二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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「嫌よ!嫌!」

ガチャンガチャンと部屋の中で陶器の花瓶やガラス細工の小物が宙を舞い、壁に激突して甲高い悲鳴に合わせるようにして盛大な破壊音と共に砕け散る。

荒れ果てた部屋の中で泣きわめきながらとにかく拒否の姿勢を崩さず、部屋の入口にいる父親に対して物を投げつけようとしているのは、赤い髪が特徴的な令嬢、グラニアである。

「いい加減にしろ!もともとはお前がやらかしたことだろうが!」

そう、エリマック侯爵家の財政難はもとはと言えばグラニアが使用人の女が知らないことを良いことに勝手にドレスを注文したことから始まっている。

それまでは自然災害などが数年に一度あるか無いかの頻度で起きるので、そのための貯蓄もしっかりできていたため、それほど財政的に困る事はなかった。

しかし、グラニアが勝手に高価も高価、相応の家だとしても支払いに躊躇する様なオプション付きのドレスを勝手に発注したのが始まりだった。

その後おとなしくなったと思いきや、今回のトラブル。

まだエリマック侯爵家の権力が及ぶ範囲であれば何とかなったが、王家の耳に届くものともなればもはやエリマック侯爵家はグラニアを庇うことが難しい。

更にふっかけられた慰謝料なども非常に痛い。

金銭的にも周りからの評価的にも追い詰められている現状、どうにか今の地位に踏みとどまるためには、グラニアを他所へやりつつ国に貢献できる世にしなければならない。

であれば、一番効果的なのが他国との婚姻にグラニアを選出するということ。

今回の騒ぎの一件でそれほど良いところには嫁げないとしても、それは自業自得と言うことで納得するしかないだろう。

しかし、グラニアはエリマック侯爵が王家に頭を深く下げてどうにかもらうことができた婚姻話にこれでもかと顔を青ざめさせてひどく拒否したのである。

それもそうだ。

お相手が醜く肥え太っているうえに第四王子ともなれば、自分のような身分の令嬢が嫁ぐ相手には微妙な相手だと思ってしまうだろう。

本来、第四王子ともなれば他国への婿入りや国内の貴族家に婿入り、または臣籍降下して家を興すことが検討される身分だ。

いまだに王家のすねをかじるようにして王宮にとどまる下の方の王子というだけでも侯爵家の一人娘なら少々顔をしかめるのに、お相手がこれでは強い拒否の姿勢を取っても仕方がない。

けれど、この国は絹の輸入に必ず必要な国であるため、相応の友好関係を築かなければならない相手だ。

これまでは関税などの緩和だったり、相手側が必要になる食料などの融通で手を打ってきたものの、今回うってつけの令嬢がいるのなら婚姻の方がよほど強い結びつきにつながると王家や大臣たちが考えるのは当然だ。

「嫌よ、嫌、いやぁ…」

とうとう泣き崩れたグラニアだが、それでも婚姻話は止まる事はない。

むしろ、エリマック侯爵としては行ってもらわなければ困るのだ。

王家からは婚姻を条件にお金を援助してもらう約束になっているし、何よりもグラニアがいると家にとってのデメリットが大きすぎた。

跡取りの息子は婚約解消。

現在なんとか縁戚の娘との婚約を整えようとしているが、相手方はグラニアがいるなら受け入れられないとまで強気で発言してきた。

グラニアがまた何かしでかせば、己の娘にも害が及ぶと考えれば相手方の気持ちも分からなくもない。

とにかく婚約したいならグラニアを家から出さなければならなかったのだ。

結局、嫌だ嫌だと言いながらも侯爵家からこっそりと抜け出して逃げるような度胸もなく、さっさと出家する様な決断もできなかったグラニアは逃げるチャンスを日ごとに失い、逃亡を恐れたエリマック侯爵が警備と監視の人間を大勢配置したその時、「早く逃げればよかった」と後悔して叶わなかったこの国での平穏な貴族夫人としての生活に思いを馳せ、心が死んだようにぼうっとして過ごすだけになってしまった。

グラニアがパルミューラ王国へ嫁ぐことで援助された非常に大きい額の金銭でもってエリマック侯爵は慰謝料をヴォーダン伯爵家とアルファズル侯爵家にそれぞれ何とか払い終えたのは月末。

そしてその1週間後、パルミューラ王国での婚姻の1か月前にグラニアはスクリングラ王国を船に乗って後にしたのであった。
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