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ずっと一緒に
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「クラウディオ、本当に竿とか、何も無くて出来るの?」
「うん、出来るよ。簡単だからね。」
ミュリエルとクラウディオが気持ちを伝え合ってから、さらに三ヶ月ほどが経った。
クラウディオとミュリエルの他に、バスコとオデットも共に初めて出会った川の所に来ている。
といっても、支流を造った為に以前よりも川の水量は少し減っているし、クラウディオもいるからもうミュリエルは川で溺れる事も無いだろう。
今日は、クラウディオと領地の視察に来ている。視察と言ってもデートのようなもので、普段もこの四人で領地内を訪れたり、領民に会いに行って不具合がないかなど確認をしているのだ。
昼ご飯は以前話していた、クラウディオの力で現地調達し、振る舞うと言う事になったのだ。
クラウディオは川に着くと、川の中をのぞき込む。魚がいないか、と確認しているのだ。それをミュリエルは傍で見ている。
(どうやるのかしら。手で捕まえるのかしら?)
ミュリエルは暑い日にはこの川で川遊びをした事もある。そこで、生き物がいる事を知った。その時に手で捕まえようとしたがなかなか捕まえる事が出来なかった。それを見ていたバスコも、競うように生き物を捕まえようと試みたがやはり捕まえる事は出来なかった。
「あそこだ!…ごめんね。」
クラウディオはそのように呟くと、いつものように掌をそちらへと向けた。
傍で見ていたミュリエルと、少し離れた所にいたバスコとオデットも、クラウディオが向けた方に視線を動かした。
「「「!」」」
川の中が少し光ったと思ったら、群でいたのだろう、川魚が六匹、力も無く浮いてきた。
「えいっ。」
クラウディオが手で引き寄せる仕草をすると、浮いた魚が水面から飛び出し一斉に宙を舞い、掌へと吸い寄せられた。
「おっと。」
それを落とさないように、クラウディオは両手で抱えるようにすると、見ていた三人は目を見開いた。
そしてミュリエルは、手を一つ叩くとクラウディオの顔を覗き込み、声を上げた。
「すごいわ!なにそれ!!クラウディオったらどうやったの??」
そう言われたクラウディオは、なんだかむず痒いような、照れくさいような気持ちになり、はにかんだ表情で返事を返す。
「どうって…まぁなんとなく?」
賛美を送るミュリエルを尻目に、バスコとオデットは顔を見合わせた。
「おい、あれって…なんだ?」
「さ、さぁ…私にも何が何だか…」
それでも、捕ってくれた魚の処理をしようと二人に近づいた。
最近のバスコとオデットは、クラウディオとミュリエルが会話をする時には一歩引き、会話に入らないように遠慮していた。最も、どうしてもの時には会話に入るが、そのように二人で過ごす時間の邪魔をしないように配慮しているのだ。
素早く火を付けたクラウディオに、ミュリエルはまたも尊敬の眼差しを送っていたミュリエルは、隣にある程よい大きさの石の上に腰を下ろして話し掛ける。
その間に、バスコとオデットは魚の鱗を取ったり、程よい長さの枝にその魚を突き刺し火にくべたりしていた。
「ねぇ、クラウディオってどんな生活していたの?何でも出来て、それを簡単にやって、尊敬しちゃうわ!」
「…そんな。尊敬されるほどの事でもないよ。僕が住んでいた村で生活していたら、誰でも出来るよ。」
クラウディオは少しだけ、昔の事を思い出して口を開く。といっても、ここで過ごす内、ミュリエルや他の人達と話したり、一緒に毎日生活してきてだんだんと昔の事を思い出しても胸が締め付けられるような、苦しくなるような事は減ってきていた。
「そうなのね。でも、それをきちんと自分のものにして、こうやって実践出来ているのだもの。クラウディオは素晴らしいわ!
だって、川魚だって動きが速いじゃない?あんな瞬時にどうやったの?私にも出来ないかしら。」
「…ありがとう、ミュリエル。
そうだね…僕の場合はやらないといけない状況だったから、出来るようになったのだと思う。他の人はどうなんだろう。練習したら出来るようになるかもしれないね。」
「ならんわ!」
「ならないと思います!」
クラウディオはこの三ヶ月の間に、ずいぶんとミュリエルと打ち解けた。もちろん、いつも共にいるバスコとオデットとも。その過程で、ミュリエルさんとよそよそしい呼び方では無くなった。ミュリエルが、お願いしたからだ。
クラウディオとミュリエルとの会話に、たまらず声を上げてしまったバスコとオデットだった。
「え?まぁ…そうよね。すぐには出来ないわよね。だって、クラウディオが力を入れすぎると飛び出すっていう光、他の人はなかなか出来ないと思うわ。淡いけれどなんだか力強さを感じてとっても綺麗だもの。クラウディオの心の綺麗さを表しているのねきっと!」
「そんな事…ミュリエルはいつも僕を褒めてくれるね。ありがとう。」
「あら、私は正直に言っているだけよ。クラウディオがそれだけすごいのだわ!
……独り占めしてはいけないかもと思ってしまうほどよ……」
そう。ミュリエルも、この力を入れると飛び出す光は、使い道を考えたらいろいろと出来るのではないかと思っている。それに、常人を越えた速さで走ったり動いたり、重い荷物を軽々と運んだりも出来る。普通の人の何倍、いや何十倍以上の働きが出来るクラウディオは、実はこの人こそが世間で言われている奇跡の聖人なのではないかと思うほど。
「そんな風に言ってくれるのはミュリエルだけだよ。」
「そんな事ないと思うわ。でも…もうクラウディオが居ない生活は考えられないの。だから、どこかに行ったりしないで…ね?」
「え、あ…当たり前だよ!僕も、僕を認めてくれるミュリエルが居ないのは考えられない。だから追い出したりしないでくれると…」
「追い出すなんてしないわ!ずっとここにいてって私言ったでしょう?」
「ミュリエル…」
「クラウディオ…」
見つめ合う二人であったが、これ以上はとバスコが派手に咳払いをしてから口を開いた。
「それにしてもよ、本当、力込めたら光が出るってすげーよな!俺もやりてぇ!
でもよそれって、いつならなんだ?実は生まれつきとか?」
「ん?うーん…どうかな…生活していく内に出来るようになったんだ。どうやったら早く薪が拾えるかとか、食料調達出来るかとか……兄が、奇跡の聖人だと言われ始めて、僕が家の事をほとんどしないといけなくって。そっからかな?」
「ふーん…生活の危機で目覚めたって事かよ。」
「そうかも。一人で両親と兄、僕の生活を支える為の事をしないといけなかったからね。幼い頃だったし、結構過酷だったから…」
「そうだったのね…クラウディオ、よく頑張ったわね。でも、そのおかげで今があるし、クラウディオが育った村を離れてくれたから私もあなたに出会えたもの。きっと全て必然だったのよ。クラウディオが居なかったら私、こんなに楽しい生活が送れていないわ!」
「うん…ありがとう。僕も、今の生活はとても充実しているよ。」
穏やかな話しをしながら、オデットがそろそろ焼けたというので、皆で魚を頬張っていた。
☆★
「まぁ!…すごいわ!!」
「今年は特に、ですね。」
「すっげーじゃん!!」
食事を終え、新しく出来た畑へと向かう。そして、畑を見たミュリエルとオデットとバスコは目を輝かせて言葉を口にした。
「結構なってるね、よかった。」
クラウディオも、自分が新しく川の支流を造り、途中に溜池を造り、その途中で見つけた手つかずの広い土地に畑を作ったここが、思いの外たくさん実っている事に安堵した。
「これなら、たくさん備蓄出来るわ!!クラウディオが作ってくれたから、きっとこんなにも実ってくれたのね!」
小麦畑と、あとは果物の畑が、豊作である。小麦も、穂にはしっかりと詰まっているのが見て取れたし、枝からもげそうなほど実っている。
「いや、僕が耕したからってそんな…でも勢い余って力が飛び出しちゃった事もあって大丈夫か心配だったけど、どうにか安心したよ。」
「それなんだけど、もしかしたらその飛び出した力が良かったのかもしれないわ!
きっとクラウディオの気持ちが、小麦や、果物達にも通じたんだわ!」
「ミュリエル、さすがにそれは…でも、そう言ってくれてありがとう。僕が役に立ったなら、ここにいる意味があったよ。」
「…あら。私、別にクラウディオが役に立つからここで一緒に暮らしてなんて言ってないわ。そう思われたのなら心外よ!」
ミュリエルがいきなり、頬を膨らませて唇を尖らせてクラウディオから顔を逸らせてしまったからクラウディオは焦りだし、意味も分からないがとりあえず謝る事とした。
(え、可愛い…でも怒らせてしまったんだよね?なぜ!?)
「ご、ごめん…ミュリエル……」
「…私、クラウディオがどんな人でも、一緒にいたいの。役に立つとか、そんなのは関係ないわ。確かに、クラウディオはロマーノの地を良くする為に貢献してくれたわ。でも、それは別にいいの。私はクラウディオとこうやって話して、一緒にいられるだけでいいの。
私、どんなクラウディオでも、あなたが好きよ!」
「!!!」
ミュリエルはいつも、クラウディオの欲しい言葉をくれる。自己肯定感が低かったクラウディオにとって、いつでも温かい言葉をくれるミュリエル存在はいつしかクラウディオの安心できる居場所となった。
「ミュリエル…いつもそうやって僕に正面から気持ちを伝えてくれてありがとう。こんな僕だけど、僕もミュリエルの傍にいたい。僕の居る場所はここだって思わせてくれてありがとう…大好きだよ!」
そう言って、優しくミュリエルを引き寄せ胸に収めたクラウディオ。二人共、顔が真っ赤である。
オデットとバスコは顔を見合わせると、少し距離を置き、もう少しだけ二人をそっとしておこうと息を吐いた。
が。
山の向こうから黒い雲が動いてくる。先ほどまでは青空が見えていたのに、雲がこちらへとゆっくり風に乗って動いてくる。
ゴロゴロゴロ
やがて遠慮がちに聞こえた雷鳴に、クラウディオは腕を緩めてミュリエルを見つめる。
「雷だ。移動した方がいいかもしれない。当たったら危ない。」
「ええ…そうね。」
お互いに少しだけ顔が赤いが、見つめ合うとふふっと笑って、ミュリエルはクラウディオの腕を取り、手を繋ぐ。
と、空が光り山の向こうに稲妻が走った。
「!」
「どうしたの?」
少しずつ近づいてくる雷鳴に、クラウディオは歩き出そうとした足を止め、空に目を遣る。
「いや…そういえば、と思って。
僕、小さい頃にもこういう事があったなって思い出して。家族は畑仕事をしてて、僕と兄は近くで遊んでいたんだ。そしたら、多分だけど兄が上っていた木に雷が落ちたんだ。」
「ええ!?」
「咄嗟に僕、誰か助けて!って心で叫んだよね。そしたら、強い風がいきなり吹いて、目を開けたら、木の上にいたはずの兄は少し遠くの地面にいた。だから、良く分からないけど誰か助けてくれたんだろうな。」
「え!…うん、そうね。助かって良かったわね。」
「うん。それ以来、兄は奇跡の聖人って言われるようになったから、兄が自分で木から離れたのだろうけど、あの時は僕の声が誰かに届いたんだろうなってホッとしたんだ。」
穏やかな顔をして話すクラウディオに、ミュリエルは少し手の力を込め、掴んでいる手を自分の方へ引っ張り、歩き出す。まるで、遠くへ行かないで、と願いを込めるように。
「クラウディオ、離れないでね。ずっと一緒にいましょ!」
「え?うん。もちろんだよ。」
雷鳴はゴロゴロと響いているが、歩き出したからかそれ以上大きな音とはなっていない。嵐が来るなら強くなるだろうと思った風も、ゆるゆると優しくミュリエルとクラウディオの周りを舞うように吹いていた。
「うん、出来るよ。簡単だからね。」
ミュリエルとクラウディオが気持ちを伝え合ってから、さらに三ヶ月ほどが経った。
クラウディオとミュリエルの他に、バスコとオデットも共に初めて出会った川の所に来ている。
といっても、支流を造った為に以前よりも川の水量は少し減っているし、クラウディオもいるからもうミュリエルは川で溺れる事も無いだろう。
今日は、クラウディオと領地の視察に来ている。視察と言ってもデートのようなもので、普段もこの四人で領地内を訪れたり、領民に会いに行って不具合がないかなど確認をしているのだ。
昼ご飯は以前話していた、クラウディオの力で現地調達し、振る舞うと言う事になったのだ。
クラウディオは川に着くと、川の中をのぞき込む。魚がいないか、と確認しているのだ。それをミュリエルは傍で見ている。
(どうやるのかしら。手で捕まえるのかしら?)
ミュリエルは暑い日にはこの川で川遊びをした事もある。そこで、生き物がいる事を知った。その時に手で捕まえようとしたがなかなか捕まえる事が出来なかった。それを見ていたバスコも、競うように生き物を捕まえようと試みたがやはり捕まえる事は出来なかった。
「あそこだ!…ごめんね。」
クラウディオはそのように呟くと、いつものように掌をそちらへと向けた。
傍で見ていたミュリエルと、少し離れた所にいたバスコとオデットも、クラウディオが向けた方に視線を動かした。
「「「!」」」
川の中が少し光ったと思ったら、群でいたのだろう、川魚が六匹、力も無く浮いてきた。
「えいっ。」
クラウディオが手で引き寄せる仕草をすると、浮いた魚が水面から飛び出し一斉に宙を舞い、掌へと吸い寄せられた。
「おっと。」
それを落とさないように、クラウディオは両手で抱えるようにすると、見ていた三人は目を見開いた。
そしてミュリエルは、手を一つ叩くとクラウディオの顔を覗き込み、声を上げた。
「すごいわ!なにそれ!!クラウディオったらどうやったの??」
そう言われたクラウディオは、なんだかむず痒いような、照れくさいような気持ちになり、はにかんだ表情で返事を返す。
「どうって…まぁなんとなく?」
賛美を送るミュリエルを尻目に、バスコとオデットは顔を見合わせた。
「おい、あれって…なんだ?」
「さ、さぁ…私にも何が何だか…」
それでも、捕ってくれた魚の処理をしようと二人に近づいた。
最近のバスコとオデットは、クラウディオとミュリエルが会話をする時には一歩引き、会話に入らないように遠慮していた。最も、どうしてもの時には会話に入るが、そのように二人で過ごす時間の邪魔をしないように配慮しているのだ。
素早く火を付けたクラウディオに、ミュリエルはまたも尊敬の眼差しを送っていたミュリエルは、隣にある程よい大きさの石の上に腰を下ろして話し掛ける。
その間に、バスコとオデットは魚の鱗を取ったり、程よい長さの枝にその魚を突き刺し火にくべたりしていた。
「ねぇ、クラウディオってどんな生活していたの?何でも出来て、それを簡単にやって、尊敬しちゃうわ!」
「…そんな。尊敬されるほどの事でもないよ。僕が住んでいた村で生活していたら、誰でも出来るよ。」
クラウディオは少しだけ、昔の事を思い出して口を開く。といっても、ここで過ごす内、ミュリエルや他の人達と話したり、一緒に毎日生活してきてだんだんと昔の事を思い出しても胸が締め付けられるような、苦しくなるような事は減ってきていた。
「そうなのね。でも、それをきちんと自分のものにして、こうやって実践出来ているのだもの。クラウディオは素晴らしいわ!
だって、川魚だって動きが速いじゃない?あんな瞬時にどうやったの?私にも出来ないかしら。」
「…ありがとう、ミュリエル。
そうだね…僕の場合はやらないといけない状況だったから、出来るようになったのだと思う。他の人はどうなんだろう。練習したら出来るようになるかもしれないね。」
「ならんわ!」
「ならないと思います!」
クラウディオはこの三ヶ月の間に、ずいぶんとミュリエルと打ち解けた。もちろん、いつも共にいるバスコとオデットとも。その過程で、ミュリエルさんとよそよそしい呼び方では無くなった。ミュリエルが、お願いしたからだ。
クラウディオとミュリエルとの会話に、たまらず声を上げてしまったバスコとオデットだった。
「え?まぁ…そうよね。すぐには出来ないわよね。だって、クラウディオが力を入れすぎると飛び出すっていう光、他の人はなかなか出来ないと思うわ。淡いけれどなんだか力強さを感じてとっても綺麗だもの。クラウディオの心の綺麗さを表しているのねきっと!」
「そんな事…ミュリエルはいつも僕を褒めてくれるね。ありがとう。」
「あら、私は正直に言っているだけよ。クラウディオがそれだけすごいのだわ!
……独り占めしてはいけないかもと思ってしまうほどよ……」
そう。ミュリエルも、この力を入れると飛び出す光は、使い道を考えたらいろいろと出来るのではないかと思っている。それに、常人を越えた速さで走ったり動いたり、重い荷物を軽々と運んだりも出来る。普通の人の何倍、いや何十倍以上の働きが出来るクラウディオは、実はこの人こそが世間で言われている奇跡の聖人なのではないかと思うほど。
「そんな風に言ってくれるのはミュリエルだけだよ。」
「そんな事ないと思うわ。でも…もうクラウディオが居ない生活は考えられないの。だから、どこかに行ったりしないで…ね?」
「え、あ…当たり前だよ!僕も、僕を認めてくれるミュリエルが居ないのは考えられない。だから追い出したりしないでくれると…」
「追い出すなんてしないわ!ずっとここにいてって私言ったでしょう?」
「ミュリエル…」
「クラウディオ…」
見つめ合う二人であったが、これ以上はとバスコが派手に咳払いをしてから口を開いた。
「それにしてもよ、本当、力込めたら光が出るってすげーよな!俺もやりてぇ!
でもよそれって、いつならなんだ?実は生まれつきとか?」
「ん?うーん…どうかな…生活していく内に出来るようになったんだ。どうやったら早く薪が拾えるかとか、食料調達出来るかとか……兄が、奇跡の聖人だと言われ始めて、僕が家の事をほとんどしないといけなくって。そっからかな?」
「ふーん…生活の危機で目覚めたって事かよ。」
「そうかも。一人で両親と兄、僕の生活を支える為の事をしないといけなかったからね。幼い頃だったし、結構過酷だったから…」
「そうだったのね…クラウディオ、よく頑張ったわね。でも、そのおかげで今があるし、クラウディオが育った村を離れてくれたから私もあなたに出会えたもの。きっと全て必然だったのよ。クラウディオが居なかったら私、こんなに楽しい生活が送れていないわ!」
「うん…ありがとう。僕も、今の生活はとても充実しているよ。」
穏やかな話しをしながら、オデットがそろそろ焼けたというので、皆で魚を頬張っていた。
☆★
「まぁ!…すごいわ!!」
「今年は特に、ですね。」
「すっげーじゃん!!」
食事を終え、新しく出来た畑へと向かう。そして、畑を見たミュリエルとオデットとバスコは目を輝かせて言葉を口にした。
「結構なってるね、よかった。」
クラウディオも、自分が新しく川の支流を造り、途中に溜池を造り、その途中で見つけた手つかずの広い土地に畑を作ったここが、思いの外たくさん実っている事に安堵した。
「これなら、たくさん備蓄出来るわ!!クラウディオが作ってくれたから、きっとこんなにも実ってくれたのね!」
小麦畑と、あとは果物の畑が、豊作である。小麦も、穂にはしっかりと詰まっているのが見て取れたし、枝からもげそうなほど実っている。
「いや、僕が耕したからってそんな…でも勢い余って力が飛び出しちゃった事もあって大丈夫か心配だったけど、どうにか安心したよ。」
「それなんだけど、もしかしたらその飛び出した力が良かったのかもしれないわ!
きっとクラウディオの気持ちが、小麦や、果物達にも通じたんだわ!」
「ミュリエル、さすがにそれは…でも、そう言ってくれてありがとう。僕が役に立ったなら、ここにいる意味があったよ。」
「…あら。私、別にクラウディオが役に立つからここで一緒に暮らしてなんて言ってないわ。そう思われたのなら心外よ!」
ミュリエルがいきなり、頬を膨らませて唇を尖らせてクラウディオから顔を逸らせてしまったからクラウディオは焦りだし、意味も分からないがとりあえず謝る事とした。
(え、可愛い…でも怒らせてしまったんだよね?なぜ!?)
「ご、ごめん…ミュリエル……」
「…私、クラウディオがどんな人でも、一緒にいたいの。役に立つとか、そんなのは関係ないわ。確かに、クラウディオはロマーノの地を良くする為に貢献してくれたわ。でも、それは別にいいの。私はクラウディオとこうやって話して、一緒にいられるだけでいいの。
私、どんなクラウディオでも、あなたが好きよ!」
「!!!」
ミュリエルはいつも、クラウディオの欲しい言葉をくれる。自己肯定感が低かったクラウディオにとって、いつでも温かい言葉をくれるミュリエル存在はいつしかクラウディオの安心できる居場所となった。
「ミュリエル…いつもそうやって僕に正面から気持ちを伝えてくれてありがとう。こんな僕だけど、僕もミュリエルの傍にいたい。僕の居る場所はここだって思わせてくれてありがとう…大好きだよ!」
そう言って、優しくミュリエルを引き寄せ胸に収めたクラウディオ。二人共、顔が真っ赤である。
オデットとバスコは顔を見合わせると、少し距離を置き、もう少しだけ二人をそっとしておこうと息を吐いた。
が。
山の向こうから黒い雲が動いてくる。先ほどまでは青空が見えていたのに、雲がこちらへとゆっくり風に乗って動いてくる。
ゴロゴロゴロ
やがて遠慮がちに聞こえた雷鳴に、クラウディオは腕を緩めてミュリエルを見つめる。
「雷だ。移動した方がいいかもしれない。当たったら危ない。」
「ええ…そうね。」
お互いに少しだけ顔が赤いが、見つめ合うとふふっと笑って、ミュリエルはクラウディオの腕を取り、手を繋ぐ。
と、空が光り山の向こうに稲妻が走った。
「!」
「どうしたの?」
少しずつ近づいてくる雷鳴に、クラウディオは歩き出そうとした足を止め、空に目を遣る。
「いや…そういえば、と思って。
僕、小さい頃にもこういう事があったなって思い出して。家族は畑仕事をしてて、僕と兄は近くで遊んでいたんだ。そしたら、多分だけど兄が上っていた木に雷が落ちたんだ。」
「ええ!?」
「咄嗟に僕、誰か助けて!って心で叫んだよね。そしたら、強い風がいきなり吹いて、目を開けたら、木の上にいたはずの兄は少し遠くの地面にいた。だから、良く分からないけど誰か助けてくれたんだろうな。」
「え!…うん、そうね。助かって良かったわね。」
「うん。それ以来、兄は奇跡の聖人って言われるようになったから、兄が自分で木から離れたのだろうけど、あの時は僕の声が誰かに届いたんだろうなってホッとしたんだ。」
穏やかな顔をして話すクラウディオに、ミュリエルは少し手の力を込め、掴んでいる手を自分の方へ引っ張り、歩き出す。まるで、遠くへ行かないで、と願いを込めるように。
「クラウディオ、離れないでね。ずっと一緒にいましょ!」
「え?うん。もちろんだよ。」
雷鳴はゴロゴロと響いているが、歩き出したからかそれ以上大きな音とはなっていない。嵐が来るなら強くなるだろうと思った風も、ゆるゆると優しくミュリエルとクラウディオの周りを舞うように吹いていた。
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