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「ああ、そうだわグウェンドリン。お手紙が届いているわよ」
そう言ってフリーンがそっとグウェンドリンに手紙を差し出してくる。
封蝋も切られていないので、封を空けずにそのままにグウェンドリンに差し出してきた手紙は、シュヴァルドからのものである。
「本当、きちんとお手紙を書いてくださる方で良かったわ。
あっちの次男は手紙一つ送って来やしないもの」
フリーンの言う「あっちの次男」とは、ガウト伯爵家の次男であるグンナールのことだろうとグウェンドリンは当たりを付けた。
そしてその言葉を聞いたと同時に、ヴァルファズルが顔をしかめる。
「なんだと、まだ送ってきていないのか。普通なら候補ではあっても挨拶の手紙くらいは打診した側から出すものだろう」
「その普通を理解していないのかしらね。
本当、お付き合いを切ってしまってはどうかしら?もうあそこの家と付き合いのある夜会や茶会にはあまり行きたくないのよ」
不機嫌そうに至極当然の挨拶の手紙すら出さないグンナール、基ガウト伯爵家に対して愚痴を言う両親に、これ以上付き合うと愚痴を肯定するだけの存在になってしまいかねないな、とグウェンドリンは思ったのもあり、そっと退室を告げた。
「お父様、お母様、私シュヴァルド様への返事を書かねばなりませんので、これで失礼いたします」
「そうね、あなたの視察中に届いたからお返事をかなり待たせているでしょうから、早めに書いて送った方がいいわね。
…本当に、無事で良かったわ、グウェンドリン」
退室のために立ち上がって一礼したグウェンドリンへ立ち上がって歩み寄り、フリーンはグウェンドリンの頭を撫でる。
柔らかく、そして軽くではあるものの、しっかりと頭の形を確かめるように撫でるその手には、母としての愛情が込められている。
存分に撫でられた後、そっとグウェンドリンは居間から退室した。
グウェンドリンが退室した後は、大人の話し合いである。
フリーンはヴァルファズルへと向きなおり、視察の最中の屋敷内でのことや仕事に関しての報告を行う。
屋敷を後にする当主に変わり、仕事に関しての滞りが無いようにある程度の権限をフリーンは持たされている。
もちろん、その権限を発揮できるのは当主たるヴァルファズルが留守にしている間だけではあるが、そのための勉強もフリーンは修めているので、グウェンドリンが本格的に任せられる力量になるまではフリーンが当主不在の際の代行を務めている。
「業務に支障はありませんでしたわ。
先にあなたが自分がいなくても大丈夫なように複雑なものは終わらせてくれていましたから」
「ああ、軽く執事のジェームズから報告は受けている。
問題が起こらないように仕事はしていたが、君のおかげで更にトラブルが起こることも無かった、ありがとう」
まず最初に業務に関しての報告をし、そのあとに使用人たちの采配やその際のトラブルに関しての報告、そして最後にカトリーヌの報告をすることになる。
「そして、カトリーヌのことですが…」
「ああ、暴れて調度品を壊したそうだな」
「ええ、思わず叩いてしまいました…」
「それは仕方がない、あの子が言っても聞かない性質なのだから、止めるためにも必要だったことだろうからな。
君や使用人たちに怪我はなかったか?」
「はい、確認したところ怪我は誰もしていませんでしたが、壊された調度品が玄関ホールに近いところのものだったので、見目の良いものが壊されてしまいました」
「壊れたもののリストを後で出してくれ、新しく買わなければならないからカタログなりなんなりを取り寄せなければ」
「一応確認しましたが、どこかの家からの贈り物などではないのが救いですわね」
「これがどこかからの贈り物だったらどう詫びをすればよかったことか」
貴族の家では色んな家との付き合いがあるからこそ、折に触れて調度品だったりお酒だったり、いろんなものが贈られてくる。
調度品に関しては贈ってきた側のプライドを保つために飾ることも少なくなく、非常に良いものであれば客の目に付きやすい玄関ホールであったり、客間や居間に飾ることも珍しくない。
そして、他家からの贈り物を子供の癇癪で壊してしまったなどと言うのは、下手をすると贈り物の管理が杜撰な家だという印象を与えかねない。
特にこの家に良く訪れる貴族が贈ってきたものが壊れていた場合、その人が来た時に即座にバレ、不興を買う可能性もある。
それだけ調度品を壊されるというのは心臓に悪い行いでもあった。
「カトリーヌは後で私からも叱責しておく。他にはなかったか?」
「ええ、他は特に。報告も終わりですし、お休みになさいます?お疲れでしょう」
「いや、軽く報告書をまとめてからにしよう」
「分かりました、またひと段落したらお茶を届けさせますね」
「分かった、ありがとう」
夫婦の報告と会話もひと段落。
ヴァルファズルが居間を出るので、軽く一礼したフリーンはメイドに指示して仕事がひと段落ついたころにリラックスできるハーブブレンドのお茶を持って行くようにさせ、自分も夫人同士の付き合いの手紙を書くために居間を出た。
そう言ってフリーンがそっとグウェンドリンに手紙を差し出してくる。
封蝋も切られていないので、封を空けずにそのままにグウェンドリンに差し出してきた手紙は、シュヴァルドからのものである。
「本当、きちんとお手紙を書いてくださる方で良かったわ。
あっちの次男は手紙一つ送って来やしないもの」
フリーンの言う「あっちの次男」とは、ガウト伯爵家の次男であるグンナールのことだろうとグウェンドリンは当たりを付けた。
そしてその言葉を聞いたと同時に、ヴァルファズルが顔をしかめる。
「なんだと、まだ送ってきていないのか。普通なら候補ではあっても挨拶の手紙くらいは打診した側から出すものだろう」
「その普通を理解していないのかしらね。
本当、お付き合いを切ってしまってはどうかしら?もうあそこの家と付き合いのある夜会や茶会にはあまり行きたくないのよ」
不機嫌そうに至極当然の挨拶の手紙すら出さないグンナール、基ガウト伯爵家に対して愚痴を言う両親に、これ以上付き合うと愚痴を肯定するだけの存在になってしまいかねないな、とグウェンドリンは思ったのもあり、そっと退室を告げた。
「お父様、お母様、私シュヴァルド様への返事を書かねばなりませんので、これで失礼いたします」
「そうね、あなたの視察中に届いたからお返事をかなり待たせているでしょうから、早めに書いて送った方がいいわね。
…本当に、無事で良かったわ、グウェンドリン」
退室のために立ち上がって一礼したグウェンドリンへ立ち上がって歩み寄り、フリーンはグウェンドリンの頭を撫でる。
柔らかく、そして軽くではあるものの、しっかりと頭の形を確かめるように撫でるその手には、母としての愛情が込められている。
存分に撫でられた後、そっとグウェンドリンは居間から退室した。
グウェンドリンが退室した後は、大人の話し合いである。
フリーンはヴァルファズルへと向きなおり、視察の最中の屋敷内でのことや仕事に関しての報告を行う。
屋敷を後にする当主に変わり、仕事に関しての滞りが無いようにある程度の権限をフリーンは持たされている。
もちろん、その権限を発揮できるのは当主たるヴァルファズルが留守にしている間だけではあるが、そのための勉強もフリーンは修めているので、グウェンドリンが本格的に任せられる力量になるまではフリーンが当主不在の際の代行を務めている。
「業務に支障はありませんでしたわ。
先にあなたが自分がいなくても大丈夫なように複雑なものは終わらせてくれていましたから」
「ああ、軽く執事のジェームズから報告は受けている。
問題が起こらないように仕事はしていたが、君のおかげで更にトラブルが起こることも無かった、ありがとう」
まず最初に業務に関しての報告をし、そのあとに使用人たちの采配やその際のトラブルに関しての報告、そして最後にカトリーヌの報告をすることになる。
「そして、カトリーヌのことですが…」
「ああ、暴れて調度品を壊したそうだな」
「ええ、思わず叩いてしまいました…」
「それは仕方がない、あの子が言っても聞かない性質なのだから、止めるためにも必要だったことだろうからな。
君や使用人たちに怪我はなかったか?」
「はい、確認したところ怪我は誰もしていませんでしたが、壊された調度品が玄関ホールに近いところのものだったので、見目の良いものが壊されてしまいました」
「壊れたもののリストを後で出してくれ、新しく買わなければならないからカタログなりなんなりを取り寄せなければ」
「一応確認しましたが、どこかの家からの贈り物などではないのが救いですわね」
「これがどこかからの贈り物だったらどう詫びをすればよかったことか」
貴族の家では色んな家との付き合いがあるからこそ、折に触れて調度品だったりお酒だったり、いろんなものが贈られてくる。
調度品に関しては贈ってきた側のプライドを保つために飾ることも少なくなく、非常に良いものであれば客の目に付きやすい玄関ホールであったり、客間や居間に飾ることも珍しくない。
そして、他家からの贈り物を子供の癇癪で壊してしまったなどと言うのは、下手をすると贈り物の管理が杜撰な家だという印象を与えかねない。
特にこの家に良く訪れる貴族が贈ってきたものが壊れていた場合、その人が来た時に即座にバレ、不興を買う可能性もある。
それだけ調度品を壊されるというのは心臓に悪い行いでもあった。
「カトリーヌは後で私からも叱責しておく。他にはなかったか?」
「ええ、他は特に。報告も終わりですし、お休みになさいます?お疲れでしょう」
「いや、軽く報告書をまとめてからにしよう」
「分かりました、またひと段落したらお茶を届けさせますね」
「分かった、ありがとう」
夫婦の報告と会話もひと段落。
ヴァルファズルが居間を出るので、軽く一礼したフリーンはメイドに指示して仕事がひと段落ついたころにリラックスできるハーブブレンドのお茶を持って行くようにさせ、自分も夫人同士の付き合いの手紙を書くために居間を出た。
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