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◎二年目、五月の章

■晴を東方旅団へ入団させることを里奈は受け入れる

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 病院の病室を出て自動販売機で飲み物を買ったときに声をかけられる。

 晴である。これは偶然ではない。

「よう」

 里奈は晴に軟派なイメージを持っていた。その男が告白前かのように緊張した姿を見せる。

 これからこの男が何を言ってくるのか、実は先ほど明里から送られてきたメッセージで内容については把握していた。

 なので里奈は内容を知らないフリをするだけでいい。これほど余裕のあることはない。

「俺を東方旅団へ入団させてほしい」

「理由を聞いてもいい?」

「姉貴を助けてもらった。いや助けてくれたのはお前らだけだった。だからさ、俺もお前らみたいにお人好しがやりてえんだ」

 里奈は宙を仰ぐ。そんな風に見られていたのかと。

「私も意識的にやってるわけじゃないし、いまのところクランとして表立った活動は特にしてないわよ」

「それは口上の話だろ。俺はお前らの行動にあやかりたいんだ」

 そういう捉え方もあるかと里奈は思ってしまう。

「私はいいけど、正式な返事は久遠と由芽に相談させてもらうわね」

「それでいい」

 まあ、二人とも反対はしないだろうという予想はついている。この二日で晴という人間については大まかには理解したつもりだからだ。

「光さん、誕生日はいつなの?」

「八月なんだよ。さすがにこの東京で面倒見るのは無理だってのは俺でもわかる」

 滞在する期間についてはこれから話すのだという。

「光さんは東京を出てどこに?」

「実家だよ。姉貴一人だと厳しいだろうしな」

 家出同然で出て行ったあげくに父親もわからない子供を連れて帰ってくるというのだ両親はどんな気分なのだろうか。

「ま、なんとかなるんじゃねえの」

「晴と光さんてどのあたりから来たの?」

「俺と姉貴は離島の出身さ。船とかの手配もしねえとな」

 離島かと里奈は考えてしまう。改めて東京にはいろんなところの子供たちが集まっているのだと改めて知らされる。

 今度、久遠にどこから来たのか聞いてみようか。里奈はそんな風に思うのだった。
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