600秒物語

ジキ・スズキ

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まずはイカの話(2)

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 イカというのは喰うモノだ。新鮮ならイカそうめんで頂きたいし、バター醤油で炒めても良い。スルメや塩辛にもなる。とにかく美味しい。そして水族館で見たのだが泳ぐ姿も美しい。クラゲも美しいが美味しさで断然勝っている。しかし、しかしだ。イカに喰われてしまうというのは、如何なものか。あのオジサンはイカに喰われるべく自ら飛び込んだ。
 イケスのイカ軍団はオジサンを食い尽くすと、ゆっくり点滅しながら水の中でたゆっている。あの激しい動きが嘘のようだ。

 イカの放つ光は赤、黃、緑の三色であった。ゆっくりの点滅は次第に早くなり、光は強くなって行くようだ。僕はオジサンに託されたとおりに見つめる事しかできなかったのだが、見つめているうちに頭がぼおっとしてきた。どうやら、この光には催眠作用があるらしい。
 僕は体がキツくなり座り込んでしまった。すると目は霞み目の前は三色の歪んだ光の洪水で一杯になった。体はキツイが頭の中では何か麻薬物質が分泌されているのだろうか、恍惚としてきた。
 
 すると何か祭囃子のような音楽が聞こえてきて、目に前にだんだん焦点が定まってくるとアニメというか、マンガというか、ツマミや駄菓子の袋に付いている雑なイカのイラストが動いていたのだ。
「やあ~、ボクはイカ太郎。君はイカを一杯食べるんだろう?食べてきたんだろう?今度はボクが君の事食べちゃおうかな~」
 絵としては、しょうもないCMでも見ているようだが、言っている事は剣呑だ。これは、いつまでもぼおっとしていたらマズイぞと。でもイカならば水に入らなければ襲って来ないだろうと、頭の冷静な部分が考えてもいる。
 
 それにしてもこのイカの下らなさは何だ。イカ太郎と名乗るそいつは変な動きで近づいて来たのだが、突然バタリと倒れた。すると頭の部分、いや確か本当は胴体の部分の真ん中辺りがプックリ膨らんで来た。
 やがていい加減膨らんだコブの頂点に小さな穴が開き、中からモグモグと口を動かしながら、中からイカに喰われたはずのオジサンが現れた。
「おや、無事だったのですか。イカに喰われてしまったと思いましたよ」
 僕はほっとした。なぜ甦ったかは分からないのだが。しかしオジサンの言葉は奇妙なものだった。
「イヤ、これはお前と話す為の仮の姿だ。音声言語を使うにはお前達人間のイメージを使用した方が上手くいくのでね。イカは集合知において初めて一つの具体的な意志を持つ。生け贄の知識を吸収して言語を得て、うるさったい自意識を押し出して来たので私が黙らせた」
 意味が分からない。話かけているのが生け贄オジサンではないとしたら、いったい誰が話かけているのだろう。私は尋ねてみた。
「あなたはいったい誰なんですか?」
 あまりに人間として違和感が無いままにオジサン(の姿をした何か)は答えた。
「私はプレアデス星団人である」

 キター!
 とんでもないヤツが遂にキター!
 
 これはアレだ。電波系の人達が本気で言っているアレだ。やれやれだ。狂ったオジサンの次はイカれたイカ太郎。そして最後は電波で宇宙人と交信するハメになるとは、世界の終わりだか何だか知らないが、一介の男子高校生には、あまりに荷が重過ぎるというものだ。勘弁して欲しい。
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