【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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1. 誕生日

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「誕生日、おめでとう!エーファ。」
「おめでとう!エーファ!」
「もう結婚出来る歳だな、おめでとう!」
「おめでとう、エーファ。」

「ありがとう!とても嬉しいわ!」


 薄い金髪を腰まで伸ばしたエーファ=バルヒェットは今、十七歳の誕生日を家族に祝ってもらっていた。


 焦げ茶色の髪の父のロータルは、侯爵の爵位を賜っており、ここバルヒェット領の領主である。
エルムスホルン国の中心部にある王都から馬車で一時間ほどの近い距離に広大な領地を持ち、その辺り一面は収穫時の八月は黄金に輝く小麦を栽培している。エーファの誕生日がある今の時期も、真っ直ぐ伸びた小麦が収穫されるのをどれもが待ちわびるかのように育っていた。

 黄色に近い金髪の母のデリアは、花が好きなおっとりとした女性である。見た目も若く、社交の場へ行ってもまだまだ若い者に引けを取らない美しさだ。

 金髪の二十二歳の長兄ディーターは、嫡男としてすでにロータルの下で働いており、あと数年の内にここバルヒェット侯爵家の跡目を継げるよう仕事をロータルや執事に教わりながらこなしている。

 焦げ茶色の髪の二十歳の次兄ケヴィンは、このエルムスホルン国の騎士隊の副司令官をしている。細身な体つきではあるが小さな頃より騎士に憧れ鍛えていたからか動きは俊敏でありそれもあってか若いながらに役職につき、職務をしっかり全うしている。
 普段は、騎士隊の寮に入っているのだが、エーファの誕生日を祝うために午後の仕事を早めに切り上げ帰ってきており、明日午前中に寮へと戻る予定だ。

 デリアと同じく黄色に近い金髪の十九歳の姉ドーリスは、お洒落が大好きな典型的な貴族の令嬢であり、流行の最先端のドレスをよく身につけている。
 ドミニク=ザイカー公爵令息と婚約しており、二十歳になったら嫁ぐ事が決まっている。


 家族仲も良好だ。とはいえ子供達も大きくなり普段はこのように家族が揃う事は滅多に無いが、今日は特別な日と認識している皆に揃って祝ってもらえ、エーファは心の底から嬉しかった。

 だが、次のロータルの言葉で、まるで冷水を浴びせられたかのように目を見開いて驚いた。


「本当におめでとう。これで大人の仲間入りだね。
 それじゃぁ、そろそろお見合いでもしてみるかな?」

「!??」

「あら、あなた。そうなの?」


 ロータルの言葉に、デリアは初めて聞いたと疑問を口にする。


「だってもう成人だろう?そろそろ誰か宛がわないと、相手が居なくなってしまうよ。」


 この国の貴族社会では十七歳になると大人として扱われる。それに確かに、それなりにいい人物は引く手あまたであり、十七歳を迎えたら親同士がお見合いをさせるというのはごく普通の事であり、中には成人を迎える前から婚約者を決められる家もある。それは〝貴族〟として、家を繁栄させる為に必要な事であった。

 勿論、恋愛結婚もある。

 ただ、それは出会いがある場合のみ。エーファは、別にほとんどの事はバルヒェット領内で生活出来てしまうため、領内から出る事もなかった。
 年に何度か王宮で行われる、“新年を祝う会”や“建国を祝う会”などに幼い頃は何回か参加していたが、都度国王やその家族である王族に挨拶をする為に長い列に並ばないといけない為、近年はほとんど参加していなかった。王族直々の主催でもない限り、親世代でもない子供の参加はどちらでも構わないのだ。


「へー、エーファはいい人居ないのか?」


 長兄のディーターが興味があるのか無いのか真顔で尋ねる。


「…まぁ、特には。」


 領内で、普段本を読んだり庭や屋敷の外で昼食がてら散歩をして過ごしているエーファは、出会いそのものが無いため唇を尖らせて答える。


「そうなのねぇ。
 エーファにも、私にとってのドミニク様みたいな相性の良い素敵な人と出会えるといいのだけれど。」


 ドーリスはドレスを着たり見たりするのが幼い頃から大好きで、年の近い令嬢に手紙を送っては頻繁に茶会を開いたり、王宮で開かれる様々な会に積極的に出向いていた。その為か、いつの頃からか蚕を飼育したり絹製品を取り扱うザイカー公爵家の嫡男とも親しくなり、結婚を申し込まれたのだ。今ではそちらで作られた新作のドレスなどを着て、広告塔の役割もしている。


「ドーリスは積極的にいろいろと出掛けていたもんなぁ。
 エーファも、これを期にいろいろ出掛けてみればいいんじゃないか?」


 と、ディーターが思い出すように言えば、


「出掛けるったって、まだ暫くは王宮で開かれる社交の会は無いよ。
 父さんに、誰か適当な人見繕ってもらった方が早そうだ。」


 騎士隊で働いているケヴィンもまた警備体制を思い出すように言う。
社交の会は小麦の作付けが終わる十一月中頃から十二月にかけて多くあり、稀に時期に関係なく開催される事もあるが今年はそれも無く今は八月であるのでまだ先だ。

 そのため、まぁそれもそうだな、とディーターも頷いた。

 女性に婚約者を宛がうのは比較的早いが、勤労している男性はゆっくりな傾向にあり、侯爵家嫡男として今は仕事を第一に考えているディーターも、騎士隊の副司令官にまでなっているケヴィンも他人事のように言った。


「…自分で見つけたいわ。」


「ほう…」
「あら…そうなの?それもいいわね!」


 ロータルの驚いたような返事に被せるように、デリアは微笑みながら言った。


「私の庭を貸してあげるわ!茶会でも開いたらどうかしら?」


 屋敷の敷地内には、大きめの庭が広がっている。そこはデリアの好きな花や木が、庭師によって彩られており、土弄りはしないがデリアの庭、と言っても過言ではない。


「母上!茶会って、男を呼ぶのですか?」


 ケヴィンが呆れたように言えば、


「あぁ、そうねぇ…」


 茶会の参加者といえば大抵女同士が多かった、とデリアは顎に指をあてながら思い直す。


「ドミニク様から、良さそうな人何人か紹介してもらう?」


 ドーリスもエーファの為だと思って口を開く。


「いえ!お姉様、それは遠慮しときます。
 …お父様、少し考えさせて欲しいの。」


 変な人を紹介されるわけではないとは思うが、やはり自分の目で探したいし、紹介されれば断るのも難しいだろうと苦笑しながらドーリスに伝えてから、父に向かって言った。


「うん?そうかい?分かったよ。別に今すぐってわけでも無いからね。
 じゃあそろそろ食べようか。」


 白身魚のムニエルやいろんな種類のトマトが入った生野菜サラダなど好きなものが並ぶご馳走を目の前にしたエーファだったが、まだ考えた事も無かった結婚の事が頭にちらつき、じっくり味わう事が出来なかった。


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