【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

文字の大きさ
14 / 27

14. 渓谷での出来事

しおりを挟む
「…とりあえず、では先へと進みましょう。立ち止まったままではヘルムベアが来ても困りますから。」

 そう言ったルドは、後ろの人達へ一声掛け、手綱を握り、馬へと歩き出す合図を出した。





 少し速歩で進むと、前方に座り込んでいる男性と、剣を構えて立ち辺りを警戒している女性がいた。

 女性がこちらを見てハッとし、座り込んでいる男性を見たあとに、頭をブルブルと左右に振っていた。

(頭を振ったのはなんの意味かしら。私がいたから?あれは確かに、〝エルヴィーラ様〟のようだけど…髪色が違う?)

 逃げる際に染めたのだろうか。女性は、赤茶色の髪色だった。この今いる帝国ではありきたりな色だからかもしれない。アルヤン副隊長も他の隊員も、少しずつ色合いは違うがだいたい赤茶色の髪をしているもの。
 男性は、銀色の髪だけれど、地面から空を仰いでいるように寝そべっている。確か、怪我が軽症とか言っていたからだと思う。その男性は、話からするとニバルトという人なのだろう。


 ルドが手綱を引き、その人達の前で止まってアルヤン副隊長を見た。アルヤン副隊長は一つ頷くと、インサに何かボソボソと話し、インサは首を振るとアルヤン副隊長だけ馬から降り、その女性に話し掛けた。
 きっとインサも馬から下りるか聞いたのかもしれないわね。

「大丈夫でしたか?とりあえず、ここに留まっているとヘルムベアがまた来てしまうかもしれないので、渓谷を抜けましょう。」

「いえ。助けていただいた事には感謝致します。しかし、私達は大丈夫です。どうぞお気になさらず、お進み下さい。」

 女性は、剣は下ろして話しているけれどなんだか殺気立っているようで、私達に早く行け、と威嚇しているようにも見えた。
インサは、痛ましいものでも見るようにあの女性を見ている。

 やっぱり、あの女性が〝エルヴィーラ様〟なのだわ。私は、どうなるのだろう…。

「…見た所、そのようですが、どうぞお願いします。」

 再度アルヤン副隊長がそう言うと、後ろからエリアンが、

「副隊長!男性は怪我をされております。歩けないのでしょう。私が彼を背負って行きますから、その女性に私の馬をお貸ししてもよろしいでしょうか?」

 と言った。

「そうだな。ではそうしてくれ。」
「いけません!」

 アルヤン副隊長が言うと、女性は言葉が被さるように言った。けれど、それを見ていたルドが、

。申し訳ないがこのような場合、我々は怪我人を放っておいたら職務放棄として罰せられてしまう。どうか、我々を助けると思って言葉に従ってはくれないだろうか。」

 と、丁寧に言うので、女性は逡巡したあげく、

「分かりました。お願いします。」

 と言って頭を下げた。寝そべっている男性は、

「すみません…」

 と謝っていた。
 エリアンはさすが軍人らしく、男性を背負ってスタスタと歩き出した。重いだろうに、そんな事も微塵も感じさせないように歩いているので私は思わず、

「すごい…重くないのかしら。」

 と呟いてしまう。すると、すぐ耳元でルドが、

「軍人は、一般人が怪我をしていたら助けるのが義務なのです。その為、それが出来るように鍛えているのですよ。」

 と優しく教えてくれた。
 小さな声であっただろうに、ルドはいつも答えてくれるなと変な所で感心してしまった。

「そうなのですね。素晴らしいです。」

「エルヴィーラ?どうしました?」

「?」

「いえ、なんだか元気がないように見えましたから。怖かったですか?もう大丈夫ですよ。よく頑張りました。さぁ、出発しますよ。」

 そう言って、ルドは私の頭を一撫でしてから、馬に歩く合図を送った。

(なんでそんな事言うの…優しくされると……)

 目頭が熱くなってくる。

 ルドは、気づいたのだろうか。他の隊員も、気づいたのだろうか。

 私が偽物だと…。

 だって、先ほどの彼女は本当に格好よかった。剣を構え、地面に仰向けで寝そべっている男性を守ろうとしていた。きっと、デューレンケルン領でもそうやって戦っていたのだと思うと、私が本当にここにいていいのかとさえ思う。

 いつの間にか下を向いてしまう。涙が溢れてきた。唇を噛み、堪えなきゃと思うけれど次から次へと溢れてきてなかなか止まらない。

 と。

「大丈夫です。」

 後ろから、囁くように耳元で言われる。

「大丈夫。悪いようにはしません。だからもう泣かないで下さい。」

「!」

 ルドは私が泣いているのに気づいていた。どうしよう。
 …いや、それよりも『悪いようにはしません』ってもしかして、すらも気づいているという事?

 あぁ…どうなるのかしら。どうすればいいの?このまま、〝エルヴィーラ様〟を演じていていいのかしら。
私は答えの出ない自問を繰り返しながら、近づいてくる渓谷の出口見つめていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

契約結婚なら「愛さない」なんて条件は曖昧すぎると思うの

七辻ゆゆ
ファンタジー
だからきちんと、お互い納得する契約をしました。完全別居、3年後に離縁、お金がもらえるのをとても楽しみにしていたのですが、愛人さんがやってきましたよ?

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし

香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。  治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。  そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。  二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。  これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。  そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。 ※他サイトにも投稿しています

処理中です...