【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる

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10. 旦那様

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「アンセルム様!?」


 私は、いるはずのない人の声が聞こえて驚いて立ち上がった。
見つめた先は、見惚れるほど凛々しい軍服姿のアンセルムがこちらを睨むように立っていたので、自分の姿を認識し、恥ずかしいと思ってしまい、後ろを向いて叫ぶように言った。

「す、すみません!お見苦しい姿でお出迎えをいたしまして…!えと、あ…す、すぐに着替えて参ります!」


「ふん…まぁ先触れを出さなかったこちらも悪いからそれはいい。土いじりか?汚れているだろう。風呂に入ってこい。その間俺は少し早いが昼食にする。」

 そう言ったアンセルム様はすぐに邸へと戻って行ったわ。

「…ねぇへレーナ。こんな格好、嫌がられちゃったかしら……。」

 そう呟くようにこぼれ落ちた言葉を近くに居たへレーナは取りこぼしたのかそれとも敢えてなのか、

「ささ、急いでお風呂にしましょうね。」

 と優しい声で言い、私の方まで来て肩をポンと叩いて、背中をさすってくれながら足取りの重い私をグイグイと押しながら邸へと連れて行ってくれた。





☆★

 素早くお風呂に入り、髪が少し濡れてはいたけれど、談話室へと向かった。昨日、使用人達を紹介してもらった部屋ね。

 アンセルム様は、もう昼食を摂ったらしくそこでソファに座って紅茶を飲んでいた。
 私は、遅くなった旨を謝ってからソファまで行くと、対面に座れと促されたのでそれに倣う。

「…そうやって着替えると別人だな。」

 アンセルム様は、私の服装を見て言われた。先ほどの服装は、さながら使用人のようだったからそう言ったのかもしれないわ。

「も、申し訳ありません…好きにしていい、と仰って下さいましたから、庭で薬草を探しておりました。」

「薬草?…あぁ。君の実家はそうだったな。ここの領地は何も無いが、そう言うのはきっとたくさん生えているだろう。」

「いいえ、意外にも欲しい薬草はあまり生えておりませんでした。なので、差し支えなければ育ててもよろしいでしょうか。」

「薬草をか?…まあいい。好きにしろ。その代わり公の場ではしっかり頑張ってくれよ。」

「ありがとうございます!」

 どうにか許可がいただけたわ!そう思って嬉しくなって笑い掛けて返事をしてしまうと、アンセルム様は、私をジッと見たまま、しばらく動かなかったの。どうしたのかしら。

「…あの。アンセルム様?」

 大丈夫ですかと言葉を繋げようとすると、アンセルムはどうしたのか頭をぶるぶると横に振ってから、話し出した。

「俺が帰ってきたのは、ロニーから手紙を貰ったからだ。返事を書くよりも直接聞きに来た方が早いと思ったからだ。…で、ここの領地を整備したいと書いてあったが、それは本当か?」

「は、はい。昨日領地を回らせてもらって気づいた点が幾つかありましたから…でも、公爵家の領地ですから、あまり私が出しゃばって勝手にいろいろとやっても良くありませんか?」

「ふむ…このまま何年も税を緩く取り続けるのも、正直どうかとは思った事もある。だが、そこまで手が回らないのも事実だ。だから、ロニーの許可の元であれば、領民がそれで納得するのであればいいだろう。」

「本当ですか!?重ね重ね、ありがとうございます!」

 意外にもいい人なのね!結婚式の日にあんなに自分の要望しか言わないから、どんなに性格の悪い人かと思ったけれど、私が言った要望もきちんと応じて下さるんだもの。
うふふ。嬉しくなってしまうわ。

 ……あら?どうされたのかしら。アンセルム様、いつの間にか目を瞑っていたわ。

「アンセルム様、大丈夫ですか?先ほどから…お疲れですか?」

「まぁな…明日から東の国境の森に出た、悪獣の討伐に行く準備をしないといけなくてな。」

「まぁ!…すみません。そんなお忙しい時に来ていただいて。」

「いや。ちょうどその準備をするだけでそんなに仕事があるわけではないから大丈夫だ。手紙にすると、討伐に帰ってきてからでは遅くなるかと思ったからな。ふー……済まないが、少し休む。」

「あ、でしたらお部屋を…」

「いい。ここで。君は食事を摂りに行きなさい。適当に休んで、勝手に帰るから。」

 そう言うと、アンセルム様は本当にそこで休むようで、腕を組み目を瞑ってしまう。

 お疲れ…それに明日から討伐…それなのに律儀に、私のワガママを聞きに来て下さって…。

 そうだわ!せめてもの労いに。

「アンセルム様。起きましたら、目の前に置いておきますからお水をお飲み下さい。気休めではありますが、私からのお気持ちです。」

「ん?」

 私が話し掛けてしまったから、目を開けて下さったわ。

「あ、貴重なお時間すみません。微力ではありますが、アンセルム様が少しでもお疲れが取れますように魔力を入れる水をそちらに置いておきますね。カップを持って来てもらいますから。」

「…君、水の魔力?」

「え?」

「あ…いや。カップならこれでいい。珍しいな、戦う為じゃなく魔力を使うなんて。」

 そう言って、アンセルム様は自身の飲み終わった紅茶のカップを私の前に差し出してくれる。

「フフフフ。魔力は、戦う為だけではなく、心を癒す事にも使えるのですよ。」

 遠い昔、私の涙を止めてくれた男の子が居ましたのよ。
そう心の中で言って、今はアンセルム様お疲れのようですから、すぐに水を出そうとする。
《どうか今から取る仮眠で今までの疲れが薄れ、明日からの討伐に疲労が溜まりませんように…》
そう想いを込めて右手をカップの上に置くと、そこから水が流れ出しカップにたっぷり入った所で水は止まった。

「………これを飲めばいいか?」

「あ、ど、どうぞ。気休めではありますが…。」

 カップを持ち、ゴクゴクと一気に飲み干したアンセルム様はカップを置くと、目を一度瞑ってまた開き、

「…気休めか。まぁ…悪くない。」

 そう言って、今度こそ目を瞑ってしまった。
…そうよね。こんな一人掛けの椅子で寝ると言うなんてよっぽどお疲れなのよね。

 そう思って、私が居ない方がいいのだろうと急いで部屋を出た。
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