ばぁちゃんとポチャタとわたし

まりぃべる

文字の大きさ
5 / 9

ポチャタの仕事

しおりを挟む
「ワンワン!ワンワンワンワン!」
朝、ようやく外が明るくなってきた頃、家の外で、犬の鳴き声が聞こえて目を覚ました。

「ワンワン!ワン!」

さっきよりは吠える数が少なくなったような気がするけど、気になってトイレに近い裏口から外に出てみる。と、家の近くの畑で、ポチャタが吠えていた。そして、私が近づいたのが分かったのかポチャタがこっちをちらりと見た。吠えた先には、なんと猪だった!でも猪はポチャタに吠えられ、山へ歩いていく。私の足音が聞こえたのか、そのまま早足になり、猪はまた山へ消えて行った。

「ポチャタ!また追い返してくれたの?すごいよー!!ありがとうね!ばぁちゃんの畑守ってくれて。喜ぶよ。」
そう声を掛けると、ポチャタは吠えるのを止め、またすたすたと歩いていった。

「ポチャタ、あとで朝ご飯に、ご褒美にいいものあげるから来てね!」
ポチャタは振り返ったけど、すぐまた前を向いて歩いて行ってしまった。いつもどこへ行くんだろう。気づいたら家の近くにいるんだよね。昨日も夜、寝る前にトイレへ行ったら、外で伸び伸びと寝ていたもの。

目が覚めてしまったから、私はそのまま朝ご飯の準備をする事にした。



ばぁちゃんは、今日は起きてくるのが遅かった。私がガチャガチャと台所で準備をしていても物音一つ聞こえなかった。あらかた朝ご飯が出来上がって、あとはよそうだけという頃になって、ばぁちゃんの部屋に声を掛けて入る。

「ばぁちゃん、入るよ-。おはよう。私お腹すいちゃったから朝ご飯作っちゃったよ。」
そう声を掛けてから、襖を開けて部屋に入っても布団の中にいた。

「ばぁちゃん?まだ寝てる?私先にご飯食べていい?」
「うーん。もう朝かい?ごめんね、気づかなかったわ。先に食べていていいよ。」
そう言って、ばぁちゃんは寝返りを打って私の方に顔を向けた。

「分かった。起こしてごめんね、まだ寝ててね。」
「いや、私も起きるよ。先に食べておいで。」
と言って、ばぁちゃんは布団から起き出した。

私は、ばぁちゃんが遅く起きるなんて珍しいなと思った。確かに今日は、私はポチャタの鳴き声に起こされたけど、それもばぁちゃんは聞こえなかったのか寝ていたみたいだし。いつも、太陽が顔を出し始める前から起きて、畑に水やりしたり、朝ご飯作ったりいろいろとやっているのに。それとも、私は社会人になってからこっちに来てなかったし、ここ二年程はこんな感じなのかな?




朝ご飯を食べると、ばぁちゃんは畑を見回ると言ったので、一緒に歩く。さっき食べている時に、ポチャタが猪を追い払った話をしたらすごく喜んでいた。そして、【あの子は、じぃさんかしらねぇ。優しいわぁ。】と言い出たからびっくりした。確かに、じぃちゃんが亡くなってからポチャタはここに顔を出したみたいだけど…偶然でしょ。ばぁちゃんはやっぱり淋しいのかな。

「ポチャタはいないねぇ。」
ばぁちゃんが淋しそうに言うから、
「多分、私達と同じように見回ってくれてるんだよ。」
って私は言った。
「そうねぇ。そうかもしれないねぇ。」




昼ご飯を食べている時に、車の音がしたから私が外に見に行くと、源太が車から降りて来ていた。
「よう!」
「源太!どうしたの?」
「昨日、食料庫勝手に見せてもらってよ。乾麺とか持ってきてやったぞ。あんまり無かったろ。」
「あ、ありがとう!ちょっとまって。お金持ってくる!」
「いいよ。その代わり、たまに昼ご飯はここで食べさせてくれよ。どうだ?」
「えっでもそれ結構あるよね?」
「だってまだ香澄いるんだろ?」
「まぁそうだけど…。じゃぁばぁちゃんに聞いてみよ?」
「サンキュー。ってか、おばぁちゃんどうだ?」
「ん-、今朝は起きるの遅かったんだよね。たまたまかもだけど。昔は日の出より先に起きて水やりとか朝ご飯の準備とかいろいろとやってた気がするんだけどさ。」
「そうか。まぁ、俺もおばぁちゃんの事は昼間しか知らないからなぁ。最近は何時に起きてたんだろうな。案外香澄がいない時は遅かったかもしんないぞ。けどまぁ何かあったら、連絡してこいよ。まだ番号変わってないだろ?」
と、源太はスマホを出してきた。
「うん、ありがとう。ずっと一緒のやつ。」
「まぁ、一応女二人だしよ、何かあったら夜でもいいから電話してこい。」
た、確かに…。でも源太ってこんな頼もしい奴だったっけ?

「ありがとう。そういえば今朝、猪が出たよ。」
「はぁ?大丈夫だったか?怪我ないか?」
「うん、ポチャタがね、追い払ってくれたの。」
「へー。やるじゃんあいつ。」
「それで、ばぁちゃん、ポチャタがじぃちゃんかもって言い出して…。」
「そうか。まぁ、言いたくもなるんじゃないか?こんな山ん中で、今は香澄が居てもその内帰っちまったらって淋しいんだろ。」
「うん…。」
「あ、悪い。今食事中だったか?ばぁちゃんが心配するよな。家入っていいか?」
源太ってば、最後に会ったのは高校生だったっけ?私大学生の時は忙しくて来なかったもんな。いつの間にかちゃんと気ぃ遣える大人になってる気がする。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...