僕の親友は超絶ハイパーイケメン(?)双子!

AZURE

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♫♫♫


 「おーい、聖と兄貴、こっちだって!」
 それから1ヶ月と少しが経った頃。僕は再び双子を引き連れて、『MAESTRO 神楽坂』を訪れていた。
 (ちなみに、のちに知ったのだけれど、『MAESTRO 神楽坂』はリサイクルショップではなく、正しくはレコード買取販売店なのだそうだ)

 会場のある建物の前に到着すると、眠そうな双子の兄・耀と、寝ながら歩いている双子の弟・聖は、揃って「ふぁい…?」と力の抜けた返事をして、赤ビルを見上げた。聖なんか、鼻ちょうちんが付いている。まったく、お母さんは超絶美人で女神で素敵な演奏家なのに、その息子たちがこんな体たらくだなんて、本当に色んな意味で信じられナイ。
 「…着いたぞ。ここからは気を引き締め直して」
 「ふぁあい…、」
 「ほらそこ、欠伸しない! 連日演奏の本番が続いて寝不足だからって、お店の人とお客さんには絶対見せるなよ」
 「もちろんわかってるよ…」
 そう言いながら、聖は頬っぺたを両手でパンパン叩いて眠気を覚ましていた。


 今日ここを訪れた理由は、何を隠そう、この双子のデュオリサイタルが開催されるためだ。実はあのあと、双子の演奏を気に入った白砂さんがお店のオーナーさんに話を通し、あれよあれよという間に演奏会の企画が立ってしまったのだ。


 ちなみにチケットは一人5,000円。ワンドリンクと軽食付きとは言え、高校生にしてはかなり強気な価格設定だと思う。そんなロックな金額を提示された時は、本当にこのオーナーさん(東雲しののめさんというらしい)大丈夫かと疑った。
 (でもきっとそれは、キング・オブ・ロックンロールだからなんだよな…!)

 で、それはいいとして、なぜ僕が彼らの演奏会についてきているかと言うと。もちろん観客として来たわけではない。こうして彼らの引率&現場の手伝いをするのと、演奏中に聖の楽譜をめくってやる「譜めくりスト」をするのと、あとはなんと言ってもベーゼンドルファー様にお会いするためだ。聖の譜めくりをすると言えば、必然的に演奏者と同じくらいの位置でその勇姿を拝むことが出来る。こんなに幸せなことはない。
 それに、僕もいつか、ここでリサイタルさせてもらえるようにアピールしたいという、そんな下心もあるのだ(この理由が一番大きい)。
 …この双子だけだったら僕は絶対ついていかない。

 寝坊助ねぼすけな双子もさすがは音楽家の血筋らしく、あらかじめ指定されていたお店の裏口をくぐれば、兄も弟もいっぱしのプロのように顔つきがシャキッとしていた。しかし、洒落た店内を突き進むにつれて、どうしてなのか、彼らの様相が少しずつおかしくなっていく。ふたりとも頬が固く引き締まっていて、聖なんか、麻薬を嗅ぎ取った警察犬みたいな顔をしている。
 (ん…なんだ? デュオでは初のリサイタルだから緊張してるのか…?)

 さらに、その異変は続いた。店の奥のさらに奥側の、レコードで埋め尽くされた控室に案内された時のことだった。僕がこのお店で最初に声を掛けた背の高いスタッフ──名前は多聞たもんさんというらしい──が、双子の兄貴の方に声をかけると、僕の隣にいた聖は、その様子をじいっと心配そうに見つめている。
 (……んん? なんだ?)
 場内は何故かピリついた空気が張り詰めている。しかし、羨ましいくらい身長のある多聞さんが慌ててその場を立ち去ると、不穏な空気はふっと立ち消えた。
 (──…え、何かあったのか??)
 しかし、それから演奏会が終わるまでは、特にこれと言った事件は何も起こらなかった。


 ──演奏会は大盛況だった。ふたりの息が合うことは当たり前のこと、聖も兄貴も驚くほど度胸があって本番には強いし、巧みなテクニックで場を盛り立て、場内にいる人間の注意を全て自分たちに惹きつけまくっていた。舞台からそっと観客を盗み見してみたら、その場にいた人は皆、口を半開きにして、彼らの演奏に心を奪われていた。
 さらにはあの美形だ。なんだよ、北欧ハーフの父ちゃんと日本人美女のお母さまとのご子息(×2)って。燕尾服やスーツは似合いすぎるし、普段へなちょこなはずの聖も、演奏するとなったらデッカいベーゼンドルファー様に引けをとらないくらいカッコいい。
 …まじで羨ましすぎる。

 とにかく、双子にとって初めてのデュオリサイタルは大成功に終わって、満席の場内は演奏後も熱気に包まれていた。集まった客たちは、皆双子にひと声掛けようとして、長蛇の列を作っている(余談だが、よくよくその列を観察してみれば、何故か老若男女中の『若い男』の割合が多かった)。特に、常連客と思しき派手な女性客二人組は、キャーキャーと黄色い嬌声をあげ、双子をアイドルのように扱い、写真やサインを求めてなかなか帰らなかったくらいだ。


 「……はぁ、今日すごかったな。お疲れさま」
 お客さんも引いて、挨拶もひととおり終え、僕はそう声を掛けながら双子をレコード部屋兼控室に戻した。彼らは一仕事終えた開放感からか、子犬や子猫のようにじゃれ合い、上気した顔で「この後何食べる?」だなんて話している。
 …僕はというと、彼らがステージ衣装から私服に着替えをしている間に、舞台や客席の片付けを粛々と手伝った。
 (……いつかは、僕も、ベーゼンドルファー様と──)
 こうやって、オーナーさんやお店の人に率先して働く姿を見せてアピールするのも大事だ。いつかの将来のためにも、いい印象をつけておこう。


 さて、ここで、双子の様子がおかしかった理由が判明した。僕が舞台の機材を撤去していると、一足先に着替えを終え、黒いジーンズとシャツに着替えた聖が控室から出てきた。彼は僕らの片付けを手伝おうとしたのだろう、足早にこちらへ近づくと、慣れた手つきでピアノをしまい始めた。
 グランドピアノの蓋という蓋を全て閉め終わる頃、友人は、どこからかやってきた多聞さんに呼び止められていた。

 「…なんですか?」
 「あの、あの、帰る前にですね、チケットの売上代金を必ず受け取りに来てくださいって、白砂サンから伝言です」
 「はい、ありがとうございます。必ず伺います」
 多聞さんと聖の会話は、至極業務的な内容だった。しかし、多聞さんは何故かぶるぶると震えだし、真っ青になってそそくさと逃げていった。
 (……はぁ? なんだ──!?)

 明らかに何かがおかしい。
 何があったのか調べようと、僕は聖に駆け寄った。

 ──友人に声を掛けようとした、その時。




 …じー。


 右半身に、熱く妬けつくような視線が容赦なく突き刺さってきた。
 (なになになに…っ!)
 その火の出どころと思われる方向を振り向けば、舞台の隅の通路からひょっこり頭を覗かせ、威嚇する猫のような形相でこちらや多聞さんが遁走した方角を交互に睨んでいる双子の兄貴がいるではないか。

 (は…っ! さては……っ!!)
 あの不貞腐ふてくされたような、兄貴のなんとも言えない表情。この双子は、双子であると同時に、で恋をしている。
 (と、いうことは…まさか…) 

 ……そこで僕は、状況をあらかた理解した。
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