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5. 友人
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「申し遅れました、私はエーファ=バルヒェットと申します。父は侯爵を名乗っております。
明日、ではまた同じような時刻でここで待ち合わせとしてもよろしいでしょうか?」
「はい!お待ちしております。」
気の弱い方なのかと思ったが、快活に返事もするしエーファにとったら好印象で、カサンドラ王女に言われたから動けなかっただけなのかと納得すると、では、とその場を辞し、本は借りずに家に帰る事にした。
「宜しいのですか?」
せっかく図書館に来たのに何も借りていかなくていいのか、とヘラは問う。だがエーファは明日もここに来るのだし、と思い特に借りなくて帰る事にしたのだった。
☆★
家に帰るとエーファは、ロータルに話があると伝えるようにヘラに言づける。それを伝えに行ったヘラは、執務室に来るようにと言われたとすぐに部屋へと戻ってきたので、エーファは頷いて向かった。
「エーファです。」
「あぁ、入っていいよ。」
執務室では、ロータルとディーターがいてそれぞれの机で書類を広げていた。
が、ロータルは手を休めて入り口近くのソファへと促し、エーファの対面に座った。
「それで、どうしたのかな?」
ディーターは未だ机に向かってはいるが、手を休めてこちらに視線を送った。
「はい。今日図書館へと行って参りました。そこで、いろいろありまして。お会いした方に、うちの書庫にある本をお貸しする事は出来ないかと思いまして。」
「なんと!エーファ、もう見つけたのか!?いやぁ、凄いなあ!!
ん?本?なんの本だい?」
(見つけた…?)
エーファはロータルの言葉に首を傾げながらも今日あった事を噛み砕いて説明する。カサンドラ王女殿下の行いも合わせて伝える。
「なるほどなぁ…カサンドラ王女、それは良くない。」
「なんだ、エーファが結婚相手をもう見つけてきたのかと思ったけど、バッヘム辺境伯のご令嬢と出会ったって事か。
そのご令嬢が、カサンドラ王女に腹を立て、辺境伯に今日の出来事を伝えてたら戦争になるかもしれないね。」
「え!?」
いきなり戦争とか物騒な言葉を繋ぐものだからエーファはビクリとする。
「うむ…そのくらい辺境伯とはお強いのだよ。なんせ、国の玄関口をお守りして下さっているのだからね。
それに百年も前は隣のフレンズブルック国と幾度も小競り合いをしていて、その度に一歩も立ち入らせなかった鉄壁の守りを築く軍隊もお持ちだ。
カサンドラ王女も、辺境伯のお嬢さんとは知らなくて取り上げたのかもしれないが、良くないなぁ。いや、人を見て態度を変えろと言うんじゃないよ?普段から、そんな横暴な事をしなければいい話だ。」
北に隣り合わせのフレンズブルック国はとても寒い地域で、豪雪地帯だ。一年の半分以上ある雪の季節となればほとんど外に出られないほど。そんな国が、百年ほど前までは安定した領地や穀物が欲しいと戦を幾度となく仕掛けてきていたのだ。
今では、こちら側から食料支援もし、和平協定も結ばれているがいつそれが覆されるかは分からないと日々国境のバッヘム領では鍛錬を欠かさない。
今は専ら、鬱蒼と茂る山から現れる凶暴な野生動物と戦っているのがバッヘム辺境伯率いる軍である。
「でも、エーファはいい判断をしたよね?そのご令嬢の怒りを収めたんだから。」
「そうだな。で、なんだった?本?
うちにある本なら何でも、とは言いたいが、祖先が集めた資産ともいえるからなぁ。」
「そうですよね…フォン=ダイツスキーさんの大衆小説なのですけど。」
「?そんなのあったか?」
ロータルは覚えにないようだが、ディーターは思い出したように言葉を繋ぐ。
「あー知ってる!ちょっと前にその人が書いてる本が元で婚約破棄が流行って、増版中止になったやつじゃなかった?」
「はい。その作者は、たくさん本を出されてますので、コリンナ様が読んでない本が家にあるのかまでは分かりませんけれど。」
「ふーむ。そんな本なら、デリアのか亡きお祖母様の本か…?」
「貸し出しはさすがに難しいかしら?」
「うーん…辺境伯のお嬢さんという身元ほはっきりしているが、領地に持っていかれるといつ返却されるか分からないからなぁ。」
渋るロータルに、少し遅れて思い出したようにエーファへと言葉を掛けるディーター。
「そういえばエーファ、写本してなかった?」
「え。」
「写本?…あぁ、エーファの手習いか。」
なんだったかと首を傾げるロータルだがすぐに思い出しそんな事もしていたなと懐かしく微笑む。
「してましたけど、でも…」
「それなら、それを貸すのはどうだい?エーファさえ良ければだがね。」
「もう使ってもないけれど、手習いのものだったから、汚くて…」
「大丈夫だよ、全く読めない字じゃないんだから。エーファの字は綺麗だよ。」
「はい…」
「うちにある本をお貸しするのは、お薦め出来ないなぁ。
エーファが貸してもいいなら、その写本を貸してあげればお嬢さんも喜ぶだろう。
まぁ、家に呼んで、エーファの部屋や応接室で読むくらいならいいけれどね。」
「分かりました、ありがとうございます。そうします。」
「エーファ、どうするの?
お呼びするなら、一応家族や使用人達にも早めに知らせといた方がいい。」
と、ディーターは加勢した。
「でもまだ先方の予定が分からないわ。明日はまた図書館でお会いする予定ではあるけれど。」
「じゃあ明日聞いて、来れるなら近日中に家に呼ぶって感じかな?
楽しみにしているのなら、明日ついでに来てもらってもいいんじゃない?」
ディーターの言葉に、ロータルは頷いてエーファに伝える。
「まぁそうだな。辺境伯のお嬢さんなら、いつ領地に帰られるか分からないし、明日泊まってもらってもいいぞ。
どうなってもいいように、家の者達には知らせとこう。」
「ありがとうお父様!」
エーファはお礼を言って、仕事の邪魔は出来ないとそれからすぐに執務室から出るのだった。
☆★
次の日。
また同じように図書館へと向かったエーファは、大衆小説が並べられた本棚のところでコリンナに再び会い、挨拶をした。
「コリンナ様、とお呼びしても宜しいですか?」
「ええ、もちろん!
私も、エーファ様とお呼びしてもよろしくて?」
「えっと、私の方が年下ですから、ぜひエーファとお呼び下さい。」
と、エーファは遠慮がちに言った。
「あら、そうでしたの?お幾つですの?」
「私は十七です。
コリンナ様は十八歳でしたよね。」
「あら、じゃあ一つしか違わないのね?
でしたら、私の事もコリンナと呼んでくれると嬉しいわ。だって、私だけ敬称無しでお呼びするのはなんだか淋しく感じてしまいますもの。」
「でも…よろしいのですか?」
エーファも、貴族の集まりの時に会う友人はいる。しかし、頻繁に会うわけでもなくお互いに〝様〟をつけて呼び合っているので、敬称を付けずに呼んだ事なんて無かったため、戸惑う。
「ええ、もちろんよ!
私、あまりバッヘム領から出ないからお友達がいないの。もしよければ、お友達になっていただけたら嬉しいわ!」
「はい、ではお言葉に甘えて…コリンナ、よろしくお願いします。」
「フフ、エーファ、よろしくね!」
「はい!
それで昨日の話なのですけど、侯爵家にある本、家から持ち出すのはやはり出来ないみたいで。」
「そうよね…うん、分かってるわ。うち、遠いものね。」
今まで食い気味に、とても嬉しそうに話していたのだがしょんぼりと俯いたコリンナ。けれどもすぐに顔を上げて取り繕うように笑顔を向ける。
それを否定するかのようにエーファは言葉を繋げる。
「あ、いえそれでですね、うちで読む分には大丈夫なのと、あともし、もしなのですが…」
「え!本当に!?
あとは、なんですの?」
途端表情が明るくなるコリンナが、年上であるのに可愛らしいと思うエーファ。けれども、自分の幼い頃に書いた写本の事を話さないといけないと少し鼻を赤くしながら話す。
「あの、お恥ずかしいのですが、私が書き写した写本でよければお貸しできます。」
「書き写した?え?」
どういう事かと目を瞬くコリンナ。
「はい。幼い頃に手習いの練習として書き写したので、お目汚しになるかもしれないのですけれど。」
「まぁ!エーファって勤勉なのね!
そんな大切なもの、よろしいのですか?」
「もう使っておりませんので…。」
「素敵だわ!いや!どうしましょう!?こんな事って…!」
コリンナはうっすら涙を浮かべている。借りれないと思っていたのが借りれるかもしれないと、感極まっているのだ。
「どうでしょう?コリンナさえ良ければ今からうちに来ますか?
それとも別の日にしますか?」
「まぁ!
エーファさえよろしいのなら、今から伺っても?」
「はい。昨日家の皆に話してありますから。」
「……!!
王都って、怖いと思っていたけれど素敵な出会いもあったわね、マルテ!
エーファってとても素晴らしい人だわ!」
後ろに控えていた侍従にそう声を掛け、独り言のように呟くコリンナ。
「いえ、そんな…
では早速行きましょうか。」
エーファは別に、特別な事をした訳ではないと思っているからなんだか照れてしまうが、ここは図書館の中であり、本を借りないのなら早く出て行くべきだと思い、外に出ようと促した。
花の図鑑を試しに借りようとは思っていたが絶対に借りたいとお目当ての本があったわけでもないし、またゆっくり本は借りにこればいいと考えながら。
☆★
「さぁ、どうぞこちらへ。」
「わぁ…お邪魔致します。」
エーファが、コリンナを連れてバルヒェット領へととんぼ返りしてくると、応接室へと案内した。
ヘラはお茶の準備をしてくると言って部屋には入らず、食堂へと向かった。
「素敵なお部屋ね!私、お友達の家に来たの初めてだから緊張しちゃうわ!」
応接室の暖炉があるマントルピースの上に置かれた、ボードゲームやカードゲームを物珍しそうに見たりしながらそうコリンナは言った。
「そうなのですね。私も、お友達を家にご招待するのは初めてなので、至らない点もあるかもしれませんがご容赦願います。」
「まぁ!そうでしたの?それなのに私を招待して下さって嬉しいわ!
あ、…それかしら?」
すでに、机の上にフォン=ダイツスキーの本が数冊と、エーファが書き写した書類の束が置いてあり、ソファに座ろうとコリンナが近づいた時に目に入ったのだろう、そう言った。
「そうです。
どうぞ、お取りになって下さい。読んだ事あるものかもしれませんが。」
「えっと…
あ!これは読んだ事あるわ!
こっちは…まぁ!こんな本もあるのね!」
結局、コリンナはそこにあった一冊は読んだ事があったらしく、残りの七冊は読んだ事がないと言った。
「じゃあ、七冊全てお持ちになります?」
「ええ!?でも…」
「私が書いた写本は、練習用でもう使ってもいませんから。」
「まぁ!じゃあぜひお借りしたいわ!
読んだら絶対に返すわね!でも、一週間で読み切れるかしら…」
「一週間、ですか?」
「ええ。私、兄の予定に合わせてこちらに来てますの。
一週間…いえあと四日、五日ほどしたら、兄の予定が終わるので、その時に領地へと帰らないといけませんの。」
「領地にお持ちになっても大丈夫ですよ?
でも、あと数日…」
せっかく知り合えたのに辺境へと帰ってしまうのかと残念に思うエーファ。とはいえ、この王都にいる事自体珍しいのだが。
「そうなの。兄が、騎士隊と交流するのですって。四日ほどしたら、見学会もあるみたいでそれが終わったら帰るの。」
「あ、見学会があるというのは聞いた気がします。
お兄様…カール様、でしたか?辺境伯軍と騎士隊って交流もあるのですね。」
「らしいわ。毎日、何をやっているのかは知らないけれど。」
「打ち合いとか、されてるんでしょうか?
私の次兄も、騎士隊に勤めているので、手合わせなど対戦しているかもしれませんね。」
「まぁ!そうなのね。エーファのお兄様も騎士隊に所属されているのね。
…ねぇ、じゃあ一緒に見に行きません?」
「え?」
「何しているのか、見たくありません?」
ウフフ、と笑顔を浮かべるコリンナに、迷ったけれど頷いたエーファであった。
明日、ではまた同じような時刻でここで待ち合わせとしてもよろしいでしょうか?」
「はい!お待ちしております。」
気の弱い方なのかと思ったが、快活に返事もするしエーファにとったら好印象で、カサンドラ王女に言われたから動けなかっただけなのかと納得すると、では、とその場を辞し、本は借りずに家に帰る事にした。
「宜しいのですか?」
せっかく図書館に来たのに何も借りていかなくていいのか、とヘラは問う。だがエーファは明日もここに来るのだし、と思い特に借りなくて帰る事にしたのだった。
☆★
家に帰るとエーファは、ロータルに話があると伝えるようにヘラに言づける。それを伝えに行ったヘラは、執務室に来るようにと言われたとすぐに部屋へと戻ってきたので、エーファは頷いて向かった。
「エーファです。」
「あぁ、入っていいよ。」
執務室では、ロータルとディーターがいてそれぞれの机で書類を広げていた。
が、ロータルは手を休めて入り口近くのソファへと促し、エーファの対面に座った。
「それで、どうしたのかな?」
ディーターは未だ机に向かってはいるが、手を休めてこちらに視線を送った。
「はい。今日図書館へと行って参りました。そこで、いろいろありまして。お会いした方に、うちの書庫にある本をお貸しする事は出来ないかと思いまして。」
「なんと!エーファ、もう見つけたのか!?いやぁ、凄いなあ!!
ん?本?なんの本だい?」
(見つけた…?)
エーファはロータルの言葉に首を傾げながらも今日あった事を噛み砕いて説明する。カサンドラ王女殿下の行いも合わせて伝える。
「なるほどなぁ…カサンドラ王女、それは良くない。」
「なんだ、エーファが結婚相手をもう見つけてきたのかと思ったけど、バッヘム辺境伯のご令嬢と出会ったって事か。
そのご令嬢が、カサンドラ王女に腹を立て、辺境伯に今日の出来事を伝えてたら戦争になるかもしれないね。」
「え!?」
いきなり戦争とか物騒な言葉を繋ぐものだからエーファはビクリとする。
「うむ…そのくらい辺境伯とはお強いのだよ。なんせ、国の玄関口をお守りして下さっているのだからね。
それに百年も前は隣のフレンズブルック国と幾度も小競り合いをしていて、その度に一歩も立ち入らせなかった鉄壁の守りを築く軍隊もお持ちだ。
カサンドラ王女も、辺境伯のお嬢さんとは知らなくて取り上げたのかもしれないが、良くないなぁ。いや、人を見て態度を変えろと言うんじゃないよ?普段から、そんな横暴な事をしなければいい話だ。」
北に隣り合わせのフレンズブルック国はとても寒い地域で、豪雪地帯だ。一年の半分以上ある雪の季節となればほとんど外に出られないほど。そんな国が、百年ほど前までは安定した領地や穀物が欲しいと戦を幾度となく仕掛けてきていたのだ。
今では、こちら側から食料支援もし、和平協定も結ばれているがいつそれが覆されるかは分からないと日々国境のバッヘム領では鍛錬を欠かさない。
今は専ら、鬱蒼と茂る山から現れる凶暴な野生動物と戦っているのがバッヘム辺境伯率いる軍である。
「でも、エーファはいい判断をしたよね?そのご令嬢の怒りを収めたんだから。」
「そうだな。で、なんだった?本?
うちにある本なら何でも、とは言いたいが、祖先が集めた資産ともいえるからなぁ。」
「そうですよね…フォン=ダイツスキーさんの大衆小説なのですけど。」
「?そんなのあったか?」
ロータルは覚えにないようだが、ディーターは思い出したように言葉を繋ぐ。
「あー知ってる!ちょっと前にその人が書いてる本が元で婚約破棄が流行って、増版中止になったやつじゃなかった?」
「はい。その作者は、たくさん本を出されてますので、コリンナ様が読んでない本が家にあるのかまでは分かりませんけれど。」
「ふーむ。そんな本なら、デリアのか亡きお祖母様の本か…?」
「貸し出しはさすがに難しいかしら?」
「うーん…辺境伯のお嬢さんという身元ほはっきりしているが、領地に持っていかれるといつ返却されるか分からないからなぁ。」
渋るロータルに、少し遅れて思い出したようにエーファへと言葉を掛けるディーター。
「そういえばエーファ、写本してなかった?」
「え。」
「写本?…あぁ、エーファの手習いか。」
なんだったかと首を傾げるロータルだがすぐに思い出しそんな事もしていたなと懐かしく微笑む。
「してましたけど、でも…」
「それなら、それを貸すのはどうだい?エーファさえ良ければだがね。」
「もう使ってもないけれど、手習いのものだったから、汚くて…」
「大丈夫だよ、全く読めない字じゃないんだから。エーファの字は綺麗だよ。」
「はい…」
「うちにある本をお貸しするのは、お薦め出来ないなぁ。
エーファが貸してもいいなら、その写本を貸してあげればお嬢さんも喜ぶだろう。
まぁ、家に呼んで、エーファの部屋や応接室で読むくらいならいいけれどね。」
「分かりました、ありがとうございます。そうします。」
「エーファ、どうするの?
お呼びするなら、一応家族や使用人達にも早めに知らせといた方がいい。」
と、ディーターは加勢した。
「でもまだ先方の予定が分からないわ。明日はまた図書館でお会いする予定ではあるけれど。」
「じゃあ明日聞いて、来れるなら近日中に家に呼ぶって感じかな?
楽しみにしているのなら、明日ついでに来てもらってもいいんじゃない?」
ディーターの言葉に、ロータルは頷いてエーファに伝える。
「まぁそうだな。辺境伯のお嬢さんなら、いつ領地に帰られるか分からないし、明日泊まってもらってもいいぞ。
どうなってもいいように、家の者達には知らせとこう。」
「ありがとうお父様!」
エーファはお礼を言って、仕事の邪魔は出来ないとそれからすぐに執務室から出るのだった。
☆★
次の日。
また同じように図書館へと向かったエーファは、大衆小説が並べられた本棚のところでコリンナに再び会い、挨拶をした。
「コリンナ様、とお呼びしても宜しいですか?」
「ええ、もちろん!
私も、エーファ様とお呼びしてもよろしくて?」
「えっと、私の方が年下ですから、ぜひエーファとお呼び下さい。」
と、エーファは遠慮がちに言った。
「あら、そうでしたの?お幾つですの?」
「私は十七です。
コリンナ様は十八歳でしたよね。」
「あら、じゃあ一つしか違わないのね?
でしたら、私の事もコリンナと呼んでくれると嬉しいわ。だって、私だけ敬称無しでお呼びするのはなんだか淋しく感じてしまいますもの。」
「でも…よろしいのですか?」
エーファも、貴族の集まりの時に会う友人はいる。しかし、頻繁に会うわけでもなくお互いに〝様〟をつけて呼び合っているので、敬称を付けずに呼んだ事なんて無かったため、戸惑う。
「ええ、もちろんよ!
私、あまりバッヘム領から出ないからお友達がいないの。もしよければ、お友達になっていただけたら嬉しいわ!」
「はい、ではお言葉に甘えて…コリンナ、よろしくお願いします。」
「フフ、エーファ、よろしくね!」
「はい!
それで昨日の話なのですけど、侯爵家にある本、家から持ち出すのはやはり出来ないみたいで。」
「そうよね…うん、分かってるわ。うち、遠いものね。」
今まで食い気味に、とても嬉しそうに話していたのだがしょんぼりと俯いたコリンナ。けれどもすぐに顔を上げて取り繕うように笑顔を向ける。
それを否定するかのようにエーファは言葉を繋げる。
「あ、いえそれでですね、うちで読む分には大丈夫なのと、あともし、もしなのですが…」
「え!本当に!?
あとは、なんですの?」
途端表情が明るくなるコリンナが、年上であるのに可愛らしいと思うエーファ。けれども、自分の幼い頃に書いた写本の事を話さないといけないと少し鼻を赤くしながら話す。
「あの、お恥ずかしいのですが、私が書き写した写本でよければお貸しできます。」
「書き写した?え?」
どういう事かと目を瞬くコリンナ。
「はい。幼い頃に手習いの練習として書き写したので、お目汚しになるかもしれないのですけれど。」
「まぁ!エーファって勤勉なのね!
そんな大切なもの、よろしいのですか?」
「もう使っておりませんので…。」
「素敵だわ!いや!どうしましょう!?こんな事って…!」
コリンナはうっすら涙を浮かべている。借りれないと思っていたのが借りれるかもしれないと、感極まっているのだ。
「どうでしょう?コリンナさえ良ければ今からうちに来ますか?
それとも別の日にしますか?」
「まぁ!
エーファさえよろしいのなら、今から伺っても?」
「はい。昨日家の皆に話してありますから。」
「……!!
王都って、怖いと思っていたけれど素敵な出会いもあったわね、マルテ!
エーファってとても素晴らしい人だわ!」
後ろに控えていた侍従にそう声を掛け、独り言のように呟くコリンナ。
「いえ、そんな…
では早速行きましょうか。」
エーファは別に、特別な事をした訳ではないと思っているからなんだか照れてしまうが、ここは図書館の中であり、本を借りないのなら早く出て行くべきだと思い、外に出ようと促した。
花の図鑑を試しに借りようとは思っていたが絶対に借りたいとお目当ての本があったわけでもないし、またゆっくり本は借りにこればいいと考えながら。
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エーファが、コリンナを連れてバルヒェット領へととんぼ返りしてくると、応接室へと案内した。
ヘラはお茶の準備をしてくると言って部屋には入らず、食堂へと向かった。
「素敵なお部屋ね!私、お友達の家に来たの初めてだから緊張しちゃうわ!」
応接室の暖炉があるマントルピースの上に置かれた、ボードゲームやカードゲームを物珍しそうに見たりしながらそうコリンナは言った。
「そうなのですね。私も、お友達を家にご招待するのは初めてなので、至らない点もあるかもしれませんがご容赦願います。」
「まぁ!そうでしたの?それなのに私を招待して下さって嬉しいわ!
あ、…それかしら?」
すでに、机の上にフォン=ダイツスキーの本が数冊と、エーファが書き写した書類の束が置いてあり、ソファに座ろうとコリンナが近づいた時に目に入ったのだろう、そう言った。
「そうです。
どうぞ、お取りになって下さい。読んだ事あるものかもしれませんが。」
「えっと…
あ!これは読んだ事あるわ!
こっちは…まぁ!こんな本もあるのね!」
結局、コリンナはそこにあった一冊は読んだ事があったらしく、残りの七冊は読んだ事がないと言った。
「じゃあ、七冊全てお持ちになります?」
「ええ!?でも…」
「私が書いた写本は、練習用でもう使ってもいませんから。」
「まぁ!じゃあぜひお借りしたいわ!
読んだら絶対に返すわね!でも、一週間で読み切れるかしら…」
「一週間、ですか?」
「ええ。私、兄の予定に合わせてこちらに来てますの。
一週間…いえあと四日、五日ほどしたら、兄の予定が終わるので、その時に領地へと帰らないといけませんの。」
「領地にお持ちになっても大丈夫ですよ?
でも、あと数日…」
せっかく知り合えたのに辺境へと帰ってしまうのかと残念に思うエーファ。とはいえ、この王都にいる事自体珍しいのだが。
「そうなの。兄が、騎士隊と交流するのですって。四日ほどしたら、見学会もあるみたいでそれが終わったら帰るの。」
「あ、見学会があるというのは聞いた気がします。
お兄様…カール様、でしたか?辺境伯軍と騎士隊って交流もあるのですね。」
「らしいわ。毎日、何をやっているのかは知らないけれど。」
「打ち合いとか、されてるんでしょうか?
私の次兄も、騎士隊に勤めているので、手合わせなど対戦しているかもしれませんね。」
「まぁ!そうなのね。エーファのお兄様も騎士隊に所属されているのね。
…ねぇ、じゃあ一緒に見に行きません?」
「え?」
「何しているのか、見たくありません?」
ウフフ、と笑顔を浮かべるコリンナに、迷ったけれど頷いたエーファであった。
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そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
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