【完結】【番外編追加】隠していた特技は、魔術の一種だったみたいです!

まりぃべる

文字の大きさ
8 / 30

8. あの日の狩人

しおりを挟む
「それでね、お母様は結婚しろって言ううのよ。お父様は…あら?」


 リュシーは森に入ってすぐの少し開けた所に座り、動物達と話していた時に入り口の方から歩いてくる気配を感じて顔をそちらへと向けた。


 リュシーより少し年上の男性二人組で、馬を引き連れているのが見えた。


 と、向こうもリュシーに気づいたようで酷く驚きながら駆けよってきた。
近くに寄った事でリュシーは二人の服装が良く見る事が出来たが、濃い緑の上下の服に長いマントというお揃いの服装をしていた。


「君は、いつかの…!どうしてここに?また一人かい?」

 リュシーはいつかの、と言われ、はて…?と思ったところで、十歳の頃に花畑のところで会った二人の男の子達だと気づく。歳は今もやはりリュシーより少し年上に見えた。


「こんにちは。ええそうよ。お二人とも森の中に来たって事は、やはり狩人なのね。以前は雨、大丈夫だったかしら?」

「そうそう!本当に言われた通り激しく降ってきて驚いたよ。君は、気象師かい?」

「きしょうし…?なにかしら?
あら今日も?うーん…ちょっと奥に行かないと川などはないから……ちょっと待ってね。はい、どうぞ。」

 そう言って、リュシーはいつも持ち歩いていた獣革で出来た水筒と、コップを取り出して一頭の馬に飲ませようと差し出した。

「え?」
「なに?」

「なにって…馬も意外にも喉が渇くのよ?」

 彼らは、なぜ自分達にではなく馬に水を差し出したのかが良く分からなかった。しかし、馬の歩みが遅くなったのも事実だった。二人は自分達が飲む水は持っていたが、馬にあげようとは思ってもいなかった。川や、泉があった時に飲ませればいいかと思っていたのだった。


 ひとしきり水を飲んで満足した様子の馬二頭は、リュシーに顔を近づけて鼻を鳴らしている。

「ふふっ。いいのよ。お疲れさま。」

 その様子を、二人は驚いて見ていたがやがてはっとしたようで以前も先ほども話掛けてきた方がリュシーへと話し出した。

「ありがとう。以前も今日も、君に助けられたよ。俺はウスターシュ=セナンクール。そしてこっちが、エタン=マンドルーだ。」

 濃い茶色の髪の方がウスターシュ、黒髪の方がエタンと紹介したウスターシュは、馬の顔を撫でる。


(セナンクール?確か、公爵家の家名よね。それに、マンドルーも伯爵家の家名だわ!)


 リュシーも貴族の端くれとして、貴族の事は学んでいた為、目の前の人達が自分より上の爵位の人達だと思い、慌てて口調を改めた。

「いいえ。私はリュシー=アランブールです。あ、今日もまた森の奥では雨になるかもしれないので気をつけて下さい!」

「え?今日も!?」

「おい、エタン!」

 エタンは今まで黙って見ていたが、訝しげにリュシーを見る。

「ええ。…ええと、風が今は温かいけれど、ちょっと冷えてきたら雨になるんです。鳥達も低く飛んでいますから。」

「へぇ…詳しいんだね。」

「え、いえ、えと…。」

 リュシーは、闇雲に言っても信じてもらえないと、いつかのオーバンに言われた時のように現象を付け加えて言ったのだがかえって詳しいなどと言われてしまい、返しに困った。
 本当は、動物達が森の奥は雨になるからとこの手前に避難してきた動物達の情報を伝えただけだった。


「ねぇ、リュシー嬢。君は、もしかして魔力があるの?」

 そうウスターシュに言われたリュシーは、びっくりして返答する。

「え?いいえ。魔力だなんて、そんな素晴らしいものはないわ。あったなら、どんなに良かったかと思ったけれど。」

「どうしてだい?」

「だって、魔力があれば、安定したお給料がもらえるからです。けれどそれにはまず寄宿学校に通わないといけないから、どちらにしても無理だったけれど…。」

 言っていて、だんだん悲しくなり最後は尻つぼみになったリュシー。
学校に通える年齢になった時にバルテレミーには一度だけ通いたいかと聞かれたが、どう足掻いても二人も寄宿学校に通わすお金などないと思い、リュシーは行かないと選択したのだ。


「安定したお給料、ねぇ…。リュシーには何らかの魔力がありそうなんだよなぁ…。本当に、なにもないの?それともまだ目覚めてないのかな。」

「ウスターシュ、そんな事言って大丈夫?まぁ、確かにそう言えば説明が付くけどさ。魔力を持っていても実際に使えない人だっているじゃないか。」

(え?魔力!?私が!?だって、魔力って水を出したり、火を付けたり出来るんでしょう?私はそんなの出来ないわ!)

「あのね、リュシー。もし君に魔力があったら、魔術師になりたい?俺達は、魔術騎士なんだ。この森の野生動物に用があって来たのもあるけど、まだ埋もれている魔力持ちの人をスカウトする役目も務めているんだ。」

「!?
もし魔力があれば、なりたいです。私、お金が欲しいのです。弟の寄宿学校への学費が必要だからです。でも…私には、結局そんな素晴らしい魔力だなんて持っていませんから…。」

「魔力って、最近は珍しい魔力もあるんだよ?だから、人と違う力を持っている人は尚、給料はたくさんもらえるかもね。そうだ!アランブールって、伯爵家だよね?あとで当主に挨拶に言ってもいいかい?」

「え?ええ…」

「ありがとう。とりあえず先に、森に用があるから済ませてくるよ。雨が降ってきたら大変だからね。」

「あーあ。そんな簡単に言うけど、アオ鷹の爪なんてさ…すぐに見つかるのかねぇ…。」

 そう言って、二人は先へ進もうとした。


「え?アオ鷹の爪が必要なのですか?あの…こ、殺すのですか?」

「いや。爪だからね。捕まえて、爪を切らせてもらうんだが、結構大変でね。」

「なるべく傷つけないようにはやるけど、どうだろうね。すごく暴れるから、いっそ殺した方が早いと思うんだけどね。」

「おい、エタン!さすがに令嬢にそんな言葉は…!」

「…あの!なにも言わないで下さるのなら、私に任せてくれませんか?頼んでみますから!」


 リュシーは、どうしようかと迷ったが、知っている動物が傷つけられるのは嫌だった為、そう言っていた。
 狩人がいて、生計を立てているのはある程度仕方ないと、いつかの白い猫から教えられた。ーーいや、最近はリュシーの背丈ほどのずいぶんと大きい体躯になったその白い猫は、実は猫ではなかったのだとリュシーは思い直したーー乱獲しないのであれば、それは仕方ない事だと。しかし、アオ鷹には昔、爪をもらったのだ。そのよしみでたまに話をしたりする。だから余計に、頼めばまたもらえるかもしれないと思ったのだ。


「頼む!?」
「はぁ!?」

 ウスターシュとエタンは、言われた意味を図りかね、驚いていたが。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

処理中です...