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第二章 至分の試練が終わりません
第15話 連戦はできません
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水晶球からの光が空中に描いている、巨大なライザームに向かって、ノゾムは一礼し、ゼファールの方へ向き直る。
ベリーヌに似た緑のドレスと緑の髪の女達八人が、それぞれ二人一組になって、ゼファールの両腕と斬り飛ばされた二本の角を抱え、ゼファールを見下ろすように立つベリーヌの下へ運んでいる。
運ばれて来た順に、ベリーヌはゼファールの身体に繋いで行く。
全身血塗れなのと、ゼファール本人がうなだれているのを除けば、あっという間に元通りになっていた。
「しっかりしなさい、『双旋風』ゼファール。ライザーム閣下の御前です」
この場で一番怖いのは、ベリーヌかも知れない。
ライザームの命令だから傷一つない状態に戻すが、こんな結末になったのは、頭に血が上って、ライザームに正しく試練への挑戦を申し入れられなかったゼファールの自業自得であり、そもそもライザームへの礼を失した態度は、欠片も赦す気が無いという風情が、ベリーヌに見て取れる。
刃こぼれしたらしい二丁の両刃の鉞は、エルダーコボルト達が一丁を五、六人がかりで抱えて、砦に運び込んで行った。鍛治工房が地下にあるのか?
「夏至の試練に初日に挑み、しくじった者には、最終日に再度の機会が与えられる。四日後に備えて休むがよい」
ノゾムは、自分のことは棚にあげて、これを正式な試練扱いするのは、ライザームの温情なのだろうなと考えていた。
逆に言えば、ゼファールはこのまま砦にいなければならないらしい。
僕だったら、これだけの失態を晒した以上、もう帰りたい、とノゾムは思う。
それにしても、この砦の工房は、魔法の武器を実質三日で修理できると言うことか?
最終日に本来の試練に挑めれば、成否はどうあれ、ゼファールの主、『二つ星』の五芒星将の面目を潰したことにはならないだろう。
もちろん、ゼファールに、試練に挑む気力が戻っていればの話だが。
「続いて、南の砦『鉄壁』タルカス、前へ」
タルカスは、僅かに緊張した面持ちで、ライザームの映像の前に進む。
「南の砦のタルカスよ、試練への挑戦を宣言せよ」
「我、五芒星将『三つ星』ダマヤーが配下、タルカスが、南の砦を代表し、東の砦の五芒星将ライザーム閣下に、ご挨拶申し上げる。南の砦は、東の砦の夏至の訪れを、このタルカスの武勇を以てことほぎ彩ることをお許しいただきたい。願わくは、南の砦のタルカスの武勇が、魔軍七本槍が七の槍、暗黒十二騎士が尾の騎士の眼鏡に敵い、挑戦の栄誉を与えられんことを乞い願う」
何が始まるのか、ノゾムにはピンと来ていない。
クルシアスは楽しげに笑みを浮かべ、ポーシュは腕組みしたまま弟妹と従兄弟たちの顔を見回している。
次の一瞬、幹部級以上の全員が空を見上げ、遅れてほとんどの者が頭上からする声に、顔を斜め上に向けた。
「おおおおおーい、退いてくれーー!」
声とともに人影が空から降って来る。
聞き慣れた声にノゾムは思う、TPOの全てが最悪だよ、ゼルド。
広場のほぼ真ん中に、ゼルドは着地した。少なからぬ土砂が舞い上がる。
てくてく歩くのが面倒になって、山嶺付近から広場へ大ジャンプしたのだろうが、広場がこれ程混んでいるとは思ってもいなかったのだろう。
「よぉ、ノゾム、これは一体全体何事?」
「いいから、とにかくゼルドはこっちへ引っ込んでて」
ポーシュは、映像のライザームを見上げる。
何か、あまり性質の良くない遊びを思い付いた時の、悪い笑みがライザームに浮かんでいる。
「ゼルド、ちょうどよい所に戻って来た。手持ちの装備で最大の武装をせよ」
「いいけど、何の余興だい?」
「夏至の祭の開幕を、盛り上げてもらおう」
ゼルドは、鎧も剣もない丸腰の状態から、革鎧と大剣装備に一瞬で変わる。
「南の砦のタルカスよ、これより、忍者頭チャタ、神官ツラン、報復者クローチ、魔弾の射手ケイン、魔戦士ゼルドが、おぬしに一撃を加える。五度の攻撃を、凌いで見せよ。五人は、一撃を入れるのみ、それ以上の手出しはならぬ。その代わり、最上の一撃を繰り出して見せよ。『七の槍』そして『尾の騎士』としてこのライザームが、南の砦『鉄壁』タルカスに試練への挑戦を許す。始め!」
再び、ゼファールとノゾムの戦いが始まった時のように、部外者は広場の周囲へ強制移動になり、中央にはタルカス、三方から囲むようにツラン、クローチ、ゼルドが出現する。チャタの姿は見えず、当然ケインは砦の上から動かない。
「やっぱり、初手はそうなるよね」
最上の一撃という課題に、五人がそれぞれ自分と自分以外のメンバーの特性を考えれば、自ずと絞り込まれる。
各自が、自分の最強の武技を繰り出せばよい、と言う話ではない。
今回はゼルドにも自らの立ち位置の説明があったので、その範囲でしか動かないから、問題は無いだろうとノゾムは思う。
ゼルドは、大剣を両手で右へ構え、左手の柄頭を少し上げて刀身が背後に隠れるようにした。腰を落とし、何時踏み込むか気配を読ませまいとする。
ツランは、クローチの背後に回り、クローチは、タルカスを中心にゼルドと対称になるよう位置を取る。ツランが、クローチの黒魔槍の写しと自分の長鎚矛に付与魔法『神罰』と『覿面』を重ねてかける。
ツランの魔法に邪魔が入らないように、ゼルドはタイミングを合わせて、大剣に魔力を練り込み始める。
そっちに気を取られたら、何時でもこっちが行くぞ、という威嚇だ。
そして、その二方向の同時の動きに気を取られた隙を縫うように、最初の一撃が到達する。
開始の合図と同時に放たれたケインの矢は、『無音無影・極み』の武技を載せた一矢、放物線の終着点は、タルカスのほぼ真上からの垂直落下。
タルカスはわずかに頭を伏せ肩を半歩引いて、兜の側面と鎧の肩から胸の前面を火花を散らせながら滑らせ、ケインの矢を逸らせた。
矢は、鎧に傷をつけたものの、そのまま深々と垂直に地面に刺さる。
「一つ」
ツランは、クローチの前に出て、魔法を付与済みの長鎚矛を振りかぶる。
対するタルカスは、大盾の下から鉄杭を伸ばすと、地面に突き刺して固定し、両手で支えると同時に、大盾に魔力を込める。
神官の攻撃とは思えない程の鎚矛の強大な一撃が、大盾の表面でもう一つの魔力と激突する。
閃光を発し、遅れて爆音が轟き、爆風がうねる。ツランは、結界のすぐそばまで飛ばされていた。
揺るがない大盾が、爆風の衝撃を盾の外側に集めた形になったからだ。
「二つ」
「盾は動かさなくていいぜ」
攻撃をカウントするタルカスの呟きに、ゼルドがかぶせるように声をかける。
タルカスは、背後に居たはずのゼルドに向け、地面への固定を解除して大盾を移動させようとした瞬間だった。
ゼルドの声は、爆風の余波がまだ残る大楯の向こう側からする。
タルカスは再び、大楯に魔力を注ぎ込む。
大楯の両側面から長方形の二枚の金属板部品が張り出し、翼のように広がったかと思うと、真ん中で折れて下がり逆L字になる。
「それで準備は済んだのか?」
ゼルドはまるで最初からそこに居たかのように、腰を落とし、大剣の刀身を背後にした構えで声をかけた。
「如何様にも」
「じゃ、行くぜ! 巻き込まれるなよ」
後半は、姿を消して接近しているはずのチャタに向けた言葉だ。
低い構えそのままの、流れるような接近から、弾けるようにゼルドの大剣が、水平に弧を描く。
刀身には高速の風が巻き付き、空気の摩擦によるいくつもの小さな雷がそれを追うように飛ぶ。
せり出した部分はたやすく切断し、大楯本体に食い込むが、それは両断するには至らず、四分の一ほどの所で止まる。
張り出し部分は、接触によって相手の剣速を削ぐ目的だったらしい。
「ここまでしか入らないか、スゲぇな、あんたもその大楯も」
「み、三つ」
タルカスは、大楯を通じて受けた電撃には耐え切った。
むしろ、衝撃の瞬間に手を離していれば地面に逃がせた電撃を受けてしまったのは、大盾の強度を上げるために魔力を送り続け、手を離せなかったからだ。
下手をすれば、完全に両断されていたかもしれない一撃だった。
わずかに痺れが残る腕に力を入れ直し、大盾の固定を解除して、側壁と杭を収納した。
タルカスは大盾を構え直しながら、二、三歩分後退してクローチとの間合いをはかる。
タルカスは突然片膝をつき、大盾を地面に叩きつけた。
地面にぶつかる前に、大盾の内側に無音で刃が生える。
タルカスがそのまま大盾を振り上げると、大盾の表面に短剣を半分めり込ませたチャタが貼り付いていた。
が、そのままチャタは、大楯の遠心力で吹き飛ばされて行く。
「四つ」
クローチが、ゆっくりと黒い槍を構える。
「チャタの『鎧透し』の術を逆手に取り、短剣が透過する途中で術を妨害したタイミングは見事だった。むしろ、手首か腕一本持っていかれた方が、チャタにはいい勉強になったかも知れないが」
「手首どころか、指先まで透過させてしまったら、短剣を投げて来るでしょう? 『手長』のチャタ殿を、そこまで甘く見てはいませんよ」
「『鉄壁』タルカスならば、その大盾を破って一撃を入れたいという欲に、我らは駆られてしまったな。冷静だったのはケインだけだったか」
「なんの、『無影槍』クローチの黒魔槍まで凌ぎ切れねば、『鉄壁』の二つ名は、本物と言えますまい」
「一矢報いたいところだが、私に『報復者』としての力を発揮させないため、手加減をする余裕まで見せられては、な。」
「今のどういう意味?」
ノゾムは、ナーヴェに脳内で問う。
「ポーシュ兄上の城塞防衛指揮官の権能が、この城塞で防衛戦をする時、ポーシュと城塞と守備兵全員に『防御力上昇の効果』があるというみたいに、クローチ兄の報復者には、仲間や自軍の構成員、つまり『味方が被害を受けた分だけ、敵への攻撃力が上昇する』権能があるのよ。五番手で控えていたのは、四人がダメージを受けたら、その分だけクローチの攻撃力が増すから」
でも、とナーヴェは続ける。
「今のところ、ツランとチャタが派手に吹き飛ばされた以外には、ダメージ無しだから、素の実力とツランの付与魔法だけで戦う羽目になっているわけ。『鉄壁』というからには、攻め手を反撃で削るまでがワンセットのはずだけど、タルカスはその辺の手の内を、今回は全く見せてないからね」
付与魔法のかかった黒魔槍に、重ねて魔力を練り込むクローチ。
「あらかじめ言っておく。これは私にとっては一撃だが、貴殿にとってはそうではない。試練の条件に反すると思うなら、後程、ライザーム閣下へ訴えてもよい」
「『青の神罰代行者』殿も『魔弾の射手』殿も『魔戦士』殿も、連撃・連射を避けていただいたようですから、クローチ殿はご遠慮無く」
「では、参る」
先ほどまでのゆったりとした構えから、一転しての素早い踏み込み。
「『黒魔槍・風影槍』」
突き出される黒魔槍には、風、空気で作られた複数の見えない槍が付き従う。
いや、既に黒魔槍本体も風をまとい、間合いも虚実も読み切れない。
タルカスは身体を低くし、大盾を斜めに構え、見えない槍を逸らすつもりだったが、空気の槍は大盾に触れた瞬間に炸裂した。
中心からそれた場所に当たると大盾が度々バランスを崩される。
強く掴み、大盾を揺るがないよう構え直す。
その瞬間を狙い、残る空気の槍は大盾ではなく、盾と大地の隙間に叩き付けられた。
爆風に近い勢いで空気が膨れ上がり、大盾は木の葉のように煽られ、舞い上がる。
大盾を掴んだ左手を離すのが一瞬遅れ、左腕に引き上げられて、身体は宙に浮き、タルカスの前面はがら空きになった。
「抜かった! 『赤光』!」
クローチの黒魔槍が迫るのを見て、タルカスは覚悟を決め、両腕を大きく広げ、瞬時にタルカスの全身鎧が真っ赤な光を放つ。
突き入れられる黒魔槍を掴んで停めることができれば、一縷の望みはある。
カッと見開いたタルカスの眼に、クローチの眼が細まり、口角が上がるのが映る。
笑っている? と思う間もなく槍の穂先が心臓から上、喉か顔面に狙いを変えたことがわかる。
鎧の中心で敢えて受けるつもりが、鎧の隙間ではリスクは跳ね上がる。
そこまで冷静か『無影槍』クローチ。
次の刹那、黒魔槍自身がまとった最後の風の槍が、タルカスのほぼ顔面で炸裂し、タルカスの身体は、後ろ向きに縦回転しながら、結界のすぐそばまで吹き飛ばされる。
「チャタはともかく、ツランはあれでも可愛い妹なのでな。しっかりお返しをさせてもらった。婿取り前に自慢の毛並みに傷でも付けられたらと心配したが、それほどではないようなので、これで手打ちと言うことでよろしいか?」
「私では、黒魔槍を使うまでも無いと?」
ふらつきながらも、タルカスは立ち上がる。
クローチは、再度眼を細め、口角を上げる。
「『鉄壁』の名を聞く前、南の砦には『大盾の赤鬼』とあだ名された戦士が居たと聞いた。だが、さらにその前に聞いた二つ名は『魔剣砕きの赤鬼』と言ったかな。貴殿の本領は、大盾よりその赤く輝く鎧の方、単純な防御力ではなく、武器破壊にあるのではないか、と思っただけだ」
「それまで。南の砦『鉄壁』タルカスの試練は、これにて終了する」
厳かに、ライザームは宣言する。
「我、五芒星将ライザームは、ここに南の砦タルカスを准魔将に序し、『尾の騎士』として、暗黒十二騎士候補たる資格を認め、王城へ向かうことを許可する。以上だ」
ベリーヌに似た緑のドレスと緑の髪の女達八人が、それぞれ二人一組になって、ゼファールの両腕と斬り飛ばされた二本の角を抱え、ゼファールを見下ろすように立つベリーヌの下へ運んでいる。
運ばれて来た順に、ベリーヌはゼファールの身体に繋いで行く。
全身血塗れなのと、ゼファール本人がうなだれているのを除けば、あっという間に元通りになっていた。
「しっかりしなさい、『双旋風』ゼファール。ライザーム閣下の御前です」
この場で一番怖いのは、ベリーヌかも知れない。
ライザームの命令だから傷一つない状態に戻すが、こんな結末になったのは、頭に血が上って、ライザームに正しく試練への挑戦を申し入れられなかったゼファールの自業自得であり、そもそもライザームへの礼を失した態度は、欠片も赦す気が無いという風情が、ベリーヌに見て取れる。
刃こぼれしたらしい二丁の両刃の鉞は、エルダーコボルト達が一丁を五、六人がかりで抱えて、砦に運び込んで行った。鍛治工房が地下にあるのか?
「夏至の試練に初日に挑み、しくじった者には、最終日に再度の機会が与えられる。四日後に備えて休むがよい」
ノゾムは、自分のことは棚にあげて、これを正式な試練扱いするのは、ライザームの温情なのだろうなと考えていた。
逆に言えば、ゼファールはこのまま砦にいなければならないらしい。
僕だったら、これだけの失態を晒した以上、もう帰りたい、とノゾムは思う。
それにしても、この砦の工房は、魔法の武器を実質三日で修理できると言うことか?
最終日に本来の試練に挑めれば、成否はどうあれ、ゼファールの主、『二つ星』の五芒星将の面目を潰したことにはならないだろう。
もちろん、ゼファールに、試練に挑む気力が戻っていればの話だが。
「続いて、南の砦『鉄壁』タルカス、前へ」
タルカスは、僅かに緊張した面持ちで、ライザームの映像の前に進む。
「南の砦のタルカスよ、試練への挑戦を宣言せよ」
「我、五芒星将『三つ星』ダマヤーが配下、タルカスが、南の砦を代表し、東の砦の五芒星将ライザーム閣下に、ご挨拶申し上げる。南の砦は、東の砦の夏至の訪れを、このタルカスの武勇を以てことほぎ彩ることをお許しいただきたい。願わくは、南の砦のタルカスの武勇が、魔軍七本槍が七の槍、暗黒十二騎士が尾の騎士の眼鏡に敵い、挑戦の栄誉を与えられんことを乞い願う」
何が始まるのか、ノゾムにはピンと来ていない。
クルシアスは楽しげに笑みを浮かべ、ポーシュは腕組みしたまま弟妹と従兄弟たちの顔を見回している。
次の一瞬、幹部級以上の全員が空を見上げ、遅れてほとんどの者が頭上からする声に、顔を斜め上に向けた。
「おおおおおーい、退いてくれーー!」
声とともに人影が空から降って来る。
聞き慣れた声にノゾムは思う、TPOの全てが最悪だよ、ゼルド。
広場のほぼ真ん中に、ゼルドは着地した。少なからぬ土砂が舞い上がる。
てくてく歩くのが面倒になって、山嶺付近から広場へ大ジャンプしたのだろうが、広場がこれ程混んでいるとは思ってもいなかったのだろう。
「よぉ、ノゾム、これは一体全体何事?」
「いいから、とにかくゼルドはこっちへ引っ込んでて」
ポーシュは、映像のライザームを見上げる。
何か、あまり性質の良くない遊びを思い付いた時の、悪い笑みがライザームに浮かんでいる。
「ゼルド、ちょうどよい所に戻って来た。手持ちの装備で最大の武装をせよ」
「いいけど、何の余興だい?」
「夏至の祭の開幕を、盛り上げてもらおう」
ゼルドは、鎧も剣もない丸腰の状態から、革鎧と大剣装備に一瞬で変わる。
「南の砦のタルカスよ、これより、忍者頭チャタ、神官ツラン、報復者クローチ、魔弾の射手ケイン、魔戦士ゼルドが、おぬしに一撃を加える。五度の攻撃を、凌いで見せよ。五人は、一撃を入れるのみ、それ以上の手出しはならぬ。その代わり、最上の一撃を繰り出して見せよ。『七の槍』そして『尾の騎士』としてこのライザームが、南の砦『鉄壁』タルカスに試練への挑戦を許す。始め!」
再び、ゼファールとノゾムの戦いが始まった時のように、部外者は広場の周囲へ強制移動になり、中央にはタルカス、三方から囲むようにツラン、クローチ、ゼルドが出現する。チャタの姿は見えず、当然ケインは砦の上から動かない。
「やっぱり、初手はそうなるよね」
最上の一撃という課題に、五人がそれぞれ自分と自分以外のメンバーの特性を考えれば、自ずと絞り込まれる。
各自が、自分の最強の武技を繰り出せばよい、と言う話ではない。
今回はゼルドにも自らの立ち位置の説明があったので、その範囲でしか動かないから、問題は無いだろうとノゾムは思う。
ゼルドは、大剣を両手で右へ構え、左手の柄頭を少し上げて刀身が背後に隠れるようにした。腰を落とし、何時踏み込むか気配を読ませまいとする。
ツランは、クローチの背後に回り、クローチは、タルカスを中心にゼルドと対称になるよう位置を取る。ツランが、クローチの黒魔槍の写しと自分の長鎚矛に付与魔法『神罰』と『覿面』を重ねてかける。
ツランの魔法に邪魔が入らないように、ゼルドはタイミングを合わせて、大剣に魔力を練り込み始める。
そっちに気を取られたら、何時でもこっちが行くぞ、という威嚇だ。
そして、その二方向の同時の動きに気を取られた隙を縫うように、最初の一撃が到達する。
開始の合図と同時に放たれたケインの矢は、『無音無影・極み』の武技を載せた一矢、放物線の終着点は、タルカスのほぼ真上からの垂直落下。
タルカスはわずかに頭を伏せ肩を半歩引いて、兜の側面と鎧の肩から胸の前面を火花を散らせながら滑らせ、ケインの矢を逸らせた。
矢は、鎧に傷をつけたものの、そのまま深々と垂直に地面に刺さる。
「一つ」
ツランは、クローチの前に出て、魔法を付与済みの長鎚矛を振りかぶる。
対するタルカスは、大盾の下から鉄杭を伸ばすと、地面に突き刺して固定し、両手で支えると同時に、大盾に魔力を込める。
神官の攻撃とは思えない程の鎚矛の強大な一撃が、大盾の表面でもう一つの魔力と激突する。
閃光を発し、遅れて爆音が轟き、爆風がうねる。ツランは、結界のすぐそばまで飛ばされていた。
揺るがない大盾が、爆風の衝撃を盾の外側に集めた形になったからだ。
「二つ」
「盾は動かさなくていいぜ」
攻撃をカウントするタルカスの呟きに、ゼルドがかぶせるように声をかける。
タルカスは、背後に居たはずのゼルドに向け、地面への固定を解除して大盾を移動させようとした瞬間だった。
ゼルドの声は、爆風の余波がまだ残る大楯の向こう側からする。
タルカスは再び、大楯に魔力を注ぎ込む。
大楯の両側面から長方形の二枚の金属板部品が張り出し、翼のように広がったかと思うと、真ん中で折れて下がり逆L字になる。
「それで準備は済んだのか?」
ゼルドはまるで最初からそこに居たかのように、腰を落とし、大剣の刀身を背後にした構えで声をかけた。
「如何様にも」
「じゃ、行くぜ! 巻き込まれるなよ」
後半は、姿を消して接近しているはずのチャタに向けた言葉だ。
低い構えそのままの、流れるような接近から、弾けるようにゼルドの大剣が、水平に弧を描く。
刀身には高速の風が巻き付き、空気の摩擦によるいくつもの小さな雷がそれを追うように飛ぶ。
せり出した部分はたやすく切断し、大楯本体に食い込むが、それは両断するには至らず、四分の一ほどの所で止まる。
張り出し部分は、接触によって相手の剣速を削ぐ目的だったらしい。
「ここまでしか入らないか、スゲぇな、あんたもその大楯も」
「み、三つ」
タルカスは、大楯を通じて受けた電撃には耐え切った。
むしろ、衝撃の瞬間に手を離していれば地面に逃がせた電撃を受けてしまったのは、大盾の強度を上げるために魔力を送り続け、手を離せなかったからだ。
下手をすれば、完全に両断されていたかもしれない一撃だった。
わずかに痺れが残る腕に力を入れ直し、大盾の固定を解除して、側壁と杭を収納した。
タルカスは大盾を構え直しながら、二、三歩分後退してクローチとの間合いをはかる。
タルカスは突然片膝をつき、大盾を地面に叩きつけた。
地面にぶつかる前に、大盾の内側に無音で刃が生える。
タルカスがそのまま大盾を振り上げると、大盾の表面に短剣を半分めり込ませたチャタが貼り付いていた。
が、そのままチャタは、大楯の遠心力で吹き飛ばされて行く。
「四つ」
クローチが、ゆっくりと黒い槍を構える。
「チャタの『鎧透し』の術を逆手に取り、短剣が透過する途中で術を妨害したタイミングは見事だった。むしろ、手首か腕一本持っていかれた方が、チャタにはいい勉強になったかも知れないが」
「手首どころか、指先まで透過させてしまったら、短剣を投げて来るでしょう? 『手長』のチャタ殿を、そこまで甘く見てはいませんよ」
「『鉄壁』タルカスならば、その大盾を破って一撃を入れたいという欲に、我らは駆られてしまったな。冷静だったのはケインだけだったか」
「なんの、『無影槍』クローチの黒魔槍まで凌ぎ切れねば、『鉄壁』の二つ名は、本物と言えますまい」
「一矢報いたいところだが、私に『報復者』としての力を発揮させないため、手加減をする余裕まで見せられては、な。」
「今のどういう意味?」
ノゾムは、ナーヴェに脳内で問う。
「ポーシュ兄上の城塞防衛指揮官の権能が、この城塞で防衛戦をする時、ポーシュと城塞と守備兵全員に『防御力上昇の効果』があるというみたいに、クローチ兄の報復者には、仲間や自軍の構成員、つまり『味方が被害を受けた分だけ、敵への攻撃力が上昇する』権能があるのよ。五番手で控えていたのは、四人がダメージを受けたら、その分だけクローチの攻撃力が増すから」
でも、とナーヴェは続ける。
「今のところ、ツランとチャタが派手に吹き飛ばされた以外には、ダメージ無しだから、素の実力とツランの付与魔法だけで戦う羽目になっているわけ。『鉄壁』というからには、攻め手を反撃で削るまでがワンセットのはずだけど、タルカスはその辺の手の内を、今回は全く見せてないからね」
付与魔法のかかった黒魔槍に、重ねて魔力を練り込むクローチ。
「あらかじめ言っておく。これは私にとっては一撃だが、貴殿にとってはそうではない。試練の条件に反すると思うなら、後程、ライザーム閣下へ訴えてもよい」
「『青の神罰代行者』殿も『魔弾の射手』殿も『魔戦士』殿も、連撃・連射を避けていただいたようですから、クローチ殿はご遠慮無く」
「では、参る」
先ほどまでのゆったりとした構えから、一転しての素早い踏み込み。
「『黒魔槍・風影槍』」
突き出される黒魔槍には、風、空気で作られた複数の見えない槍が付き従う。
いや、既に黒魔槍本体も風をまとい、間合いも虚実も読み切れない。
タルカスは身体を低くし、大盾を斜めに構え、見えない槍を逸らすつもりだったが、空気の槍は大盾に触れた瞬間に炸裂した。
中心からそれた場所に当たると大盾が度々バランスを崩される。
強く掴み、大盾を揺るがないよう構え直す。
その瞬間を狙い、残る空気の槍は大盾ではなく、盾と大地の隙間に叩き付けられた。
爆風に近い勢いで空気が膨れ上がり、大盾は木の葉のように煽られ、舞い上がる。
大盾を掴んだ左手を離すのが一瞬遅れ、左腕に引き上げられて、身体は宙に浮き、タルカスの前面はがら空きになった。
「抜かった! 『赤光』!」
クローチの黒魔槍が迫るのを見て、タルカスは覚悟を決め、両腕を大きく広げ、瞬時にタルカスの全身鎧が真っ赤な光を放つ。
突き入れられる黒魔槍を掴んで停めることができれば、一縷の望みはある。
カッと見開いたタルカスの眼に、クローチの眼が細まり、口角が上がるのが映る。
笑っている? と思う間もなく槍の穂先が心臓から上、喉か顔面に狙いを変えたことがわかる。
鎧の中心で敢えて受けるつもりが、鎧の隙間ではリスクは跳ね上がる。
そこまで冷静か『無影槍』クローチ。
次の刹那、黒魔槍自身がまとった最後の風の槍が、タルカスのほぼ顔面で炸裂し、タルカスの身体は、後ろ向きに縦回転しながら、結界のすぐそばまで吹き飛ばされる。
「チャタはともかく、ツランはあれでも可愛い妹なのでな。しっかりお返しをさせてもらった。婿取り前に自慢の毛並みに傷でも付けられたらと心配したが、それほどではないようなので、これで手打ちと言うことでよろしいか?」
「私では、黒魔槍を使うまでも無いと?」
ふらつきながらも、タルカスは立ち上がる。
クローチは、再度眼を細め、口角を上げる。
「『鉄壁』の名を聞く前、南の砦には『大盾の赤鬼』とあだ名された戦士が居たと聞いた。だが、さらにその前に聞いた二つ名は『魔剣砕きの赤鬼』と言ったかな。貴殿の本領は、大盾よりその赤く輝く鎧の方、単純な防御力ではなく、武器破壊にあるのではないか、と思っただけだ」
「それまで。南の砦『鉄壁』タルカスの試練は、これにて終了する」
厳かに、ライザームは宣言する。
「我、五芒星将ライザームは、ここに南の砦タルカスを准魔将に序し、『尾の騎士』として、暗黒十二騎士候補たる資格を認め、王城へ向かうことを許可する。以上だ」
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微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
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貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
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剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
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ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
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第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
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捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
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