【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる

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21. 店巡り

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「帝都には、いろいろなお店があるので、小腹を満たしてから他の雑貨屋なども見てみましょうか。それでまた疲れたら休憩して、小腹を満たしましょう。」

 ルドがそう言ったので、私は頷いてそうする事にした。

 それにしても、素敵な街並みね。この辺りは店屋の建物なのでしょう。歩道に面している建物側は、ガラス張りで中の様子が良く見える。
 お洒落な帽子や変わった帽子が飾られている帽子屋や、カラフルな ワンピースや小さな子ども用のワンピースや男性のスーツが飾られている衣装屋、タイピンやネクタイや万年筆が置いてある男性用の商品が置いてあると思われる店、などいろいろであった。

「この辺りは南門から近いですから外から来た人もすぐ来れるように商業区域なんですよ。」

 と教えてくれる。
 南門を後ろに、真っ直ぐ前を見据えて進んだ先に、宮廷があるのだとか。だから、そちら方向に進みながら行きましょうと、言われた。
 しばらく進むと、

「ここなんですが、どうでしょう。」

 と言って、パンネクックと言うパンケーキが食べられるお店の前でルドは立ち止まった。
 ほのかに甘く美味しそうな匂いがして、今にもお腹がなりそうになった。

「ええ!美味しそうな匂いね!」



 店に入ると、時間がお昼よりも少し早い時間だったからか席がそんなに埋まってはいなかった。

「いらっしゃませ!あら!ルド様!お好きな席へどうぞー!」

「ありがとう。…エルヴィーラ、あの奥の窓際でもいいですか?」

「ええ!」

 窓際は、どうやら小さな中庭が見えるようになっていた。同じ種類のカラフルな花が幾つも咲いている。

「あれは、帝国によく咲いている花なのですよ。チューリップといいます。」

「チューリップ…!」

 なんだか見た事がある花だわ。そう思いながら、風に揺れるチューリップを見ているとすぐに店員さんがやってきた。

「いらっしゃい。パンネクックセットでいいかい?」

「はい。二つお願いします。」

「はいよ、ちょっとお待ち下さいね!」

 手慣れたように素早くルドが対応してくれるので、

「ルドは良く来るの?」

 と聞いてみる。

「いや…まぁ…そうですね。帝都の店屋には良く来ました。いろんな店がありますからね、楽しいのですよ。まぁ、主にアルヤンが無理矢理連れて来るのですけれどね。」

 と、ルドは答えながらふわりと笑った。

「そうね。素敵なお店がたくさんあったわね。良い思い出になるわ。」

 そう言うと、

「よかった!じゃあまた来ましょうか!」

 と言ってくれる。今度はどこの店に…と思ったところで、はたと気づいた。
私は、皇后陛下になるわけで、帝都にも気軽に来れないのではないかと。しかも、ルドとはもう…。
 そう思うと、なぜだか酷く淋しく思った。


☆★

 パンネクックはとても美味しかった。丸いお皿に乗って出てきた生地は薄く、ほのかに甘みがあり、その上には果物がたくさん乗っていた。
セットには紅茶が付いていて、私はミルクティーにして飲んだ。


 良く分からないままにこの世界へとやって来た私は、短い旅をしてこの国の帝都へ辿り着いたので、私はなんだかやっと落ち着けるのかという思いと、天幕で泊まったのも楽しかったなと思い返していた。

 ふと、視線を感じたので向かいのルドを見ると、私を見つめていた。

(しまった!会話もせずにぼーっとしていたかしら!?)

「ルド?ごめんなさい、私夢中だったわよね…美味しかったわ。ありがとう!」

「いえ。とても幸せそうに食べている姿を見られて私も嬉しい。美味しかったなら良かったです。そろそろ次へ行きましょうか。」

 そう言って、席を立つルド。
あ!私、今更だけどお金をもっていないと気づいてルドに話し掛ける。

「ルド、私今更だけどお金持ってないの。あの…」

「何を言っているのですか。僕が誘ったのですから、気にしないで下さい。」

 そう優しく言ってくれ、ふわりと笑ってくれる。
いつの間にか私は、ルドのその優しい笑顔を見ると安心する自分がいると気づいたの。でも、それも今日で終わりなのよね…。

「どうしました?」

 支払いを終えたルドが怪訝そうに私を見る。

「いいえ。なんでもないわ!ご馳走さまでした。次はどこに行くの?」

 今は、この時間を楽しもうとルドへ駆け寄った。



☆★

「ここは?」

「ここは、装飾品のお店です。髪飾りや、ブローチなども売っているそうです。でも、庶民向けでそんなに高級ではないのですが。」

「そうなのね。」

「せっかくなので、今日の記念にエルヴィーラに何かプレゼントしようと思いまして。」

「え!?」

「そんなに驚かないで下さい。さぁ、店の前で止まっているのは良くないですからね。入りましょう。」

 そう言って、ルドはぐいぐいと私を引っ張って店の中へと入って行く。

(プレゼントって…記念って……。)

 貰う理由もないし、私は今日の夜には宮廷へと行くのよ…?

「いらっしゃませ!どうぞご覧になって下さいね!」

 店員さんがすかさず声を掛けてくれる。
けれど、私はルドに近づいてこっそりと囁いた。

「ねぇルド。私、こんな高価な物頂けないわ。」

「エルヴィーラ、そう言うと思ったのだけれど敢えて連れて来ました。この後で、その理由は言いますからここではどうぞ好きな物を選んで下さい。」

「え?理由…?でも…。」

「あらあら。そちらの男性からのサプライズでうちの店を選んでくれたのは嬉しいけれどね。そちらのお嬢さん、男性に恥をかかせない為にも、好きな物を選んじゃって下さいな。」

 どうやら、店の入り口でコソコソと話していたのが聞こえていたのか、そうやって店員さんに言われた。
ルドも、私を見て頷きながらふんわりと笑ってくれる。

(確かに、これで店を出るのも悪いし。ここまで言われたなら、ちょっと商品を見せてもらおう。)

 そう思って、私は店の中へと進んだ。


 腰の高さのカウンターが並んでいて、その上に様々な商品が並んでいる。

「お嬢さんは髪がとても綺麗だねぇ。髪飾りなんてどうです?」

 店員さんに言われて見ると、バレッタのようにパチンと留め具が付いて装飾が付いているものが目に留まった。

「良いですね。これなんて、エルヴィーラの瞳の色みたいで綺麗です。」

 ルドも、カウンターを覗き込んでそう言った。私も目を惹かれたのは、赤い宝石みたいなのが装飾されている髪飾りだった。

「どうです?気に入りませんか?」

 再びそう声を掛けられたので、私は慌てて、

「いいえ、ここにある物は皆素敵です!」

 と言葉を繋ぐ。
すると、

「うーん、エルヴィーラは自分では選べないと思いますから、これを下さい。」

「え!そんな…!」
「はいよ!今包むのでお待ち下さいね!お嬢さん、こういう時はありがとうって言っておけばいいんだよ!」

 私が遠慮しようとしたのに、店員さんがそう言ったので、ルドの顔色を窺うと、

「はい。喜んでもらえると嬉しいのですが…違うのが良ければ、選び直していただいて結構ですよ。」

 と困ったように笑った。
私は慌てて、

「いいえ!これ、これにするわ!これが良い!だってルドが選…んでくれたから。」

 と言ったのだけれど、少し恥ずかしくなって最後は尻すぼみになってしまう。
ルドが選んでくれたのは、素直に嬉しいと思った。だから、これは今日の記念として大切にしようとそう心に誓った。
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