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本編
幕間~ボスコの回想:精巧な人形のように~
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スカイ君と王城に入ろうとすると、門番に呼び止められました。
「ダーク・スカイ様、今までどちらに!?」
「ちょっと教会を見てきた。神官だからな」
スカイ君がしれっと言うと、門番たちは気まずそうに俯きました。
その後は何も言ってこなくなりました。
不穏な雰囲気です。スカイ君も、みんなの雰囲気が変だと思ったから、王城をこっそり抜け出して教会を見に来たのでしょう。
スカイ君がずかずかと歩くのに合わせて、僕も王城に入ります。
ほどなくして、件の人物と出会う事ができました。険しい面持ちで、廊下で立っていました。
ローズベル様です。
「ダーク・スカイ、手当て中なのに勝手に出掛けるなんて何を考えているの?」
「神官なので教会の様子を見てきました。何か問題でも?」
スカイ君が足を止めました。同時に、切れ長の瞳が鋭く光りました。殺意を宿しています。
「軍人たちが毒入りのスープを持ってきました。驚きましたよ」
「そう……随分と気の毒な事をされたのね」
「ええ、殺意が芽生えましたね。その司令塔には」
含みを持たせた言い方になっていました。
軍部の司令塔といえば、ローズベル様です。
ローズベル様は溜め息を吐きました。
「あなたにそこまで疑われるなんて、心外よ」
「とぼけても無駄ですよ。軍人たちの独断で持ってきたものではないのが明らかでしたので。俺はこれまであなたのマリオネットとして動いておりましたが、不満でもありましたか?」
「不満……そうね」
ローズベル様は悩まし気に小首を傾げます。
「リベリオン帝国全体の利益を大局的に考えてほしいわ」
「そのために、一部の人間の命を無下に扱えと?」
スカイ君の声は格別に低くなりました。怒りを露にしています。
「俺たちローズ・マリオネットが十分な戦果を挙げていないと言うのなら、よりよい作戦を立てて戦うだけです。懸命に生きる被災者たちや戦災孤児たちの命を奪う必要はありません」
「あなたたちが扱うワールド・スピリットは死んだ人間が多いほど強力になるのよ」
「俺たちをより強力な武器にするために、奪わなくていい命を奪うと言うのですか!?」
スカイ君が激高しました。
ローズベル様は両手を前に出して、首を横に振ります。
「落ち着きなさい。あなたたちが強くなるほどに、リベリオン帝国全体の負担や犠牲が減るのよ」
「現状に不満を抱いているのは分かりました。俺の働きが不充分なのも認めます。しかしながら、全く落ち度のない人間にツケを払わせるのは納得できません!」
「あなたの働きは充分よ。でも、限界があるでしょ? 現にあなたは大けがをして帰ってきたわ」
ローズベル様は一呼吸を置きます。
「リベリオン帝国はあなただけで守れるものではないのよ」
「あなたの言いたい事は理解できます。しかし、従うかは別の話です。俺の心は封印してきました。しかし、消え失せたわけではありません。出来損ないの殺人人形と言われるなら、甘んじて受け入れます」
スカイ君から表情が消えました。何の感情も窺えません。精巧な人形のようです。
もともとの容貌が整っていたのもあり、不謹慎ながらひどく美しく感じたものです。
スカイ君の虚ろな瞳に、ローズベル様が映ります。
「決闘を申し込みます。俺が勝てば、被災者たちや戦災孤児たちを殺さないようにしてください」
「何を言っても聞く気がないのね。あなたの力だけではどうしようもない事があると、教える必要があるわね」
ローズベル様は腰に両手を当てて、口の端を上げます。
「私が勝てば、教会に住んでいる人間を自由にするわ」
「おいおい、ちょっと待てよ。誰が審判を務める気だ?」
ローズベル様の後ろから、呑気な声がしました。
黒い鎧を身に着け、大剣を背負う大柄な男性です。
ルドルフ皇帝がいました。
僕もスカイ君も、そしてローズベル様さえ両目を見開きました。
僕たちはみんな慌てて一礼をしました。
ルドルフ皇帝はおおらかに笑いました。
「そんなに畏まらなくていいぞ。話を聞いていたが、俺は二人が決闘する必要はないと思う」
「どういう事でしょうか?」
スカイ君が恐る恐る尋ねると、ルドルフ皇帝は穏やかな笑みを浮かべました。
「被災者たちや戦災孤児たちを、ダーク・スカイの管轄下、つまり修道士として迎え入れるのはどうだ?」
僕もスカイ君もローズベル様も、ルドルフ皇帝の意図が分からず呆けました。
僕たちの意識を悟ってくださったのか、ルドルフ皇帝は説明してくれます。
「戦争に必要なのは、直接戦う人間だけじゃない。後方支援や料理、日頃の世話もできる人間がいるといいだろう。ローズベルも分かるよな?」
「お言葉を返すようですが、ダークの連れてきた被災者たちや戦災孤児たちにそんな能力があるとは思えません」
ローズベル様はきっぱりと言いました。
「寒さに震えるだけしかできないでしょう」
「鍛えればできるかもしれないだろう。ダーク、任せていいな?」
ルドルフ皇帝に視線を向けられて、スカイ君は口の端を引くつかせました。
「至極困難なのは承知ですが、やるしかないでしょう」
「話は決まりだ。じゃあ、頑張れよ!」
ルドルフ皇帝は片手を軽く振って、王城の奥へ歩き去りました。
結局は戦争本位で話がまとまりましたが、リトスを含めて、被災者たちや戦災孤児たちは命を長らえる結果となりました。
「ダーク・スカイ様、今までどちらに!?」
「ちょっと教会を見てきた。神官だからな」
スカイ君がしれっと言うと、門番たちは気まずそうに俯きました。
その後は何も言ってこなくなりました。
不穏な雰囲気です。スカイ君も、みんなの雰囲気が変だと思ったから、王城をこっそり抜け出して教会を見に来たのでしょう。
スカイ君がずかずかと歩くのに合わせて、僕も王城に入ります。
ほどなくして、件の人物と出会う事ができました。険しい面持ちで、廊下で立っていました。
ローズベル様です。
「ダーク・スカイ、手当て中なのに勝手に出掛けるなんて何を考えているの?」
「神官なので教会の様子を見てきました。何か問題でも?」
スカイ君が足を止めました。同時に、切れ長の瞳が鋭く光りました。殺意を宿しています。
「軍人たちが毒入りのスープを持ってきました。驚きましたよ」
「そう……随分と気の毒な事をされたのね」
「ええ、殺意が芽生えましたね。その司令塔には」
含みを持たせた言い方になっていました。
軍部の司令塔といえば、ローズベル様です。
ローズベル様は溜め息を吐きました。
「あなたにそこまで疑われるなんて、心外よ」
「とぼけても無駄ですよ。軍人たちの独断で持ってきたものではないのが明らかでしたので。俺はこれまであなたのマリオネットとして動いておりましたが、不満でもありましたか?」
「不満……そうね」
ローズベル様は悩まし気に小首を傾げます。
「リベリオン帝国全体の利益を大局的に考えてほしいわ」
「そのために、一部の人間の命を無下に扱えと?」
スカイ君の声は格別に低くなりました。怒りを露にしています。
「俺たちローズ・マリオネットが十分な戦果を挙げていないと言うのなら、よりよい作戦を立てて戦うだけです。懸命に生きる被災者たちや戦災孤児たちの命を奪う必要はありません」
「あなたたちが扱うワールド・スピリットは死んだ人間が多いほど強力になるのよ」
「俺たちをより強力な武器にするために、奪わなくていい命を奪うと言うのですか!?」
スカイ君が激高しました。
ローズベル様は両手を前に出して、首を横に振ります。
「落ち着きなさい。あなたたちが強くなるほどに、リベリオン帝国全体の負担や犠牲が減るのよ」
「現状に不満を抱いているのは分かりました。俺の働きが不充分なのも認めます。しかしながら、全く落ち度のない人間にツケを払わせるのは納得できません!」
「あなたの働きは充分よ。でも、限界があるでしょ? 現にあなたは大けがをして帰ってきたわ」
ローズベル様は一呼吸を置きます。
「リベリオン帝国はあなただけで守れるものではないのよ」
「あなたの言いたい事は理解できます。しかし、従うかは別の話です。俺の心は封印してきました。しかし、消え失せたわけではありません。出来損ないの殺人人形と言われるなら、甘んじて受け入れます」
スカイ君から表情が消えました。何の感情も窺えません。精巧な人形のようです。
もともとの容貌が整っていたのもあり、不謹慎ながらひどく美しく感じたものです。
スカイ君の虚ろな瞳に、ローズベル様が映ります。
「決闘を申し込みます。俺が勝てば、被災者たちや戦災孤児たちを殺さないようにしてください」
「何を言っても聞く気がないのね。あなたの力だけではどうしようもない事があると、教える必要があるわね」
ローズベル様は腰に両手を当てて、口の端を上げます。
「私が勝てば、教会に住んでいる人間を自由にするわ」
「おいおい、ちょっと待てよ。誰が審判を務める気だ?」
ローズベル様の後ろから、呑気な声がしました。
黒い鎧を身に着け、大剣を背負う大柄な男性です。
ルドルフ皇帝がいました。
僕もスカイ君も、そしてローズベル様さえ両目を見開きました。
僕たちはみんな慌てて一礼をしました。
ルドルフ皇帝はおおらかに笑いました。
「そんなに畏まらなくていいぞ。話を聞いていたが、俺は二人が決闘する必要はないと思う」
「どういう事でしょうか?」
スカイ君が恐る恐る尋ねると、ルドルフ皇帝は穏やかな笑みを浮かべました。
「被災者たちや戦災孤児たちを、ダーク・スカイの管轄下、つまり修道士として迎え入れるのはどうだ?」
僕もスカイ君もローズベル様も、ルドルフ皇帝の意図が分からず呆けました。
僕たちの意識を悟ってくださったのか、ルドルフ皇帝は説明してくれます。
「戦争に必要なのは、直接戦う人間だけじゃない。後方支援や料理、日頃の世話もできる人間がいるといいだろう。ローズベルも分かるよな?」
「お言葉を返すようですが、ダークの連れてきた被災者たちや戦災孤児たちにそんな能力があるとは思えません」
ローズベル様はきっぱりと言いました。
「寒さに震えるだけしかできないでしょう」
「鍛えればできるかもしれないだろう。ダーク、任せていいな?」
ルドルフ皇帝に視線を向けられて、スカイ君は口の端を引くつかせました。
「至極困難なのは承知ですが、やるしかないでしょう」
「話は決まりだ。じゃあ、頑張れよ!」
ルドルフ皇帝は片手を軽く振って、王城の奥へ歩き去りました。
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