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赤と緑の錬金術

赤と緑の錬金術1

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-伊国-

外では汽笛が鳴って、煙に包まれている。ガタガタという雑音と共に汽車は発車した。部屋では、窓からするりと鳩が入った。1通の手紙を落として、また外へ出ていった。

真紅のローブを身に纏って、ビーカーの中の濃厚な液体をストローで混ぜていた。1部刈り上げた髪を触り、うーむ と唸っていた。彼の名前はアド。
火のついていない暖炉にボトッという音を立てて何かが落ちてきた。煙突から入った鳩だ。アドは鳩を拾い、撫でてやった。
「まぁた錬金ですか。」鳩は言った。アドは微笑み、「ああ」と答えた。鳩は姿を変えたんだ。うねうねと蠢き、やがて人へと。人は、空色のローブを翻し、アドの方を向いた。
「先生は一体誰宛のお手紙を送っていらっしゃるの。毎日海の向こうまでいくのは流石に骨を殺してるものでさ。」人は尋ねた。
「会いたい人が居るんだ。会えないんだ。だからさ。まだマッディには分からない」ふん、とマッディは踵を返して部屋を出た。部屋の外はそのまま街だ。一部屋の家なのだ。外は大賑わいで、何やら人だかりもあった。「めんどくせぇ」マッディは鳩になった。空を斬り、一気に雲の前まで上がった。
「ちっ、泥の雨だ!」刹那、雲の中からボツ、ボツと汚れた雨が降ったんだ。マッディはふらふらと地上に近付いていった。アドが窓の中から「マッディって名前にぴったりだ!」と大きく笑っているのが見えて、マッディはそのまま人に戻って、街の中に疲れたように倒れ込んだ。アドが窓から身を乗り出して、先程から作っていた緑のどろっとした液体を街の地面に一滴垂らしたんだ。するとさ、地面はみるみる黄緑の綺麗な色に光って、その黄緑色といえば雨まで伝わって言ったんだ。その瞬間、雨は弾けて止んだんだ。
「素晴らしくないかい?錬金ってもんは。」アドはマッディに喋りかけた。
「素晴らしくなんてないさ、錬金は。ただ、先生が楽しそうに錬金してるから、先生が凄いから、もしかしたら少しは素晴らしいのかもしれないね。」マッディは泥に濡れたまま、街を歩き出した。
さて、流石にふらついてきたマッディは、街のベンチで咳込んでいたんだ。なんてったって喘息持ちで、アドにいつも薬を貰ってた。ポケットの中に入れてたほんの少しの小銭を握って、そこの煙草屋の隣の飲料自動販売機に向かった。少し値段の高いスポーツドリンクを買って、煙草屋の前を通り掛かった時に、店の中に居た人が、「病人は帰りな、ここは煙草屋だ。咳込んでもアタシのせいじゃないんだから」と叫んでいた気がした。
「主人が帰ってきたら、俺、すぐ風呂に入れてもらおう……」ふらつきながらマッディは鳩に変わって、自分の家に帰った。
家に帰っても迎えてくれる人はいなくて、マッディは肩を落とした。からんからんという音に合わせて広い家の中の風呂が溜まり終わった。マッディは嬉しそうに箪笥の中を探り始めた。その時、玄関から大きな溜息と足音が聞こえた。エクスポージャーが帰ってきた。
「お帰りなさい、お風呂に入ってきます」マッディは着替えの服を持って玄関まで走っていった。エクスポージャーは一気に顔色を明るくしたんだ。
「マッディただいま~ぁ、お兄ちゃん疲れちゃった」エクスポージャーはマッディの顔を思いっ切り擦り、おまけにマッディに抱きついてそのまま倒れてしまった。マッディはエクスポージャーに「お疲れ様です主人」と身体を撫でてやった。
エクスポージャーはその後満面の笑みで「お風呂行っておいでぇ、途中でお兄ちゃんも入っていいかな?」と尋ねた。勿論マッディも満面の笑みで「はい!お疲れなんですから、もう、すぐに入ってきてもいいですよ、なんなら今から一緒にでも」と答えた。

「今日は薬湯さぁ。暖まるだろ」にまにまと口角を上げてエクスポージャーは言った。マッディは身体にお湯をかけながら、嬉しそうに「そうですねぇ」と聞こえるように呟いた。風呂の中は有り余る程広い。
「今日はベルさんに呼ばれてね、ぼくの仕事は多いもんだ。書類だの電話だので、部屋も汚れてて……」エクスポージャーの話に、マッディは微笑み頷いて、ときどき ふふふっ、と笑いかけた。
エクスポージャーはちゃぷ.と音を立ててお湯をすくった。「どうだい、ここの生活にも慣れた?アドに鳩として躾られてるなんて、疲労も酷いだろう。」「はい、お陰様で。主人がいらっしゃるだけでも幸せです。」
これから襲い来る変になんて、気付きやしなかった。
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