【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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4. 図書館

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 入り口を入るとすぐのエントランスホールは、天井がかなり高くなっており上の方にある小さいが色ガラスがはめ込まれていて、そこから入る光が柱のように下へ伸びている。太陽の光と色ガラスが混ざり合い不思議な光彩を放っていた。


(綺麗だわ…!)


 エーファは、この図書館に今まで来た事がなかったので、もっと早くから来ていればよかったと思った。


「あちらが受付です。早速受付を済ませましょう。」


 ヘラにそう言われ、右側にあるカウンターへと向かう。
 そこに、名前などを伝え、帰る時にもまた受付を通って帰る。その時に借りたい本があれば提出し、許可が下りれば一ヶ月借りられる事となる。
 本は、壁に沿わせた背丈以上の本棚に分類別に並べられている。等間隔で本棚が部屋中に設置されており、高い所など届かなければ近くに置かれた梯子を自由に使っていいそうで、職員に言って取ってもらうことも可能であった。

 本棚の間は通路があるが、邪魔にならないよう椅子も置かれており、隣の部屋には椅子がたくさん並んでおり座って読める場所と、机も設置され調べ物をする時にはそちらを自由に使えるようになっている。


 受付を済ませた二人は、早速奥へと進んでいく。本棚が並んだフロアの入り口には案内図があり、大まかな分野毎に番号と、何番通路にあるなどと書かれていた。

 エーファは手始めに、花の図鑑を見ようとその本がある通路はどのあたりにあるかを案内図で確認し、ヘラと共に進む。バルヒェット侯爵家にも図鑑はあったが、この国営の図書館であればもっと違うものもあるのかと思ったのだ。バルヒェット家の庭に植えられた花や、領内に咲いている花は種類も色も違っている。それらの名前を知りたいと思ったのだ。

 静けさが辺りを包んでいるが、不意に大きな声が響いた。


「ちょっと!それ、私が読もうと思ってたのよ!?
 いつまで手にしているのよ!
 早くこちらによこしなさい!」


 エーファが歩いていた通路とは別の、二つほど左の通路から、若い女性の声が聞こえた。本と本の間から、エーファより少し背の高い女性二人が立っているのが見えた。片方の女性の後ろには、一人男性が立っているように見えた。


「あの…」

「聞こえなかったの!?ほら、手を離しなさい!」

「…」

「カサンドラ様、そちらの方が先に手にされたのですから、順番です。予約をして参りますから。」

「は?嫌よ。そこにあったんだから!私だって見つけたのだもの。
あなた私を誰だと思ってるの!?私が先に読むのが当然でしょう!?」


 そこへ、職員だろう人が小走りに走ってきて言った。


「これはこれは、カサンドラ王女殿下!
 奥の個室でお待ち頂いてたのでは無かったのでしょうか?先ほど言われた本は今探しておりまして、もうご準備出来るかと。
 まだ他にお探しのものがあったのでしたら言って下さればお持ちいたしましたのに。」

「だって、待ってるのって退屈でしょ?せっかく私が来てあげたんだから、自分で見たっていいじゃないの!」


 鼻息荒く職員へと言葉を投げるカサンドラ王女殿下と声を掛けられた女性は真っ赤なドレスを着ている。
 職員はそれに若干気圧されながらも言葉を続ける。


「ええ、それは!けれどもご足労掛けるかと…」

「煩いわね!私がいいって言ってるんだからいいでしょ?

 ちょっと、いつまで持ってるの?あんたは早く私に渡しなさい!」


(お、王女殿下!?)


 カサンドラ王女といえば、この国の国王陛下ゲオルク様と王妃殿下アンゲラ様の娘である。国王夫妻の子は他に王太子フランツがおり、フランツはディーターと年齢は同じだ。
 カサンドラ王女の年齢は、ドーリスと同じではなかったかと思ったエーファだったが、同時に王女がここ図書館に来るのかと驚いた。


「もう!早く渡しなさいよね。
 はぁ!これ、古くてなかなか手に入らないのよね!私ってば幸運だわ!今すぐ読みたい!
 お前、帰るわよ。」

「え?カサンドラ様、他にも数冊、探して頂いてますが…」

「じゃあお前があとで取りに来ればいいでしょ!
 王宮に届けて欲しいけど、お父様とお母様に知られるとうるさいもの。よろしくね。」

「あ、ちょっと!カサンドラ様!!
 す、すみません…取り置いてて下さい。また来ます。
 そちらの女性の方、申し訳ありませんでした!では失礼します。」


 という声と共に去って行った。

 エーファは今の出来事を見ていろいろと衝撃を受けた。
 エーファは図書館に初めて来たが、誰もが大きな声を出したりせず小さな声で周りに遠慮してひそひそと話したり大きな音も立てる事なく静かに過ごしているので、エーファもそうするものだと何となく感じていた。それなのに辺り一面に届くほどの大きな声を出していた事。
 最近は王宮での集まりの参加も控えていたために王女殿下の顔もはっきり思い出せない(服装は毎年誰よりも派手だっだ気がする)し本棚に隠れて見えなかったが確かにカサンドラ王女殿下と呼ばれていた。
 しかし、他の女性が本を手にしていたのにそれが欲しいと言い、幼い子供のように奪っていった事は衝撃的であった。


「…あら?」


 ふと、その出来事があった場所を見ると職員はすでに居なくなっていたが、まだ先ほど本を取られた女性が立ち竦んでいるように見えたため、エーファは少し迷ったがそちらへ向かう事とした。
 なんだかとても理不尽だと、エーファも煮え切らない思いを抱いたからかもしれない。


「エーファ様?」


 ヘラには不審がられたが、そのまま二つ隣の通路へとエーファは進んだ。


「あの…大丈夫ですか?」


 その通路は大衆向けの小説が置かれた場所だった。

 エーファが声を掛けたその女性は、エーファと同世代くらいに見える、銀髪の綺麗な女性で、口は閉じられとても哀しそうな悲痛な表情で立っていたのだ。


「…」

「不躾にすみません。私、初めてこの図書館に来ましたの。そうしたらびっくりする出来事に出くわしたものですから…」


 そう切り出すと、相手の女性も口を開く。


「私も驚きましたわ。そして、とても残念ですの。」


 はーっと深いため息を吐いたその女性に、エーファは胸を同じように痛めつつ続ける。


「そうですよね、せっかく読める!と思って手にした本が、無くなってしまったのですものね。」


 エーファも、大衆向けの小説は侯爵家の書庫にも何冊かあったので読んでいた。
 庶民が皆、字を読めるわけではないが、裕福な商人などの一般庶民にも読めるように、話が噛み砕かれて分かりやすかったり、貴族には下世話な話もあったりするがそれがかえって受けがいい内容もあったのだ。主に、恋愛の小説が密かに貴族の間でも好んで読まれていた。


「そうなんです!分かって下さいますか?
 あの、有名な本だったから読みたかったのですけど。
 仕方ありませんわ。カサンドラ王女殿下に言われたら、お渡しする以外選択肢はございませんわよね。反論しようか迷いましたが、ぐっと飲み込みましたの。」

「そうでしたか…」


 ふ、とその本棚を見れば貸し出し中、と書かれた本に見立てた木の板がたくさん並んでいる。本よりもそれの方が多く並んでいた。誰が書いた小説だったのだろうと思えば、目印のように本よりも長く突き出た札に名前が書かれている。それは、侯爵家の書庫でもよく見ていたフォン=ダイツスキーという名前だった。


「あら、この方…」


 確か、婚約破棄物の書物を多く出していた著者で、書庫にも何冊かあったと思い出す。


「大きく言えた趣味ではありませんが、読みたいと思いまして。
 面白いらしいのですよ。しかも、あまりに流行って実生活で内容を模倣する貴族が多くなったとかで、発行禁止になったので増版はされないそうですの。」


 じゃあなぜ図書館に置かれているのかといえば、全て禁止してしまえばそれはそれで悪い事を企てる者もいるかもしれないからだった。借りる時には名前を届け出ないといけない、それもあるから置かれているともいえる。


「フォン=ダイツスキーさんの本でしたら、家に幾つかありますわ。」

「ええ!?
 …失礼致しました。良いですね、羨ましいです。」


 エーファがそう言えば、羨ましいと言った彼女に、自分が力になれる事はないかと思い口走るが、自分の物では無かったと思い直し、口すぼみになる。


「もし良ければ、うちに来ます?あ、でも…私の所有の本では無いからお貸し出来ないかもしれませんけれど。」


 大衆小説は比較的簡単な部類であったから、エーファが文字を書く勉強にと写し書きしたものもある。だが、人に貸すには、幼い頃の練習の文字であったためさすがに恥ずかしいと侯爵家所有の本の事を言ったのだ。


「まぁ!
 それもそうですわよね。あぁ、でももう一度見てみたいし読んでみたい…」

「では、こうしませんか?今日、家に帰ったら聞いてみますから、明日またここでお会いしません?予定は如何ですか。」

「よろしいのですか!?
 ありがとうございます!私はコリンナ=バッヘムと申します。北の辺境の地より来ましたの。
 たまたま、王都へと滞在していたものですから、明日ももちろんいます。ぜひ、お願い致します!」


(まぁ!北辺境伯のご令嬢だったのね!確かご年齢は十八歳と私より一つ年上だったわよね。
 北の守りにバッヘム辺境あり、と言われ独自の軍部隊をお持ちだったわよね。国の北玄関口とも言われる場所で、滅多に領地から出られないと学んだけれど、コリンナ様は来られてるのね。観光かしら?)


 エーファは、何も知らないでは貴族の娘として恥ずかしいからと、家の書庫で見つけた国の貴族名鑑という分厚い本で学んでいた。それには似顔絵と名前に家族構成、領地があればその特産物などが書いてあるもので貴族の名前はだいたい覚えている。

 本来は、出歩いて将来の旦那様となる方とお近づきになりたかったのだが、新たに同じ年頃の女性と知り合えたから大収穫だわと、心の中で微笑んだ。
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