75 / 79
大切な祈り
しおりを挟む
リベリオン帝国の中央部は雪がちらついていた。これから寒さが増すだろう。住民は厳しい冬に備えるために、様々な身支度をしていた。食料の確保、薪と暖炉の管理など忙しかった。
忙しい事は教会も変わらない。もともと食料を地下に保存しているとはいえ、極寒の冬を相手にいくら備えてもやりすぎる事はない。
そんなせわしない教会の前に、エリックはメリッサをそっと降ろした。メリッサはダークを片手で抱えている。ダークはまだ気絶している。
エリックたちの来訪に、リトスがいち早く気が付いた。
満面の笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「あれ、メリッサ!? ダークを抱えるなんて珍しいね! お近づきになれたの?」
「その……非常事態です。ダークが目を覚ましません」
メリッサは震え声になっていた。
「私を守るためにワールド・スピリットを暴走させました。ワールド・スピリットを切り捨てる事で消滅を免れましたが、意識が戻らないのです」
「ええ!? 神官長、どう思う!?」
リトスは両目を丸くした。
ボスコがゆったりとした足取りで近づき、ダークをまじまじと見つめる。
「ワールド・スピリットは使い手の魂と世界の源がつながって、異能が使えるようになったものだと聞いた事があります。それを捨てるのは、スカイ君の魂に大きな負担を与えたかもしれませんね」
「……助かるのでしょうか?」
メリッサが恐る恐る尋ねると、ボスコはダークの手首に三本の指を当てる。
「脈も呼吸もあります。顔色も悪くありません。生きているのは間違いありません。やれる事はやりましょう」
「ボスコ、任せていいか? 俺は北西軍の支援をしたい」
エリックが口を挟んだ。
「グレナイはどうにかすると言っていたが、苦戦しているのは間違いないはずだ」
「分かりました。リベリオン帝国のために戦ってくださり、感謝いたします」
ボスコは深々と礼をした。
エリックは頷いて、駆け出し、地面を蹴って上空へ飛び去って行った。
メリッサはエリックを見送り、溜め息を吐いた。
「ローズ・マリオネットはすごいですね。私は足を引っ張ってしまいました」
「あなたにはあなたの才能があります。スカイ君も助かっています。気を落とさないでください」
ボスコは穏やかに微笑み、ダークを肩で支える。
「ひとまず僕の部屋へ連れていきます」
メリッサは頷いて、反対側の肩を支える。
リトスがオルガンの傍の床をどかしていた。地下に続く階段は、三人で辛うじて通れる幅であった。
他の修道士や修道女は心配そうに見つめている。
ボスコの部屋は、独特の臭いがする。薬草だらけの部屋になっていた。
部屋の奥にベッドがある。ベッドにダークを寝かせて、クッションで上半身を起こすようにする。舌で気道を塞がないようにするためだ。
黒い神官服から寝間着に着替えさせる。生々しい傷跡を目にして、メリッサは涙目になった。
「こんなに傷ついてまで戦っていたのですね」
「スカイ君は頑張りすぎましたね」
ボスコは乾燥した数種類の薬草を手に取り、木製の器に入れてすりつぶす。
「念のために栄養剤を作っておきます。メリッサさんも手伝っていただけますか?」
「もちろんです!」
メリッサは勢いよく返事をした。できる事があるなら、何でもやりたい。
ボスコは薬草をすりつぶしながら、微笑んだ。
「ありがとうございます。部屋の隅に流れる水を使って、お湯を沸かしておいていただけますか?」
「はい! この薪と器を使えば良いのでしょうか?」
「大丈夫です。マッチが近くにありますので、気を付けて火をつけてください」
ボスコの指示を聞きながら、メリッサは懸命に動いた。薬草の取り出しや布の用意など、様々な事をやった。
ボスコは深々と頷いた。
「メリッサさんは優秀な方ですね。おかげさまで良い栄養剤ができました。本当に助かりました」
「私のやった事なんて微々たるものです」
メリッサは両手を合わせた。
「どうかダークの目が覚めますように」
「そうですね。お祈りも大切ですね」
ボスコは片手を胸に当てた。
「これからしばらくは、スカイ君の様子を交代しながら見守っていきましょう。顔色が著しく悪くなったり、脈がひどく弱まるなど、何かあれば僕が対処してみます。一か八かになりますけど」
「ありがとうございます、本当に頼もしいです」
メリッサはダークの手首に振れる。脈や顔色などを必死で覚えておく。変化があった時に、見逃さないようにするためだ。
ダークを見守るために、リトスを含めた多くの修道士や修道女が協力した。
忙しい事は教会も変わらない。もともと食料を地下に保存しているとはいえ、極寒の冬を相手にいくら備えてもやりすぎる事はない。
そんなせわしない教会の前に、エリックはメリッサをそっと降ろした。メリッサはダークを片手で抱えている。ダークはまだ気絶している。
エリックたちの来訪に、リトスがいち早く気が付いた。
満面の笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「あれ、メリッサ!? ダークを抱えるなんて珍しいね! お近づきになれたの?」
「その……非常事態です。ダークが目を覚ましません」
メリッサは震え声になっていた。
「私を守るためにワールド・スピリットを暴走させました。ワールド・スピリットを切り捨てる事で消滅を免れましたが、意識が戻らないのです」
「ええ!? 神官長、どう思う!?」
リトスは両目を丸くした。
ボスコがゆったりとした足取りで近づき、ダークをまじまじと見つめる。
「ワールド・スピリットは使い手の魂と世界の源がつながって、異能が使えるようになったものだと聞いた事があります。それを捨てるのは、スカイ君の魂に大きな負担を与えたかもしれませんね」
「……助かるのでしょうか?」
メリッサが恐る恐る尋ねると、ボスコはダークの手首に三本の指を当てる。
「脈も呼吸もあります。顔色も悪くありません。生きているのは間違いありません。やれる事はやりましょう」
「ボスコ、任せていいか? 俺は北西軍の支援をしたい」
エリックが口を挟んだ。
「グレナイはどうにかすると言っていたが、苦戦しているのは間違いないはずだ」
「分かりました。リベリオン帝国のために戦ってくださり、感謝いたします」
ボスコは深々と礼をした。
エリックは頷いて、駆け出し、地面を蹴って上空へ飛び去って行った。
メリッサはエリックを見送り、溜め息を吐いた。
「ローズ・マリオネットはすごいですね。私は足を引っ張ってしまいました」
「あなたにはあなたの才能があります。スカイ君も助かっています。気を落とさないでください」
ボスコは穏やかに微笑み、ダークを肩で支える。
「ひとまず僕の部屋へ連れていきます」
メリッサは頷いて、反対側の肩を支える。
リトスがオルガンの傍の床をどかしていた。地下に続く階段は、三人で辛うじて通れる幅であった。
他の修道士や修道女は心配そうに見つめている。
ボスコの部屋は、独特の臭いがする。薬草だらけの部屋になっていた。
部屋の奥にベッドがある。ベッドにダークを寝かせて、クッションで上半身を起こすようにする。舌で気道を塞がないようにするためだ。
黒い神官服から寝間着に着替えさせる。生々しい傷跡を目にして、メリッサは涙目になった。
「こんなに傷ついてまで戦っていたのですね」
「スカイ君は頑張りすぎましたね」
ボスコは乾燥した数種類の薬草を手に取り、木製の器に入れてすりつぶす。
「念のために栄養剤を作っておきます。メリッサさんも手伝っていただけますか?」
「もちろんです!」
メリッサは勢いよく返事をした。できる事があるなら、何でもやりたい。
ボスコは薬草をすりつぶしながら、微笑んだ。
「ありがとうございます。部屋の隅に流れる水を使って、お湯を沸かしておいていただけますか?」
「はい! この薪と器を使えば良いのでしょうか?」
「大丈夫です。マッチが近くにありますので、気を付けて火をつけてください」
ボスコの指示を聞きながら、メリッサは懸命に動いた。薬草の取り出しや布の用意など、様々な事をやった。
ボスコは深々と頷いた。
「メリッサさんは優秀な方ですね。おかげさまで良い栄養剤ができました。本当に助かりました」
「私のやった事なんて微々たるものです」
メリッサは両手を合わせた。
「どうかダークの目が覚めますように」
「そうですね。お祈りも大切ですね」
ボスコは片手を胸に当てた。
「これからしばらくは、スカイ君の様子を交代しながら見守っていきましょう。顔色が著しく悪くなったり、脈がひどく弱まるなど、何かあれば僕が対処してみます。一か八かになりますけど」
「ありがとうございます、本当に頼もしいです」
メリッサはダークの手首に振れる。脈や顔色などを必死で覚えておく。変化があった時に、見逃さないようにするためだ。
ダークを見守るために、リトスを含めた多くの修道士や修道女が協力した。
0
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
「愛される価値がない」と言われ続けた伯爵令嬢、無口な騎士団長に拾われて初めて「おかえり」を知る
歩人
ファンタジー
伯爵令嬢フリーダは、婚約者の子爵に「お前は愛される価値がない」と
公の場で婚約を破棄された。家族にも「お前が至らないから」と責められ、
居場所を失った彼女は、雨の中を一人で歩いていた。
声をかけたのは、"鉄面皮"と呼ばれる騎士団長グスタフだった。
「屋根がある。来い」——たった一言で、彼女を騎士団の官舎に迎え入れた。
無口で不器用な男は、毎朝スープを温め、毎晩「おかえり」と言い、
フリーダが泣くと黙って隣に座った。それだけだった。
それだけで、フリーダの凍りついた心が溶けていった。
半年後、落ちぶれた元婚約者が「やり直そう」と現れたとき、
フリーダは初めて自分の言葉で言えた。
「私にはもう、帰る場所がありますので」
これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~
黒鴉そら
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」
自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。
全然関係ない第三者がおこなっていく復讐?
そこまでざまぁ要素は強くないです。
最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる