【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

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15. 話し合い

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 渓谷を無事に抜け、今度はゴツゴツと岩がむき出しの荒野が広がり始めた。

 渓谷を背に荒野を少し進んだ、いろんな方向に枝を生やした赤っぽい木の下で敷物を広げて休憩することになった。

「さ、エルヴィーラ。座って。」

 ルドが私に向かって言ってくれる。けれど、私がエルヴィーラと呼ばれている事に違和感がないのだろうかと〝エルヴィーラ様〟とインサを交互に見てしまう。
しかし〝エルヴィーラ様〟は私の方は見向きもしないで、一緒にいた男性の方へと駆け寄っている。インサも、〝エルヴィーラ様〟をちらりと一瞬見た後、私に寄り添ってくれる。

「大丈夫ですか?お気を確かに。」

 小さな声で、私にだけ聞こえるように言ったインサも、酷い顔色だった。
多分、バレてしまわないか気が気ではないのかもしれない。

「インサも。」

 私も、インサの手を握り、そう声を掛けるとハッとした表情をし、そして、私を安心させようとしたのかニッコリと笑ってくれた。

(そうね。私も頑張らないと。演じるのよ、私!)

 インサのその顔を見て、そう気合いを入れ、誰かが話し出すのを待った。





☆★

 まずは手当てを、という事で、隊員達はテキパキと男性の傷を見ていた。
 どうやら、男性はヘルムベアがいきなり崖の上に見え、驚いて大きな声を出してしまったらしく、その声に驚いた馬が嘶いてしまって、乗っている男性を振り落としてしまったのだそう。
どうやって?と思ったのだけど、私達とは逆で、〝エルヴィーラ様〟が馬の背の前に座り、ニバルトさんが後ろに乗っていたみたい。
 高い所から落ちた衝撃で、激しく体を打ちつけたので、腰や背中などを痛めたのではないかという事だった。骨折しなかったのは幸いだ。ニバルトさんは『私は庭師なので足腰は強いのです』と、そこだけは自信満々に答えていて、その為『足腰を使う仕事だから、筋肉がしっかりしていたのだろう』という見解だった。
すぐには歩く事が出来ないけれど、日にち薬でよくなるみたいで良かった。



 手当てが終わると、ルドが皆へと声を掛けた。

「少し早いが食事の準備をしましょう。水を探すのと、食べ物が無いか見てきます。四人はここで待っていて下さい。」

 とルドが言うと、隊員の皆は頷いてスタスタと散り散りに歩き出す。

 え!?私達を残して皆何処かへ行くという事?

「少し先のあちらの方に川が流れています。私はあちらに行ってから、手前の木の下でかまどを作ったりしますね。大丈夫ですよ、四人の姿は見えていますので、何かあってもすぐに駆け付けますからね。」

 そうルドが言って私へとニッコリと微笑んでくれ、アルヤン副隊長も、

「美味しい食事にしましょう。けれど、獲物が獲れなくても笑わないで下さいよ。」

 と、戯けて言い、歩いていった。
 

 その後ろ姿を見ながら少し呆けてしまったが、私は、隣のインサへと顔を向け、

「これって、四人で話せって事?」

 と、言葉を掛ける。
 インサも戸惑いながらも頷き言葉を返してくれた。

「分かりませんが、そうかも知れません。ええと…お嬢様、お嬢様!」

 インサが、声を潜めつつ少し先の〝エルヴィーラ様〟に呼び掛ける。〝エルヴィーラ様〟もインサと私の方をちらりと向き、気まずそうな顔をしてまた背を向けて言葉だけは返してきた。

「向こうに見られているだろうからこのままで。
そこの…エルヴィーラ、勝手にこちらの世界へと呼んでごめんなさい。今になって、本当に申し訳ない事をしたと思っているのよ。でも、彼らと上手くやれているようで本当に良かった。あなたにもこれ以上迷惑は掛けないつもりよ。この先の帝都に着いたら、お別れ出来ると思うからそれまではごめんなさいね。
インサも、いろいろとごめんなさいね。」

「そちらは大丈夫なのですか?」

 私は、なんだか心配になって聞いた。だって、謝ってもらっても私はもうすでにこの世界にいるんだもの。戻る、なんて事は出来るのか分からないけれど、だんだんとこの世界もいいかなと思っているのよ。ただ、皇帝陛下が怖い人じゃなければいいなと思っているわ。
 だから、〝エルヴィーラ様〟の方は庶民に紛れて生活が出来るのか不思議だったの。

「どうにかやるわよ。髪も、何故か私は何処にでもいる赤茶色になってしまったし、民衆に紛れる事が出来ると思うわ。ニバルトは銀色で目立つけど、きっとどうにかなるわ。」

「お嬢様…。シュネル愛馬は一緒じゃないのですか?」

 インサはとても切なそうだわ。そうよね、今までお世話してきた人が近くにいるんだもの。きっと、私の傍よりよっぽど〝エルヴィーラ様〟の傍にいって抱きしめたいのではないかしら。

「あぁ、シュネルは先ほど、ニバルトが落馬した時に逃げ出しちゃったの。冷静になって帰ってきてくれるといいんだけれど、帰って来ないならもう仕方ないわ。何処かで幸せに暮らしてくれるといいんだけれど。」

「インサ、僕のせいなんだ。僕がすべて悪いんだよ。レウの大切なシュネルも逃げちゃって…本当にごめん。」

「いいのよ、ニバルト。民衆に紛れて暮らすならどのみち馬と一緒に暮らすのは無理よ。」

「レウ?」

「あぁ、私の名前よ。獅子と言う意味なの。いい名前でしょう?」

「…私は、本当にになっていいのですよね?」

「何言っているの。私はレウよ。彼氏と旅の途中なのよ。…申し訳ないけど、そうなのよ。」

 それが答えなのだなとインサを覗き見ると、少し淋しそうだけれど、頷いて笑っていた。

「レウ様、そちらの彼とお幸せに。」

「……ありがとう。」
「ありがとう…。」

 〝エルヴィーラ様〟…いいえレウ様もニバルトも声が震えていた。

 これでいいのよね。

 私はルドの方を見ると、すでに簡易かまどに火が入り煙が上がっていた。
ルドは私の視線に気づいたようで、手を振って大きな声で、

「もうすぐ出来ますからねー!」

 と知らせてくれた。

 私は頷くと、もうレウ様の方を見ず、そちらの煙を見ていた。


「良かったです。」

 ふと、隣のインサが呟いた。

「え?」

「お二人の姿が見られて。ニバルトは相変わらずです。庭弄りは素晴らしいのですがそれ以外では鈍くさいといいますか…。馬も、乗れたんだと驚いております。」

「そう…。インサ、本当だったらあちらへ行って抱きしめて差し上げたかったでしょう?」

「え?そんな事はございませんよ。私はエルヴィーラ様付きの侍女とはいえ、警備隊に出入りするようになってからは私がお世話する事はかなり減りましてね。お屋敷に帰って来ても一人で何でもされましたから。私は、もう何年もコルドゥラエルヴィーラの母様のお手伝いをさせていただいておりましたから。確かにお嬢…レウ様のお姿を見られて嬉しいですが、そこまでではありませんよ。むしろ、短い期間ではありますが、エルヴィーラ様を抱きしめて差し上げたかったですよ。今は大丈夫そうですが、先ほどは顔が青白く見えましたもの。支えて差し上げたいと思いました。」

 それは、〝エルヴィーラ様〟が見つかったと、隊員が教えてくれた時かしら。
でも、それを言ったらインサだって…。

「でもそれを言うならインサも顔色が悪かったわ。」

「そうでしたか?そう見えたのでしたら、きっとエルヴィーラ様が替え玉だと知られてしまった後どうなるのかが不安だったからですね。でも、少なくとも今は、大事おおごとにされないようにルド様は四人で話す時間をそれとなく設けて下さったのかもしれませんね。素晴らしい方ですね。」

 とにっこりと優しく微笑んで、さらに言葉を繋いでインサは言った。

「エルヴィーラ様とは私、あと少ししかご一緒できませんが、誠心誠意遣わせていただきますよ。ですから、この世界へ来て心細いとは思いますがどうか、不安には思わないで下さいね。今は私を頼って下さい。ルド様やアルヤン様を、頼って下さいね。」

 インサは私の手を取り優しく撫でてそう言ってくれた。
そうね。私はこの国で過ごしていかなければならないものね。
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