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26. 婚姻の儀
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「皆、良く集まってくれた!私は、このアーネムヘルム帝国の皇帝として、ここにいる、エルヴィーラを妻とする!彼女は皇后陛下となり得る素質が充分備わっている、素晴らしい女性だ!皆、私はこれからもこの国を大切にすると共に、我が妻を生涯大切にすると誓う!末永く、皆と、アーネムヘルム帝国と共に有らん事を!」
ルドは、宮廷のテラスから民衆へ向けてそう高らかと口上を述べた。
今日は婚姻の儀。
私がこの宮廷へ来てから十日後で、この儀を行う事となったのは、ルドが強く望んでくれたから。
私も、結婚するつもりでこの国へ来たのだからいつしても一緒だとは思うけれど、こんな人前でなんてやはり緊張する。
私も、ルドの隣にいて民衆を前にして、手を振っている。
手を振るといっても、腕は動かさずに手首を振るんだと教わった。その方が優雅に見えるのだと。
ーーーー☆★
あの日、議会が終わって夕食を一緒にとり、部屋に案内された。
それは、皇后陛下の部屋なんだとか。デューレンケルンのお屋敷も素敵だったけれど、ここはやはりそれよりもかなり豪華だった。
金色がこれでもかと使われている。あれは全部金なのだろうか、と考えるだけで恐ろしかった。カーテンも金色に縁取りされていたし、ドレッサーも、ソファもテーブルも、金色で全て縁取りされている。ベッドは三人くらいは優に寝そべる事が出来る、ふかふかなベッドだった。
「早く婚姻の儀を終えたいですね。そうすれば、僕の部屋で一緒に居られるのに。」
と、言われたので恥ずかしく思った。
(結婚…そうね、夫婦となったら、そうなるのね。すっかり抜け落ちていたわ…!)
でも、ルドは日中は仕事だろうし、私も皇后陛下の仕事を覚えたら、それをこなさないといけない。だから、一緒に居られる時間は限られているわよね。それなら、夫婦となるんだもの。何も恥ずかしく思う事はないのだわ!
次の日からは、ルドは休んでいたからと仕事をしに行った。
私も、午前と午後に作法や歴史などの勉強に明け暮れた。
講師の先生には『赤子に教えるように教えるように』と言ってくれたのだそう。なんだか随分残念な子と思われているようで恥ずかしいのだけれど、先生方も、私が戦いに明け暮れた銀獅子だと思っているから、勉強をやってこなかったのだと勝手に思い込んでくれているようだった。
そして、ドレスの採寸直しもそんなに掛からないと言われたけれど、若干の準備があるからと十日後に婚姻の儀として、名実共に夫婦となる為の民衆へお披露目をする事になった。
各国の要人を集めての披露宴はもう少し後にやるのだそう。当初は一ヶ月後だと目安にしていたみたいだけれど、盛大にやりたいとルドが言い出して、三カ月ほど先延ばしにしたみたい。
「そこでは、ドレスを一から作りましょう。エルヴィーラの好きな様にして良いですよ。」
と言ってくれたから、
「じゃぁ、ルドの黒曜石のような黒い色のドレスはどうですか?」
と言うと、ルドは珍しく恥ずかしそうに顔を赤らめて、
「…うん。じゃあ、黒一色じゃなくて、それにエルヴィーラの髪の色をつけたしましょう。銀糸で何か縫ってもらって、それから、赤いサファイアの宝石を散りばめましょう。」
「そんなにいいのですか?」
「いいに決まってます!それに、帝国の皇后陛下になるのだから、少しくらい金を掛けないといけないんですよ。経済も回るし、政治的側面もあって申し訳ないけれど。」
そうなのね。でも前から思っていたけれど…
「ねぇ、ルド。私達夫婦となるのだから、もっと砕けた感じで話してくれるといいのよ?」
「ぜ、善処します…。」
☆★
「では、今日からこちらをお使い下さいね。」
パタン
婚姻の儀がつつがなく終わり、食事も終え、お風呂も念入りに入れられて私は皇帝陛下の部屋へと侍女に連れて来られる。
新しく私付きの侍女となった、トアンに言われたのだ。
インサは、あれからアルヤン副隊長が送ると言って一度デューレンケルンへと帰って行った。
でも、アルヤン副隊長はどうやら本気でインサに惚れてしまったようで、当主のヘルフリート様に主従関係を解消してもらうように頼み込みに行くのだと息巻いていたのよ。
インサは、自分の方が十一歳も年上だからと軽くあしらっているけれど、照れているのを知っているわ。
そして、アルヤン副隊長は本当に、インサを連れて帰って来たの。主従関係が切れたらしいからもう私の侍女にはならないかと思ったのだけれど、どうやらインサが希望してくれたみたいで、私の侍女に収まったのよ。
本来の私とは短い期間一緒にいただけではあるのだけど、やっぱり傍に居てくれると心強いの。
でも、アルヤン副隊長が無理矢理行った人事らしく、インサは午前中だけの仕事なの。それ以外は、やはりこの国の勉強をしたり、アルヤン副隊長とデートしたりしているのですって。
もう少しで、結婚を承諾してもらえそうだ。とアルヤン副隊長は喜んでいた。
インサに聞けば、恥ずかしそうに笑うんだけど、インサも幸せにならないとね!と私が言うと涙を流してしまったのよ。私、インサを泣かせてしまったらしいの。どうしてなのかしら。
「どうしたのですか。今日からあなたの部屋でもあるのですよ、そんな所にいないで、こちらへどうぞ。」
部屋の扉から動かないでいたら、ルドが呼んでくれる。
そうだったわ、今はこれから、ルドと一緒の部屋となるのよ。
「エルヴィーラ。私の大切な妻…あぁ、エルヴィーラがエルヴィーラで本当に良かった。大好きですよ、エルヴィーラ。」
そう言って、ルドの隣へと座った私を優しく抱きしめてくれる。
「ルド。私も、相手がルドで本当に良かった。大好きよ。」
「ああこういうのを幸せって言うのですかね。今日はなかなか寝られませんからね。」
ルドは、私をベッドへと優しく横に倒し、頭を撫でてくれる。
「ルド…」
「あなたにルドと言われると心が喜ぶのです。あぁ、好きですよ、エルヴィーラ。」
「私も、呼んでもらえると嬉しい。」
そう言って二人で戯れながら、私達の夜は更けていった。
私は、ルドにちゃんとこの世界に来てしまった事を話した。
ルドもそうじゃないかと思っていたみたいで、『こちらに来てしまったエルヴィーラには悪いけれど、エルヴィーラがエルヴィーラで本当に良かった。愛しています。』と何度も頭を撫でてくれたの。
私も、いつの間にかこちらへ来てしまったけれど、今では良かったと思うのよ。
帝国の皇帝陛下に嫁いで欲しいと言われた時は、怖い人じゃないといいなとヒヤヒヤしていたけれど、本当にルドで良かったと思う。
私の名前は、以前は何だったか今だに思い出せないけれど、もういいの。だって、大好きなルドがエルヴィーラと優しく呼んでくれるから。
演じようと思っていたけれど、いつの間にかもう演じられていなかった気がするし。こんなだから、以前もちゃんとした役がもらえなかったのね。
それでも、私はエルヴィーラとして皇后陛下っていう柄ではないけれど、ルドの隣で、ルドと一緒に日々を過ごして行くわ!
☆★
これで本編は終わりです。
お読み下さいまして、ありがとうございます。しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございました。
あと一話、おまけがあります。それも読んでいただけると嬉しいです。
ルドは、宮廷のテラスから民衆へ向けてそう高らかと口上を述べた。
今日は婚姻の儀。
私がこの宮廷へ来てから十日後で、この儀を行う事となったのは、ルドが強く望んでくれたから。
私も、結婚するつもりでこの国へ来たのだからいつしても一緒だとは思うけれど、こんな人前でなんてやはり緊張する。
私も、ルドの隣にいて民衆を前にして、手を振っている。
手を振るといっても、腕は動かさずに手首を振るんだと教わった。その方が優雅に見えるのだと。
ーーーー☆★
あの日、議会が終わって夕食を一緒にとり、部屋に案内された。
それは、皇后陛下の部屋なんだとか。デューレンケルンのお屋敷も素敵だったけれど、ここはやはりそれよりもかなり豪華だった。
金色がこれでもかと使われている。あれは全部金なのだろうか、と考えるだけで恐ろしかった。カーテンも金色に縁取りされていたし、ドレッサーも、ソファもテーブルも、金色で全て縁取りされている。ベッドは三人くらいは優に寝そべる事が出来る、ふかふかなベッドだった。
「早く婚姻の儀を終えたいですね。そうすれば、僕の部屋で一緒に居られるのに。」
と、言われたので恥ずかしく思った。
(結婚…そうね、夫婦となったら、そうなるのね。すっかり抜け落ちていたわ…!)
でも、ルドは日中は仕事だろうし、私も皇后陛下の仕事を覚えたら、それをこなさないといけない。だから、一緒に居られる時間は限られているわよね。それなら、夫婦となるんだもの。何も恥ずかしく思う事はないのだわ!
次の日からは、ルドは休んでいたからと仕事をしに行った。
私も、午前と午後に作法や歴史などの勉強に明け暮れた。
講師の先生には『赤子に教えるように教えるように』と言ってくれたのだそう。なんだか随分残念な子と思われているようで恥ずかしいのだけれど、先生方も、私が戦いに明け暮れた銀獅子だと思っているから、勉強をやってこなかったのだと勝手に思い込んでくれているようだった。
そして、ドレスの採寸直しもそんなに掛からないと言われたけれど、若干の準備があるからと十日後に婚姻の儀として、名実共に夫婦となる為の民衆へお披露目をする事になった。
各国の要人を集めての披露宴はもう少し後にやるのだそう。当初は一ヶ月後だと目安にしていたみたいだけれど、盛大にやりたいとルドが言い出して、三カ月ほど先延ばしにしたみたい。
「そこでは、ドレスを一から作りましょう。エルヴィーラの好きな様にして良いですよ。」
と言ってくれたから、
「じゃぁ、ルドの黒曜石のような黒い色のドレスはどうですか?」
と言うと、ルドは珍しく恥ずかしそうに顔を赤らめて、
「…うん。じゃあ、黒一色じゃなくて、それにエルヴィーラの髪の色をつけたしましょう。銀糸で何か縫ってもらって、それから、赤いサファイアの宝石を散りばめましょう。」
「そんなにいいのですか?」
「いいに決まってます!それに、帝国の皇后陛下になるのだから、少しくらい金を掛けないといけないんですよ。経済も回るし、政治的側面もあって申し訳ないけれど。」
そうなのね。でも前から思っていたけれど…
「ねぇ、ルド。私達夫婦となるのだから、もっと砕けた感じで話してくれるといいのよ?」
「ぜ、善処します…。」
☆★
「では、今日からこちらをお使い下さいね。」
パタン
婚姻の儀がつつがなく終わり、食事も終え、お風呂も念入りに入れられて私は皇帝陛下の部屋へと侍女に連れて来られる。
新しく私付きの侍女となった、トアンに言われたのだ。
インサは、あれからアルヤン副隊長が送ると言って一度デューレンケルンへと帰って行った。
でも、アルヤン副隊長はどうやら本気でインサに惚れてしまったようで、当主のヘルフリート様に主従関係を解消してもらうように頼み込みに行くのだと息巻いていたのよ。
インサは、自分の方が十一歳も年上だからと軽くあしらっているけれど、照れているのを知っているわ。
そして、アルヤン副隊長は本当に、インサを連れて帰って来たの。主従関係が切れたらしいからもう私の侍女にはならないかと思ったのだけれど、どうやらインサが希望してくれたみたいで、私の侍女に収まったのよ。
本来の私とは短い期間一緒にいただけではあるのだけど、やっぱり傍に居てくれると心強いの。
でも、アルヤン副隊長が無理矢理行った人事らしく、インサは午前中だけの仕事なの。それ以外は、やはりこの国の勉強をしたり、アルヤン副隊長とデートしたりしているのですって。
もう少しで、結婚を承諾してもらえそうだ。とアルヤン副隊長は喜んでいた。
インサに聞けば、恥ずかしそうに笑うんだけど、インサも幸せにならないとね!と私が言うと涙を流してしまったのよ。私、インサを泣かせてしまったらしいの。どうしてなのかしら。
「どうしたのですか。今日からあなたの部屋でもあるのですよ、そんな所にいないで、こちらへどうぞ。」
部屋の扉から動かないでいたら、ルドが呼んでくれる。
そうだったわ、今はこれから、ルドと一緒の部屋となるのよ。
「エルヴィーラ。私の大切な妻…あぁ、エルヴィーラがエルヴィーラで本当に良かった。大好きですよ、エルヴィーラ。」
そう言って、ルドの隣へと座った私を優しく抱きしめてくれる。
「ルド。私も、相手がルドで本当に良かった。大好きよ。」
「ああこういうのを幸せって言うのですかね。今日はなかなか寝られませんからね。」
ルドは、私をベッドへと優しく横に倒し、頭を撫でてくれる。
「ルド…」
「あなたにルドと言われると心が喜ぶのです。あぁ、好きですよ、エルヴィーラ。」
「私も、呼んでもらえると嬉しい。」
そう言って二人で戯れながら、私達の夜は更けていった。
私は、ルドにちゃんとこの世界に来てしまった事を話した。
ルドもそうじゃないかと思っていたみたいで、『こちらに来てしまったエルヴィーラには悪いけれど、エルヴィーラがエルヴィーラで本当に良かった。愛しています。』と何度も頭を撫でてくれたの。
私も、いつの間にかこちらへ来てしまったけれど、今では良かったと思うのよ。
帝国の皇帝陛下に嫁いで欲しいと言われた時は、怖い人じゃないといいなとヒヤヒヤしていたけれど、本当にルドで良かったと思う。
私の名前は、以前は何だったか今だに思い出せないけれど、もういいの。だって、大好きなルドがエルヴィーラと優しく呼んでくれるから。
演じようと思っていたけれど、いつの間にかもう演じられていなかった気がするし。こんなだから、以前もちゃんとした役がもらえなかったのね。
それでも、私はエルヴィーラとして皇后陛下っていう柄ではないけれど、ルドの隣で、ルドと一緒に日々を過ごして行くわ!
☆★
これで本編は終わりです。
お読み下さいまして、ありがとうございます。しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございました。
あと一話、おまけがあります。それも読んでいただけると嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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