6 / 27
6. 乗っていくものは
しおりを挟む
「では、私の事はどうぞアルヤンと呼び捨てて下さい。さぁ、こちらへ。」
そう言って手を差し出されたけれど、私は敢えてその手には自分の手を乗せずににっこりと微笑んで言葉を返した。
「ありがとう。でも、副隊長という地位をお持ちでしょう?アルヤン副隊長とお呼びしても?私は一人でも大丈夫ですわ。」
「…承知しました。では、エルヴィーラ様とお呼びします事をお許し願えますか?」
「ええ。」
そう答え、私は自分でスタスタと屋敷の門の外まで一人で行く。
これが〝エルヴィーラ様〟として合っているかは分からない。だって、先ほど手を差し伸べられたのはきっとエスコートする為だと思うの。だけど、〝エルヴィーラ様〟は豪傑だと言っていたし、〝男だったら幸せだっただろう〟とも言われていたもの。きっと、男の人に軽々しくエスコートさせなかったのではないかしら?
それにしても。
帝国と言われ、先ほどから野蛮だの恐ろしいだのと言われていたから、どんな恐そうな人かと思ったが、物腰が柔らかい人で良かったと思った。お迎えの人だからなのかもしれないけれど。
門の外では、私の身長よりも大きな馬が何頭もいた。その横にはアルヤン副隊長と同じ軍服を着た人達がいた。
(もしかして…馬に乗るのかしら!?)
馬の顔はくりくりとした黒い黒曜石のような瞳がこちらをジッと見つめていて睫毛も長くて可愛いのだけれどとても体長が大きくて、足が長いから下手に近づくと蹴られそう…。
私がそこで足を止めると、
「どうかされました?いつも乗っている愛馬は連れて来ないのですか?」
と、先頭にいる、赤茶色の毛並みの馬の横に立ち、馬の顔を撫でている人が声を掛けてきた。
その人は、太陽の光に当たると少し青っぽく見える黒い髪を肩まで伸ばし、この方も黒曜石のような綺麗な瞳で、私を見つめている。目鼻立ちがくっきりとしていて、格好良く見えた。
「あ、いいえ…。」
どうしよう、なんて答えようかと躊躇うとすぐに、
「お、恐れながら!エルヴィーラ様は先日、落馬して頭を酷く打ちつけまして、記憶があやふやな部分があります!」
インサが慌てて口を開く。
落馬…きっと私の設定ね。
ん?でも、私…馬乗った事あったかしら。
…あったわ!
頭を捻ると僅かながらに乗馬教室に通っていた事をなんとなく思い出した。
これもいつか、演じる役柄で馬に乗る役とか来たらすぐにでも役に立つと思っていたのだと思う。
でも、教室でのコーチの顔とか教えられた言葉とか細部まで覚えていないけれど、これって乗れるって言えるの?乗ったら思い出すのかしら。体が勝手に覚えているといいのだけれど。
だって馬以外は見当たらない。きっと、〝エルヴィーラ様〟は愛馬を自在に操っていたと言ったから、当然ながら馬で移動するのよね?きっと。
大丈夫かしら…。
だって、馬って、こんなに大きかった?
「エルヴィーラ様、乗馬できますか?」
こっそりと私に近づいて声を掛けてきたインサ。とても心配してくれているわ。
そうよね、でもさすがに馬で移動するのだとは思わなかったわ。
「分からない…けれど、馬がとても大きく見えるの。乗れるかしら。」
「確かに、大きいですね。」
インサも若干恐れたように、引き気味にその馬達を見ている。
すると、先ほどの人は顎に手を充てて考えるように、
「…そうでしたか。それは知らず申し訳ありません。確認不足でした。落馬して怪我をした者は馬が怖くなるといいます。あなたは普段から自分の体の一部のように愛馬を乗り回していたと聞いていたから、馬車よりも早く移動出来るように馬にしてしまったのです。愛馬も連れて行かれるのかと思っておりましたし。…どうでしょうか。では私と一緒に乗って下さい。」
と言われた。
え!?一緒に!?見ず知らずの初対面の人と!?
……でも、一人で乗るよりはマシよね。馬だって生き物だから、いきなり走り出してしまったら、操作できるか不安だもの。それにこんな大きな馬、一人で乗ってと言われても怖いわ。
「…ええ。申し訳ありません。よろしくお願い致します。」
「では改めて。紹介します。彼はルドフィ…」
「えへんえへん!ええと、私はルドです。私の馬にお乗り下さい。」
アルヤン副隊長が紹介しようとすると、ルドと言われた青年は言葉が被さるように、自分で改めてそう言われた。どうしたのだろう。
「…では、そちらの侍女の方。お名前は?」
「インサと申します。」
「インサ、よろしく。では僕の馬に乗って。」
「え?で、ですが…」
「あぁ、気にしないで。僕もルドも同じくらいの腕だから。ほらほら、出発しますよ。行程が一応ありますからね。」
そう言って、私とインサを促した。
きっと、地位のあるアルヤン副隊長に私が乗らないのはなぜかとインサは思ったのかもしれないわね。彼は役職を言わなかったもの。
でも、今の私には地位のある人より一般人の方がいいわ。私、実際には地位があるわけではないのだから。
そう言って手を差し出されたけれど、私は敢えてその手には自分の手を乗せずににっこりと微笑んで言葉を返した。
「ありがとう。でも、副隊長という地位をお持ちでしょう?アルヤン副隊長とお呼びしても?私は一人でも大丈夫ですわ。」
「…承知しました。では、エルヴィーラ様とお呼びします事をお許し願えますか?」
「ええ。」
そう答え、私は自分でスタスタと屋敷の門の外まで一人で行く。
これが〝エルヴィーラ様〟として合っているかは分からない。だって、先ほど手を差し伸べられたのはきっとエスコートする為だと思うの。だけど、〝エルヴィーラ様〟は豪傑だと言っていたし、〝男だったら幸せだっただろう〟とも言われていたもの。きっと、男の人に軽々しくエスコートさせなかったのではないかしら?
それにしても。
帝国と言われ、先ほどから野蛮だの恐ろしいだのと言われていたから、どんな恐そうな人かと思ったが、物腰が柔らかい人で良かったと思った。お迎えの人だからなのかもしれないけれど。
門の外では、私の身長よりも大きな馬が何頭もいた。その横にはアルヤン副隊長と同じ軍服を着た人達がいた。
(もしかして…馬に乗るのかしら!?)
馬の顔はくりくりとした黒い黒曜石のような瞳がこちらをジッと見つめていて睫毛も長くて可愛いのだけれどとても体長が大きくて、足が長いから下手に近づくと蹴られそう…。
私がそこで足を止めると、
「どうかされました?いつも乗っている愛馬は連れて来ないのですか?」
と、先頭にいる、赤茶色の毛並みの馬の横に立ち、馬の顔を撫でている人が声を掛けてきた。
その人は、太陽の光に当たると少し青っぽく見える黒い髪を肩まで伸ばし、この方も黒曜石のような綺麗な瞳で、私を見つめている。目鼻立ちがくっきりとしていて、格好良く見えた。
「あ、いいえ…。」
どうしよう、なんて答えようかと躊躇うとすぐに、
「お、恐れながら!エルヴィーラ様は先日、落馬して頭を酷く打ちつけまして、記憶があやふやな部分があります!」
インサが慌てて口を開く。
落馬…きっと私の設定ね。
ん?でも、私…馬乗った事あったかしら。
…あったわ!
頭を捻ると僅かながらに乗馬教室に通っていた事をなんとなく思い出した。
これもいつか、演じる役柄で馬に乗る役とか来たらすぐにでも役に立つと思っていたのだと思う。
でも、教室でのコーチの顔とか教えられた言葉とか細部まで覚えていないけれど、これって乗れるって言えるの?乗ったら思い出すのかしら。体が勝手に覚えているといいのだけれど。
だって馬以外は見当たらない。きっと、〝エルヴィーラ様〟は愛馬を自在に操っていたと言ったから、当然ながら馬で移動するのよね?きっと。
大丈夫かしら…。
だって、馬って、こんなに大きかった?
「エルヴィーラ様、乗馬できますか?」
こっそりと私に近づいて声を掛けてきたインサ。とても心配してくれているわ。
そうよね、でもさすがに馬で移動するのだとは思わなかったわ。
「分からない…けれど、馬がとても大きく見えるの。乗れるかしら。」
「確かに、大きいですね。」
インサも若干恐れたように、引き気味にその馬達を見ている。
すると、先ほどの人は顎に手を充てて考えるように、
「…そうでしたか。それは知らず申し訳ありません。確認不足でした。落馬して怪我をした者は馬が怖くなるといいます。あなたは普段から自分の体の一部のように愛馬を乗り回していたと聞いていたから、馬車よりも早く移動出来るように馬にしてしまったのです。愛馬も連れて行かれるのかと思っておりましたし。…どうでしょうか。では私と一緒に乗って下さい。」
と言われた。
え!?一緒に!?見ず知らずの初対面の人と!?
……でも、一人で乗るよりはマシよね。馬だって生き物だから、いきなり走り出してしまったら、操作できるか不安だもの。それにこんな大きな馬、一人で乗ってと言われても怖いわ。
「…ええ。申し訳ありません。よろしくお願い致します。」
「では改めて。紹介します。彼はルドフィ…」
「えへんえへん!ええと、私はルドです。私の馬にお乗り下さい。」
アルヤン副隊長が紹介しようとすると、ルドと言われた青年は言葉が被さるように、自分で改めてそう言われた。どうしたのだろう。
「…では、そちらの侍女の方。お名前は?」
「インサと申します。」
「インサ、よろしく。では僕の馬に乗って。」
「え?で、ですが…」
「あぁ、気にしないで。僕もルドも同じくらいの腕だから。ほらほら、出発しますよ。行程が一応ありますからね。」
そう言って、私とインサを促した。
きっと、地位のあるアルヤン副隊長に私が乗らないのはなぜかとインサは思ったのかもしれないわね。彼は役職を言わなかったもの。
でも、今の私には地位のある人より一般人の方がいいわ。私、実際には地位があるわけではないのだから。
12
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
契約結婚なら「愛さない」なんて条件は曖昧すぎると思うの
七辻ゆゆ
ファンタジー
だからきちんと、お互い納得する契約をしました。完全別居、3年後に離縁、お金がもらえるのをとても楽しみにしていたのですが、愛人さんがやってきましたよ?
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる