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24. 臨時議会
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「疲れてるのにごめんね。」
ルドの私室なのか休憩室なのか、ソファと机が置かれただけの部屋に案内してくれて、ルドは謝りながら、私に自ら紅茶を入れてくれた。
「ルド、ありがとう。でも疲れてるのはルドもでしょう?」
皇帝陛下に紅茶を入れてもらうっていいのかしら、と思いながらもルドは楽しそうに入れてくれるのでお願いした。
私も、ただ紅茶を入れるだけなら出来ると思うけど何だか作法があるみたい。こういうマナーも、教えてもらえるのかしら。また後で聞いてみよう。
「あぁ、僕は大丈夫ですよ。帝国軍の演習の方がよっぽど大変ですから。まぁ、今は大きな戦争もないから、軍が出撃するのは最近じゃ野生動物の駆除が多いですがね。」
「そうなのね。平和なのね、良かった。」
戦いがたくさんあったなら、銀獅子も軍に同行してと言われたらどうしようかと思ったもの。
「そうとも言ってられません。近隣諸国では、領地の取り合いをしている国もありますからね。いつ飛び火が降りかかるか…まぁ、なので平和とはいっても演習は欠かせないのですけれど。」
「え!?そうなの…。」
「あ、でも大丈夫ですから。その辺りの話も含めて、議会に出そうと思ったのです。」
「?」
「エルヴィーラ、話せないなら良いのです。いつか、あなたの口から全ての思いを聞きたいと願っていますが、僕の予想を聞いて下さい。あ、でも最初に言いますが僕は何があってもエルヴィーラの味方です。その為に、レウとニバルトを遠くに送り込みましたから。」
「…!」
そうなんだ…送り込むって、レウとニバルトを北東部の地へと斡旋したのは、ただの親切心だけでは無かったのね。
「あ、それで」
コンコンコン
ルドが続きを話そうとすると、部屋の扉が叩かれた。するとルドは少し機嫌が悪くなったようで、
「はい」
と、私に話してくれているよりも低い声で返事をした。
「フスタフです。入りますよ?」
「あぁ。」
ルドは廊下に聞こえるように少し大きめの声で答えた後、私へと視線を向き直し、
「はぁ…済みません。思ったより早く来ました。続きはまた後からで。」
とガックリと肩を落として言った。
「失礼します。」
ルドと同じ位の、茶色の髪の男の人が入って来た。
「フスタフ。思ったより早かったね。」
「そりゃぁ、ルドが徴集するなんて皇帝陛下になって初めてだからね。皆ウキウキとしているよ。」
皆ウキウキ?誰がそんなに喜んでいるのかしら?
「そう…まぁいいや。エルヴィーラ、こいつはフスタフ。僕と一緒に実務などをやってくれています。困った事があったら、まずは僕に言ってほしいですが、僕がいない時はフスタフに言って下さい。」
「フスタフと言います。エルヴィーラ様、これからよろしくお願いします。…なんだか、無事に親睦を深める事が出来たって感じ?思惑通りで本当に良かった!どうするの?結婚式は予定通り一ヶ月後に挙げていいの?」
フスタフは、私にしっかりとお辞儀をしてくれた後にそうルドへと問いかける。
一ヶ月後なんだ…まぁ、結婚の為にこの国に来る事になっていたんだから、そうなのか。実感が沸かないけれど。あ!でも…気になる事があるわ!
「エルヴィーラのドレスが出来上がるのがいつくらい?もっと早く出来上がる?」
「お?どうした?行く前はあんなに嫌がっていたのに。会って、仲良くなれたならそれに超したことないからいいんだけど。」
「あの…!」
「ん?どうしました?」
「もう少し後には出来ませんか?」
「え!?」
「なになに?エルヴィーラ様は結婚するの嫌?」
そう言って、フスタフはルドを見ながらニヤリと笑う。揶揄っているみたいだわ。仲がいいのね。
「いいえ。ルド、私、出来たら作法とかを勉強させてもらいたいのだけど…。」
「あぁ、なんだ良かった…。その事でしたら大丈夫ですから。結婚式もそんなに難しくは無いですから、今のエルヴィーラなら、とりあえず一週間程やれば結婚式が挙げられますよ。皇后陛下になる為の勉強は、これからゆっくりやっていけばいいですので大丈夫です。」
「おいおい…さすがにドレスを一週間で仕上げろってのは無理じゃないか?いくら形は出来ているとはいえ。じゃぁ仕立て屋次第でいいか?」
「そうですね。エルヴィーラ、よろしいですか?済みません…ドレス、勝手に決めてしまいました。こんな事になるなら、一から一緒に決めれば良かったですね。でもそうすると結婚式が遅くなるし……。」
「分かった分かった!ドレスはこれからいくらでも贈る機会があるから!さすがに重鎮達を待たせると良くないよ。さぁ、議会室へ行くよ!エルヴィーラ様もお願いします。」
「はい。」
「エルヴィーラ、手を。」
ルドがそう言って私の手を取り、手を繋ぎ、議会室へと向かった。
☆★
議会室に入ると、そこはそんなに大きい部屋では無く、人の数も十数人と思ったより多くは無かった。
どうやら、内々だけの議会みたい。
私達が着席すると、他の人達は揃っていたみたいですぐに会が始まった。
「皆、臨時議会であるのに、素早く集まってくれて本当にありがとう。今日来てもらったのは他でもない。以前、皆が決めてくれた私の婚姻についてだ。」
そう言うと、ルドは私の方を見てにっこりと微笑んでから、また皆の方を向いて話し出した。
「私の隣にいる人は、ドルトムンボン国のエルヴィーラ=デューレンケルン。だが、彼女は、以前噂されていた銀獅子ではない。私の妻となる為にこの国へ嫁いで来てくれたんだ。だから、それ以上を求めないで欲しい。これは私から皆へのお願いだ。」
そう言っていきなり頭を下げるから、少しざわめきがあった。そして、一人の人が手を挙げ、
「皇帝陛下、それはどのような意味か詳しく聞いても?」
と言った。ルドはすぐに頷いて、
「ヨヘム、ありがとう。しかし、言葉の通りだ。不名誉な事なのであまり言いたくないがここの皆には敢えて言う。エルヴィーラは、落馬したんだ。それで、以前のようには戦う事が出来ない。故に、銀獅子の活躍を見込んでいる者は考えを改めていただきたい。」
そ、その話、まだ引っ張るのね…信じてくれるのかしら…。
「…なるほど。軍に所属させたくないというわけですな。」
「今までどんな噂を聞いたにせよ、エルヴィーラはエルヴィーラだ。噂を鵜呑みにしないで欲しい。それでも、私は今、ここに居るエルヴィーラと夫婦となりたい。皆、協力して欲しい。」
そう言ってルドは立ち上がり、皆へ頭を下げるから、重鎮達は慌てだし、先ほど質問を述べたヨヘムが椅子から立ち上がり、片膝をついて話し出した。
「皇帝陛下…いえ、ルドフィカス様。私達は、今、真にこのアーネムヘルム帝国を統べる皇帝に見えましたぞ。あなたはやはり、偉大なるお方だ。我々は反対する理由がない。皇帝陛下の仰せのままに。」
そう言うと、他の人達もそれに倣ったように椅子から立ち上がって片膝をついた。
それは忠誠の証なのかもしれない。
「…ありがとう。」
ルドが顔を上げてそう呟く。私も、立ち上がり、
「皆様、お許し頂きましてありがとうございます。」
と言って皆へ頭を下げた。
「いい?エルヴィーラ様が、ルドを変えてくれたのですからね?重役の方々覚えておいて下さいよ。ルドは、彼女の為に強くなるそうですから。」
そう、壁際に立っていたアルヤン副隊長も言葉を添えてくれる。
皆が顔を見合わせてから立ち上がり、
「ルドフィカス様、良かった!幸せになりなよ!」
「全く…心配したのですぞ。迎えに行って良かったなぁ!」
「どうなる事かと思ったけど、良かったな!」
と言い出した。
きっとここでも、ルドを幼い頃から知っている人誰だから親戚のおじさんのようにルドを心配されてたのかなと思うと、ルドは、可哀想な皇帝陛下なんかじゃないんだと思えた。
ルドの私室なのか休憩室なのか、ソファと机が置かれただけの部屋に案内してくれて、ルドは謝りながら、私に自ら紅茶を入れてくれた。
「ルド、ありがとう。でも疲れてるのはルドもでしょう?」
皇帝陛下に紅茶を入れてもらうっていいのかしら、と思いながらもルドは楽しそうに入れてくれるのでお願いした。
私も、ただ紅茶を入れるだけなら出来ると思うけど何だか作法があるみたい。こういうマナーも、教えてもらえるのかしら。また後で聞いてみよう。
「あぁ、僕は大丈夫ですよ。帝国軍の演習の方がよっぽど大変ですから。まぁ、今は大きな戦争もないから、軍が出撃するのは最近じゃ野生動物の駆除が多いですがね。」
「そうなのね。平和なのね、良かった。」
戦いがたくさんあったなら、銀獅子も軍に同行してと言われたらどうしようかと思ったもの。
「そうとも言ってられません。近隣諸国では、領地の取り合いをしている国もありますからね。いつ飛び火が降りかかるか…まぁ、なので平和とはいっても演習は欠かせないのですけれど。」
「え!?そうなの…。」
「あ、でも大丈夫ですから。その辺りの話も含めて、議会に出そうと思ったのです。」
「?」
「エルヴィーラ、話せないなら良いのです。いつか、あなたの口から全ての思いを聞きたいと願っていますが、僕の予想を聞いて下さい。あ、でも最初に言いますが僕は何があってもエルヴィーラの味方です。その為に、レウとニバルトを遠くに送り込みましたから。」
「…!」
そうなんだ…送り込むって、レウとニバルトを北東部の地へと斡旋したのは、ただの親切心だけでは無かったのね。
「あ、それで」
コンコンコン
ルドが続きを話そうとすると、部屋の扉が叩かれた。するとルドは少し機嫌が悪くなったようで、
「はい」
と、私に話してくれているよりも低い声で返事をした。
「フスタフです。入りますよ?」
「あぁ。」
ルドは廊下に聞こえるように少し大きめの声で答えた後、私へと視線を向き直し、
「はぁ…済みません。思ったより早く来ました。続きはまた後からで。」
とガックリと肩を落として言った。
「失礼します。」
ルドと同じ位の、茶色の髪の男の人が入って来た。
「フスタフ。思ったより早かったね。」
「そりゃぁ、ルドが徴集するなんて皇帝陛下になって初めてだからね。皆ウキウキとしているよ。」
皆ウキウキ?誰がそんなに喜んでいるのかしら?
「そう…まぁいいや。エルヴィーラ、こいつはフスタフ。僕と一緒に実務などをやってくれています。困った事があったら、まずは僕に言ってほしいですが、僕がいない時はフスタフに言って下さい。」
「フスタフと言います。エルヴィーラ様、これからよろしくお願いします。…なんだか、無事に親睦を深める事が出来たって感じ?思惑通りで本当に良かった!どうするの?結婚式は予定通り一ヶ月後に挙げていいの?」
フスタフは、私にしっかりとお辞儀をしてくれた後にそうルドへと問いかける。
一ヶ月後なんだ…まぁ、結婚の為にこの国に来る事になっていたんだから、そうなのか。実感が沸かないけれど。あ!でも…気になる事があるわ!
「エルヴィーラのドレスが出来上がるのがいつくらい?もっと早く出来上がる?」
「お?どうした?行く前はあんなに嫌がっていたのに。会って、仲良くなれたならそれに超したことないからいいんだけど。」
「あの…!」
「ん?どうしました?」
「もう少し後には出来ませんか?」
「え!?」
「なになに?エルヴィーラ様は結婚するの嫌?」
そう言って、フスタフはルドを見ながらニヤリと笑う。揶揄っているみたいだわ。仲がいいのね。
「いいえ。ルド、私、出来たら作法とかを勉強させてもらいたいのだけど…。」
「あぁ、なんだ良かった…。その事でしたら大丈夫ですから。結婚式もそんなに難しくは無いですから、今のエルヴィーラなら、とりあえず一週間程やれば結婚式が挙げられますよ。皇后陛下になる為の勉強は、これからゆっくりやっていけばいいですので大丈夫です。」
「おいおい…さすがにドレスを一週間で仕上げろってのは無理じゃないか?いくら形は出来ているとはいえ。じゃぁ仕立て屋次第でいいか?」
「そうですね。エルヴィーラ、よろしいですか?済みません…ドレス、勝手に決めてしまいました。こんな事になるなら、一から一緒に決めれば良かったですね。でもそうすると結婚式が遅くなるし……。」
「分かった分かった!ドレスはこれからいくらでも贈る機会があるから!さすがに重鎮達を待たせると良くないよ。さぁ、議会室へ行くよ!エルヴィーラ様もお願いします。」
「はい。」
「エルヴィーラ、手を。」
ルドがそう言って私の手を取り、手を繋ぎ、議会室へと向かった。
☆★
議会室に入ると、そこはそんなに大きい部屋では無く、人の数も十数人と思ったより多くは無かった。
どうやら、内々だけの議会みたい。
私達が着席すると、他の人達は揃っていたみたいですぐに会が始まった。
「皆、臨時議会であるのに、素早く集まってくれて本当にありがとう。今日来てもらったのは他でもない。以前、皆が決めてくれた私の婚姻についてだ。」
そう言うと、ルドは私の方を見てにっこりと微笑んでから、また皆の方を向いて話し出した。
「私の隣にいる人は、ドルトムンボン国のエルヴィーラ=デューレンケルン。だが、彼女は、以前噂されていた銀獅子ではない。私の妻となる為にこの国へ嫁いで来てくれたんだ。だから、それ以上を求めないで欲しい。これは私から皆へのお願いだ。」
そう言っていきなり頭を下げるから、少しざわめきがあった。そして、一人の人が手を挙げ、
「皇帝陛下、それはどのような意味か詳しく聞いても?」
と言った。ルドはすぐに頷いて、
「ヨヘム、ありがとう。しかし、言葉の通りだ。不名誉な事なのであまり言いたくないがここの皆には敢えて言う。エルヴィーラは、落馬したんだ。それで、以前のようには戦う事が出来ない。故に、銀獅子の活躍を見込んでいる者は考えを改めていただきたい。」
そ、その話、まだ引っ張るのね…信じてくれるのかしら…。
「…なるほど。軍に所属させたくないというわけですな。」
「今までどんな噂を聞いたにせよ、エルヴィーラはエルヴィーラだ。噂を鵜呑みにしないで欲しい。それでも、私は今、ここに居るエルヴィーラと夫婦となりたい。皆、協力して欲しい。」
そう言ってルドは立ち上がり、皆へ頭を下げるから、重鎮達は慌てだし、先ほど質問を述べたヨヘムが椅子から立ち上がり、片膝をついて話し出した。
「皇帝陛下…いえ、ルドフィカス様。私達は、今、真にこのアーネムヘルム帝国を統べる皇帝に見えましたぞ。あなたはやはり、偉大なるお方だ。我々は反対する理由がない。皇帝陛下の仰せのままに。」
そう言うと、他の人達もそれに倣ったように椅子から立ち上がって片膝をついた。
それは忠誠の証なのかもしれない。
「…ありがとう。」
ルドが顔を上げてそう呟く。私も、立ち上がり、
「皆様、お許し頂きましてありがとうございます。」
と言って皆へ頭を下げた。
「いい?エルヴィーラ様が、ルドを変えてくれたのですからね?重役の方々覚えておいて下さいよ。ルドは、彼女の為に強くなるそうですから。」
そう、壁際に立っていたアルヤン副隊長も言葉を添えてくれる。
皆が顔を見合わせてから立ち上がり、
「ルドフィカス様、良かった!幸せになりなよ!」
「全く…心配したのですぞ。迎えに行って良かったなぁ!」
「どうなる事かと思ったけど、良かったな!」
と言い出した。
きっとここでも、ルドを幼い頃から知っている人誰だから親戚のおじさんのようにルドを心配されてたのかなと思うと、ルドは、可哀想な皇帝陛下なんかじゃないんだと思えた。
応援ありがとうございます!
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