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39. 到着

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 私達は、ウカーシュ様が馬を飛ばしてくれたおかげで、夜の帳が降りて直ぐにウカーシュ様のご実家に到着する事が出来た。




 ウカーシュ様は初め、国境近くの宿屋に泊まろうかとも思ったみたいだけれど、部屋を分けて泊まらないといけないため、それなりにしっかりした高級宿屋でないとと思ってくれたみたい。
けれど、高級宿屋には、貴族の方達が泊まっていたみたいで私達二人で泊まるのはどうしても外聞が良くない。部屋が一つしか空いていなかったのです。

 まだ、日は傾く前で、

「…ナタリア。君がもし、大丈夫であれば、もう少し進んでもいいだろうか。」

「私は大丈夫ですわ。不思議とお尻は痛くないのですのよ。でもこのは大丈夫かしら。このままウカーシュ様のご領地まで走って行ける位疲れなんて感じなければよろしいのでしょうけれど、そうも言ってられませんわよね。外聞なんて気にせず、泊まりませんか?」

 ヒヒーン!ブフフフフ-!

 少し、疲れを見せ始めたと思った馬の走りではあったのでウカーシュ様とそう話していました。
すると、なぜかいきなり馬が前の両脚を掻き上げ、そう嘶くと、スピードがぐんと上がった。

「きゃぁ!」

「大丈夫か!?ナタリア!…ナタリア、ありがとう。」

「え?」

 ウカーシュ様が、何かを呟いたけれど、蹄の音が大きくて聞こえなかった。
でも、これ以上話すと舌を噛み切りそうな速さであったので、私は黙ってウカーシュ様に少し体重を預ける事となった。




 そのような事があって、結果、泊まらずにウカーシュ様のご実家のチェルウェンスキー領までたどり着けたのです。



 辺りが少し暗いので、侯爵家のお屋敷の全貌は分からないけれど、随分と大きく見えた。

「お帰りなさいませ。」

 玄関に、父様より少し年上そうな男性が一人と、侍従だろうか?若い男性が二人立っていて、声を掛けて来た。

「遅くなった。こちらがナタリアだよ。今日からよろしく頼む。ナタリア、こちらは執事長のユゼフだよ。何か不備があれば、彼に言ってくれ。」

「ナタリア様、よくぞ来て下さいました。これからどうぞよろしくお願い致します。」

「ナタリアと申します。遅くにお邪魔する事になってすみません。私の方こそこれから、よろしくお願い致します。」

 そう言って、ユゼフと私は深々とお辞儀をし合った。

「あとはよろしく。ナタリア、両親に紹介するよ、おいで。」

 ウカーシュ様は、執事長に声を掛け、侍従に手綱を預けると屋敷の中に案内してくれた。




コンコンコン
「ただいま戻りました。まだこちらにおられますか?」

 ウカーシュ様は、お屋敷に着いて広い玄関ホールを左に曲がって少し進んだ部屋の扉を叩いた。

「おお、ウカーシュ。お帰り。入って来なさい。」


 中に入ると、直ぐ目の前にビリヤード台が縦に二台ずつ、計四台あった。うちは一台しかないので、たくさん人が集まるのかもしれないわ。さすが侯爵家ね…。

 そしてその奥に、石で出来たテーブルと布製のソファが四セットあり、その中の一つに男性と女性が座っていた。

「父上、母上。こちらが僕の命の恩人、ナタリア=フォルヒデンです。やっと連れてこれました。」

「あぁなるほど。とても可愛らしいお嬢さんだ。親元を離れて淋しいだろう。今日からここが第二の家族だと思って構わないからね。遠慮なく私達を頼ってくれ。それから、十年前は息子を助けてくれてありがとう。うちは一人息子でね。ウカーシュがいなくなったら親類から養子を取らないといけなかった。本当に、感謝する。」

「本当にありがとう、ナタリアさん。あ、家族になるのだもの。ナタリアと呼んでもよろしいかしら?私を第二の母だと思ってね。甘えてくれるととても嬉しいわ。だってうちは、娘なんていないのだもの。」

 そう、お二人は優しく言って下さいました。

「ありがとうございます。私、ナタリア=フォルヒデンと申します。不作法者ですがこれから、よろしくお願い致します。はい、お呼び下さい。でも、あの…命の恩人ではないので…。」

「え?…あぁ、そうだね。でも、声を掛けてくれたのだろう?命の恩人だからね。でも、そう言われてしまうと気が重いかな?それは済まなかったね。私もナタリアと呼んでいいかい?」

「ご配慮、傷み入ります。はい…お義父様、お義母様。」

「まぁ!嬉しいわ!もう、抱きしめちゃいたい!あなた、お母様を早くに亡くされたのよね?淋しかったでしょう?私を母と思ってね。これからたくさん、抱きしめさせてね!」

「お義母様…。はい!」

「ずるいぞ、私だって!頭を撫でる位はさせてもらえるかい?」

「はい、お義父様!嬉しいです。」

 優しいご両親で良かったわ。その間、隣でウカーシュ様はニコニコと私に笑いかけて下さっておりました。
これから、ここでこんな優しい人達と一緒に暮らすのね。侯爵夫人となれるよう勉強もしないといけないでしょうけれど、頑張っていかないと!
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