【完結】手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました。

まりぃべる

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幼少期

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「ママ…?ママ?ママ-!!うっうっ……」


 三、四歳だろうか。それにしては手足のかなり細い幼き少女が、泣きながら日が沈みつつある町中で立っていた。


 そこは、噴水が中央にある広場で、そこを囲うように道が四方に広がっている。待ち合わせ場所にはうってつけであるが、そんな場所に似つかわしくない泣き声が響いている。


「どうしたんだい、お嬢ちゃん。」


 見かねて、通りすがりの大きな体躯の男性が、声を掛ける。


「ママが来ないの…」

「ママ?うーん……とりあえず一緒に行くか。」


 男性は辺りをキョロキョロと見渡すがそれらしい若い女性は見当たらない。かといってそのまま一人にしておくのは忍びないとそう言葉を掛けた。

 そう言って少女が連れて来られたのは、男性が行こうとしていた店。そこで夕食を摂ろうとしていたのだ。


「いらっしゃい!…おや?」

「拾っちまった。てか誰か知らね?この子、母親とはぐれたんだと。」

「拾ったって…誘拐してきたんじゃないんだろうね?
だったら、ほら、おいで。」


 カウンターの中から出てきた女将は、少女を近くの椅子に座らせて自分も隣に座り話し掛けた。


「こんにちは、お嬢さん。ママとはぐれたのかい?」

「ママ、待っててって言った。でも、来ないの。」

「待ってて?どこでだい?」

「お水出てるとこ。」

「噴水広場だろうよ。そこにいたからさ。」


 連れて来た男性はカウンターの奥にいた大将に食事を注文し、近くに座ってから会話に入った。


「ふーん。だったら、待ってたら来るんじゃないの?行き違いになったらどうすんのさ。」


 ぐーきゅるきゅるきゅる


 女将がそう楽観的に言ったそばから大きな音が、少女のお腹から聞こえた。


「…いつから待ってたんだい?」

「わかんない。ずっと。」

「ずっとって…まさかご飯食べてないのかい?」

「ううん、昨日食べたよ。でも今日はまだ…」


 それを聞くや、女将は男性や近くの客と顔を見合わせ眉をひそめると女将は、優しく声を掛ける。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「アンネッタ。」

「アンネッタか。良い名前だね!
とりあえず、食べる方が先かな?
ちょっと準備してくるからね。」


 そう言って、少女の頭にポンっと軽く手を当ててから席を立つ女将は、カウンターの奥で成り行きを見守っていた大将に目配せしてから、食事が終わった常連客に近寄り話し掛けた。


「あんた達今の話聞いてたかい?
帰りに、治安部隊の詰め所に行って報告してきとくれよ。」

「あぁ分かった。何かあったらまた来るわ。」
「そうだな、届けが出てないかも見てこようぜ。」


 そう言って、彼らはお金を払って出ていった。


 ここは、港町の食堂。船乗り達が町にいる時間に開いている食堂で、客も近所に住む者達ばかり。顔見知りなのでこういう困った時には、皆で協力し合っている。

 たまに、大きな観光船が港町にやって来る。この少女の母親は、それの関係者かと思ったのだ。



「さ、たんとお食べ。好き嫌いはあるかい?」


 大きく切られた数種類のカラフルな色の野菜が入ったトマトスープと小さめに切られたバケットが乗った盆を、女将は少女の前に置いた。


「わぁ…すごい!いっぱいある!これ、なに?
 どれを食べていいの?」

「ん?この盆の中のやつはみんな、アンネッタの分だよ。」

「え!…でも、お金ない。ムリ…」

「いいから!作っちゃったんだから食べてくれないと困るんだよ。
話はそれからだね!」


 そう言って、女将は席を立ち、店に入ってきた客の相手をしだす。


 アンネッタは、目の前に置かれた食べ物をじっと見つめ、それでもいい匂いもするため食欲には勝てずカトラリーを手にして食べ始めた。
 一口口に入れると、今まで食べた事のない味でなぜだか止まっていたはずの涙がこぼれ、食べ物がぼやけて見える。それでも、とても美味しいと無心で一気に頬張り食べ終えてしまった。


「どうだい?旨かったか?」

「うん、とっても!」


 すでに涙は止まっており、目をこすってから答える。


「ここの大将の飯は、絶品だもんな!ここは、トマト料理が有名なのさ!」


 先ほどこの店に連れてきてくれた男性もすでに食事を終えており心配そうに見つめていたが、励ますようにアンネッタへ言葉を掛けた。


「うん、こんなにたくさんあって!初めて食べたものばっかり!」


 すると、お腹もいっぱいになったからかにこりと笑ったアンネッタ。


「…お嬢ちゃん、珍しい髪色だし、笑うととっても可愛いねぇ。桃色でとっても綺麗だよ。
そうだ、あんたしばらくうちにいなよ。看板娘になっとくれ!」

「え?」

「うちはさ、見ての通り男臭い場所でね。
忙しい船乗りたちの食卓の場なんだけど、お腹がよっぽど空いてるのか入ってくるなり理不尽に怒るやつもいるのさ!そんな時、お嬢ちゃんがいてくれたら、きっと怒る気力も無くなると思うんだ。」

「おい女将、さすがに大丈夫か?」
「そうだよ、そんな可憐な子、こんな店に似合わないぜ!」


 店の中の、食べている客からそう言葉が飛ぶ。店はそんなに大きくもなく、ぐるりと見渡せるほどであるから、声を出せば皆に聞こえるほどなのだ。


「うるさいね!あんた達だって毎日来てくれんだろ?
私が目を配れない時には、代わりに見ててくれりゃ大丈夫でしょうよ。」


 そう言われたら皆、顔を見合わせうんと頷き、アンネッタに声を掛ける。


「まぁ、ここの食事は絶品だし、アンネッタちゃんがいてくれたら俺らも嬉しいよな。」
「そうそう。おいらたちが守ってやるぜ。なぁ?」
「そうだそうだ。」
「おうよ!」


 そんな店中から掛かる声に少し驚きながらアンネッタは、女将の顔を見る。


「大丈夫、治安部隊には届けるし、いつまででもうちにいてくれていいから。
あ、贅沢言っちゃいけないよ?うちは狭いし床で寝てもらう事になるけど、雨風凌げるだけありがたいと思いなね。」


 女将と大将の住む場所は、この食堂の二階で、カウンターの中に階段がありそこを上るとある。
女将が天井を指差して言えば、また店の中から『余ってる布団を持ってくる』だの、『簡易ベッドがあったけどまだ使えるか見てくる』だのと各々言い、食事代を払って急いで店を出て行く男達。
 店はあっという間にアンネッタと女将、カウンターの中にいる大将だけとなった。


「心が折れそうになる事ってのはね、生きていれば何度もあるもんさ。それをどう乗り越えるかで、その後の生き方が変わるからね!
アンネッタは、今その時かもしれないけど、ここの街の人達は悪い人はそう居やしないから、頑張って前を向いて、生きていこうね!」


 肩にポンっと手を置いて女将はそう言ったが、幼いアンネッタにはまだ意味がよく理解出来なかった。
それでも、美味しい御飯も食べさせてくれたしきっと味方なのだと思い、アンネッタはうんと首を大きく縦に動かして返事を返した。
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