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◎二年目、四月の章

■久遠の仕掛けた罠に相手はまんまとはまる

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「聞いてるぜ。お前の後ろにいる女は弱いってな」

 それは里奈と由芽のことだろう。

「それはそうとよかったんですか? 決闘は仕掛けた側に賭けるものを決める権利がありますが」

「どうあがいたって俺たちの勝ちは揺るがねえよ」

「そうですか。ならばお互い金銭を賭けましょう。ちなみに金額の上限は青天井で」

 男たちは「いいのかぁ」とせせら笑っている。

「古輪くん、意味わかってるの?」

 里奈は不安になる。青天井ということはお金を上限なく賭けられるということだ。

「わかってますよ」

 男たちは一斉に掛け金を提示してくる。もし負けると里奈は無一文どころか借金する羽目になる金額だった。

「女のほうは借金の肩に気が済むまで遊んでやるよ」

 下世話な笑い声が響く。

「それじゃあ、こちらはこれで」

 久遠の提示した金額に場が固まる。

 それからすぐに男たちがざわつきだした。

「先輩方、老婆心ながら忠告を。賭け金をツールで計算する癖は辞めたがいいですよ。そこから逆算したら全資産を計算するなんて容易なんですから」

「負けたら丸裸になるのはそっちだぜ」

「あなた方がビビるくらいのお金を賭けてくる人間がどうして自分たちより弱いと考えるのですか?」

 久遠の問いに男たちはたじろぐ。久遠のたった一言でこの反応なのだから情けない連中だと里奈は思う。

 しかしなりふり構ってられなくなったのは事実のようで、男たちは武装をはじめる。

 刀、槍、手甲、鎚、弓矢、バランスは取れてるといえようか。

「僕はこれで」

 久遠が装備したのは刀の蒼烏ではなく棍であった。しかも初期装備のただの木の棒である。

 その装備を見て男たちは一斉に嘲笑をはじめる。

「初期装備で俺たちとやろうっていうのかよ」

「あの賭け金ははったりだぜ」

「雑魚が一人増えただけだったな」

 男たちにあからさま馬鹿にされても久遠は眉一つ動かさない。

「決闘をはじめましょうか」

 男の一人が腹を抱えながら承認をする。と同時に弓矢を持った男のHPは一瞬でゼロになる。

 よく見ると久遠の手元に棍はなく、やり投げをしたあとのようなフォームだ。

 棍は男のHPを根こそぎ奪ったあと上空をくるくるまわりながら久遠の手元に戻ってくる。

 ここにいる里奈はおろか男たちも何が起こったのか理解できなかったようだ。

「まずは一人」

 久遠が一人、その場でつぶやいた。
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