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36. それから
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スティーナは翌日、ヴァルナルとの朝食の時にラーシュの事を聞いた。
「え?…そうなの。」
「あぁ。今朝、日が昇る前に出発していったよ。王族だと一目で分かる馬車ではなく、今まで乗った事もない簡素な馬車だったから酷く驚いていたらしいけどね、これからは王族としてじゃなく、〝ラーシュ〟という一人の人間としてイェブレン国でラクダの世話係として働くそうだから、庶民が使うような物にも慣れていってもらわないと困るのだけどね。」
スティーナはやはりそうか、と思った。昨日ラーシュにははっきり罰を与えるとまでは言っていなかった為に、第一王子としてラクダの世話をしに行くのかそれとも王族の身分を剥奪して行くのかまでは分からなかったからだ。
「…ヴァルナルはお見送り、したの?」
「いや。迷いはしたけれどね。父上も行っていないよ。…母上だけは分からないけれど。
一応は、昨日付けでもう、ラーシュ兄さんは王族ではなくなったんだ。だから、俺が見送る事もいけないし、声を掛けるのもなんて言っていいやら…。
ただ、ラーシュ兄さんは何故イェブレン国へと送られるのかを分かっていないかもしれないと少し不安にもなったよ。」
「そう…でも、ラーシュ様なら、それでもいいのではないかしら。あの方はなんて言うか…変わっていらしたもの。」
「うん、まぁ非情になれなかった父上にも問題があると思うのだけどね、はっきりと王族から籍を抜いたと言えば、罪を償う気持ちとも向き合えたと思うんだ。王族としての自覚がないという罪のね。
でも、昨日、結局言わなかったんだ。」
「ラーシュはきちんと伝えた方がいいと思ったのね?」
「まぁね。でも、ラーシュ兄さんはああいう性格だから…また逆上してしまうかもしれない。それに、国王である父上が決めたんだから、異議はないよ。」
「どのような選択をしても、きっとラーシュ様の前では正解は無かったのだと思うわ。自分で、今までの行いを振り返る事が出来なければずっと。
だから、ヴァルナル、悲しまないで?」
「うん…ありがとうスティーナ。
そうだね、ラーシュ兄さんが自分と向き合わなければ何を言っても響かないのは確かにそうだ。父上はラーシュ兄さんに告げていたのに、それを理解していなかった。」
「だったら、仕方のない事だから、ヴァルナルが胸を痛める必要はないのよ。」
「あぁ、スティーナ!ありがとう!
そうだ、結婚の儀なんだけど一ヶ月後でもいい?俺は明日にでもしたい位だけど、スティーナの衣装の準備にそのくらいは必要だろうって。」
「え!結婚の儀!?」
スティーナはヴァルナルが淋しそうにラーシュの話をしていた為に、元気づけていたのだが、いきなり変わった話題に驚きの声を上げた。
「ん?…え、まさか嫌とか言わないよね!?」
「あ、違うのよ?
一ヶ月後って、ずいぶん早いなって…。」
「そう?あーでもそうかもね。
俺は昔からスティーナと早く一緒になりたいと言う事だけを思って努力してきたから一ヶ月後でも遅いとは思うけど、スティーナからしたらそうか…。」
「そ…そんな事ない!
私だって、ヴァルナルと一緒にいたいって…いられるって分かって嬉しくって…だから…一ヶ月後は早くないけど、ヴァルナルは王太子だし……」
ヴァルナルが苦笑しながら言うのでスティーナは、慌ててそのようにぽつぽつと理由を話す。でも話している内にだんだんと恥ずかしくなり、顔を俯いて最後まで告げる事が出来なかった。
「本当?スティーナ、早くないって事は、遅いって事!?あースティーナ、そうやって照れているのすごく可愛い!やっぱり明日にでも結婚したいよね!?
でもさ、一ヶ月あるのは引き継ぎもあるからなんだ。
実は…俺とスティーナが結婚するのを機に、父上が引退する。」
「え!?引退って…それって早くないの?」
「うん、ごめん。だから、スティーナはすぐに王妃になってしまうし、また部屋も引っ越さないといけないんだ。」
「王妃になるのはまだ先の事だとあまり心構えが出来ていなかったから、緊張するけれど…」
「うん。
父上がね、ラーシュ兄さんの事、やっと肩の荷が下りたって言って、あとはゆっくり過ごしたいと言い出したんだ。責任を取る形でもあるのかなぁ。
まだ早いって言ったんだけどね…今回の事で母上との心の距離が出来てしまったようで、穴埋めも兼ねて二人して隠居するんだって。」
「…そう。それだったら、仕方ないわね。」
「ごめんね、スティーナ。国民へは、招待する際に伝えるよ、国王も代替わりするって。
それから、それに伴って、オーグレン家も世代交代させる。」
「…え?」
「もっと早くそうしてあげれば良かったと思うんだけど、これは俺が提案したんだ。スティーナのお母さんに寄り添ってあげろってモンスへ伝えた。モンスは、自分がどうすればいいか分からなかったそうだよ。妻を愛していたのに、大切だからこそ妻と子供と距離を置いてしまった。仕事をする事が、オーグレン家の為にする事が、家族を幸せにする事だと思い込んでいたと反省していたよ。だからモンスも隠居して、夫人に寄り添って暮らすってさ。あ、オーグレン家はオリヤンが跡を継ぐって。」
「…そう。」
「言おうか迷ったけど、スティーナには伝えないとと思って。時間はかかると思うけど、スティーナがお母さんとまた話が出来るようになるかもしれないね。」
「…ありがとう、ヴァルナル。」
スティーナは、それを聞き何故だか目頭が熱くなるのを自分でも感じる。手紙で伝えるのは憚られる為、ヴァルナルには母の事を詳しく話していなかったが、それでも理解してくれているのは、イロナが伝えていたのかもしれないと思った。
「さぁ、これから忙しくなるよ!結婚式の衣装、決めないとね!スティーナは何を着ても似合うから、何でもいいといえばいいんだけど、スティーナにとったらやっぱり綺麗な衣装がいいだろうからね。
でも、準備が出来次第、結婚式を早めてもらえないか交渉しようかなぁ。いい?スティーナ。」
ヴァルナルの嬉しそうな顔を見て、スティーナは泣き笑いのような顔をヴァルナルに見せたのだった。
「え?…そうなの。」
「あぁ。今朝、日が昇る前に出発していったよ。王族だと一目で分かる馬車ではなく、今まで乗った事もない簡素な馬車だったから酷く驚いていたらしいけどね、これからは王族としてじゃなく、〝ラーシュ〟という一人の人間としてイェブレン国でラクダの世話係として働くそうだから、庶民が使うような物にも慣れていってもらわないと困るのだけどね。」
スティーナはやはりそうか、と思った。昨日ラーシュにははっきり罰を与えるとまでは言っていなかった為に、第一王子としてラクダの世話をしに行くのかそれとも王族の身分を剥奪して行くのかまでは分からなかったからだ。
「…ヴァルナルはお見送り、したの?」
「いや。迷いはしたけれどね。父上も行っていないよ。…母上だけは分からないけれど。
一応は、昨日付けでもう、ラーシュ兄さんは王族ではなくなったんだ。だから、俺が見送る事もいけないし、声を掛けるのもなんて言っていいやら…。
ただ、ラーシュ兄さんは何故イェブレン国へと送られるのかを分かっていないかもしれないと少し不安にもなったよ。」
「そう…でも、ラーシュ様なら、それでもいいのではないかしら。あの方はなんて言うか…変わっていらしたもの。」
「うん、まぁ非情になれなかった父上にも問題があると思うのだけどね、はっきりと王族から籍を抜いたと言えば、罪を償う気持ちとも向き合えたと思うんだ。王族としての自覚がないという罪のね。
でも、昨日、結局言わなかったんだ。」
「ラーシュはきちんと伝えた方がいいと思ったのね?」
「まぁね。でも、ラーシュ兄さんはああいう性格だから…また逆上してしまうかもしれない。それに、国王である父上が決めたんだから、異議はないよ。」
「どのような選択をしても、きっとラーシュ様の前では正解は無かったのだと思うわ。自分で、今までの行いを振り返る事が出来なければずっと。
だから、ヴァルナル、悲しまないで?」
「うん…ありがとうスティーナ。
そうだね、ラーシュ兄さんが自分と向き合わなければ何を言っても響かないのは確かにそうだ。父上はラーシュ兄さんに告げていたのに、それを理解していなかった。」
「だったら、仕方のない事だから、ヴァルナルが胸を痛める必要はないのよ。」
「あぁ、スティーナ!ありがとう!
そうだ、結婚の儀なんだけど一ヶ月後でもいい?俺は明日にでもしたい位だけど、スティーナの衣装の準備にそのくらいは必要だろうって。」
「え!結婚の儀!?」
スティーナはヴァルナルが淋しそうにラーシュの話をしていた為に、元気づけていたのだが、いきなり変わった話題に驚きの声を上げた。
「ん?…え、まさか嫌とか言わないよね!?」
「あ、違うのよ?
一ヶ月後って、ずいぶん早いなって…。」
「そう?あーでもそうかもね。
俺は昔からスティーナと早く一緒になりたいと言う事だけを思って努力してきたから一ヶ月後でも遅いとは思うけど、スティーナからしたらそうか…。」
「そ…そんな事ない!
私だって、ヴァルナルと一緒にいたいって…いられるって分かって嬉しくって…だから…一ヶ月後は早くないけど、ヴァルナルは王太子だし……」
ヴァルナルが苦笑しながら言うのでスティーナは、慌ててそのようにぽつぽつと理由を話す。でも話している内にだんだんと恥ずかしくなり、顔を俯いて最後まで告げる事が出来なかった。
「本当?スティーナ、早くないって事は、遅いって事!?あースティーナ、そうやって照れているのすごく可愛い!やっぱり明日にでも結婚したいよね!?
でもさ、一ヶ月あるのは引き継ぎもあるからなんだ。
実は…俺とスティーナが結婚するのを機に、父上が引退する。」
「え!?引退って…それって早くないの?」
「うん、ごめん。だから、スティーナはすぐに王妃になってしまうし、また部屋も引っ越さないといけないんだ。」
「王妃になるのはまだ先の事だとあまり心構えが出来ていなかったから、緊張するけれど…」
「うん。
父上がね、ラーシュ兄さんの事、やっと肩の荷が下りたって言って、あとはゆっくり過ごしたいと言い出したんだ。責任を取る形でもあるのかなぁ。
まだ早いって言ったんだけどね…今回の事で母上との心の距離が出来てしまったようで、穴埋めも兼ねて二人して隠居するんだって。」
「…そう。それだったら、仕方ないわね。」
「ごめんね、スティーナ。国民へは、招待する際に伝えるよ、国王も代替わりするって。
それから、それに伴って、オーグレン家も世代交代させる。」
「…え?」
「もっと早くそうしてあげれば良かったと思うんだけど、これは俺が提案したんだ。スティーナのお母さんに寄り添ってあげろってモンスへ伝えた。モンスは、自分がどうすればいいか分からなかったそうだよ。妻を愛していたのに、大切だからこそ妻と子供と距離を置いてしまった。仕事をする事が、オーグレン家の為にする事が、家族を幸せにする事だと思い込んでいたと反省していたよ。だからモンスも隠居して、夫人に寄り添って暮らすってさ。あ、オーグレン家はオリヤンが跡を継ぐって。」
「…そう。」
「言おうか迷ったけど、スティーナには伝えないとと思って。時間はかかると思うけど、スティーナがお母さんとまた話が出来るようになるかもしれないね。」
「…ありがとう、ヴァルナル。」
スティーナは、それを聞き何故だか目頭が熱くなるのを自分でも感じる。手紙で伝えるのは憚られる為、ヴァルナルには母の事を詳しく話していなかったが、それでも理解してくれているのは、イロナが伝えていたのかもしれないと思った。
「さぁ、これから忙しくなるよ!結婚式の衣装、決めないとね!スティーナは何を着ても似合うから、何でもいいといえばいいんだけど、スティーナにとったらやっぱり綺麗な衣装がいいだろうからね。
でも、準備が出来次第、結婚式を早めてもらえないか交渉しようかなぁ。いい?スティーナ。」
ヴァルナルの嬉しそうな顔を見て、スティーナは泣き笑いのような顔をヴァルナルに見せたのだった。
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