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さて、アルファズル侯爵家の尽力もあって普通の手紙のやり取りに安心しているグウェンドリンだが、まだまだ気が抜けないことがいくつも残っている。
特にあの幼虫。
延々と世話を続け、1度脱皮した後グウェンドリンが前世で知った天蚕の5齢、いわゆる幼虫の状態におけるもっとも大きな状態、繭を作ることができる形態へと成長した。
それを見た瞬間、背筋をぞわりとグウェンドリンは寒気かそれとも興奮かわからない何かが這う様な感覚を覚えた。
これは、本物なのかもしれない。
その感覚を嘘にしたくなくて、必死に世話をした。
そもそも桑の葉ではなくクヌギの葉を食べている時点で普通の蚕の可能性はグウェンドリンの中ではすでに掻き消えていた。
普通の蚕が食すのは桑の葉であり、他の葉も食べないわけではないものの栄養が足りずに満足な成長を遂げられない。
逆にクヌギの葉などを食べてきちんと成長するのは天蚕をはじめとした野生種の蚕であるので、普通の蚕の可能性はすでに消えた。
残るは野生種の蚕である可能性であるので、このまま繭を作るまでしっかりと管理しながら成長させることをグウェンドリンは強く覚悟し、決行した。
そしてその覚悟の元決行されたしっかりとした管理と世話は実を結ぶことになる。
7月上旬、緑の大きな繭が枝葉に形成され始めた。
「や、やったぁああああ!」
令嬢らしからぬ大きな歓声を上げたグウェンドリンは、その繭を形成した枝葉を見て、即座にマーガレットに「今日からもうクヌギの枝葉はいらないと庭師たちに伝えてきて頂戴」と伝えた後、現在枝についている葉に繭を形成中の緑の幼虫、天蚕を眺めながらも興奮が隠し切れない。
繭を形成し終わったら10日ほどおいてから収穫。
そして煮繭(しゃけん)を経て、生糸にしていく。
今回は繭一つなのでかなり大変かもしれないが、大事な作業なので先に10日後に小さめのもので良いので鍋とお湯を使えるかを聞いておかなければならない。
「マーガレット、10日後くらいにちっちゃい鍋と沸騰するまで沸かしたお湯が欲しいのだけれど、使えるかな?」
「はあ、使わない鍋であれば大丈夫だと思いますが…。何をなさるんですか?」
「この繭を煮るの」
「え!?」
まあ、蚕の繭を糸にするための作業を知らなければ、蛹になった虫をゆでているのと変わらないので、マーガレットの反応は普通のものだろう。
戦々恐々としながらも、「一応伝えておきます」と発言できたマーガレットはそれだけで十分良くできた侍女である。
「ああ、そうだ。お父様に10日後くらいに生糸にしますと伝えておいてくれる?」
「分かりました、お嬢様が武術のお稽古をされている時に伝えておきますね」
マーガレットにしっかりと伝言と鍋とお湯の使用の予約のようなものを伝えておき、グウェンドリンは毎日継続中の武術の稽古に向かっていく。
足取りは何だか軽く、スキップでもしそうなほどである。
武術の稽古が終わり、再び幼虫を育てている箱の中を見ると、繭が更に形成されて中に入れるように足場が組み終わり、これから形が作られている状態だった。
明日にはもう繭が完全に作られている頃だろう。
「(それにしても、本当に大きい…)」
普通の蚕は平均3cmから3.5cm程度の繭になるのだが、天蚕の場合はその倍近いくらいの大きさの繭になる。
幼虫自体がかなり大きいので、繭も当然大きくなるのだ。
そしてその分、取れる糸の量もまた多くなる。
「(楽しみだなあ…!)」
天蚕の可能性がほぼ確定状態になっているが、グウェンドリンは一つ懸念事項があった。
天蚕は普通に家で飼われる蚕とその糸の性質が全く違う。
光沢や強度は天蚕の糸の方が勝るが、実は汎用性に関しては家蚕の方がずっと上なのである。
それが、染色の難しさ。
家蚕の糸は染色することが普通にできるのに対し、天蚕の糸は染色がかなり難しい。
なので、そのまま糸にして織っていくと基本的には緑や黄緑のものがほとんど。
黄緑も白に近い色のように見えるが、光沢が薄緑なので純粋な白ではないことが良くわかる。
そのため、カラードレスなどであれば家蚕の既存のものの方が余程使いやすいので、光沢を出すために天蚕の糸を織り込んだり、刺繍で使って強い光沢のある華やかな仕上がりにするなどの考えをしておいた方が良い。
色が1色だけなので、緑のドレスを所望するのなら100%天蚕と言うとんでもなく高価な代物も作ることができるが、他の色が欲しいのであれば天蚕の糸はあまり活用されないので、難しい所である。
特にあの幼虫。
延々と世話を続け、1度脱皮した後グウェンドリンが前世で知った天蚕の5齢、いわゆる幼虫の状態におけるもっとも大きな状態、繭を作ることができる形態へと成長した。
それを見た瞬間、背筋をぞわりとグウェンドリンは寒気かそれとも興奮かわからない何かが這う様な感覚を覚えた。
これは、本物なのかもしれない。
その感覚を嘘にしたくなくて、必死に世話をした。
そもそも桑の葉ではなくクヌギの葉を食べている時点で普通の蚕の可能性はグウェンドリンの中ではすでに掻き消えていた。
普通の蚕が食すのは桑の葉であり、他の葉も食べないわけではないものの栄養が足りずに満足な成長を遂げられない。
逆にクヌギの葉などを食べてきちんと成長するのは天蚕をはじめとした野生種の蚕であるので、普通の蚕の可能性はすでに消えた。
残るは野生種の蚕である可能性であるので、このまま繭を作るまでしっかりと管理しながら成長させることをグウェンドリンは強く覚悟し、決行した。
そしてその覚悟の元決行されたしっかりとした管理と世話は実を結ぶことになる。
7月上旬、緑の大きな繭が枝葉に形成され始めた。
「や、やったぁああああ!」
令嬢らしからぬ大きな歓声を上げたグウェンドリンは、その繭を形成した枝葉を見て、即座にマーガレットに「今日からもうクヌギの枝葉はいらないと庭師たちに伝えてきて頂戴」と伝えた後、現在枝についている葉に繭を形成中の緑の幼虫、天蚕を眺めながらも興奮が隠し切れない。
繭を形成し終わったら10日ほどおいてから収穫。
そして煮繭(しゃけん)を経て、生糸にしていく。
今回は繭一つなのでかなり大変かもしれないが、大事な作業なので先に10日後に小さめのもので良いので鍋とお湯を使えるかを聞いておかなければならない。
「マーガレット、10日後くらいにちっちゃい鍋と沸騰するまで沸かしたお湯が欲しいのだけれど、使えるかな?」
「はあ、使わない鍋であれば大丈夫だと思いますが…。何をなさるんですか?」
「この繭を煮るの」
「え!?」
まあ、蚕の繭を糸にするための作業を知らなければ、蛹になった虫をゆでているのと変わらないので、マーガレットの反応は普通のものだろう。
戦々恐々としながらも、「一応伝えておきます」と発言できたマーガレットはそれだけで十分良くできた侍女である。
「ああ、そうだ。お父様に10日後くらいに生糸にしますと伝えておいてくれる?」
「分かりました、お嬢様が武術のお稽古をされている時に伝えておきますね」
マーガレットにしっかりと伝言と鍋とお湯の使用の予約のようなものを伝えておき、グウェンドリンは毎日継続中の武術の稽古に向かっていく。
足取りは何だか軽く、スキップでもしそうなほどである。
武術の稽古が終わり、再び幼虫を育てている箱の中を見ると、繭が更に形成されて中に入れるように足場が組み終わり、これから形が作られている状態だった。
明日にはもう繭が完全に作られている頃だろう。
「(それにしても、本当に大きい…)」
普通の蚕は平均3cmから3.5cm程度の繭になるのだが、天蚕の場合はその倍近いくらいの大きさの繭になる。
幼虫自体がかなり大きいので、繭も当然大きくなるのだ。
そしてその分、取れる糸の量もまた多くなる。
「(楽しみだなあ…!)」
天蚕の可能性がほぼ確定状態になっているが、グウェンドリンは一つ懸念事項があった。
天蚕は普通に家で飼われる蚕とその糸の性質が全く違う。
光沢や強度は天蚕の糸の方が勝るが、実は汎用性に関しては家蚕の方がずっと上なのである。
それが、染色の難しさ。
家蚕の糸は染色することが普通にできるのに対し、天蚕の糸は染色がかなり難しい。
なので、そのまま糸にして織っていくと基本的には緑や黄緑のものがほとんど。
黄緑も白に近い色のように見えるが、光沢が薄緑なので純粋な白ではないことが良くわかる。
そのため、カラードレスなどであれば家蚕の既存のものの方が余程使いやすいので、光沢を出すために天蚕の糸を織り込んだり、刺繍で使って強い光沢のある華やかな仕上がりにするなどの考えをしておいた方が良い。
色が1色だけなので、緑のドレスを所望するのなら100%天蚕と言うとんでもなく高価な代物も作ることができるが、他の色が欲しいのであれば天蚕の糸はあまり活用されないので、難しい所である。
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