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 「…なにお店の人にガン飛ばしてんだよ!!」
 帰り道、僕は双子の耀と聖にゲンコツして、お説教をした。当たり前のことを言われているはずなのに、ふたりはなぜか不服そうに口をとがらせている。

 「だってあいつ聖に気があるカンジだったんだもん」
 「…違うね。あの人絶対耀に近づこうとしてたよ」
 彼らは口々にそう言うと、そこでまた兄弟(痴話)喧嘩が始まった。本当にこのふたりは仲がいいのか悪いのか。らぶらぶなことも多いけど、それと同じくらい些細なことで言い争っている気がする。
 それにしても、その会話があまりにもくだらなさすぎて、これがステージの上でキラッキラしていた人間とは同一人物とは思えない。お客さんがこれを見たら間違いなく幻滅するんじゃないだろうか。

 「……はいはい、ケンカはやめて。多聞さん、僕らにめちゃくちゃ良くしてくれたいい人なのに。きっと次もまたあそこで演奏会するんだし、本当、だめだからね、ああいうの」
 くだらなさがヒートアップし、いい加減聞いているのも飽きてきて、僕は頃合いを見て仲裁に入った。兄貴の耀はゲンコツされたのが相当効いたのか、幾分子どもっぽく憤慨した。
 「うるさいな。お前に何が分かるんだよっ!」
 「いや、分からないけど。……でも、次同じことやったら怒るからね。その時は君の伴奏を僕に変えちゃうから」

 彼は、その美しい顔を怒りに歪め、こちらをキッと睨みつけた。僕はそれをはいはい、と受け流し、今度はそっぽを向いて黙ってる聖の肩を叩く。
 「ほら、聖も。いいから早く飯行こうぜ? イライラしてるのは腹減ってるからだよ。まぁもちろん、今日の売り上げた分から、バイト代として僕の飯代出してもらうけどなっ」

 僕は(腹ペコで)不機嫌な小動物2匹の襟首を掴み、ずるずると引っ張るようにして焼肉屋に向かった。案の定、ご飯にありついて満腹になったふたりは、すっかりご機嫌が直り、帰宅する頃には言い争っていたことなどとうに忘れていちゃいちゃしていた。

 (ふー、何とか丸く収まったか)
 ……こうして今日も、僕は双子の子守りをする。
 なんだかんだ、この先も、このふたりの世話をすることになるのだろう。未来のことは分からないけれど、今はそんな予感がしている。
 この双子は難ありだけど、憎めない。
 一生付き合っていくことになっても、構わない。



 え、どうしてそんな覚悟をしようとしているのかって?



 そんなの、この子たちがお行儀良くしてくれなければ、僕があのベーゼン様にお会いできなくなってしまうからに決まっているじゃないか。




(了)
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