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タウンハウスに戻って母に一応相談してみたものの、影口についてとその結果カトリーヌが不調になる可能性に関しても放っておいていいということだった。
「この程度の事を乗り越えられないのであれば、カトリーヌは貴族社会が合わないということです。
誓約書の内容のように家から放逐した方が良いでしょう」
とのこと。
最早母は誓約書の件があってからカトリーヌに対して冷淡であることを隠しもしない。
どうせまたやるだろうと考えているからこその冷たさもある。
そうして放っておいたところ、約1か月後、春の暖かさが夏の暑さを少し含み始めたころ合いに、カトリーヌの影口は本格化し始めたのか、それまで婚約者に関してのことでうろたえていたカトリーヌはどんどん元気がなくなっていく。
とはいえ、元気がないのは影口を聞いたその時だけで、それ以外はまだ話せる友人たちも多いので元気いっぱいである。
ただやっぱり彼女は誓約書の件が重くのしかかっているので、どこか緊張しっぱなしの一か月であった。
その頃、グウェンドリンの方もちょっとしたトラブルがあった。
トラブルがあったのは天蚕事業の方で、今では伯爵領内においてもかなり大きな事業として、ノルニルの村周辺を中心として展開され、寮や社宅などもいくつか作っていることも相まって、村周辺が大きな町のようになっていた。
日用品などを店舗に卸す商人が多く集まり、そしてもちろん肉体労働などは相応に辛いものの、それに見合う待遇がいまだに多くの人間が就職希望でやってくることもある。
そしてその就職希望にスパイがいるのもよくあることだ。
グウェンドリンの所も新規の募集をかけると他の貴族から探られることがあるのでしっかりと身元調査をするものの、それでも入ってくることは入ってくる。
ちなみに今回で実は3回目の発覚だった。
「……商会からのスパイ(仮)?になるのかしらね?」
タウンハウスでの自室でマーガレットにお茶を淹れてもらいながら、現在運営を任せている社長的立場の人間からの手紙を読んでみると、どうやらスパイが紛れ込んでいたらしいものの、実家の商会と違ってあまりにも働きやすいのでこのままここで雇ってくださいと泣きつかれているという不思議なことになっているらしい。
書類なども統一されていて見やすいし、給与から天引きされるとは言ってもしっかりとした量の社食がほぼ三食しっかり食べられる。
社食の気分じゃない時だったり、朝晩は家族で食事を摂るといった時もある人もいるので、食べた分だけ天引きのシステムは経理と管理が大変だが利用する人間としては嬉しいものだ。
更に、独身寮や社宅は木造ではあるものの非常に綺麗で、独身寮はそれぞれに共用スペースの掃除などをきちんとしてくれる掃除婦付き。
幼い子供がいるところは自分がいなくてもしっかりと預けて教育を受けさせてもらえる安心感もあって「一生ここで働きます!」と宣言する人間がいるほどだった。
そんな非常に働きやすい、福利厚生もしっかりとした職場で働いたスパイたちが、比較してみれば非常に悪いとしか言いようのない元居た職場に戻りたいと思うのか。
否。
戻りたくない、ずっとここで働かせてくれと泣きわめくのもこれで3回目なのである。
最初はスパイ発覚ということで非常に慌てたものの、スパイ当事者の泣きわめく様を見てスン…と心と体が落ち着いていた。
「どうしようかしらね?商会となるとそうやすやす切り捨てることも無いでしょうし」
これまで発覚していたスパイたちは、みな貴族の子飼いの末端も末端。
金で雇われて使い捨てにされるような身分の者たちばかりで、働きやすさと気に食わない貴族に頭ごなしに怒鳴られるような生活から解放される可能性もあるということもあってあっさりと正式に就職することになっていた。
元々よく働いてくれていたし、スパイしようにも金で雇われた破落戸に近い彼らは何をどう伝えたらいいのか分からないものも多かったのもあり、報告書がほぼ日記みたいになっていたことで本当にスパイに来たのか分からないようなありさまだったのもある。
夏休みの宿題に出された絵日記かと言わんばかりの内容に検閲した面々は苦笑いを禁じえなかった。
よくこいつらスパイですなんて言えたな…と表情が語っていた。
しかし、商会の場合はちょっと違う。
書類の何を見るべきかをある程度把握しているだろうし、養蚕の作業に関しても意味は分からなくてもしっかりと流れを把握することくらいはできる。
メモをして、それを手紙にするくらいには簡単だ。
が、そんな商会のスパイもこのありさまだった。
「(この世界に働きやすいホワイト系の企業ってあんまりないんだなあ…)」
自分がやりすぎなくらいにホワイトにしている自覚のないグウェンドリンの内心の言葉がこれであった。
「この程度の事を乗り越えられないのであれば、カトリーヌは貴族社会が合わないということです。
誓約書の内容のように家から放逐した方が良いでしょう」
とのこと。
最早母は誓約書の件があってからカトリーヌに対して冷淡であることを隠しもしない。
どうせまたやるだろうと考えているからこその冷たさもある。
そうして放っておいたところ、約1か月後、春の暖かさが夏の暑さを少し含み始めたころ合いに、カトリーヌの影口は本格化し始めたのか、それまで婚約者に関してのことでうろたえていたカトリーヌはどんどん元気がなくなっていく。
とはいえ、元気がないのは影口を聞いたその時だけで、それ以外はまだ話せる友人たちも多いので元気いっぱいである。
ただやっぱり彼女は誓約書の件が重くのしかかっているので、どこか緊張しっぱなしの一か月であった。
その頃、グウェンドリンの方もちょっとしたトラブルがあった。
トラブルがあったのは天蚕事業の方で、今では伯爵領内においてもかなり大きな事業として、ノルニルの村周辺を中心として展開され、寮や社宅などもいくつか作っていることも相まって、村周辺が大きな町のようになっていた。
日用品などを店舗に卸す商人が多く集まり、そしてもちろん肉体労働などは相応に辛いものの、それに見合う待遇がいまだに多くの人間が就職希望でやってくることもある。
そしてその就職希望にスパイがいるのもよくあることだ。
グウェンドリンの所も新規の募集をかけると他の貴族から探られることがあるのでしっかりと身元調査をするものの、それでも入ってくることは入ってくる。
ちなみに今回で実は3回目の発覚だった。
「……商会からのスパイ(仮)?になるのかしらね?」
タウンハウスでの自室でマーガレットにお茶を淹れてもらいながら、現在運営を任せている社長的立場の人間からの手紙を読んでみると、どうやらスパイが紛れ込んでいたらしいものの、実家の商会と違ってあまりにも働きやすいのでこのままここで雇ってくださいと泣きつかれているという不思議なことになっているらしい。
書類なども統一されていて見やすいし、給与から天引きされるとは言ってもしっかりとした量の社食がほぼ三食しっかり食べられる。
社食の気分じゃない時だったり、朝晩は家族で食事を摂るといった時もある人もいるので、食べた分だけ天引きのシステムは経理と管理が大変だが利用する人間としては嬉しいものだ。
更に、独身寮や社宅は木造ではあるものの非常に綺麗で、独身寮はそれぞれに共用スペースの掃除などをきちんとしてくれる掃除婦付き。
幼い子供がいるところは自分がいなくてもしっかりと預けて教育を受けさせてもらえる安心感もあって「一生ここで働きます!」と宣言する人間がいるほどだった。
そんな非常に働きやすい、福利厚生もしっかりとした職場で働いたスパイたちが、比較してみれば非常に悪いとしか言いようのない元居た職場に戻りたいと思うのか。
否。
戻りたくない、ずっとここで働かせてくれと泣きわめくのもこれで3回目なのである。
最初はスパイ発覚ということで非常に慌てたものの、スパイ当事者の泣きわめく様を見てスン…と心と体が落ち着いていた。
「どうしようかしらね?商会となるとそうやすやす切り捨てることも無いでしょうし」
これまで発覚していたスパイたちは、みな貴族の子飼いの末端も末端。
金で雇われて使い捨てにされるような身分の者たちばかりで、働きやすさと気に食わない貴族に頭ごなしに怒鳴られるような生活から解放される可能性もあるということもあってあっさりと正式に就職することになっていた。
元々よく働いてくれていたし、スパイしようにも金で雇われた破落戸に近い彼らは何をどう伝えたらいいのか分からないものも多かったのもあり、報告書がほぼ日記みたいになっていたことで本当にスパイに来たのか分からないようなありさまだったのもある。
夏休みの宿題に出された絵日記かと言わんばかりの内容に検閲した面々は苦笑いを禁じえなかった。
よくこいつらスパイですなんて言えたな…と表情が語っていた。
しかし、商会の場合はちょっと違う。
書類の何を見るべきかをある程度把握しているだろうし、養蚕の作業に関しても意味は分からなくてもしっかりと流れを把握することくらいはできる。
メモをして、それを手紙にするくらいには簡単だ。
が、そんな商会のスパイもこのありさまだった。
「(この世界に働きやすいホワイト系の企業ってあんまりないんだなあ…)」
自分がやりすぎなくらいにホワイトにしている自覚のないグウェンドリンの内心の言葉がこれであった。
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