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18. 落ちたと聞いて

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「ちょ…えー!?」

「どうした?」

「なんだ?…え、やばくね?」


 アレッシアが掘っていた近くの作業員が大きな声を出すと、連鎖的に周りの者達がざわつき出し、手を止めそちらへ近づいていく。


「おい、どうした!!」


 その辺りの採掘班長であるパオロが気づき、咎めつつそちらへ向かうと、ぽっかりと地面に穴が空いているのを見つける。


「なんだそれは!どうした!!掘っていたら穴が空いたのか?」

「いえ、新入りが落ちました!」


 アレッシアの近くにいた人物が、そう言うとパオロは驚きながら叱りつけた。


「は?…それを早く言わんか!!」


 パオロがその穴へ近づこうとすると、穴が空いた辺りのぬかるんだ地面は沈み込みながら周りの泥や土を巻き込みながらまたその穴へと吸い込まれていった。


「やべ…近寄ると落ちるな。おい、誰かチーロ採掘長と、ガスパレ様に報告をしてきてくれ!」


 そう言って唇を噛んだパオロは、素早く頭の中で考えていた。


(鉱山の中での事故だ。だから良くある事で、大した事じゃない。だが、新人はフィオリーノ様とお知り合いのようであった。どうする?伝えないと不味いよな…だが、監督不行き届きでオレ、罰せられたりしないか?)


「何事か!」
「事故け?」
「どうした!」

「!!」


 パオロが考え耽っていたからか思っていたよりも早くガスパレとチーロが辿り着いた。そして、事もあろうに今まさに恐れていたフィオリーノまでもやって来て声を発している。


「おい、パオロ!現状を説明しろ!」


 大きな鋭い声でフィオリーノに言われたパオロは身を引き締めながらそう声を出す。


「は、はい!えーと…現状を見るに陥没事故が発生しました!巻き込まれた人物は恐らく一名!」

「な…おい、ガスパレ!ここの下はどこだ?」

「え?えーと…どこだったか…こっちは未開拓ゾーンですから…おい、チーロ!この下はどこかの部屋か!?」

「え!そげな事…いえ、えーと…あっこからこっちまで向かって来たんだし、えーと…」

「くそっ!誰も把握してないのか!?これだから…で、誰が巻き込まれた?」


 フィオリーノは二人の返事を聞く間にも辺りを見渡し、現状を最大限に把握しようとしていた。
フィオリーノは、先ほど息せき切って駆けて来た者によって『事故です!来て下さい!』と言われ、ちょうどガスパレとチーロと共にいた為に緊急事態だと共に来たのだ。
 フィオリーノは本来であればここに常駐している訳では無く、だからこそ自分がいる時に事故が起こった為に対処しようと素早く行動しているのだ。


「一人です!新人の…アレッシアが一人、巻き込まれました!」 


 アレッシアの近くに居て、事故の時に近くにいた人物がそのように答えた。


「はぁ!?…くそっ!!」


 朝食後、フィオリーノはアレッシアに休めと言って部屋まで送り届けた。なのにアレッシアは作業しに来ていたのかと、体調が良くなかったのに作業をしたから事故に遭ったのかと思ったのだ。そして、休む事を見届けなかった自分を悔やみ、また事故に遭ったのがアレッシアだと知ると目の前が暗くなるほどに動揺し、心臓が途端にバクバクと音を立て始め、その穴へと足を進めた。


「あ、お止め下さい!フィオリーノ様も落ちます!」


 フィオリーノが穴を覗き込もうとするが、先ほど自身もそうして落ちそうになったパオロがそのように注意を促す。


「なんだって!?だったら、ここから落ちた方がアレッシアを助けに行くのが早いだろうが!」

「お、お止め下さい!下が安全な場所かも分かりませんから!」

「だからこそであろう!アレッシアが…!」

「鉱山での事故なんて良くある事です。でもまぁ確かに、新人でもありましたから探しに行かせますから。
ここも危ないですからね、我々の体重ではいつ落ちてしまうか分かりませんから、ここは閉鎖しましょう。フィオリーノ様が何かあってはいけません、さぁここから離れましょう。」

「おい、ガスパレ!そういう事じゃない!」

「とりあえず、一旦落ち着いて下せぇ。ささ、食堂へ行きますだ、フィオリーノ様。な?ほれ。」

「そうだな…おい、お前らも気をつけて通れよ。ここは一旦終いにして、手前の脇道を掘り進んでくれ!」


 いつも冷静沈着なフィオリーノが、アレッシアが落ちたと知り、いつになく慌てふためき大きな声を出している事に驚く一行は、しかしそれを落ち着かせようと一旦食堂へと向かわせる。これ以上ここにいたら、穴へと飛びこまんばかりの勢いだったからだ。

 しかし、ここでの責任者は皆、内心どうしたものかと困り果てていた。鉱山での事故は良くある事で、怪我人も大袈裟でなく出ていて、二次被害が出そうな箇所では放置されてしまう事もままあるからだ。

 皆、この穴から落ちたらどこへ繋がっているかなど知る由もなく、もう命は無いだろうと思っている。だからこそ、フィオリーノが目を掛けていたアレッシアがそうなってしまった事を、どう処理したらいいか懸命に頭を巡らせながら食堂へと向かった。

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