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国王陛下と宰相が部屋へ入ったのは数分後だった。
扉の向こうから、お連れの侍従だろう男が「国王陛下がお入りになります」と一声かけてくれたので、即座にソファーから立ち上がり、最敬礼した姿で陛下が入るのを待つ。
扉の開閉音が響き、中へ入ってきた足音が3つ。
一つは国王陛下、一つは宰相、そしてもう一つは付き添いの侍従のものだ。
二つの足音はヴァルファズルたちの前へとやってきたのに、もう一つは後ろに向かっているので、補佐代わりに連れてきたのかもしれない。
「楽にして良い」
「は、国王陛下に置かれましては、ご健勝で何よりでございます」
国王陛下が声をかけてくれたので、ヴァルファズルが挨拶。
フリーンはカーテシーを維持したままヴァルファズルの挨拶が終わるまで待ち、ヴァルファズルの姿勢が楽なものになったことを衣擦れの音で把握してから一拍ほど間を空けて姿勢を正した。
椅子に座るのは国王陛下が座られてからなので、陛下がソファーへ座られたのを確認し、次に宰相、そしてヴァルファズル夫妻の順で少しずつタイミングをずらしてから座る。
ソファーに座り、対面に座る国王を見ることで、年を経て白髪が混じってきたとは言っても若き頃から劣らぬと言われる輝く金髪が目に入る。
そして、弟であるソアーと同様に眼光の鋭さを感じさせる兄弟共通の深い青い目はこちらを見透かされているような感覚すら覚えた。
バルホル・イグドラ・スクリングラ。
スクリングラ王国の国王を長く勤めている、最も尊き身分にいる男。
兄弟そろって冷徹に判断すべきところはばっさりと切り捨てる勢いで判断し、政治的なものにおいて甘さを決して見せないこの二人を相手に権利を守り通すというのは相当な覚悟が必要だ。
実際、ヴァルファズルもアルファズル侯爵たちにそう言われてきた。
今でさえ、軽く握っている手が汗にまみれているような感覚すらある。
そんな一方的な緊張感を漂わせている中で、ソアー宰相が先に口を開いた。
「今回はヴォーダン伯爵の領地において、絹の生産事業に関しての申し込み、そして権利の在処をはっきりとすることと同時に、国の許可申請を願いたいということだったが」
「はい、先日お送りしたサンプルでお分かりかと思いますが、当領地において絹の生産ができる可能性が非常に高いのです。
ゆえに、国王陛下並びに王族の皆様方が率いている状態の絹に関して、当家でも生産を認めてもらいたいと思っております」
スッと後ろに控えるヴォーダン伯爵家から連れてきた、ジェームズの次に古なじみの侍従に手を出すと、侍従はさっとヴァルファズルが望んでいる書類を取り出した。
「こちらがその生産事業に関して、助力を申し出てくれた家の署名になります」
差し出された紙をまずソアー宰相が受け取り、目を通してから陛下へと渡される。
その紙に署名されている家は、その多くが伯爵家と懇意にしているところではあるものの、侯爵家の中でも歴史の古い方であるアルファズル侯爵をはじめ、王国の中でも反発されるとちょっと厄介な家が多かった。
例えばグウェンドリンの友人である、ヒルドの家であるヘリャル家。
ヘリャル家は名馬を多く産出する土地、そして酪農による製品が多く出されている領地を持つ家である。
その名馬の多くは王国の軍に対して売却されていることも多いだけでなく、優れた馬が欲しいのであればヘリャル家に打診しろとまで言われることもあるほどなので、王族や高位貴族へ馬を売却することも珍しくない。
そんなヘリャル家が王家に対して反発した場合、まず馬を王国軍へ卸す頻度や量が減少するだけでなく、王都向けに販売していた酪農製品を別の領地や隣国などに販売して、乳製品などの価格を上昇させるなんて手を打ってくる可能性がある。
とまあ、こんな風に反発されると王国の何かがちょっと困る、そんな家の署名が多く集まっていたのだ。
扉の向こうから、お連れの侍従だろう男が「国王陛下がお入りになります」と一声かけてくれたので、即座にソファーから立ち上がり、最敬礼した姿で陛下が入るのを待つ。
扉の開閉音が響き、中へ入ってきた足音が3つ。
一つは国王陛下、一つは宰相、そしてもう一つは付き添いの侍従のものだ。
二つの足音はヴァルファズルたちの前へとやってきたのに、もう一つは後ろに向かっているので、補佐代わりに連れてきたのかもしれない。
「楽にして良い」
「は、国王陛下に置かれましては、ご健勝で何よりでございます」
国王陛下が声をかけてくれたので、ヴァルファズルが挨拶。
フリーンはカーテシーを維持したままヴァルファズルの挨拶が終わるまで待ち、ヴァルファズルの姿勢が楽なものになったことを衣擦れの音で把握してから一拍ほど間を空けて姿勢を正した。
椅子に座るのは国王陛下が座られてからなので、陛下がソファーへ座られたのを確認し、次に宰相、そしてヴァルファズル夫妻の順で少しずつタイミングをずらしてから座る。
ソファーに座り、対面に座る国王を見ることで、年を経て白髪が混じってきたとは言っても若き頃から劣らぬと言われる輝く金髪が目に入る。
そして、弟であるソアーと同様に眼光の鋭さを感じさせる兄弟共通の深い青い目はこちらを見透かされているような感覚すら覚えた。
バルホル・イグドラ・スクリングラ。
スクリングラ王国の国王を長く勤めている、最も尊き身分にいる男。
兄弟そろって冷徹に判断すべきところはばっさりと切り捨てる勢いで判断し、政治的なものにおいて甘さを決して見せないこの二人を相手に権利を守り通すというのは相当な覚悟が必要だ。
実際、ヴァルファズルもアルファズル侯爵たちにそう言われてきた。
今でさえ、軽く握っている手が汗にまみれているような感覚すらある。
そんな一方的な緊張感を漂わせている中で、ソアー宰相が先に口を開いた。
「今回はヴォーダン伯爵の領地において、絹の生産事業に関しての申し込み、そして権利の在処をはっきりとすることと同時に、国の許可申請を願いたいということだったが」
「はい、先日お送りしたサンプルでお分かりかと思いますが、当領地において絹の生産ができる可能性が非常に高いのです。
ゆえに、国王陛下並びに王族の皆様方が率いている状態の絹に関して、当家でも生産を認めてもらいたいと思っております」
スッと後ろに控えるヴォーダン伯爵家から連れてきた、ジェームズの次に古なじみの侍従に手を出すと、侍従はさっとヴァルファズルが望んでいる書類を取り出した。
「こちらがその生産事業に関して、助力を申し出てくれた家の署名になります」
差し出された紙をまずソアー宰相が受け取り、目を通してから陛下へと渡される。
その紙に署名されている家は、その多くが伯爵家と懇意にしているところではあるものの、侯爵家の中でも歴史の古い方であるアルファズル侯爵をはじめ、王国の中でも反発されるとちょっと厄介な家が多かった。
例えばグウェンドリンの友人である、ヒルドの家であるヘリャル家。
ヘリャル家は名馬を多く産出する土地、そして酪農による製品が多く出されている領地を持つ家である。
その名馬の多くは王国の軍に対して売却されていることも多いだけでなく、優れた馬が欲しいのであればヘリャル家に打診しろとまで言われることもあるほどなので、王族や高位貴族へ馬を売却することも珍しくない。
そんなヘリャル家が王家に対して反発した場合、まず馬を王国軍へ卸す頻度や量が減少するだけでなく、王都向けに販売していた酪農製品を別の領地や隣国などに販売して、乳製品などの価格を上昇させるなんて手を打ってくる可能性がある。
とまあ、こんな風に反発されると王国の何かがちょっと困る、そんな家の署名が多く集まっていたのだ。
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