【完結】いつも微笑んでいる侯爵様とニコリともしない伯爵令嬢のお話

まりぃべる

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22. 裸馬競争

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「すごい人…!」


 アルフォンシーナは、今年初めて裸馬競争の会場へとやってきた。今までは、公の場にはあまり出てこなかった為に、会場となる王都の通りは、広く空けられているが沿道には、すできたくさんの人が溢れかえっていた。皆、鞍の付いていない馬に乗って競争するこの祭りを、楽しみにしているのだ。これの為に地方からわざわざやってくる者もいる。


 アルフォンシーナは、観覧席へと向かう。今日は侍女のビオンダも共についてきていた。


「本当に。すごいですね。押し潰されませんよう、あちら側へは行くのを止めましょうね。」


 貴族席は、爵位の上の者から順に決まっていた。きちんと区分けされていて、少ないが椅子も置かれている。だからそれほどまで溢れかえってはいない。
 しかし、会場の馬が走る道沿いには、席は無く立ち見で、ひしめきあっているのだ。


「ビオンダは来た事あった?」

「いいえ。私も、アルフォンシーナ様に仕えるようになってからはありませんし、初めてでございます。話には聞いていましたが、ここまでとは…。」


 ソルディーニ家の貴族席は、スタートとゴールの地点からは少し距離がある。伯爵家であるから、遠いのだ。
 だから、姉のカンディダが、公爵家の席で見る為こちらへおいでと誘ってくれたのだが、あちらは子供もいるし公爵家の義理のご両親も来ると言っていたから遠慮したのだ。
 ヴァルフレードが侯爵家であるから、うちの両親と一緒に見るかと聞いてもくれたが、まだ結婚もしていないからと遠慮した。


 あの舞踏会の後、正式に婚約発表をした為に、権利はあるのだがヴァルフレードがいないのに義両親と見るのは緊張すると思ったのだ。


 今は、この席に、母のベルティーナ、ブルニルタとサムエレとその子供と一緒にアルフォンシーナはいた。
 バジーリオは、この祭りを裏方として支える為にここにはいない。会場の、ピエトロ国王の近くにいるのだ。


「あ、選手がきっと出て来たのですよ。すごい歓声ですね。」


 馬に乗った選手達が王宮の正門から出て来たようだ。
直ぐその前が、スタートとゴールの地点となる。そこから王都の街を大通りを通ってぐるりと二周するのだ。
今は、慣らすのと沿道の人々にもゆっくりと顔を見せる為、歩いてコースを進んでいる。
 先頭は、国旗を掲げた旗を持った旗手が、堂々とした面持ちで歩いている。その後ろに一頭ずつ、ゆっくりカポカポと蹄を鳴らしながら歩いている。


 歓声が、割れんばかりに響いていた。


「結構いるのね。」

「そうね。毎回出場人数は変わるのよ。」


 このブースの中には椅子が四つあり、最前列は敷物をしいている。ブルニルタとサムエレを挟んで二人の子供が座っている。
その直ぐ後ろに二つずつ二列に椅子が置かれていた。母ベルティーナとアルフォンシーナが隣同士で座った。
ベルティーナの侍女と、ビオンダがいて今日は特別に後ろの席に座ってとベルティーナがしたのだ。


「そうなの?十五…十六いるかしら。ヴァルフレードはどこかしら?」

「あ、あれじゃないの?ほら、二番目!」

 ベルティーナと話していたアルフォンシーナに、前に座っていたブルニルタが、そう言った。


「本当だわ!」


 馬に乗っている者達は、伝統的な衣装を着ている。と言っても、王宮をこの地へ場所を移した記念に初めたようで、この祭りの歴史は浅い。それでも、その当時を色濃く残そうと、その当時流行っていたとされる柄が施された一人一人異なる色の服に身を包んでいる。帽子も被った中で、ヴァルフレードは、赤色の服に身を纏っていた。
アルフォンシーナは目が悪くはっきりとは分かりにくかったが、背格好などからそうだと思った。


「あら?」


 なんと、一番前はフィラハ国のテレンツィオ王子である。真っ白な服に身を纏っていて、浅黒い肌がより一層対照的に見えた。


(見学するとヴァルフレードは言っていたけれど、出場するのね。)


 そこから後ろは、国防軍所属の、新米軍人だったり、我こそはと自信たっぷりな中堅軍人が並び、後方は服の背中や腕に刺繍で名前を入れている商人が数人いた。宣伝を兼ねているのだ。
 商人達は、勝つのが目的では無く、この王都をたくさんの人が注目する中で歩く事が出来るこの機会に、自分たちの商売を知ってもらうのが目的である。その為、競争の時もゆっくり歩く馬もいる。




 しばらくすると、始まるようで、ドラムが鳴り響いた。


「いよいよね!アルフォンシーナの愛しい人は、首位を勝ち取れるのかしらね!」

「ブルニルタお姉様!怪我が無ければそれでいいのですわ。」

「そうは言っても、ヴァルフレード殿は首位を取って、愛しい人へと勝利を捧げたいものじゃないかな。」

「サムエレ義兄様まで!私は出場を辞退出来ないかとまで聞いたのですよ?最下位でも気にしませんわ!」

「まぁ、アルフォンシーナはそうでしょうけど、この裸馬競争で一位を取るって事は、男達にとったら名誉ある事らしいわよ!」

「あぁ、僕も一位が獲れていたなら、一発で義父上にもブルニルタとの事を認められたかもしれないけれどね。」

「え?」

「サムエレは国防軍に所属していた時に一度、新米の時に出場したみたいなのよ。でも結果は惨敗!
まぁ、私もまだ出会って無かったのだけれどね。」

「いや、負け惜しみじゃないけど、本当に鞍が無い馬に乗るのは難しいんだよ。振り落とされないようにするのが精一杯でね。落馬しないようにしがみつくしか出来なかったよ。でも、ここで優勝するのは本当に、男達の中では栄誉ある事なんだよ。所属している者達は特にね!男の中の男って感じだろう?」


 そこで、ちょうどアルフォンシーナ達の前を馬達が駆け抜けた。ヴァルフレードは早速、先頭集団で走っていた。

 アルフォンシーナは、その話を聞いてヴァルフレードはどんな気持ちで臨んでいるのだろうと思い、両手を胸の前で拝み祈った。


(ヴァルフレード、怪我しないで!)


 駆け抜けた姿はとても格好よかった。表情こそはっきりとは見えないものの、手綱を持ち、走る姿は本当に凛々しく見えた。


 少しして、ゆっくりと歩く商人達の馬が通り過ぎていく。追い抜かれる際に邪魔にならないようにか、一列で列を乱さないように歩いている。


「長閑ねぇ。あら、あの商人、今年初めてじゃない?また今度、家に呼んでみようかしらね。」

「あの商人も、あんな凝った刺繍だったかしら?」

「本当ね。新しい物を取り入れたのかもしれないわね。カッサンドラ、覚えておいてちょうだい。」

「はい、ベルティーナ様。承知いたしました。」

 ベルティーナの侍女のカッサンドラは、早速紙とペンを取り出し、サラサラと記入していた。こういう所から、ベルティーナは流行を取り入れていくのだ。



 わぁわぁとまた、歓声が大きくなった。アルフォンシーナ達の前を駆け抜けていく馬は四つほど団子状態で、固まっている。ヴァルフレードとテレンツィオ王子の色の服は見えたが、接戦のようだった。

「すごいね。やっぱり、ヴァルフレード殿はさすがだよ。」

「あら。サムエレもウズウズするのであれば来年、出場する?」

「いやいや、僕は無理だよ。ソルディーニ伯爵家の恥になっては困るだろうからね。ただ、血が騒ぐっていうかね、なんかこう、熱狂しちゃうね。」



 カーブを曲がって見えなくなった先から、きゃーきゃーと叫び声が聞こえてきた。続いて、国防軍の服を着た者が数人、担架を担いで白衣を着た医師と共に走っていく。

「落馬したらしいぞ!」


 観客の中から、ふいにそう口走るのが聞こえた。


「!!」

「え?」


 アルフォンシーナはそれを聞くと、血の気が引いて、両手で口を抑える。


(まさか…そんな……)


 それを見たベルティーナは咄嗟に、アルフォンシーナの背中をさする。


「…まだ、誰か分からないわ。」


 ベルティーナは辛うじてそう言葉を掛ける。
ブルニルタとサムエレもアルフォンシーナへと顔を向けるがすぐに険しい顔となる。子供に至っては、ブルニルタに抱かれて疲れて眠っていた。


「僕、ちょっと見てくるよ。」

「サムエレ?」

「怪我人は、王宮へ運ばれるだろう。ゴール近くだと、こちら側は通らないかもしれないから。」


 サムエレが立ち上がると、またドラムが鳴り響いた。一位がゴールしたのだ。


「待ちなさい!邪魔になるわ。走り終えた者はもう一周してくるわ。それを見て、考えましょう。」


 ベルティーナがそう言ったので、サムエレは頷いてまた座り直した。


「すみません…。
そうだね、アルフォンシーナ。きっと戻ってくるよ。」


 先ほどよりはゆっくりのペースで、観客にも順位が分かるように前の者を抜かさないようにもう一周走っていくのだ。




「あ、来たわよ。」


 アルフォンシーナは、震えながらも前を見据える。と、赤色の服が馬に乗って、先頭で走ってくるのが見えた。


「一位よ!」

「すごい!ヴァルフレード殿、一位だ!」


(…!良かった……!)


 ブルニルタとサムエレは声を上げ喜んでいる。ベルティーナも、背中をさすっていたが、今度はアルフォンシーナの頭を撫で始めた。

「良かったわね。落馬された方がいたのはお気の毒だけれど、栄誉ある事だわ!」

「…はい。」


 アルフォンシーナは、泣き笑いになりながらもベルティーナの声に応えた。
ヴァルフレードがこちらの席に向かって手を振っているのが見え、ソルディーニ家の皆がそれに手を振って応えた。
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