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その日の夕方、ゆっくりと帰ってきたらしきヴァルファズルの馬車を部屋の窓から見たグウェンドリンはいつ呼ばれるだろうと部屋の中で刺繍をしながらそわそわし始めた。
中々帰ってこないものだから、ずっと心配していたのもある。
もちろん、父が大きく出たそれが成功しているのであれば、それは確かにうれしいがそれ以上に王宮で父に何もなかったかというのが一番心配だった。
絹に関しての事業が本格稼働している、絹の実物を王家に献上し認められたのであれば、いろいろと口出ししようと父を引き留めようとしてくる者が必ず出てくるだろうから。
日が沈み始め、空の赤みがどんどん濃くなっていく、そんな時間帯にようやく父は帰ってきたので、ほっと一安心するとともに結果が気になりはじめたグウェンドリンであった。
しかし、父からの呼び出しもなく夕食も終えてしまう。
そのまま今日は何もなく終わるのだろうか、そう思って入浴の準備を始めたころに扉がコンコンとノックされる。
「失礼いたします、グウェンドリン様」
「あら、ジェームズ」
「ヴァルファズル様がお呼びです」
「分かったわ」
今日はもう呼び出される事は無いのだろうという考えの方が強かったのもあり、少しびっくりしながらも、すぐに入浴の準備を後回しにしてもらってマーガレットをお供に父のいるところへジェームズに先導してもらう。
執務室にいるかと思った父は居間にいた。
母と共にいるところを見るに、今日の報告をしながらくつろぐために居間を選んだのだろうか。
「ああ、来たかグウェンドリン」
「はい、お呼びとのことでしたので参りました」
そう伝えて両親に近づけば、まあ座りなさいと促される。
「さてグウェンドリン、王家御用達の件だが王妃殿下は非常に前向きだった。
絹に関しても色を染められないというデメリットがあっても、色味と強靭さが良いと非常に褒めておられた」
「本当ですか?!」
「ああ、恐らく近々王家御用達のブランドを付けられる事だろう」
非常に優れたもの、王家が気に入ったもの、長年愛用しているもの、そうしたものにこの国では付けられるブランドがそう簡単にやってくるとは思わなかった。
普通にこの国で広まっている商品などであればそう簡単にこのブランドが来る可能性なんてなかっただろう。
これはすべて絹であるからだ。
この国で取れなかったもの、自国で少し特殊なメリットとデメリットを併せ持つ珍しい絹であるからこそ、王家も良いかもしれないと判断したはずだ。
「…絹であったからこそ、でしょうね」
「まあ、そうだな。そうでなければまず王家御用達のブランドなんて夢のまた夢だ。
その代わり、事業に関してはかなりすんなりと進んでいただろうよ」
そう、天蚕のシルクを作り出すための事業は根回しや相談などで非常に時間を食った分、こうした王家の覚えがめでたいものである。
違うものならば王家はまず自身の気に入りの業者や事業者の方を見て、こちらには見向きもしなかった。
辛い現実がそれだ。
「まあ、王家からは認めてもらえているし、前向きな言葉ももらっている。
後はきちんと知らせが来たら、事業に携わるすべての人にそれを報告するのが目下の行動だな」
「皆喜ぶわね、グウェンドリン」
「はい、まだ始まったばかりの事業にそんな名誉が送られたともなれば困惑もあるでしょうが、それでも皆喜ぶでしょう」
クスクス笑いながら目を合わせる母子をほほえましく見た後、ヴァルファズルはさて、と言いながら席を立つ。
「最近忙しくてカトリーヌの顔を見られていなかったから、少しあの子の顔を見てくる」
そういって居間を出ていく。
そういえばカトリーヌもそろそろ入浴の時間だが、タイミングが悪くなければいいが、と思いつつもすでに居間を出ているので話すことはできなかったが、まあ、入浴後に会ってお茶するくらいは今日はできるだろう。
流石にこの後も仕事と言うのは父も疲れるだろうし、後はもうゆっくりできるように予定を組み立てているはずだ。
実際、夕食後に居間にいて母と話しているのが良い証拠。
きっとここからずっと忙しくなっていく。
そう思いながらも、グウェンドリンは母との談笑の時間をゆっくりと過ごしていた。
中々帰ってこないものだから、ずっと心配していたのもある。
もちろん、父が大きく出たそれが成功しているのであれば、それは確かにうれしいがそれ以上に王宮で父に何もなかったかというのが一番心配だった。
絹に関しての事業が本格稼働している、絹の実物を王家に献上し認められたのであれば、いろいろと口出ししようと父を引き留めようとしてくる者が必ず出てくるだろうから。
日が沈み始め、空の赤みがどんどん濃くなっていく、そんな時間帯にようやく父は帰ってきたので、ほっと一安心するとともに結果が気になりはじめたグウェンドリンであった。
しかし、父からの呼び出しもなく夕食も終えてしまう。
そのまま今日は何もなく終わるのだろうか、そう思って入浴の準備を始めたころに扉がコンコンとノックされる。
「失礼いたします、グウェンドリン様」
「あら、ジェームズ」
「ヴァルファズル様がお呼びです」
「分かったわ」
今日はもう呼び出される事は無いのだろうという考えの方が強かったのもあり、少しびっくりしながらも、すぐに入浴の準備を後回しにしてもらってマーガレットをお供に父のいるところへジェームズに先導してもらう。
執務室にいるかと思った父は居間にいた。
母と共にいるところを見るに、今日の報告をしながらくつろぐために居間を選んだのだろうか。
「ああ、来たかグウェンドリン」
「はい、お呼びとのことでしたので参りました」
そう伝えて両親に近づけば、まあ座りなさいと促される。
「さてグウェンドリン、王家御用達の件だが王妃殿下は非常に前向きだった。
絹に関しても色を染められないというデメリットがあっても、色味と強靭さが良いと非常に褒めておられた」
「本当ですか?!」
「ああ、恐らく近々王家御用達のブランドを付けられる事だろう」
非常に優れたもの、王家が気に入ったもの、長年愛用しているもの、そうしたものにこの国では付けられるブランドがそう簡単にやってくるとは思わなかった。
普通にこの国で広まっている商品などであればそう簡単にこのブランドが来る可能性なんてなかっただろう。
これはすべて絹であるからだ。
この国で取れなかったもの、自国で少し特殊なメリットとデメリットを併せ持つ珍しい絹であるからこそ、王家も良いかもしれないと判断したはずだ。
「…絹であったからこそ、でしょうね」
「まあ、そうだな。そうでなければまず王家御用達のブランドなんて夢のまた夢だ。
その代わり、事業に関してはかなりすんなりと進んでいただろうよ」
そう、天蚕のシルクを作り出すための事業は根回しや相談などで非常に時間を食った分、こうした王家の覚えがめでたいものである。
違うものならば王家はまず自身の気に入りの業者や事業者の方を見て、こちらには見向きもしなかった。
辛い現実がそれだ。
「まあ、王家からは認めてもらえているし、前向きな言葉ももらっている。
後はきちんと知らせが来たら、事業に携わるすべての人にそれを報告するのが目下の行動だな」
「皆喜ぶわね、グウェンドリン」
「はい、まだ始まったばかりの事業にそんな名誉が送られたともなれば困惑もあるでしょうが、それでも皆喜ぶでしょう」
クスクス笑いながら目を合わせる母子をほほえましく見た後、ヴァルファズルはさて、と言いながら席を立つ。
「最近忙しくてカトリーヌの顔を見られていなかったから、少しあの子の顔を見てくる」
そういって居間を出ていく。
そういえばカトリーヌもそろそろ入浴の時間だが、タイミングが悪くなければいいが、と思いつつもすでに居間を出ているので話すことはできなかったが、まあ、入浴後に会ってお茶するくらいは今日はできるだろう。
流石にこの後も仕事と言うのは父も疲れるだろうし、後はもうゆっくりできるように予定を組み立てているはずだ。
実際、夕食後に居間にいて母と話しているのが良い証拠。
きっとここからずっと忙しくなっていく。
そう思いながらも、グウェンドリンは母との談笑の時間をゆっくりと過ごしていた。
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