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第一章 少年勇者は後退しません
第7話 全く容赦がありません
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「この二人は俺たちの後ろにいたんじゃなかったか?」
ゼルドがちょっと間の抜けた声を出す。
目の前に広がる部屋は、下りにあった各階層の広さの半分に匹敵するが、ゼルドは目の前の扉を開けた、茶色と灰色のフードの二人に気を取られている。
一番奥の広いデスクに座る一人と、その左右に立つ二人の姿がはっきり見えるので、室内はかなり明るい。
これまでの通路の壁にあった魔法の灯りに加え、天窓でもあるかのように規則的にならんだ光が天井から射している。
「最初の二人なら、まだ後ろにいますよ」
「相変わらず、自分が斬れる範囲の外は、感知がおざなりじゃぞ。ノゾムの方がちゃんとできておる」
ノゾムが言い、シルヴィアは呆れた目でゼルドを見る。
「お迎えに行ったチャロとハイトは、このチャタとカイトの弟たちです。兄も弟も双子ですから、四人ともよく似てるでしょう? 私も、弟や妹達とよく似てると言われますが、どうですか?」
どうですかと言われても、ポーシュから弟妹を紹介された覚えは無いし、ハイコボルト達の顔の見分けは、ほぼつかない。
「もしかして」
ノゾムは、一行の後ろにいる四人のハイコボルドを見る。
「クローチは私の弟、ツランとライザーム様の後ろにいるナーヴェが私の妹です」
「『神官』殿は女性だったのか? ハイコボルトは体格の男女差があまり無いんだな」
「子を産み育てる期間以外に、差がある必要がありますか?」
彼らにとってはそういう種族なのだ、ということでしかないのだろう。
「ポーシュ!」
チャタは、少しだけ苛立ちを声に乗せる。普段は、この従兄を敬愛するチャタにも、我慢の限度がある。砦の主、自らの主君を前にして、戯言のやり取りを続けるとは無礼千万だが、当の主君が半ば呆れたように放置している以上、今はそれ以上言えない。
部屋の半ばまで進むと、ポーシュは片膝をついてそのまま一礼する。
「失礼いたしました、ライザーム様。勇者ノゾム殿ご一行を、お連れいたしました」
そして、頭を下げたまま小さな声で続ける。
「ノゾム殿からライザーム様へ、ご挨拶を」
ああ、とノゾムは、ポーシュと横並びになる位置まで進み、立ったまま一礼した。
「ご挨拶が遅れました。僕はリドア王国に召喚されたノゾム、今勇者をやらせてもらっています。東の砦の魔将ライザーム殿に、まず不躾に押しかけたことをお詫びし、改めてご挨拶申し上げます。膝はつかなくてかまいませんよね?」
すっくと立ったままで、にこやかにノゾムはライザームに相対する。
「ようこそ、我らが砦へ。私は、この砦を預かる五芒星将ライザーム。『一つ星』のライザームと呼ばれることもある。貴殿は、私の配下でも魔王領の領民でも無く、跪いての礼は不要、立礼でかまわない。ただし、貴殿の立場が明確ではないので、賓客としての扱いは、致しかねる」
「五芒星将殿は、お主が、正式の王国使節でも何でも無いので、あちらからは立礼もしないとおっしゃっておる」
「まぁ当然ですね」
シルヴィアが囁くように教え、ノゾムはうなずく。
「では、早速だが、貴殿らがここを訪れた理由、あるいは目的をお聞かせ願いたいが、よろしいか?」
シンプルで明確な質問。昨夜のノゾムなら、単純な答えがいくつもあった。RPGや物語の主人公のような、迷いの欠片もない、自身を全肯定し、相手を全否定する、明瞭で傲慢な言葉の群れ。
それが、浅薄な思い込みでしかないことは、今ノゾム自身が痛感している真っ最中だ。今の想いを、どう言葉にしようか。
「二つあります。一つ目の目的は、僕の中にある迷いを晴らす何かが、ここで得られるのではないかということ。二つ目の目的は、勇者としての、僕の存在とは何かを知るため」
ライザームはため息を押し殺し、再び口を開く。
「貴殿は貴殿自身の世界、母国ではまだ成人ではないと聞いたが、真か?」
「はい、私の世界ではまだ成人に少し足りません」
「では、少年よ。自分の未熟さを踏まえてのその答には、素直に好感を覚える。だが、実際には、その二つの目的、二つの問いの答えは、本来ここに来なくとも知ることができる。いや、ここに至る前に身に着けておくべきであろう。教え導いた者たちの手抜かりであるし、己自身の自覚も足りていない。私に挑戦したいとの言伝があったが、さらに尋ねよう。少年よ、今の己自身に、私に挑む資格があると思うかね?」
「ある、と思っていました。今はわかりません」
「意地の悪い言い方にしかならぬが、わからぬでは話にならぬ。私に挑む資格と挑む理由、二つ揃えてから来るべきだったな」
正直に答えてしまったノゾムには、それ以上言い募る言葉がない。
「大魔導師殿と魔戦士殿には、このような状態の少年を、迂闊にもここまで連れて来たことに、猛省を望みたい。また、影遣い殿は、この事態を予測できなかったことを恥ずるべき、と存ずる。私の砦に、かような形での来訪とは、はなはだ迷惑だ」
勇者がまだ子どもであるのなら、本人は責められない。だが、大人たちには、それぞれにそれなりの責任がある。
「そして、私への挑戦については、何を目的として何に対して挑戦するかを明確に宣言しなければ、それを行えないし、勝っても目的が達成できないという枷があることを弁えているか、確認したい」
ゼルドは、シルヴィアと顔を見合わせる。そして、マシューも語る言葉を持っていない様子で、傍観している。
「やはり、知られておらぬか」
これだから、人間とは度し難い。
と、ライザームは切り捨てたいところだが、この複雑なシステムによる試練を乗り越え、目的を成し遂げた者にとって、その前提条件や勝利条件を秘密にしたいと思う心情もわからないではない。
特に、試行錯誤の果てに何度も挑んだ者ほど、そう思うであろうことも。
「私に挑む者は、その目的によって異なる難易度の種類の挑戦を受けてもらうことになる。これは私自身への制約、私自身にかかった呪いのようなものであり、私へ挑戦を宣言した者はこれに巻き込まれることになるため、それを回避することはできない。挑む者は、私に挑戦して達成すべき目的を明確にし、それに応じた挑戦を宣言しなければならない。間違った宣言を行い、間違った種類の挑戦に成功しても、目的は、当然達成できない」
ライザームは、異なる言い回しで、三度繰り返した。
自分の目的を達成するためには、正しい『挑戦』を選ぶための正しい『宣言』が必要と、くどいくらい言われても、なんとなく雰囲気はわかるが、何がどうなっていれば正しいのか、皆目見当がつかない。
ノゾムは考え込み、シルヴィアは後の情報収集の計画を内心で立て始め、マシューはこの状況からどう撤退するのかに思案を巡らせている。
ライザームに何と言って応じようかと考える間に、ゼルドが口を開く。
「たとえば、それは『一つ星』のライザーム殿と『七の槍』あるいは『黒魔槍』のライザーム殿では、挑戦の種類が異なるということか?」
「然り。挑戦に失敗した者、成功した者、誤った挑戦を選んだ者は、それぞれに記録を残したであろうが、後の者が楽をするのを良しとしないと考えたか、誤った選択肢へ導かぬようわざと詳細を書き残さなかったかものか。その結果、彼らの残した言葉は、正しく解釈されず、王国側では、全てが正しく伝わっていないようだ」
ライザームにしてみれば、ここに至るまでにヒントくらいは自力で拾って来て然るべきで、そこまで世話を焼く筋合いではない。
「故に、今回は、速やかに、お引き取り願いたい」
願いたいとは言いながら、即刻出て行けという意味であることは、双方聞く者全員がわかった。
マシューは渡りに船と早々に退却しようと考えるが、それよりも早くゼルドは再び口を開く。
「では、我『魔戦士』ゼルドは、自らの強さを証明せんがため、『黒魔槍』ライザーム殿との手合わせを所望する。返答や、如何に?」
今度ははっきりと大きなため息を一つ漏らして、ライザーム は立ち上がる。
「勇者殿より貴殿の方がよっぽど駄々っ子だな。よろしい、その『挑戦』を『受諾』する。今、何か感じたかね」
すうっと、自分たちからゼルドが、引き離された感覚がした。ライザームやポーシュから感じていた隔絶感が、ゼルドとの間にも生じている。
「誤った挑戦には、何の価値も無いことを実感して帰るがよい」
ゼルドがちょっと間の抜けた声を出す。
目の前に広がる部屋は、下りにあった各階層の広さの半分に匹敵するが、ゼルドは目の前の扉を開けた、茶色と灰色のフードの二人に気を取られている。
一番奥の広いデスクに座る一人と、その左右に立つ二人の姿がはっきり見えるので、室内はかなり明るい。
これまでの通路の壁にあった魔法の灯りに加え、天窓でもあるかのように規則的にならんだ光が天井から射している。
「最初の二人なら、まだ後ろにいますよ」
「相変わらず、自分が斬れる範囲の外は、感知がおざなりじゃぞ。ノゾムの方がちゃんとできておる」
ノゾムが言い、シルヴィアは呆れた目でゼルドを見る。
「お迎えに行ったチャロとハイトは、このチャタとカイトの弟たちです。兄も弟も双子ですから、四人ともよく似てるでしょう? 私も、弟や妹達とよく似てると言われますが、どうですか?」
どうですかと言われても、ポーシュから弟妹を紹介された覚えは無いし、ハイコボルト達の顔の見分けは、ほぼつかない。
「もしかして」
ノゾムは、一行の後ろにいる四人のハイコボルドを見る。
「クローチは私の弟、ツランとライザーム様の後ろにいるナーヴェが私の妹です」
「『神官』殿は女性だったのか? ハイコボルトは体格の男女差があまり無いんだな」
「子を産み育てる期間以外に、差がある必要がありますか?」
彼らにとってはそういう種族なのだ、ということでしかないのだろう。
「ポーシュ!」
チャタは、少しだけ苛立ちを声に乗せる。普段は、この従兄を敬愛するチャタにも、我慢の限度がある。砦の主、自らの主君を前にして、戯言のやり取りを続けるとは無礼千万だが、当の主君が半ば呆れたように放置している以上、今はそれ以上言えない。
部屋の半ばまで進むと、ポーシュは片膝をついてそのまま一礼する。
「失礼いたしました、ライザーム様。勇者ノゾム殿ご一行を、お連れいたしました」
そして、頭を下げたまま小さな声で続ける。
「ノゾム殿からライザーム様へ、ご挨拶を」
ああ、とノゾムは、ポーシュと横並びになる位置まで進み、立ったまま一礼した。
「ご挨拶が遅れました。僕はリドア王国に召喚されたノゾム、今勇者をやらせてもらっています。東の砦の魔将ライザーム殿に、まず不躾に押しかけたことをお詫びし、改めてご挨拶申し上げます。膝はつかなくてかまいませんよね?」
すっくと立ったままで、にこやかにノゾムはライザームに相対する。
「ようこそ、我らが砦へ。私は、この砦を預かる五芒星将ライザーム。『一つ星』のライザームと呼ばれることもある。貴殿は、私の配下でも魔王領の領民でも無く、跪いての礼は不要、立礼でかまわない。ただし、貴殿の立場が明確ではないので、賓客としての扱いは、致しかねる」
「五芒星将殿は、お主が、正式の王国使節でも何でも無いので、あちらからは立礼もしないとおっしゃっておる」
「まぁ当然ですね」
シルヴィアが囁くように教え、ノゾムはうなずく。
「では、早速だが、貴殿らがここを訪れた理由、あるいは目的をお聞かせ願いたいが、よろしいか?」
シンプルで明確な質問。昨夜のノゾムなら、単純な答えがいくつもあった。RPGや物語の主人公のような、迷いの欠片もない、自身を全肯定し、相手を全否定する、明瞭で傲慢な言葉の群れ。
それが、浅薄な思い込みでしかないことは、今ノゾム自身が痛感している真っ最中だ。今の想いを、どう言葉にしようか。
「二つあります。一つ目の目的は、僕の中にある迷いを晴らす何かが、ここで得られるのではないかということ。二つ目の目的は、勇者としての、僕の存在とは何かを知るため」
ライザームはため息を押し殺し、再び口を開く。
「貴殿は貴殿自身の世界、母国ではまだ成人ではないと聞いたが、真か?」
「はい、私の世界ではまだ成人に少し足りません」
「では、少年よ。自分の未熟さを踏まえてのその答には、素直に好感を覚える。だが、実際には、その二つの目的、二つの問いの答えは、本来ここに来なくとも知ることができる。いや、ここに至る前に身に着けておくべきであろう。教え導いた者たちの手抜かりであるし、己自身の自覚も足りていない。私に挑戦したいとの言伝があったが、さらに尋ねよう。少年よ、今の己自身に、私に挑む資格があると思うかね?」
「ある、と思っていました。今はわかりません」
「意地の悪い言い方にしかならぬが、わからぬでは話にならぬ。私に挑む資格と挑む理由、二つ揃えてから来るべきだったな」
正直に答えてしまったノゾムには、それ以上言い募る言葉がない。
「大魔導師殿と魔戦士殿には、このような状態の少年を、迂闊にもここまで連れて来たことに、猛省を望みたい。また、影遣い殿は、この事態を予測できなかったことを恥ずるべき、と存ずる。私の砦に、かような形での来訪とは、はなはだ迷惑だ」
勇者がまだ子どもであるのなら、本人は責められない。だが、大人たちには、それぞれにそれなりの責任がある。
「そして、私への挑戦については、何を目的として何に対して挑戦するかを明確に宣言しなければ、それを行えないし、勝っても目的が達成できないという枷があることを弁えているか、確認したい」
ゼルドは、シルヴィアと顔を見合わせる。そして、マシューも語る言葉を持っていない様子で、傍観している。
「やはり、知られておらぬか」
これだから、人間とは度し難い。
と、ライザームは切り捨てたいところだが、この複雑なシステムによる試練を乗り越え、目的を成し遂げた者にとって、その前提条件や勝利条件を秘密にしたいと思う心情もわからないではない。
特に、試行錯誤の果てに何度も挑んだ者ほど、そう思うであろうことも。
「私に挑む者は、その目的によって異なる難易度の種類の挑戦を受けてもらうことになる。これは私自身への制約、私自身にかかった呪いのようなものであり、私へ挑戦を宣言した者はこれに巻き込まれることになるため、それを回避することはできない。挑む者は、私に挑戦して達成すべき目的を明確にし、それに応じた挑戦を宣言しなければならない。間違った宣言を行い、間違った種類の挑戦に成功しても、目的は、当然達成できない」
ライザームは、異なる言い回しで、三度繰り返した。
自分の目的を達成するためには、正しい『挑戦』を選ぶための正しい『宣言』が必要と、くどいくらい言われても、なんとなく雰囲気はわかるが、何がどうなっていれば正しいのか、皆目見当がつかない。
ノゾムは考え込み、シルヴィアは後の情報収集の計画を内心で立て始め、マシューはこの状況からどう撤退するのかに思案を巡らせている。
ライザームに何と言って応じようかと考える間に、ゼルドが口を開く。
「たとえば、それは『一つ星』のライザーム殿と『七の槍』あるいは『黒魔槍』のライザーム殿では、挑戦の種類が異なるということか?」
「然り。挑戦に失敗した者、成功した者、誤った挑戦を選んだ者は、それぞれに記録を残したであろうが、後の者が楽をするのを良しとしないと考えたか、誤った選択肢へ導かぬようわざと詳細を書き残さなかったかものか。その結果、彼らの残した言葉は、正しく解釈されず、王国側では、全てが正しく伝わっていないようだ」
ライザームにしてみれば、ここに至るまでにヒントくらいは自力で拾って来て然るべきで、そこまで世話を焼く筋合いではない。
「故に、今回は、速やかに、お引き取り願いたい」
願いたいとは言いながら、即刻出て行けという意味であることは、双方聞く者全員がわかった。
マシューは渡りに船と早々に退却しようと考えるが、それよりも早くゼルドは再び口を開く。
「では、我『魔戦士』ゼルドは、自らの強さを証明せんがため、『黒魔槍』ライザーム殿との手合わせを所望する。返答や、如何に?」
今度ははっきりと大きなため息を一つ漏らして、ライザーム は立ち上がる。
「勇者殿より貴殿の方がよっぽど駄々っ子だな。よろしい、その『挑戦』を『受諾』する。今、何か感じたかね」
すうっと、自分たちからゼルドが、引き離された感覚がした。ライザームやポーシュから感じていた隔絶感が、ゼルドとの間にも生じている。
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