二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

文字の大きさ
44 / 247

44.

しおりを挟む
解散した後、屋敷に入ったヴァルファズルとグウェンドリンは執事に促された通り、まず各々が部屋に戻って荷物を置き、湯あみのために風呂に入ることになる。

その前に、グウェンドリンはマーガレットや部屋付きメイドたちに盛大に出迎えられた後、マーガレットに荷馬車に固定してある幼虫の入った箱を部屋に持ってきてほしいと伝えておいた。

「む、虫…幼虫ですか?」

「そう、その幼虫を入れている箱ともう一つ同じ空箱をここに持ってきてほしいの」

「この部屋に、ですか?」

「嫌なのは分かるのだけれど、この領地でとても重要になるかもしれない虫なの。
私が見つけたものだから、ここで大切に管理したいの」

「…わかりました、運ぶのは誰か侍従にやらせますが、構いませんか?」

「ええ、むしろ幼虫を運ばせることになってごめんなさいね。
あまり揺らさないように持ってきてくれると嬉しいわ。
それと、置いておくとしても大体1か月くらいで終わりだからそんなに長くはかからないからね」

流石に虫全般が苦手な女性へ虫の入った箱を運ばせるのは心が痛むところがあるので、グウェンドリンは侍従に運ばせるというのを拒否する事は無かった。

ただ、とても重要な幼虫になる可能性もあるので、慎重に運んでほしい旨を伝えた後で幼虫をこの部屋で面倒を見る期間に関しても大まかに伝えておく。

ずっと面倒見るわけではないと分かれば、多少はホッとできるものだ。

案の定、マーガレットや部屋付きメイドたちはホッとした顔をして胸をなでおろし、マーガレットは頼まれた箱を運ぶために部屋を出て、部屋付きメイドたちはグウェンドリンを風呂へと連れて行く。

湯あみが終わり、準備が整ったところでマーガレットが箱を部屋に持ってきた。

箱を抱えていた侍従は流石に女ばかりの子供部屋に入らせるわけにはいかないというマーガレットの判断で、部屋の前までは侍従に持ってきてもらったものの、部屋の扉を開ける前に侍従から箱を受け取ってそのまま別れたらしい。

箱の中の幼虫を見ないようにしつつ、グウェンドリンの指示通り、部屋の片隅の机の上にマーガレットが箱を置く。

蚕に直射日光は基本的にNGだが、暑くもなく寒くもない場所、乾燥しない場所で飼育するのが普通なので、この幼虫も同じように室温が程よく保たれていて直射日光の当たらない場所で飼育する。

箱を設置し終わった後、軽く幼虫の様子を確認した後、もう一つの空箱も隣に設置して、グウェンドリンは母の待っている居間へと向かう。

子供の時間ではないものの、今回は視察から戻ったことでの顔合わせも兼ねているので特別に許されている。
階段を下りて居間の扉をノックすると、扉の向こうから「どうぞ」と母の声がする。

入ればすでに身支度を整えて母と話をしていたらしい父の姿もあった。

「お母さま、先ほど戻りました」

「おかえりなさいグウェンドリン、怪我はない?危ないことも無かった?」

「はい、護衛の騎士たちがきちんと守ってくれましたし、賊の気配も特にありませんでしたから」

椅子から立ち上がってグウェンドリンの方へと急いで歩み寄ってくる母は相当心配していたらしい。

グウェンドリンをささっと椅子に座らせると、あれやこれやと心配していた旨を話すだけでなく、父から聞いていたらしき道中の話から危ないと思ったところを抜粋して聞いてくることもあった。

しかし、本当に問題なく視察が終わったという意見が父と一致していたからか、聞き出すことは聞き出して満足したころには、持ち帰ってきた幼虫の可能性の話、そしてその件に関してのこれからの話が始まった。

そしてその瞬間、グウェンドリンはあの幼虫が本当に天蚕または蚕だった場合、とんでもなく父が忙しくなると同時に自分にもいくらか仕事が舞い込んでくる可能性があるというのに初めて思い当たった。

「(しまった…!これ、下手すると私にも仕事が回ってくるのでは…!?)」

下手をすると父の仕事の一部を任されかねない状態にあるというのに気づいて、思わず内心で表情が引きつるような感覚を覚えた。

流石に両親に下手なところを見せることもできないので、表情だけはナサリー直伝の鉄仮面の如く動かしはしないが、任されるかもしれない事態に気が重くなる。

けれど父を忙しさの余り過労死させるのも嫌なので、ようやく娘と夫が戻ってきて嬉しそうな母を見ながらお茶を飲んで未来の自分に託すことにした。

明日以降の自分、頑張れ。人はそれを問題の先送りと言う。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...