上 下
70 / 90

第六十九頁

しおりを挟む
「何もない空間」。

 さっき、頭の中で「男の声」がしたと思ったら何故かここに来ていた。

「お初にお目にかかります。私ヘラクレスと申します。」

 随分と礼儀正しい人だ・・・ヘラクレス?何処かで聞いたような名前・・・あっ、ファンタジーと言えば世界的アニメの企業の作品で見た!あの物語、面白かったな~でも、現実は、アニメとは随分と違うようで、アニメのようには可愛くない…筋骨隆々なのは、お父さんと同じ。ヒゲを蓄えているのも同じ。何で、神様ってみんな同じ格好なの?

「ゆめ!子供の姿に戻りなさい!」

 お母さんの声が響く。何故と思いながら女神バージョンから、小学4年生の格好へと変身する。

「何しに来たの!この変態ヘラクレス!まさか、また私のおっぱいを襲うつもり!」

 ヘーラーが、胸を隠しながら叫ぶと

「ちょ、ちょっと待ってくださいよヘーラー様!確かに、貴女のおっぱいは吸いました!吸いましたけど、いやらしい感情はありませんから!」

 ヘラクレスが必死で弁解している。

「何?私に女性としての魅力がないって言うの!私の身体だけが目的だったの!このゲス野郎!」

 ヘーラー・・・めんどくさい女である。

「ゆめ、この変態から離れなさい!おっぱいを吸われるわよ!」

 私は、ヘラクレスに思わず

「本当なの?」

 って聞いてしまった。

「やめてください!そんな純粋な目で私を見ないで下さい!」

 ヘラクレスが土下座している。



ヘラクレスの名誉の為に、補足しておくとヘラクレスは赤ん坊の時から常人を超えた力があった。そこにさらなる力をとヘーラーの母乳を飲んだものだから、さらにパワーアップ!そして数々の功績をあげたという神話が残っている…。決してスケベな感情でヘーラーのおっぱいを吸った訳ではない。



 ひと通り、騒ぎが収まると、ゼウスが言った。

「ヘラクレスよ、何用じゃ?儂はお前を呼んでおらんぞ?」

「ハッ!私はこのお嬢さんに呼ばれたので、ここに参った次第です!」

「ゆめに?ゆめ?何か覚えはあるか?」

「何もないけど・・・」

 ヘラクレスは、慌てて、

「勇者、勇者、と私を呼んでいたではないですか!」

「あっ、そうそう、確かに勇者の事を考えていました。」

 ヘラクレスは安堵したかのように、胸を撫でおろし精悍な顔つきに戻り言い放った!

「そういう経緯であります。ゼウス様!私が来たからには、もう安心して下さい!どのようなものでも、退治して見せましょうぞ!」

「あの、私が考えていたのは、ゲームの中の勇者の事で、ヘラクレスさんの事ではありません。」

「そ、そんなぁ~」

 ヘラクレスは膝から崩れ落ちていた。

 そんなヘラクレスを不憫に思ったのか、ゼウスが一言。

「のうヘラクレスよ、せっかく来たんじゃ、ゆめにお前の力を授けてやってはくれんかの?」

「わ、私の力をですか・・・いや、流石にそれは!」

 ヘーラーが目を釣り上げ、胸を隠しながら、一喝!

「貴方!私のおっぱいをタダで終わらせるつもりなの!乳首が取れそうな位、痛かったんだからね!」

「へ、ヘーラー様、今、その話を持ち込まれては・・・解りました。私の力を授けます!」

 私の頭に手を翳すと、「右手の甲に」紋章が刻まれた。

「これは?何?」

 ヘラクレスは微笑みながら、

「それはね、「勇者の証」だよ。今日から君も私と同じだ。小さな勇者様。」

 私の頭を撫でてくれた。その瞬間!

「ゆめ!おっぱい吸われるから、逃げなさい!」

 ヘーラーの声が響いた。

しおりを挟む

処理中です...