二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

文字の大きさ
7 / 247

7.

しおりを挟む
4歳の誕生日を迎え、親戚一同と付き合いのある貴族のものが招かれた盛大なパーティーを終えた後、再び同じように教育の施される日々。

誕生日パーティーで綺麗なドレスを着て、親戚や付き合いのある貴族たちにちやほやされたのが癖になったのか、カトリーヌはよりわがままになった。

お姫様だからこそ勉強なんてしなくていい、そんなことを本気でのたまうようになったのだ。
これがまだ教育も施されていない子供であればほほえましいながらも「それは違う」と優しく諭したことだろう。

けれど、カトリーヌはすでに初歩的なことではあるが貴婦人になるべく教育を受けている身であり、心構えとして教育や勉強、研鑽がどれほど必要なのかをその頭に叩き込まれた経験があるはずの令嬢でもある。
これには流石の父ヴァルファズルも苦言を呈した。

「これ以上勉強が嫌だ、マナーを覚えたくないというふざけたことを言うのであれば、将来は修道院に行くと覚えていなさい」

その言葉はわがまま放題と贅沢な暮らしを手放したくない気持ちの強いカトリーヌにはかなり応えたものになったのだろう。
最低限の勉強はなんとか行われるようになった。

が、このカトリーヌのわがままによる教育放棄は近くにいたメイドや侍女をはじめとした使用人たちに双子の姉妹令嬢たちの格差を付けさせるには十分なきっかけになってしまったのだ。

まだ表面化しているわけではないし、あからさまな差別をするわけではない。

けれどもそれは、使用人たちの心の中で優れた伯爵家の娘としては落第である双子の妹としての印象を強く持たせてしまった。

グウェンドリンがその前から使用人たちと仲良くなるために、庭師に声を掛けたり、厨房などへ「いつもおいしいよ」などと言いに行ったり、そんなこまめな行動をしているのも相まって、より使用人たちの中でのカトリーヌとグウェンドリンの格差は大きなものになっていく。

そんな双子たちはというと、お互いにそんなことを気にしていることはなかった。

グウェンドリンはそもそも使用人たちに気に入られる、良く思われたいと思っての行動は己の身を守るためであるし、悪い扱い自体されたくないからこそ親しみを持ってもらいたいと考えて行動に移しているだけ。
だからこそ、姉妹での格差についてはそれほど考えていなかった。

わがまま放題の妹に、使用人たちがあまり良く思わないだろうなとは考えても、主家の娘であるからこそ周りも下手なことはしないし、行動における格差も簡単には出ないだろうとも思っていた。

また、グウェンドリンは習い始めたピアノに夢中になっていたのもあった。

前世でも楽しみながら嗜んでいたピアノをもう一度弾けるというのは、彼女にとって大きな趣味の一つが戻ってきたようなもので、最初の指の動きのための練習だけでも嬉々としてやっていた。
彼女が好きな曲などは暗譜してあるのもあって覚えているし、早く難しくもお気に入りの曲が弾きたい一心で必死に練習していたのもあり、カトリーヌのことが頭の片隅にポンと放り投げられていたのである。
また、歌唱の授業も同時に受けることになったのもあって、歌のための発声練習なども欠かさずに行うことで、毎日が忙しい日々になっていた。

そしてカトリーヌはヴァイオリンを始めたものの、見事に弓を動かすことや指をどう動かすのかといった点が慣れていないのもあって挫折。

それでも最低限の教育は必ず受けさせるということで、いやいやでもやらせている。
その反動なのか、あれやこれやとわがままを言い、忙しくてなかなか会うタイミングがつかめない父に出会えるとぬいぐるみを買って、ドレスを買って、装飾品を買ってとかなり言い募っているらしい。

修道院行きの将来をほのめかされたというのに、とんでもない度胸である。
ただ、父であるヴァルファズルの方も双子の娘が必死に頑張っているのには思うところがあるようで、二人に平等に同じものを買ってその頑張りを褒めることにした。

「いつも頑張っているご褒美だ。これからも励みなさい」

そう言って渡されたのは幼児がやっと抱えられるかという大きなテディベアだった。
ふわふわとした茶色い毛並み、まん丸の手足の可愛らしい熊のぬいぐるみたちはどちらも同じ色合いだが、目の宝石の部分と首元をぐるりと回って結ばれているリボンだけが、グウェンドリンとカトリーヌ双方の色合いになっている。

「ありがとうございます!お父様!」

「…なんでグウェンドリンもなんですか?」

「どちらも頑張っているからだ。何か文句でもあるのかい?」

ヴァルファズルとしてはグウェンドリンは言わずもがな、カトリーヌも渋々であっても何とかやっているからこそ、高価なテディベアを購入して二人に渡している。
それをお礼も言わずになぜ自分だけじゃないのかと不満げにするカトリーヌに訝し気に眉をひそめた。

「い、いえ、ありがとう、ございます」

父がせっかく買ってきたのに、という不満が言外に伝わったのか、カトリーヌはそれ以上不満を漏らすことなくそっとテディベアを受け取った。



「私だけがもらえればよかったのに」

ぼそりと父に聞こえないようにつぶやくその言葉を、隣にいたグウェンドリンだけが聞いていた。

それぞれがぬいぐるみを抱いて部屋へと戻る。

子供部屋の前の廊下で渡されたものだから、後ろの扉を開けるだけでいいのだが、ふと先ほどのカトリーヌの言葉が気になってグウェンドリンはそちらを見た。

私だけがもらえればよかったのに、そういった彼女の言葉は双子の姉妹へ向けての悪意が確かにあった。
カトリーヌ本人の境遇からすれば、仕方のない事なのかもしれない。

けれど、その原因は本人の努力不足であり、本人のやる気次第でどうにでもなるものでもある。
これがストレスからくる一時的な悪口であれば、これまで同様に暇なときにたまに一緒に遊ぶくらいの事はできるかなとグウェンドリンは思って、カトリーヌを見た。

カトリーヌの表情は少し不機嫌そうだった。

自分がおねだりして、頑張った結果のご褒美をグウェンドリンも受け取ったのが気に食わなかったのか、それとも不満を漏らして父に小言を言われたのが気に食わなかったのか、その本心は彼女以外誰にもわからない。
けれど、グウェンドリンの方を見ることも無く、不満そうな顔をしてさっさと扉の向こうに消えていった。

この時、グウェンドリンは何となく思った。

遊ぶ時間はほどほどで、自分が自由に使える時間はピアノの練習や散歩などに使われて以前ほど一緒に遊ぶ機会は失われていた。

それでもタイミングが合えばどんなドレスが欲しいのか、どんな素敵な女性になりたいのかといった会話に付き合ったし、貴族の子女らしい遊びも一緒にした。

私はお姫様なの、きっと素敵な王子様が迎えに来てくれるわ。

そんなことを言っていた夢見がちな双子の妹と、今後そのような機会がほとんど設けられない。
いや、きっと





今後、彼女と道が交わる事はきっとないだろうと。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

処理中です...