのは、存じてます。本が好きな事も。王妃になっても、それは続いたとしても問題ないでしょう。」

「そうですか。シェスティンは…どうだと聞きたかったが、異論無さそうなので、こちらこそよろしくお願い致します。」


 シェスティンは、顔を真っ赤にして両手で顔を包んでいた。誰の目から見ても、恥ずかしがっていると良く分かったのだ。アロルドも、シェスティンの気持ちが知れてホッとした。


(こんなに照れているなら、シェスティンも想い合っているのなら幸せになれるだろう。どんなにシェスティン付きのコーラとディックから報告を受けていたとしても、本人の口から聞くのとではまた違うからな。この場合は態度、で分かったのだが。)


 アロルドは、コーラとディックから校外学習でどのように過ごしていたかの報告も受けていた。その際、シェスティンが二人の生徒と親しくなり、とても楽しそうにしていると聞いていたのだ。


「ありがとうございます!シェスティン嬢を幸せにします!あ、それでオールストレーム家の跡取りの事なのですが…」

「あぁ、それは心配いりません。陛下からお話をいただいた時から考えておりました。今、後継として育てようと仕事を教えております。」

「よろしいのでしょうか。私達の子供が何人か授かれば、その内の一人にオールストレーム伯爵家を継がせても、と考えておりましたが。」

「いえ…さすがにそれでは、オールストレーム伯爵家の力が強すぎてしまいましょう。王家の血が入った者が跡継ぎとなってしまいますからね。
こちらは大丈夫です。私の甥であるエッベに仕事を教えておりますから。」

「そうでしたか。承知しました。
では、早速今後の話なのですが…」


 シェスティンは未だ顔を赤くしながら、ランナルとアロルドの会話を口を挟まずに聞いていた。

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