二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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ただ、そうした署名が連なる紙を見ても、陛下は何の表情も変えない。

それどころか

「ふむ、王家が事業を認めなければこれらの貴族がそれぞれ王家に対して反発する可能性があるということか?」

と陛下は告げてくる。

そう、ヴァルファズルがアルファズル侯爵をはじめとした懇意の貴族たちに声をかけ、署名をもらったことにはこうしたリスクがある。

王家に反乱の意思があると思われる可能性だ。

今回署名を用意した貴族たちが一斉に蜂起すればとんでもないことになるだろう?だから事業を認めろ、と脅しをかけているように捉えられることだってできる。

「王家側が事業を買い取る、またはその権利を王家が保有することでこれらの家の心証が悪くなるわけだ。
特に金を稼げる事業は下手すれば王家が管理した方が良いと権利をよこせと言われる可能性があると考えれば、反発することもやぶさかではないと署名した家もあろうな」

「いえ、確かに心証が悪くなるケースも考えられますが、我々は王家、並びに国に対し忠誠を誓う家であることに変わりありません。
ですので、事業を始めることをお許しいただき、その権利を私ではなく娘のグウェンドリンに持たせることができるのであれば、こちらの書面の通りの王家側へのご配慮をさせていただきます」

そうしてヴァルファズルが再び古なじみの侍従から書面をもらい、それを国王サイドへと机の上に滑らせて渡す。

そこには権利者である事業主が自らの収入のいくらかを国に寄付する、または教会に喜捨するといったことで高額の収入を独占することを抑制できるようにしていることなどが書かれている。

更には絹の価格に関してもすでに予定価格を示しており、その価格もぼったくりと罵られるような価格ではない。
多少高額ではあるが、国内産でなおかつ普通の絹よりも希少性のある特性を持った絹になるとも思えば、適正価格だろう値段だ。

それを見れば、どれだけヴァルファズルをはじめとした伯爵家がこの事業を手放そうとしないのか、そして王国側にも配慮をして良い関係を保ったままでいたいのかというのが見えてくる。

提示できるものはすべて見せるあたり、真摯に対応しようとするのも良くわかる。

「ふん、まあこれでも譲歩した方かもしれないが、もう少しもらおうか」

「は」

「いったい何を?」

それまで話に入ってこなかったフリーンが思わず声を出すほど、陛下のもう少しもらおうという譲歩に対しての要求は驚きのものだった。

今回持ってきた譲歩案は金銭的な物以外にも、輸出に関しては王家の承認を得るなど、絹に関わるものだからこそ王家にも口を出せるようにしてある部分が存在しているほどだ。

なのにもう少し、と言うのは何をよこせと言われるのか分からなかった。

「事業開始後、1年に1度王家に絹を上納するように。そうだな、女性用ドレスが1枚作れるほどでよい」

陛下の言葉にヴァルファズルとフリーンが顔を見合わせ、そして「ありがとうございます」と揃って頭を下げた。
陛下が女性用ドレスのために絹を所望するとなれば、王妃のために他ならない。

王妃に天蚕のドレスを着させ、このスクリングラ王国発祥の絹に箔を付けてくれるということでもあった。

そして時間ということで陛下は応接室から出ていき、それを残る面子で最敬礼で見送ると、宰相のみが残るとおもむろに宰相が口を開いた。

「もともと陛下は養蚕業に関しては容認するつもりでいた」

「そうなのですか?」

「絹に関しての権利において、王家側が制しておきたいのは輸入に関してとその後の売買に関してだ。
特に輸入業においては卸売りする際に好きなだけ値を吊り上げられるのもあって、悪質な者もいたからな。
だが、今回は絹の生産が主なもので、価格に関してもすでに適正なものに落ち着ける算段も付けているのだろう。
であれば、王家が邪魔をする必要もない」

おまけに国または教会に寄付・喜捨するつもりもあるともなれば、国が危惧する一貴族への富の集中も起こらず、国庫が増えたり教会での慈善活動費が増えたりするので、むしろ王家側としては金銭的に万々歳だったし、同じように絹を輸入するしかない隣国に対して大きな顔ができるから万歳三唱に近いと宰相はあっさりと告げた。

「だからこそ、年に1度絹を上納させて王妃殿下のドレスに仕立てて箔をつけることが、もらいすぎの部分に対しての釣銭代わりなんだろう」

王妃が着たドレスの絹ともなれば、それだけで王国内での箔が着く。

王妃が気に入れば王室御用達のブランドも夢ではない。

その辺りの事も考えての陛下の要求だったのだ。

それを告げて宰相も「これで失礼する、事業の成功を祈っているぞ」と告げて応接室を出て行った。

静かに一礼し、それを見送った後、伯爵夫妻はそのまま城を出て、馬車の中でようやく二人そろってガッツポーズをした。
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