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第一章 少年勇者は後退しません
第6話 何をしに来たのかわかりません(裏)
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「あからさまなゴリ押しだな」
記録を読み返しても、ライザームはまた呆れた気分になる。
王国から直接働きかけられるルートは、全部使ったのだろうと言うのはわかる。形の上では駆け出し冒険者に過ぎないノゾムの、仲間になるようなメンバーではない。
魔軍で言う、人を超えた『超人/聖人』級が二人に、その一歩手前の『弟子/候補生』級が二人、そして人としての限界を究めた『達人』級が一人。
彼らに後押しされた半年ほどの修行で、既にノゾムは勇者として『達人』級を超え、『超人』級に至っていると言うことなのか。
それにしても、類いまれな才能を、適切な教導でもって鍛え、早期に強大な実力を培うことが出来たとして、心の方はどうなのか。異世界では未成年とすれば、半年とは性急に過ぎないか。
それは、ライザームが配慮することでは無いが、もし王国が心が壊れてもかまわないと思っているのであれば、勇者は恐るべきだが単なる兵器へと堕落し、王国が領土的な欲望と敵対の意志を隠す気がなくなったということになる。
つまり、この二百年の考え方を改める必要があるということだ。それは、自らの目で見極めねばならない。
遠くで銅鑼の音がしている。砦に撤収・避難を指示する合図だ。
ベリーヌが奥の間から革鎧を持って来るのと同時に、ナーヴェから遠話が繋がる。
『領民の撤収は完了しました。ポーシュ、クローチ、ツランが砦入口で待機、チャタ、チャロ、カイト、ハイトは潜伏状態で接近。大魔導師に大規模魔術行使の気配無し、私はどうしましょうか?』
『砦の前に来るまで何事もないか、引き続き警戒を頼む。その後、こちらに戻って内部での戦闘に備えよ。』
『ご命令のままに』
『ところで、ナーヴェ、お前が潜んでいるのは感知されているか?』
『ごくわずかな魔力でしたが、漣が来ました。恐らく、魔術師か魔術兵器の反応を、探っていたのでしょう。ポーシュたちの主戦装備のランクも、おそらくお見通しではないかと』
ふむ、とライザームは会話を終わらせ、考え込む。
つい、ナーヴェを外に配置したが、そのことで、魔術師としてのランクも、おそらく見抜かれただろう。魔術の投射距離も、その距離での命中精度も、私が外に配置したことで相手に、こちらの魔術師はそこまで狙うことができるぞと、証明してやったようなものだ。
ポーシュたちの技量と装備は、勇者一行に後れをとるものではないが、戦えば被害は免れない。
利害計算、損得勘定、費用対効果、ちまちました計算はさておき、この考えなしの勇者の行動で、こちらがなんらかの損害を被るかもしれないという事態に、ライザームはだんだんと腹が立って来る。
たとえ、腹いせに勇者一行をここで殲滅したところで、リドア王国との関係悪化という影響は残る。
相手をすること自体、東の砦になんのメリットもない。
いや、ライザームにとっては、単なる迷惑以外の何物でもない。
「本当に何をしに来るのだ、彼らは」
書類仕事を片付け、ライザームは背後の壁へ向き直る。
壁に掛けられた緞帳のような厚手のカーテンの向こうには、奥の間へ続く扉と彼のコレクションが並べられている。
手を伸ばしただけで、瞬時にライザームの手の中に現れる黒い魔力を帯びた槍、写しを作ってクローチに持たせているが、その写しでさえこの砦では最強の武具の一つだ。
出現した時と同様に、瞬く間に手の中からその姿は消える。強さが全てでは無いにしろ、弱ければ何も守れない。
果たして、それだけのリスクを負ってまで、勇者一行の相手をする価値はあるのだろうか?
しばらくして、ナーヴェ、チャタ、カイトが屋上から戻って来る。
「報告は何かあるか?」
「【大魔導師】は、歩く結界です。何もしなくても、一定の距離まで近づくと、あらゆる術やスキルが弱められました。至近距離では、完全に無効にされる可能性があります」
「【聖女候補生】を除く全員が、魔法のバッグか収容・空間系の術かスキルを持っており、外見からわかる装備以上の魔力反応がありました。特に【歩く武器庫】は、本当に、一国の武器庫クラスかもしれません」
「【魔弾の射手】も【影遣い】も一流以上です。『いる』ことを知っているから感知できますが、目の前にいるのに、時折失認しかかりました。【影遣い】の『影遁』も怖いですが、【魔弾の射手】の『自在矢』は、スキルの効果を載せることができるとか。遠方から『隠蔽』や特殊効果を加えて狙撃されたら、かなり厄介です」
「勇者ノゾムはどうか?」
「まず勇者が行動して、周囲がフォローする、自然な動きでした。普段からそういう動き方が基本なのでしょう。基礎から教えているから、必ず正しい選択をしてくれるという信頼が、年長者たちにあるようです。まぁ、多少間違っても、あの一行ならいくらでも巻き返せる、という自信の表れなのかも知れませんが」
時期尚早にしか思えないが、勇者一行はそれなりに仕上がっているのか?
ライザームは、自分の読みの方が甘かったのかも知れないという可能性も考慮する。いい迷惑でしかない、という厳然たる感想に変わりはないが。
「ご案内して参りました」
扉の向こうから、ポーシュの声がする。
「入れ」
ライザームは大きめの声で答え、軽く手を振って、扉の『結界』と『擬装』を解いた。
「どんな仕掛けだ?」
「仕掛けを問うてどうする。そこは何の意味があるかを問うところであろう」
「ライザーム様のなさることですけら、余り深いお考えは無いかもしれませんよ」
【歩く武器庫】と【大魔導師】の掛け合いに、ポーシュが絡んでいるようで、一向に扉が開く気配がない。
少しうんざりした顔で、チャタとカイトに目で指示をする。
最初からそこに居たかのように、チャタとカイトは左右の扉に手をかけ、同時に引いた。
チャタは、ポーシュへの非難を少しだけ強めに混ぜながら、声をかける。
「ライザーム様は、『入れ』とおっしゃったぞ、ポーシュ」
記録を読み返しても、ライザームはまた呆れた気分になる。
王国から直接働きかけられるルートは、全部使ったのだろうと言うのはわかる。形の上では駆け出し冒険者に過ぎないノゾムの、仲間になるようなメンバーではない。
魔軍で言う、人を超えた『超人/聖人』級が二人に、その一歩手前の『弟子/候補生』級が二人、そして人としての限界を究めた『達人』級が一人。
彼らに後押しされた半年ほどの修行で、既にノゾムは勇者として『達人』級を超え、『超人』級に至っていると言うことなのか。
それにしても、類いまれな才能を、適切な教導でもって鍛え、早期に強大な実力を培うことが出来たとして、心の方はどうなのか。異世界では未成年とすれば、半年とは性急に過ぎないか。
それは、ライザームが配慮することでは無いが、もし王国が心が壊れてもかまわないと思っているのであれば、勇者は恐るべきだが単なる兵器へと堕落し、王国が領土的な欲望と敵対の意志を隠す気がなくなったということになる。
つまり、この二百年の考え方を改める必要があるということだ。それは、自らの目で見極めねばならない。
遠くで銅鑼の音がしている。砦に撤収・避難を指示する合図だ。
ベリーヌが奥の間から革鎧を持って来るのと同時に、ナーヴェから遠話が繋がる。
『領民の撤収は完了しました。ポーシュ、クローチ、ツランが砦入口で待機、チャタ、チャロ、カイト、ハイトは潜伏状態で接近。大魔導師に大規模魔術行使の気配無し、私はどうしましょうか?』
『砦の前に来るまで何事もないか、引き続き警戒を頼む。その後、こちらに戻って内部での戦闘に備えよ。』
『ご命令のままに』
『ところで、ナーヴェ、お前が潜んでいるのは感知されているか?』
『ごくわずかな魔力でしたが、漣が来ました。恐らく、魔術師か魔術兵器の反応を、探っていたのでしょう。ポーシュたちの主戦装備のランクも、おそらくお見通しではないかと』
ふむ、とライザームは会話を終わらせ、考え込む。
つい、ナーヴェを外に配置したが、そのことで、魔術師としてのランクも、おそらく見抜かれただろう。魔術の投射距離も、その距離での命中精度も、私が外に配置したことで相手に、こちらの魔術師はそこまで狙うことができるぞと、証明してやったようなものだ。
ポーシュたちの技量と装備は、勇者一行に後れをとるものではないが、戦えば被害は免れない。
利害計算、損得勘定、費用対効果、ちまちました計算はさておき、この考えなしの勇者の行動で、こちらがなんらかの損害を被るかもしれないという事態に、ライザームはだんだんと腹が立って来る。
たとえ、腹いせに勇者一行をここで殲滅したところで、リドア王国との関係悪化という影響は残る。
相手をすること自体、東の砦になんのメリットもない。
いや、ライザームにとっては、単なる迷惑以外の何物でもない。
「本当に何をしに来るのだ、彼らは」
書類仕事を片付け、ライザームは背後の壁へ向き直る。
壁に掛けられた緞帳のような厚手のカーテンの向こうには、奥の間へ続く扉と彼のコレクションが並べられている。
手を伸ばしただけで、瞬時にライザームの手の中に現れる黒い魔力を帯びた槍、写しを作ってクローチに持たせているが、その写しでさえこの砦では最強の武具の一つだ。
出現した時と同様に、瞬く間に手の中からその姿は消える。強さが全てでは無いにしろ、弱ければ何も守れない。
果たして、それだけのリスクを負ってまで、勇者一行の相手をする価値はあるのだろうか?
しばらくして、ナーヴェ、チャタ、カイトが屋上から戻って来る。
「報告は何かあるか?」
「【大魔導師】は、歩く結界です。何もしなくても、一定の距離まで近づくと、あらゆる術やスキルが弱められました。至近距離では、完全に無効にされる可能性があります」
「【聖女候補生】を除く全員が、魔法のバッグか収容・空間系の術かスキルを持っており、外見からわかる装備以上の魔力反応がありました。特に【歩く武器庫】は、本当に、一国の武器庫クラスかもしれません」
「【魔弾の射手】も【影遣い】も一流以上です。『いる』ことを知っているから感知できますが、目の前にいるのに、時折失認しかかりました。【影遣い】の『影遁』も怖いですが、【魔弾の射手】の『自在矢』は、スキルの効果を載せることができるとか。遠方から『隠蔽』や特殊効果を加えて狙撃されたら、かなり厄介です」
「勇者ノゾムはどうか?」
「まず勇者が行動して、周囲がフォローする、自然な動きでした。普段からそういう動き方が基本なのでしょう。基礎から教えているから、必ず正しい選択をしてくれるという信頼が、年長者たちにあるようです。まぁ、多少間違っても、あの一行ならいくらでも巻き返せる、という自信の表れなのかも知れませんが」
時期尚早にしか思えないが、勇者一行はそれなりに仕上がっているのか?
ライザームは、自分の読みの方が甘かったのかも知れないという可能性も考慮する。いい迷惑でしかない、という厳然たる感想に変わりはないが。
「ご案内して参りました」
扉の向こうから、ポーシュの声がする。
「入れ」
ライザームは大きめの声で答え、軽く手を振って、扉の『結界』と『擬装』を解いた。
「どんな仕掛けだ?」
「仕掛けを問うてどうする。そこは何の意味があるかを問うところであろう」
「ライザーム様のなさることですけら、余り深いお考えは無いかもしれませんよ」
【歩く武器庫】と【大魔導師】の掛け合いに、ポーシュが絡んでいるようで、一向に扉が開く気配がない。
少しうんざりした顔で、チャタとカイトに目で指示をする。
最初からそこに居たかのように、チャタとカイトは左右の扉に手をかけ、同時に引いた。
チャタは、ポーシュへの非難を少しだけ強めに混ぜながら、声をかける。
「ライザーム様は、『入れ』とおっしゃったぞ、ポーシュ」
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