【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

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13. 翌日 集落から渓谷へ

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 翌朝。

 昨夜ルドから薬草茶をもらって飲んだからか、頭痛と吐き気は収まっていた。
体を起こすと、インサはすでに部屋で起きていて、片付けをしている。

「あ、目が覚めました?どうですか、体の具合は。」

「ええ。昨日はあった頭痛も吐き気もないわ。…本当にごめんなさい。迷惑掛けて。」

「迷惑だなんてそんな!やはり、へ来て、疲れていたのですね。大丈夫ですよ、頼って下さいね!のエルヴィーラ様はもういませんが、エルヴィーラ様はきちんとに存在されているのですから!」

 何だか、インサには私の心が弱っているのを気付かれたのかもしれないわ。
そんな私に、優しい言葉を掛けてくれて泣きそうになってくる。けれど、グッと堪えて微笑み返し、

「ええ、ありがとう。インサの事は頼りにしているわ!」

 と伝えた。
 そして、きっと私は昨日よりも遅く起きてしまったと思うから急いで準備をしようと寝床から起き上がった。





☆★

 天幕から出て行くと軍の皆が声を掛けてくれる。

「大丈夫ですか?」

「ちょっとキツ過ぎましたか?」

「可愛かったですよー!」

「あ、こら!」

 今まではどこかよそよそしくて、まだルドとアルヤン副隊長としか言葉を交わしていなかったけれど、何だか一気に話し掛けられている気がする。

「皆様昨日は本当にご迷惑お掛けしました。薬草茶は良く効きました。ありがとうございます。」

 それがとても気恥ずかしく、昨日のせっかくの宴も雰囲気を悪くしていないかと心配してそう言うと、

「良かったです。さぁ、今朝はパン粥にしました。どうぞ。」

 と、ルドが笑顔を向けてくれ手招きして座らせてくれた。
やはり皆はもう食事を終えていたらしく、片付けをしたり、鍛錬をしてくると言って山へ駆けて行く人もいた。




 片付けも終えて、出発をする前に集落の皆にも挨拶をした。

「昨日はせっかくの宴の最中に申し訳ありませんでした。ビアはとてものど越しはさっぱりとしていました。味は…苦かったです。」

 最後は遠慮がちに苦笑しながらいうと、

「こちらこそいきなり度数の高いのを進めて申し訳なかったと思っています。もうすぐ皇后陛下となられるお方に、何事も無くて本当に良かった!またいつでも来て下さい!」

 とそう言われる。
 皇后陛下…そうか。私は、この世界で皇后陛下に…なれるのかしら……。
 あ!そうよ!演じないと!私、強い〝エルヴィーラ様〟を演じていなかった気がするわ!
 …けれどなんだか、今さらのような気がするし、この国の人達は〝エルヴィーラ様〟にお会いしていないはずと言われていたから、きっと大丈夫よね?この軍の人達も、宮廷についたらお別れなのよねきっと。

 それなら、バレないわよね!?という気持ちと、良くしてくれているこの軍の隊員達ともお別れというのも少しだけ淋しい気がした。



☆★

 出発の時、

「二日酔いは本当に大丈夫ですか?馬に乗って気持ち悪くなったら言って下さい。」

 とルドに何度も言われて心配されてしまった。確かに、馬に乗ると揺れるから大丈夫かと心配に思ったけれど、それよりも頬を撫でる風が気持ち良くて、揺れが不快だとはあまり思わなかった。それをルドに伝えると、

「良かったです。さぁ、頑張って進みますよ。」


 しばらく進むと、周りは高い壁がそびえ立つような渓谷が目の前に広がった。

「ここが、昨日言っていた渓谷です。ここを抜けると、帝都が見えてきますが油断しないように行きましょう。」

 そうルドが教えてくれる。
私はそれに一つ頷いて、体を強張らせると、クスリとルドは笑って、

「大丈夫ですよ、私があなたを必ずお守りしますから。」

 と言われる。
そう言われると、とても恥ずかしく思ったけれど、よく考えたらお迎えで来てくれているけれど護衛という意味があるものね。彼らはエルヴィーラ様をきちんと宮廷の皇帝陛下の元まで連れて行くのが任務なのだもの。深い意味はないわ。

 そう考えたら、なぜだか少し淋しく思った。


 今のところ、常歩でゆっくり歩いている。風も穏やかで、鳥が囀っているけれど、他には何の音も聞こえない。

「良かった。ヘルムグマは寝ているかもしれませんね。」

 そう、ルドが私へと話し掛けてくれるから、

「そうね。そうであってほしいわ。」

 と声を返した。

 ………が。

 そのすぐ後。

「うわぁーーー!!」

 という、獣なのか何なのか、男の人のようなつんざくような叫び声が前方から聞こえ、遠くで微かに馬の嘶くような声も聞こえた。

「クソ…!」

 後ろから小さな声で、ルドがそう呟いた。
なので私は距離が近くなって少し恥ずかしいけれど振り返って言った。

「ルド、あれは…?」

「分かりません。獣かもしれませんが、人だったら大変です。仕方ない…エリアン、ハブリエル!」

「はっ!」
「はっ!」

 そう呼ばれた二人が、後ろから少し速歩で私達の横に並ぶ。

「見てきます!」
「ここでお待ち下さい!」

「あぁ、頼む。もしはぐれたら、渓谷の先で集合!行け!」

「は!」
「は!」

 そう言って、エリアンとハブリエルは速歩で駆けて行った。

「ルド…。」

「あぁ、心配いりません。彼らは強いです。あなたは…いえ。私に守られていて下さい。絶対に私から離れないで下さいね。」

「…はい。」

 そう言われ、やはり恥ずかしいけれど言葉に従う。これは、任務を遂行する為の言葉なのだもの。そう何度も思い込んで心を静める。

 私達は歩みを止めた。隊員達は渓谷の上の方を見たり、周囲を確認したりしている。耳を澄ませて何か聞こえないか確認もしている。
 私も、ドクドクと心臓の音が聞こえるんじゃないかという程、息を殺している。

 

 と、また、二度ほど叫び声が聞こえた後に、ゆっくりと馬の足音が聞こえてくる。前方から二人、こちらへ向かって来る。

「エリアンとハブリエルだ。」

 ルドがそう呟き、私は少し安堵した。皆も息をふうと吐き出している。

 傍まで来た二人は、ラドに向かって報告をしようと一人が口を開いた。

「ヘルムグマと対峙している男女が二名おりまして、男性は怪我を負っている模様。軽症ですが…その…。」

「どうした?」

「いえ…あの…」

 そう言って、『エリアンが言えよ』『ハブリエルが言えよ』と二人言い合って私をチラチラと見てくるのはなぜかしら。

「はっきりしろ!」

 ルドが苛立ったようにそう言うから驚いて私は体をビクッとさせてしまうと、

「エルヴィーラ、済みません…」

 と後ろから、小さく呟く声が聞こえた。
私は、頭を左右に振ったところで、ハブリエルと言われた人が、

「恐れながら!女性は顔がエルヴィーラ様にそっくりなのです!」

 と、気合いを入れたのか、先ほどより大きな声で言った。

 ………え!?

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