二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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朝食を食べ終えたら、再び着替え。

貴族にとって着替えとはもはやルーティン。

色んな所で着替えをする。

実際子供であってもお茶会に混ぜてもらえる子供の時間には実はドレスに着替えているのだ。

まだコルセットはしていないが、ドレスだけでも結構な重たさに最初は歩くだけでも疲れ果てたのをグウェンドリンはよく覚えている。

カトリーヌは中世貴族らしさを残しつつも子供らしいデザインだが、気合を入れたパニエでしこたま膨らませ、フリルをたっぷりと使った上にリボンでところどころを飾り付けているドレスに大歓声を上げて喜んでいた。

ちなみに、グウェンドリンも似たようなドレスだったが、着る前は確かに感動していたものの、着て動き始めた瞬間にずっしりと体が重たくなったのを感じて「これを四六時中着るなんて、貴族令嬢や夫人はたくましいな」とあっさり感動が離れていった。

実際、どこかに出かける予定がなく、家でゆっくり過ごすときの母はドレスではなくワンピースのようなゆったりとした格好で過ごす。

コルセットによる苦しい思いからも、ドレスの布地の重みからも解放されるからだ。
ゆっくりしたいときまであんな重たくて苦しい思いは誰だってしたくないのだろうから、多分どこの家の夫人や令嬢も同じだと思う。

着物の様な息苦しさはないものの、布地が何枚も重なっているうえに、普通の糸よりも刺繍糸は太いものも多いし、使われる箇所も普通に縫う以上に多くなりやすいにもあって、刺繍の入っていない着物以上に重たい可能性もある。

グウェンドリンはもう少し体力ができるまでは、重たいドレスはちょっとご遠慮したかった。
むしろ、喜びの余り駆けまわれるほど元気なカトリーヌを唖然として見ていたほどだった。

そんなグウェンドリンが訓練前に着替えるのはズボンの運動着。

馬の世話と乗馬の訓練は汚れても良い簡素なワンピースに近いものだったり、そもそもズボンの着用を許可されていたので、ズボンにしていた。

乗馬は普通にワンピーススタイルでもできるので、世話の時の汚れにだけ気を付けておけばそれほど問題はなかった。

が、武術の授業は完全に運動着として使える物でなければ動けないので、これに関しては母と父が購入を決定していた。

グウェンドリンは普段ドレスが欲しい、宝石が欲しいとも言わないし、これに関しては授業のために必要な教科書や文房具と同様の扱いになる。

全く問題ないとあっさり認めてお抱えの針子を呼んで、採寸を取り、ズボンスタイルの運動着を作ってしまった。
中世ではズボンやキュロットは男性の衣装であるので、似たような価値観を持つところがあるこの不思議世界ならではの寛容さにグウェンドリンはちょっと感動している。

「それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

これから部屋の掃除や朝食を食べ終えた食器を下げる部屋付きのメイドたちに笑顔で手を振って、お付きのマーガレットを連れて部屋を出る。

部屋付きのメイドたちが満面の笑みでしずしずとお辞儀をしたのを機にマーガレットが扉を閉めたので、ちょっと重たいおなかを我慢しつつ、痛い思いと苦しい思いをすることになる訓練するために誂えた庭の一角へ向かうのであった。

そんな日々を繰り返していると、時折あるのがカトリーヌの八つ当たりの様なやっかみであった。


「どうせ、どうせ私はお姉さまみたいにできないわよ…。
お姉さまも、どうせ陰で私の事を馬鹿にしているのでしょう?」


少し涙ぐみながらもそういう風に言葉を伝えてくるあたりで、カトリーヌの魂胆が分かってきた。

最初の内は本当にわけが分からなかった。
グウェンドリンが前世を通してこうしたタイプと付き合ったことが無い、自分の思い込みであれこれ言ってくるような人と出会ったことが無いのもあるだろうが、本当にどうしてできないことを自分のせいにしてくるのかが分からなかったのだ。

出来ないというのなら必ず何か原因がある。

努力不足か、教師の説明が分かりにくいものなのか、それともそもそもそうした分野があまり得意ではないから苦手意識が強いのもあって習得しづらいのか、勉強の方法自体があっていないのか、いろんな要素があげられるだろう。

ただ、カトリーヌはそうした原因がグウェンドリンとの比較にあると思っているらしい。

そのため、グウェンドリンが自分を貶めるようなことを陰で言っていて、そのせいで自分の勉強ができないのだというカトリーヌに、最初は丁寧に接していたのだが、どう話そうとも理解してもらえないので即座に次からは多少おざなりな対応にする方へ切り替えることにしたのだ。

これに関してはグウェンドリンとカトリーヌが同じ時間に同じ部屋で同じ教育をしていないことが影響して出てきた八つ当たりの理由でもあるだろう。

本来、貴族の子供であれば子供部屋が別々であっても教師の負担を考えて年が離れていない限りは同じ部屋で教育を受けさせるのが主流だった。

もちろん、教える内容は違うものの、一緒に授業を受けている人がいれば、辛くて厳しい先生でも「自分だけじゃない」と思えるのもあるだろうし、上の子は下の子に格好悪いところを見せたくなくて頑張ろうとすることも出てくる。
逆に下の子は上の子の頑張る姿にあこがれを抱いたり、上の子を慕っているからこそ「兄や姉も頑張っているのだからもうちょっと頑張ろう」と思うような気持ちが芽生えてきたりもする。

が、この双子の場合はどちらが次期当主としてふさわしいのかをしっかりと見分けると同時に、それぞれの素養や本質はどんなものなのかを見極めるために教師と一対一の状態にし、個人授業のスタイルにしていた。

一人の状態で授業を受ける態度、自学自習に励むか否か、これらは一人でやらなければならない膨大な仕事に対しての態度、姿勢、そして領地運営のこれからを考えて自ら勉学に励むことができるのかを見るポイントだった。

だからこそ、双子の勉学の時間を分けた。

その結果が、前当主夫妻と現当主夫妻が決定した次期当主候補なのである。


ただ、双子はどちらもそんなことは知らないので、カトリーヌは令嬢らしからぬ乗馬や武術の鍛錬を義務とされた姉を可哀想に思いつつも、グウェンドリンの授業の後に自らに授業をする教師が何度も何度も違うと指摘しているのをグウェンドリンが嘲笑っているのだろうと思い込み、授業で嫌なことがあるたびに八つ当たりをしているのだ。

グウェンドリンの方はカトリーヌがそもそも努力しない妹だと分かっているので、最低限の授業を受けて身につけようとしている状態がまだ良いのだと思って、ある程度放置した。

ただ、さすがに見逃せない言葉を言われたのならばはっきりと言い返す。


「どうしてあなたの悪口なんか言わなきゃいけないの?あなたは妹なのよ?」

「だって、そうでなきゃ先生はあんな風に私にため息ついたりなんてしないわ!」

「あなたの授業の進み具合も知らないのに陰口なんて言えないわ」

「どうせ聞いてるんでしょう!?お姉さまはいつもそう!私に良くしてくださらないし、先生にあることない事吹き込んで!」


この妹は自分の都合の良いことしか聞こえない子なのだろう。
そう思ってこういった突撃とやり取りが5回目になったあたりでもう自分の身とプライドを守るための言葉以外は黙ることに決めた。

授業で厳しい事を言われるたびに、「私はお姉さまとは違うのです」「わざわざお姉さまと比べさせるようなことを言わないで」と叫ぶようになった。

そんな事実は全くないが叫ばなければやっていけない程追い詰められている可能性はある。

ストレス発散法の一つに大声を出すというのは確かにあるので、周りにあるお高そうな家具や物に当たるより、姉に当たった方が良いと何かしらの考えでもってやってきたのだろう。


「(もしくは、自分は悪くない、悪いのは姉だって周りに示すためにかな?)」


例えばであるが、双子の姉妹、または年齢が1つほどしか変わらない姉妹の幼児が二人いて、一方がもう一方に対して「お姉ちゃんが悪い!」「○○ちゃんが悪いの!!」と叫んでいるとする。

これを見た時、どう捉えるだろうか。

姉妹や二人のことを知らない人が見ると、喧嘩であったり、何か些細なことが原因で相手が悪いと言っている、もしくは本当に叫ばれている側が何か悪い事をしたのだろうかといろんな事を思い浮かべる。

近くにいて成り行きを知っているのならまだしも、何も知らずに叫んだことで二人の存在を認識して、揉めていても理由が分からない状態であるのなら何とも言えないまま、見守るしかないだろう。

しかし、この二人の事を良く知っていて、なおかつその素行に関しても良く知っている人が見たのであれば話は別。
そしてカトリーヌがグウェンドリンが悪いと一方的にあれこれをと言い放っているのは、グウェンドリンの部屋の中なのだ。

グウェンドリンお付きの侍女であるマーガレットはもちろん、部屋付きのメイド数人も、グウェンドリンの性質と絡んでくるカトリーヌの性質を良く知っている。

馬鹿なことを言っているなという冷たい目でカトリーヌを見て、蛮行に及びそうであれば即座に止めて部屋から出す決意をしているほど、良く知っているからこそ、カトリーヌがグウェンドリンを悪者にしようとする目論見はかなわない。
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