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領主と面会
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「初めまして、私めはクラウディオと申します。私のような者と話す時間を作って下さり、ありがとうございます。」
そこで一呼吸置いた時、此処ぞとばかりにミュリエルが口を挟んだ。
「そんな風におっしゃらないで!普通に、私とお話していた時のように話してくれればいいのよ!」
「ミュリエル、彼が話している途中だよ。
済まないね、クラウディオ殿。妻を早くに亡くしてね、娘はその分、かなり元気に育ってしまってね。」
「いえ、明るく、聡明で朗らかな淑女で素敵でございます。
…昨日夕方に、彼女達に初めてお会いしました。そこで、やられている事を見て素晴らしいとは思いましたが同時に大変では無いかと思いまして。
今日、再び会う事が出来ましたので話を伺った所、差し出がましいかとは思いましたが一つ案が浮かびましたので、お話に参った次第です。」
「ほう。
まずは私も挨拶をさせていただこう。私はミュリエルの父で、フォルクマール=ロマーノだ。昨日夕方、ミュリエルを助けてくれたのだな?ありがとう。この度は本当に、なんとお礼を言ってよいやら…。元気がいいのは娘のいいところだが、それで危ない目に遭いはしないかと常にヒヤヒヤしていたのだ。
娘も、夕食に招待しようとしたけれど断られたと夕べしょんぼりと話してくれたよ。」
「いえ!私ほどの身分の者が、このような立派なお屋敷に招待されるほどの事はしておりませんから。それに、お礼をして欲しくて助けたわけでもありませんでしたし。
しかし、私が遠慮した事でかえってお気を悪くさせていたなら申し訳ありません。」
そう言うと、ミュリエルにも頭を下げるクラウディオ。
「やだ!お父様、それは言わないでよ!クラウディオ、謝らないで?そんな事ないわ、私が勝手に淋しく思っただけなのだもの。
それに、クラウディオがどんな人かはまだ会ったばかりでそんなに知らないけれど、昨日と今日話しただけでも立派な方だと分かるわ。身分なんて関係ないわ!」
「ミュリエル、済まん済まん!
クラウディオ殿、私も、まだこの短時間であるが君が随分と聡明であると感じるよ。
あとで昼食も食べて行くといい。今日は大勢でピクニックするの、と喜び勇んでミュリエルが出掛けていったのに早々と帰ってきたからね、まだ食べてはいないのだろう?」
「ええお父様。でもやっぱり一言余計だわ!」
唇を尖らせてミュリエルは俯いた。それを見てまたもミュリエルの父は苦笑している。クラウディオも可愛い表情だと思ってしまったが、見とれていると思われてはと慌てて返事をする。
「はい、ありがとうございます。」
何度も断るのも悪いし、まだ話す事もある為、恐縮しながらもそのようにクラウディオは返す。
「して、話があるとの事だが…」
「お父様。クラウディオはね、私が対策していた水害の名案を説明しにきてくれたのよ!
その…私だけではきっと話が進まないと思って。」
「ミュリエル、最近出掛けていたのはやはりそうだったのか…。
まぁ、費用も掛かるからね。だからあまり大掛かりな事は出来ないんだよ、何せこんな田舎の領地は裕福ではないし、予算が下りなくてね。
だが、せっかくであるからその名案とやらを教えてもらってもいいかい?」
「もちろんです。名案かは分かりませんが、川の支流を人工的に造り、水が溢れ出ないようにする事です。これは近隣の村で実際にやられていました。僕が立ち寄った村ですが、そこまで村の人達と交流してませんので詳しくは分かりませんが…。けれどもこれであれば、被害も費用も抑えられるのではないかと思いました。僕はこのように体が大きいですから、人件費はかなり抑えられます。
土嚢を川辺に並べるのも、かなり大変だと思いますから。」
「なるほどな…。予算も限られているし、手っ取り早い土嚢をミュリエルは川へと敷き詰めてくれているとは聞いていたが確かに大変だ。川を人工的に…ふむ、確かにそういえば……」
そう言うと、父は顎に手を充てて何やら思案し始めた。ミュリエルが、領地の事について自分の助けになるような事をやってくれているのは把握していた。土嚢だって、本当は自分がやるべき事だと分かっている。だが、領主とはそれ以外にも仕事は多岐に渡る。ミュリエルがやってくれるならとそれに甘んじていたのも事実だった。ただ、昨日その為にミュリエルが川で足を滑らせてずぶ濡れで帰ってきたと報告が上がった時にはさすがに肝を冷やした。やはりミュリエルに仕事を任せるのは危ないのではないか、と。
「よし、クラウディオ殿の名案、実行にうつしてみよう!
クラウディオ殿、手伝ってくれるそうだが、頼りにしていいだろうか。それに、どの辺りに支流を造ればいいだろうか、知恵を借りてもいいかい?
おい、地図を。」
ややもして、地図を持ってこようと父が壁に控えている従僕に目をやる。従僕はすぐに一礼し、部屋を出て行った。
そして、少しして先ほどの従僕が手に地図を持って部屋へと戻って来て、中央の机に広げた。
「そうですね…」
クラウディオは、地図を見ながら考えを詳しく話し始める。
ミュリエルは、難しい話ではあったが部屋から出て行こうとはしなかった。それは、クラウディオが地図を見ただけでどのような地形かなどとすぐに理解したようで父へしっかりとした受け答えをして意見を述べいるのを見たかったからだ。クラウディオの横顔を見ながら、ミュリエルはこっそりと熱い眼差しを送っていたのだった。
そこで一呼吸置いた時、此処ぞとばかりにミュリエルが口を挟んだ。
「そんな風におっしゃらないで!普通に、私とお話していた時のように話してくれればいいのよ!」
「ミュリエル、彼が話している途中だよ。
済まないね、クラウディオ殿。妻を早くに亡くしてね、娘はその分、かなり元気に育ってしまってね。」
「いえ、明るく、聡明で朗らかな淑女で素敵でございます。
…昨日夕方に、彼女達に初めてお会いしました。そこで、やられている事を見て素晴らしいとは思いましたが同時に大変では無いかと思いまして。
今日、再び会う事が出来ましたので話を伺った所、差し出がましいかとは思いましたが一つ案が浮かびましたので、お話に参った次第です。」
「ほう。
まずは私も挨拶をさせていただこう。私はミュリエルの父で、フォルクマール=ロマーノだ。昨日夕方、ミュリエルを助けてくれたのだな?ありがとう。この度は本当に、なんとお礼を言ってよいやら…。元気がいいのは娘のいいところだが、それで危ない目に遭いはしないかと常にヒヤヒヤしていたのだ。
娘も、夕食に招待しようとしたけれど断られたと夕べしょんぼりと話してくれたよ。」
「いえ!私ほどの身分の者が、このような立派なお屋敷に招待されるほどの事はしておりませんから。それに、お礼をして欲しくて助けたわけでもありませんでしたし。
しかし、私が遠慮した事でかえってお気を悪くさせていたなら申し訳ありません。」
そう言うと、ミュリエルにも頭を下げるクラウディオ。
「やだ!お父様、それは言わないでよ!クラウディオ、謝らないで?そんな事ないわ、私が勝手に淋しく思っただけなのだもの。
それに、クラウディオがどんな人かはまだ会ったばかりでそんなに知らないけれど、昨日と今日話しただけでも立派な方だと分かるわ。身分なんて関係ないわ!」
「ミュリエル、済まん済まん!
クラウディオ殿、私も、まだこの短時間であるが君が随分と聡明であると感じるよ。
あとで昼食も食べて行くといい。今日は大勢でピクニックするの、と喜び勇んでミュリエルが出掛けていったのに早々と帰ってきたからね、まだ食べてはいないのだろう?」
「ええお父様。でもやっぱり一言余計だわ!」
唇を尖らせてミュリエルは俯いた。それを見てまたもミュリエルの父は苦笑している。クラウディオも可愛い表情だと思ってしまったが、見とれていると思われてはと慌てて返事をする。
「はい、ありがとうございます。」
何度も断るのも悪いし、まだ話す事もある為、恐縮しながらもそのようにクラウディオは返す。
「して、話があるとの事だが…」
「お父様。クラウディオはね、私が対策していた水害の名案を説明しにきてくれたのよ!
その…私だけではきっと話が進まないと思って。」
「ミュリエル、最近出掛けていたのはやはりそうだったのか…。
まぁ、費用も掛かるからね。だからあまり大掛かりな事は出来ないんだよ、何せこんな田舎の領地は裕福ではないし、予算が下りなくてね。
だが、せっかくであるからその名案とやらを教えてもらってもいいかい?」
「もちろんです。名案かは分かりませんが、川の支流を人工的に造り、水が溢れ出ないようにする事です。これは近隣の村で実際にやられていました。僕が立ち寄った村ですが、そこまで村の人達と交流してませんので詳しくは分かりませんが…。けれどもこれであれば、被害も費用も抑えられるのではないかと思いました。僕はこのように体が大きいですから、人件費はかなり抑えられます。
土嚢を川辺に並べるのも、かなり大変だと思いますから。」
「なるほどな…。予算も限られているし、手っ取り早い土嚢をミュリエルは川へと敷き詰めてくれているとは聞いていたが確かに大変だ。川を人工的に…ふむ、確かにそういえば……」
そう言うと、父は顎に手を充てて何やら思案し始めた。ミュリエルが、領地の事について自分の助けになるような事をやってくれているのは把握していた。土嚢だって、本当は自分がやるべき事だと分かっている。だが、領主とはそれ以外にも仕事は多岐に渡る。ミュリエルがやってくれるならとそれに甘んじていたのも事実だった。ただ、昨日その為にミュリエルが川で足を滑らせてずぶ濡れで帰ってきたと報告が上がった時にはさすがに肝を冷やした。やはりミュリエルに仕事を任せるのは危ないのではないか、と。
「よし、クラウディオ殿の名案、実行にうつしてみよう!
クラウディオ殿、手伝ってくれるそうだが、頼りにしていいだろうか。それに、どの辺りに支流を造ればいいだろうか、知恵を借りてもいいかい?
おい、地図を。」
ややもして、地図を持ってこようと父が壁に控えている従僕に目をやる。従僕はすぐに一礼し、部屋を出て行った。
そして、少しして先ほどの従僕が手に地図を持って部屋へと戻って来て、中央の机に広げた。
「そうですね…」
クラウディオは、地図を見ながら考えを詳しく話し始める。
ミュリエルは、難しい話ではあったが部屋から出て行こうとはしなかった。それは、クラウディオが地図を見ただけでどのような地形かなどとすぐに理解したようで父へしっかりとした受け答えをして意見を述べいるのを見たかったからだ。クラウディオの横顔を見ながら、ミュリエルはこっそりと熱い眼差しを送っていたのだった。
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