二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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7歳になると、本格的な貴族教育がスタートする。

が、グウェンドリンはすでに7歳で始まる教育の序盤部分はすでに終わらせてあるので問題ないが、問題だったのがカトリーヌだった。

カトリーヌはまだ、7歳になる前に施される教育の最低限しかマスターできていない。
本当に最低限のものしかないというわけではないが、それでも7歳になって本格的に教育を施すことになる、同じスタートラインに立っている他の子どもと比べても見劣りする。

特に、伯爵家にはグウェンドリンの存在があった。

多少苦労している部分は確かにあったが、毎日朝早くから馬の世話と馬術の訓練をして、武術の稽古もこなしてからの貴族教育を今も欠かさずに行っている努力家の娘と比較すると、なんとまあ無様なことかと。

言葉をため息に押し殺し、その溜息すら時と場合によっては封殺する必要がある周り、特にカトリーヌに近い面々はひどい有様を見るのが嫌で、視線を天井に投げることも珍しくはなかった。

けれど、7歳からの教育はどこの貴族の家柄であろうと逃げられることはできない。

これはもはや慣習であり、この7歳からの教育を始めていない家は、この国の貴族においては嘲笑の的にも等しい。

おまけに礼儀作法のなっていない子供を育てた家、または教育も満足にできない家とみなされてしまうと、いろんな取引が撤廃されるだけでなく、貴族間のやり取りすら満足に行えずに孤立して、最終的に家が廃れていってしまう。
なので、どんな家であろうと7歳からの本格的な貴族教育は行われるのである。

グウェンドリンはもちろん、カトリーヌも当然、逃げる事の出来ない教育の嵐に見舞われた。


隣の部屋からキャンキャンというような甲高い声がうっすらと聞こえてくる。

防音をしっかりとなされた部屋と、間仕切りの様に扉の付けられた廊下は子供たちの声が簡単に外へ響かないようになっているのもあって、うっすらとしか聞こえないが、もはや逃げられない教育に嫌気がさしているのだろう。

実際、グウェンドリンもちょっと嫌気が差していた。

それまでの教育も厳しいし、長いし、普通の学校の授業と違っているのもあって、なれない緊張感や現代の学校にはない厳しい叱責が普通に心を苛んでいた。

また、グウェンドリンに対しても要求が厳しくなっているところがある。

それまでは「これでよろしい」と合格をもらっていたはずが、「ここをもっと優雅に」「足の引き方をもう少し静かに」と抽象的な言葉を交えて指摘してくるようになったのもあって、長時間拘束されてくたくたである。

夕食が終わって、課題をこなして、そのあと即座に寝落ちする様な日も少なくない。

まあ、一番苦労しているのはその長時間拘束が毎日行われている先生なのだろうが。

それほど若い年齢でもないのに、毎日くたくたになるほどの指導を長時間行わなければならないので、実は現在週の半分は伯爵家に泊まっている。

そしてその多くがカトリーヌの指導日と、カトリーヌとグウェンドリンを同日に指導する日だった。

「7歳になるとこんなに違うのね」

黙々と椅子に座って刺繍をしながらグウェンドリンがぽつりと言う。
新しく授業に取り入れられたのは、ダンス、刺繍、美術といったものである。

ダンスはもちろん、刺繍や美術に関しても貴族令嬢であるのなら必須の科目。

なので、マナーや礼儀作法の授業のほか、こうしたものを徹底して仕込まれる。
中でも刺繍に関しては、上手ければ上手いほど良いとされ、嫁入りなどに関しても必須項目に数えられるものでもあった。

ただ、詰め込み教育に近いスパルタな授業でもあるので、それまではゆっくり取れていたピアノなどの趣味の時間、散歩の時間が削れ、こうした刺繍などの宿題をせっせとこなすことも増えた。

刺繍も美術も嫌いではないが、初めて行うダンスは中々難しく、姿勢の維持とステップが独特なのもあって少々苦戦気味だった。

「気を落とすことはありませんよ、お嬢様」

そう言ったのはマーガレットである。

彼女は部屋に備え付けられたソファーに座るグウェンドリンの隣に座って、グウェンドリンの刺繍を手ほどきしていた。

グウェンドリンも前世では刺繍をしたことはあるが、今生においては初めての体験になるので、まだまだ指が慣れていない。
まっすぐ縫うところから始まり、今は何とか簡単なモチーフを練習用の布に入れるところから始めているのである。


「確かに子爵家と比べるとかなり厳しい教育方針ではありますが、それでも十分にできております」


教育や礼儀作法は貴族の位によってその難易度も大きく変わってくる。

下位の貴族であればかなり複雑な式典などで必要な礼儀作法などは必要ない場合の方が多いのもあって、高位貴族程難易度は高くないこともある。

子爵家出身のマーガレットも同じようにあまり複雑な礼儀作法は覚えておらず、伯爵家に奉公に来てから覚えた作法も多かった。

ちなみに伯爵家は一応高位貴族に入るので、結構難易度が高くなる傾向にある。

この高位貴族の難易度の高さは、王族との結婚が可能であることも大いに影響しているだろう。

伯爵家まではギリギリ王族との結婚が許されているので、カトリーヌが言う通り王子様が迎えに来てくれる可能性は一応ある。

ただ、当然のことながら王族の婚約は公爵、侯爵の中から決められることがほとんどなので、伯爵家が王族の婚約者になるのは本当に最後の最後に近かったり、伯爵家が何かの功績をあげて王家がその家を繋ぎ止めたくて血筋に正当性を持たせるためだったりする。

現在、この王国、スクリングラ王国にはすでに婚約者がいる王太子殿下が学園に通っており、婚約者との関係性も非常に良好。

第二王子殿下と第一王女殿下もいらっしゃるが、それぞれがすでに婚約者がいて、婿入り先と嫁ぎ先が決まっている状態でもある。

なので、残念ながらカトリーヌは生まれた世代的にスクリングラ王家とは縁がなかった。

「あ、間違えた」

「少しほどいてやり直しましょうね」

「うーん、なかなか慣れないなあ」

シュルシュルと糸をほどいてもらって、もう一度チャレンジ。

前世でも刺繍はちょっと苦戦したが、綺麗にできた時の達成感が好きなのと、前世の母とおしゃれな服を作りたくてチャレンジしていた。

なので、今こうして苦戦しているのはちょっと懐かしくもありつつ、前世のようにできない指先にちょっとイラっとしている。

それでも、まっすぐ縫う工程をもうクリアできたのはうれしかった。

もっと複雑なものを縫えるように精進あるのみと心でもう一度言い聞かす。


「上手に縫えるようになりましたら、殿方へハンカチに刺繍を入れて送ったり、自分のウエディングドレスに刺繍を入れたりできるようになりますわよ」

「結構先の話ね、どちらにしても」

「あら、婚約者に関してはそろそろ有力な御家を旦那様がお探しになられている頃合いかと。
デビューはせずとも、自宅のお茶会だったり、親戚の小さな夜会であればちょっとずつお呼ばれされるかもしれませんもの」

この世界におけるデビュタントは地球のデビュタントの年齢である10代後半より少し早いくらいで、15歳以降に行われる。

それまでは正式に大きな夜会に招待されることはないものの、同じ年ごろの子供がいたりすれば、「良ければお子様もご一緒にどうぞ」と招待される小さな夜会やお茶会もある。

こうした小さな夜会やお茶会のほとんどは、基本的に親戚内での集まりであったり、非常に仲の良いプライベートでの友人の集まりだったりするので、子供の無礼も多少は目こぼししてくれる。

また、小さいうちから子供の交友関係をある程度築けていれば、学園に入った後も人間関係がその友人を起点としてどんどん広がっていくことも珍しくないので、7歳以降の教育がひと段落しているとこっそりと婚約者の選定をし始めたり、小さな夜会やお茶会に招待しあったりすることが結構あるのだとマーガレットや部屋付きのメイドたちは言う。
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